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「8月15日のメモワール」

「8月15日のメモワール」


1.「全国戦没者追悼式」での首相のことば

 8月15日。政府主催の「全国戦没者追悼式」が日本武道館で開かれた。

 式典には、遺族4887人を含む6052人が参列。

 安倍晋三首相は式辞で「我が国は戦後一貫して戦争を憎み、平和を重んじる国として孜々として歩んでまいりました」、「歴史と謙虚に向き合い、世界の平和と繁栄に貢献し、万人が心豊かに暮らせる世の中の実現に全力を尽くしてまいります」と述べた。

 93年に細川護煕首相が、アジア諸国への加害について、「哀悼の意」を表明して以来、その後の歴代首相も、加害責任について言及してきた。

 安倍政権となって、そのアジア諸国への加害責任の言葉が消えている。

 確かに、式典名は「全国戦没者追悼」となっており、参列している大半の者が全国から選ばれた戦没者遺家族の人たちである。

 そのため安倍政権は、遺族中心の式典であると解釈し、「アジア諸国への謝罪はなじまない」としている。

 いかにも内向きな思考である。

 どうして戦没者や遺族たちが生じたのかを、日本が起こした戦争結果の「惨禍」であったこととは結び付けず、安易に「不戦」「平和」という耳障りの良い言葉を並べている。

戦争の惨禍は、アジア諸国の人々に及んでいる。その責任は日本にある。

 日本は、その戦争責任の追及、加害責任をしっかりと果たすことで、はじめてアジア諸国の人々に、平和で安全な姿を伝えることができるのだ。

 ところが、安倍政権は、集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法案(戦争法案)を成立させ、日米安保を強化して、日本をいつでも戦争ができる国へと導いている。

 新たな戦争への道を進もうとする安倍氏の口から、「戦争の憎しみ」「平和を重んじ」「歴史と謙虚に向き合い」「世界の平和と繁栄に貢献し」などと、美しい言葉が並ぶ作文が読まれても、現実政治との落差に、彼の言葉など信じることができない。

 帝国主義者の二面性を感じる。


2.閣僚の靖国神社参拝

 毎年、8月15日前後には、数人の閣僚たちが靖国神社を参拝している。

 今年は、高市早苗総務相と丸川珠代五輪担当相の2人。安倍晋三首相は代理人を通じて玉串料を奉納し、自民党総裁、安倍晋三と記帳しているから、代参である。山本有二農林水産相は6日に参拝を済ませている。

 代参の安倍首相、事前の山本農林水産相を含めて4閣僚の参拝は、例年に比べて少ない。

 中国および朝鮮への対抗から米国が進めている日米韓3カ国協調体制強化の関係で、米国からの圧力があった結果であろう。

 高市氏は参拝後、記者団に「国策に殉じた方々への尊崇の念を持って、感謝の誠をささげた」と語り、丸川氏は「かけがいのない命をささげた皆様に感謝の気持ちでお祈りした」とコメントした。

 こうした風景やコメント内容は、例年通りで定着している。

 8月15日や春秋例大祭に靖国神社を参拝する閣僚たちの大半は、保守団体に属していて、それぞれの団体の役員になっている。

 「国策に殉じた方々」「かけがえのない命をささげた方々」に対して、「尊崇の念」「感謝の気持ち」で、参拝をしたと記者団に語ることで、自らが所属する団体の理念を語り、自らの行動をしっかりとアピールする場として利用しているように思える。

 彼らの言動に、日本の過去の歴史を直視しない言葉に、反吐が出る思いがする。

 マスメディア各社は、こうした保守系閣僚や議員たちの宣伝戦に利用されていることを自覚し、彼らの誤った歴史認識を正し、靖国神社と戦争との関係を、もっとしっかりと伝えてほしい。


3.各地の戦没者追悼式の風景

 8月15日は全国各地でも、戦没者追悼式典が行われる。

 主として空襲被害などの、戦争被害者とその遺族たちへの鎮塊の場となっている。

 そこで語られる遺族代表たちの言葉もまた、「忌わしい歴史を繰り返さない」「家族を亡くす戦争は悲しい」「平和を守ってほしい」などと、戦争被害者としての痛切な心情が表現されている。

 被害を受けた者の心身の痛みを伝え、そのような痛みをだれ一人経験しないで平和に暮らせる世界こそ、素晴らしいと語っている。

 そのことに誰も反論はしない。

 だが、それらの言葉の中に欠けているものがある。

 戦争へと至る道を開いた指導者、戦争を指導した責任者、その戦争を支えてきた社会と人々の責任を問題にせず、被害者感情と心理だけを述べていることである。

 だから、そのような「追悼式」を行政側が主催し、繰り返し行うことで、戦争の加害側面を忘れさせる役割を果たしている。

 被害と加害の関係は両面である。

 日本の場合、明治体制以降のすべての戦争は、自衛ではなく侵略であった。

 先の大戦の、侵略性を忘れさせるために、日本各地で「戦没者追悼式」が実施されているようだ。

 そうした式典を継続することによって、歴史解釈をゆがめて、犠牲者を再び出さないためにと、国防力を強め、次の戦争を準備してきた。

 安全保障関連法案を成立させてしまったことが、どの「戦没者追悼式」でも語られなかったのは、大きな痛恨事である。


4.靖国神社を支える保守系団体

 毎年、8月15日の靖国神社では、「日本会議」や「英霊にこたえる会」などの保守系団体主催の「戦没者追悼集会」が開かれている。

 安倍晋三首相をはじめ、現政権のほとんどの閣僚が、複数の保守系団体の役員をしており、この集会にも参加している。

 今年は、7月の参院選で国会の改憲勢力が3分の2以上となったこともあってか、「憲法改正の早期実現を中心とした諸課題に取り組み、強くて美しい国の再生を目指す国民運動を一層力強く展開する」との声明文を読み上げた。

 草の根レベルの改憲論運動の浸透に期待している安倍首相は、こうした保守系団体の動きを重視している。

 一方の保守系団体は、一強となった安倍政権の改憲発動を期待している。その結節点となっているのが靖国神社である。

 8月15日の「戦没者追悼式」が、改憲運動へのスタートとなったようだ。

 憲法は今、瀬戸際にあり、危機的な現状を醸している。


5.米政府の核先制不使用検討に反対した安倍首相

 8月15日の米紙ワシントン・ポストは、オバマ政権が検討している核兵器の先制不使用政策について、安倍晋三首相がハリス米太平洋軍司令官に「北朝鮮に対する抑止力が弱体化する」として、反対の意向を直接伝達(7月26日)していたと、複数の米当局者の話として報じた。

 同紙は、同様に米国の「核の傘」にある韓国や、英国、フランスなども政策転換に反対していると伝えている。

 核先制不使用は、敵の核攻撃がない限り、先に核兵器を使用しないとする政策で、米国の核政策を大きく転換するものである。

 7月中旬に開かれた米国安全保障会議(米紙ウォールストリート・ジャーナル伝)で、ケリー国務長官、カーター国防長官、モニツ・エネルギー長官などが先制不使用に反対を表明したとしている。

 日本は、「非核三原則」があり、米国の「核の傘」に依存している。

 報道が事実であれば、唯一の被爆国として核廃絶を訴えてきたにも関わらず、核兵器の役割を低減する米国の政策に、日本の首相として明確に反対したことになり、「被爆地」や「被爆者」の思いを裏切る行為である。

 また、現在進行しつつある世界の非核化の流れとも逆行していることになる。

 官邸筋は「核兵器廃絶は一足飛びには実現できず、慎重に進めなければならない」と、政策変更には賛同しない立場を説明している。

 口先では核兵器廃絶を訴え、実際の行動はそれとは反している安倍氏の言節を、誰も信用しないだろう。

 「核なき世界」の実現は、核先制不使用や核実験禁止ではなく、核兵器の全廃が必要である。

 人類は、核恫喝政策や核抑止政策、核の傘政策から卒業する時期に来ている。


6.従軍慰安婦問題の「問題」

 旧日本軍の従軍慰安婦問題で、日本側が韓国に近く拠出する10億円について、昨年12月の日韓合意の際、岸田文雄外相は、「『日本政府の責任や謝罪、反省』を実質的に裏付ける履行措置」だと表明した。

 この発言を、元慰安婦らへの支援事業を行う「和解・癒し財団」側は、事実上の賠償の性格だと感じている。

 ところが、韓国外務省報道官は16日の記者会見で、韓国メディアの「賠償金と理解していいのか」との質問に、何も答えなかった。

 一方の日本は、「賠償ではない」との立場を取っている。

 だから、16日の報道官は、日本との摩擦を避け、解釈の違いを曖昧にしようとしたようだ。

 韓国政権内の苦しい事情を反映した態度だったとはいえ、日本側の態度変更にも責任がある。

 本来なら、日本が慰安婦たちに対して直接謝罪し、拠出金の内容説明から始めるべきものであった。

 65年の「日韓基本条約」以降、韓国と接する日本には、どこかに(戦前の)支配者的意識が感じられる。

 日韓双方とも、解釈を異にしたままで、「和解・癒し財団」を発出させようとしていることに、不安を感じる。

 安倍政権の強硬策が、行く末を不安定にしている。


7.朴槿恵政権の正体

 共和国政府、政党、団体連帯会議は、6月下旬、祖国解放71周年を契機に全民族的な統一大会を、8月15日に開催することと関連した内容を、南朝鮮の政権当局、政党、団体と個別人士たちに送った。

 同時に、朝鮮職業総同盟中央委員会などが、8月15日を契機にソウルで北南労働者統一サッカー大会の開催についても呼びかけていた。

 サッカー大会を通じて南北の対決状態を解消し、民族の和解と団結に向けた重要な契機とすることを願っての、それぞれの提案であった。

 にも関わらず朴槿恵政権は提案を無視し、8・15ソウル民族共同行事と南北労働者統一サッカー大会開催を、ともに不許可にしてしまった。

 その朴槿恵大統領は15日の光復節演説で、日本との関係を「歴史を直視する中で、未来志向の関係を新たに作っていかなければならない」と、未来志向を強調した。

 一方、共和国との南北関係については、北の核・ミサイル開発を批判し、安保理制裁の履行を強調して、米国の反朝鮮政策に迎合した。

 朴政権は完全に日米の代弁者となってしまっている。彼女が朝鮮民族だと自覚するなら、米政権の代弁を続けるのではなく、南北対話と交流、出会いの場を復元するためにこそ、積極的になるべきだろう。

 ただ、このような朴政権の姿勢に抗して、「共に民主党」など野党と民主団体などが、「南側準備委員会」結成を通じて、全民族的な共同準備機構を立ち上げる方向で動き出している。

これは、南北交流と協力に向けた希望の芽であると言えるだろう。


                                                                 2016年8月17日 記 

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愛媛現代朝鮮問題研究所のブログです。

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