「日朝協議の行方は」
「日朝協議の行方は」
1.
予測していた通り、日朝関係の現状について、米国がクレームを付けてきた。
7月7日の日米電話会談で、ケリー米国務長官が岸田文雄外相に対して、日本政府の日朝交渉スタンスについて自制を求めてきた。
1.首相が訪朝を検討する場合は、(直前に)「『行く』と通告するのではなく、その前に私たちと十分に相談してほしい」と要求以上の、通告をしていた。
2.拉致問題解決の進展に伴なう段階的な日本独自の制裁解除に、「追加的な制裁解除には慎重であってほしい」と要求し、日本の制裁解除に不快感を示した。
1の安倍首相が訪朝するといった情報は、週刊誌やテレビ番組などで盛んに流されている。そのネタ元は、6月3日の参院外交防衛委員会で、岸田外相が拉致解決への選択肢の一つとして、首相訪朝に言及していたことにある。
もっとも岸田氏一人だけが考えていたのではなく、安倍氏本人も予定していたストーリだったろうとは思うが、それにしても岸田氏の口は軽すぎた。
今回の日朝協議進展には、当初から安倍政権の「前のめり」スタイルが気になってはいたものの、その前のめり感が周辺国に対して警戒感を抱かせているようだ。
その一つには、各国への根回しが欠けていた点があったのではなかろうか。
なるほど、日朝関係進展を担うのは、日本自身の主体的な問題であり、責任問題でもあった。
しかし朝鮮半島関連問題は、どの側面からしてもアジア安保と密接に関係しており、日本一国だけで出来るものではなく、また、日本にはまだそのような力量が備わってはいないことも事実だろう。
ここは当然、主体性と関係各国との連携と協調性、そうしたバランスとが求められている、外交上の課題である。
さて、岸田氏のケリー氏への返答はどうだったのか。
1については、「メディアが(答弁内容を)いろいろと報じているだけて、首相訪朝は一切検討していない」と返答して、理解を求めた。
メディア側が勝手に騒いでいるだけで、政権内では検討もしていないと、弁明に努めていた。(そのように言うしかなかったのであろう)
2については、「追加制裁解除など検討もしていない」と、これもまた釈明をした後、今以上の制裁解除は絶対に行わないことを約束した。(この時点で、朝鮮との約束を破ってしまったことになるのだが)
何のことはない、米国から「日本だけが前に出るのは良くない」と叱られると、言い訳をしつつ素直に「ハイ」と引き下がってしまったことになる。
つまり米国は、朝鮮半島を含むアジア安保に関して、日本の独り旅は絶対に許さないと安倍政権に強くお灸をすえたことになる。
対朝鮮への旅は、米国をリーダとする日韓3人連れでなければならず、しかも核とミサイルを認めないとの圧力を掛け続けて朝鮮を圧殺すること以外は許さないのだと、それが米国のアジア安保の基本であることを、改めて日本に申し渡したことになる。
ケリー氏との電話会談では十分に真意を伝え切れなかったとして、岸田氏は訪米することを計画していた。
岸田氏の訪米を巡って、当の本人と首相官邸・外務省との間で対立が発生している。
ケリー氏との電話協議で、拉致問題解決での日朝協議が、日米韓の連携を乱すほど前のめりにならないよう釘をさされた岸田氏は、「日朝接近」に対する米国の疑念を払拭する必要があると考え、来週中の訪米を検討していた。
ところが意外にも、首相官邸や外務省から「なぜ米国にいちいち報告しなければならないのか」と、反対意見があって、岸田氏の早期の訪米が難しくなっているというものである。
この一時からして安倍政権内には、米国への不満が相当たまっているようだ。とはいえ反米感情でも、嫌オバマ米政権でもないだろう。
こうした安倍政権の感情が、日本が米国の後にただ付き従う時代を終りにしていくといった気概へと進むのであけば、いいことではあるが、残念ながらそうでもないようだ。
一方で、南朝鮮の朴槿恵政権もまた、米国と同様のメッセージを安倍政権に伝えている。
日韓両政府が16日、朝鮮半島情勢に関する外務省局長級協議を東京で開いた席上のことである。
南朝鮮から黄浚局(ファン・ジュングク)外務省朝鮮半島平和交渉本部長が出席。
黄氏は、日朝協議に関し「日本の努力を支持している」と外交表現をしたものの、北の核・ミサイル問題で、日米韓3カ国の緊密な連携が必要であることを表明した。
黄氏は後段の部分を強調することで、安倍政権が日朝協議で前のめりになっている姿勢に、「日米韓の協調に否定的な影響をあたえないように」と、米国のメッセージを伝えたことになる。
2.
これまでの日米韓3カ国は、対北朝鮮では強固な連携プレイを取ってきた。
時にはその蜜月さと強固さを誇り、朝鮮に強力なプレッシャーを掛けてきた。
しかし米国が気付かない側面では、日韓間には常にキシミがあり、時には感情論となり、政治的な反発にまで発展することがあった。
その最大の理由は、日本の過去清算問題と歴史認識に起因している。
日韓間にはまだ真の「和解」が完了していなかった、ということでもあった。
米国のアジア戦略の手前、日韓は共同歩調をとりつつ、北に対して核・ミサイル開発の中止を要求し、プレッシャーをかけてきた。
2002年、北朝鮮による日本人拉致が明らかになるに及んで、日本の歴代政権は拉致問題の解決を最優先問題としたし、それはまた当然のことであった。
誰も、それに異論を唱えることなど出来ない。
しかし安倍政権は拉致問題を独り占めにし、政権人気取りと反北朝鮮政策にだけ利用してきた感がある。
日本は「拉致、核、ミサイル」問題の解決なくして国交正常化交渉はないとしてきたが、それはあくまでも国内向けのポーズでしかなかった。
「拉致」解決を一番に挙げてはいるが、そのための米韓との政治的調整は一度もしてこなかったのではないか。
米韓にとっては依然として「核とミサイル」が北朝鮮カードであって、「拉致」問題ははるか後方にあって、日本が米韓との良好な外交関係を維持している限りでのカードでしかなかった。
ブッシュ米政権の末期に、拉致被害者家族の代表(横田夫妻ら)らが会見して、苦しい個人的心情を吐露して同情論を展開したことはある。
誰であれ、被害者家族の苦汁に満ちた言葉に涙し、同情をするだろう。
こうした被害者の涙を前面に押し出した日本外交は、米国や他国に対して「反北朝鮮」感情を高めさせたのは事実である。
しかし日本政府の同問題に対する政治的立場へのアピールが欠けていたことと、過去清算問題への無責任な日本政府の態度とが重なり合って、拉致問題は「日本問題」に止まったままであった。
日朝間の基本問題は、日本の過去問題を清算することであった。(基本的には、日韓間においても同じ)
過去問題を解決していくという過程で、拉致問題を含む日本人行方不明者を調査し明らかにする、それがストックホルムでの日朝局長級協議の合意内容のポイントであった。
日朝間のストックホルム合意が歴史的に合理的で、日本独自の問題解決にポイントを絞っているとしても、日本はこれまで米韓と共同歩調し、北を政治的に経済的に圧力を掛け続ける三角体制の中に収まったままである。
つまり、これまでの日本政権は、南北両朝鮮に対して過去清算問題で誠実に対応してきたことがあるのかということと、米韓両国に対して拉致問題解決への協力依頼をどれほど行ってきたのかという答えが、出てきたのである。
日本政権の外交結果が、今回の米韓側からのクレームとなっていると思われる。
日本政治の怠慢であり、今後の日朝間、日韓間、日米間において微妙な影響と変化があるかも知れない、という問題である。
3.
朝鮮との「ストックホルム約束」の中核部分は、02年の「日朝平壌宣言」を実施することと、日朝双方の宿題を推進することであった。
日本の場合は過去の清算(賠償方式ではなく、経済協力方式で)をし、朝鮮の場合は拉致被害者を含む終戦直後の日本人行方不明者の調査と公表をする―ということであった。
その上で、国交正常化までのゴールを予定していた。
ゴールへと進展させるためには、日本が朝鮮に課している様々な制裁を解除していく必要性があるのは当然である。
ここで問題となるのは、岸田氏のケリー氏への返答で、岸田氏の言葉が安倍政権の真意だとすれば、日本は朝鮮との約束を早々に破ったことになる。
せっかく朝鮮との主体的外交が展開されようとしていたが、早くも挫折してしまった感がある。
そうしたことを取り繕うかのようにして安倍政権は、朝鮮にも米国にも、日本国民にまでも、違う言葉を使い始めた。
国粋主義政権の常套手段たる、2枚舌、3枚舌を駆使し始めていることに今後は注視していく必要性がある。
そうした環境下での、朝鮮側の調査結果とその内容発表のタイミングが、やはり気にならざるを得ない。
発表のタイミングと内容によっては、1.日本は約束していたように現在以上の制裁解除、または「人道的」名目の医療、食糧などの支援を実施しなければならない。2.今まで以上に、北朝鮮への非難が日本社会で沸き起こり、「ストックホルム合意」は実行できずに、平壌と東京との溝はさらに広がっていくだろう。
だが1の場合であれば、安倍政権は逆に困窮するだろう。
発表の時期にもよるが、安倍政権はオバマ米政権に対し媚びを売るはめになるのではないか。米韓合同軍事演習への自衛隊の参加、TPPへの妥協、日米ガイドラインでの朝鮮半島有事参加の明言など、米国追従政治姿勢から更に抜け出せなくなるだろう。
2の場合であれば、安倍政権の日米韓3国体制の強化表明と同時に、日本国内で嫌北朝鮮感情が再び沸騰していくだろう。
このように見ていくと、日本は日本独自の問題でさえ、主体的判断と力量によって解決できず、米国政治の掌の中でしか声を出せない情けない姿になっていることが分かる。
このように情けない日本政治の実態を、サンフランシスコ体制が形作ってきたことを、果たしてどれほどの人たが理解しているだろうか。
米国は冷戦体制を勝ち抜くため、特に東北アジアでの強固な反共基地を形成するために、日本をその要とした。
その結果、日本は経済復興を早々と遂げることが出来たものの、過去清算問題を十分にはせずにきた。特にアジア各国からは、日本は政治的責任、道徳責任、歴史的問題をあいまいにしてきた国家だと、好ましくない評価を受けるようになった。
朝鮮半島とのそうした問題を、日本は暖昧にしサボタージュしてきた。拉致問題はそうした国際環境のなかで発生したことを忘れてはいけない。
だから拉致問題の解決は、朝鮮側の問題であると同時に、それ以上に日本の問題でもあったのだ。
日本の問題だと言うとことは、拉致問題を明らかにし拉致被害者を救出すると同時に、未清算であった日本の過去問題をも処理することが含まれていたからである。
つまり、日朝政府間協議での「ストックホルム合意」を実行することであった。
安倍政権はその約束を、朝鮮にも日本国民にも破ってはいけない。
2014年7月17日 記
1.
予測していた通り、日朝関係の現状について、米国がクレームを付けてきた。
7月7日の日米電話会談で、ケリー米国務長官が岸田文雄外相に対して、日本政府の日朝交渉スタンスについて自制を求めてきた。
1.首相が訪朝を検討する場合は、(直前に)「『行く』と通告するのではなく、その前に私たちと十分に相談してほしい」と要求以上の、通告をしていた。
2.拉致問題解決の進展に伴なう段階的な日本独自の制裁解除に、「追加的な制裁解除には慎重であってほしい」と要求し、日本の制裁解除に不快感を示した。
1の安倍首相が訪朝するといった情報は、週刊誌やテレビ番組などで盛んに流されている。そのネタ元は、6月3日の参院外交防衛委員会で、岸田外相が拉致解決への選択肢の一つとして、首相訪朝に言及していたことにある。
もっとも岸田氏一人だけが考えていたのではなく、安倍氏本人も予定していたストーリだったろうとは思うが、それにしても岸田氏の口は軽すぎた。
今回の日朝協議進展には、当初から安倍政権の「前のめり」スタイルが気になってはいたものの、その前のめり感が周辺国に対して警戒感を抱かせているようだ。
その一つには、各国への根回しが欠けていた点があったのではなかろうか。
なるほど、日朝関係進展を担うのは、日本自身の主体的な問題であり、責任問題でもあった。
しかし朝鮮半島関連問題は、どの側面からしてもアジア安保と密接に関係しており、日本一国だけで出来るものではなく、また、日本にはまだそのような力量が備わってはいないことも事実だろう。
ここは当然、主体性と関係各国との連携と協調性、そうしたバランスとが求められている、外交上の課題である。
さて、岸田氏のケリー氏への返答はどうだったのか。
1については、「メディアが(答弁内容を)いろいろと報じているだけて、首相訪朝は一切検討していない」と返答して、理解を求めた。
メディア側が勝手に騒いでいるだけで、政権内では検討もしていないと、弁明に努めていた。(そのように言うしかなかったのであろう)
2については、「追加制裁解除など検討もしていない」と、これもまた釈明をした後、今以上の制裁解除は絶対に行わないことを約束した。(この時点で、朝鮮との約束を破ってしまったことになるのだが)
何のことはない、米国から「日本だけが前に出るのは良くない」と叱られると、言い訳をしつつ素直に「ハイ」と引き下がってしまったことになる。
つまり米国は、朝鮮半島を含むアジア安保に関して、日本の独り旅は絶対に許さないと安倍政権に強くお灸をすえたことになる。
対朝鮮への旅は、米国をリーダとする日韓3人連れでなければならず、しかも核とミサイルを認めないとの圧力を掛け続けて朝鮮を圧殺すること以外は許さないのだと、それが米国のアジア安保の基本であることを、改めて日本に申し渡したことになる。
ケリー氏との電話会談では十分に真意を伝え切れなかったとして、岸田氏は訪米することを計画していた。
岸田氏の訪米を巡って、当の本人と首相官邸・外務省との間で対立が発生している。
ケリー氏との電話協議で、拉致問題解決での日朝協議が、日米韓の連携を乱すほど前のめりにならないよう釘をさされた岸田氏は、「日朝接近」に対する米国の疑念を払拭する必要があると考え、来週中の訪米を検討していた。
ところが意外にも、首相官邸や外務省から「なぜ米国にいちいち報告しなければならないのか」と、反対意見があって、岸田氏の早期の訪米が難しくなっているというものである。
この一時からして安倍政権内には、米国への不満が相当たまっているようだ。とはいえ反米感情でも、嫌オバマ米政権でもないだろう。
こうした安倍政権の感情が、日本が米国の後にただ付き従う時代を終りにしていくといった気概へと進むのであけば、いいことではあるが、残念ながらそうでもないようだ。
一方で、南朝鮮の朴槿恵政権もまた、米国と同様のメッセージを安倍政権に伝えている。
日韓両政府が16日、朝鮮半島情勢に関する外務省局長級協議を東京で開いた席上のことである。
南朝鮮から黄浚局(ファン・ジュングク)外務省朝鮮半島平和交渉本部長が出席。
黄氏は、日朝協議に関し「日本の努力を支持している」と外交表現をしたものの、北の核・ミサイル問題で、日米韓3カ国の緊密な連携が必要であることを表明した。
黄氏は後段の部分を強調することで、安倍政権が日朝協議で前のめりになっている姿勢に、「日米韓の協調に否定的な影響をあたえないように」と、米国のメッセージを伝えたことになる。
2.
これまでの日米韓3カ国は、対北朝鮮では強固な連携プレイを取ってきた。
時にはその蜜月さと強固さを誇り、朝鮮に強力なプレッシャーを掛けてきた。
しかし米国が気付かない側面では、日韓間には常にキシミがあり、時には感情論となり、政治的な反発にまで発展することがあった。
その最大の理由は、日本の過去清算問題と歴史認識に起因している。
日韓間にはまだ真の「和解」が完了していなかった、ということでもあった。
米国のアジア戦略の手前、日韓は共同歩調をとりつつ、北に対して核・ミサイル開発の中止を要求し、プレッシャーをかけてきた。
2002年、北朝鮮による日本人拉致が明らかになるに及んで、日本の歴代政権は拉致問題の解決を最優先問題としたし、それはまた当然のことであった。
誰も、それに異論を唱えることなど出来ない。
しかし安倍政権は拉致問題を独り占めにし、政権人気取りと反北朝鮮政策にだけ利用してきた感がある。
日本は「拉致、核、ミサイル」問題の解決なくして国交正常化交渉はないとしてきたが、それはあくまでも国内向けのポーズでしかなかった。
「拉致」解決を一番に挙げてはいるが、そのための米韓との政治的調整は一度もしてこなかったのではないか。
米韓にとっては依然として「核とミサイル」が北朝鮮カードであって、「拉致」問題ははるか後方にあって、日本が米韓との良好な外交関係を維持している限りでのカードでしかなかった。
ブッシュ米政権の末期に、拉致被害者家族の代表(横田夫妻ら)らが会見して、苦しい個人的心情を吐露して同情論を展開したことはある。
誰であれ、被害者家族の苦汁に満ちた言葉に涙し、同情をするだろう。
こうした被害者の涙を前面に押し出した日本外交は、米国や他国に対して「反北朝鮮」感情を高めさせたのは事実である。
しかし日本政府の同問題に対する政治的立場へのアピールが欠けていたことと、過去清算問題への無責任な日本政府の態度とが重なり合って、拉致問題は「日本問題」に止まったままであった。
日朝間の基本問題は、日本の過去問題を清算することであった。(基本的には、日韓間においても同じ)
過去問題を解決していくという過程で、拉致問題を含む日本人行方不明者を調査し明らかにする、それがストックホルムでの日朝局長級協議の合意内容のポイントであった。
日朝間のストックホルム合意が歴史的に合理的で、日本独自の問題解決にポイントを絞っているとしても、日本はこれまで米韓と共同歩調し、北を政治的に経済的に圧力を掛け続ける三角体制の中に収まったままである。
つまり、これまでの日本政権は、南北両朝鮮に対して過去清算問題で誠実に対応してきたことがあるのかということと、米韓両国に対して拉致問題解決への協力依頼をどれほど行ってきたのかという答えが、出てきたのである。
日本政権の外交結果が、今回の米韓側からのクレームとなっていると思われる。
日本政治の怠慢であり、今後の日朝間、日韓間、日米間において微妙な影響と変化があるかも知れない、という問題である。
3.
朝鮮との「ストックホルム約束」の中核部分は、02年の「日朝平壌宣言」を実施することと、日朝双方の宿題を推進することであった。
日本の場合は過去の清算(賠償方式ではなく、経済協力方式で)をし、朝鮮の場合は拉致被害者を含む終戦直後の日本人行方不明者の調査と公表をする―ということであった。
その上で、国交正常化までのゴールを予定していた。
ゴールへと進展させるためには、日本が朝鮮に課している様々な制裁を解除していく必要性があるのは当然である。
ここで問題となるのは、岸田氏のケリー氏への返答で、岸田氏の言葉が安倍政権の真意だとすれば、日本は朝鮮との約束を早々に破ったことになる。
せっかく朝鮮との主体的外交が展開されようとしていたが、早くも挫折してしまった感がある。
そうしたことを取り繕うかのようにして安倍政権は、朝鮮にも米国にも、日本国民にまでも、違う言葉を使い始めた。
国粋主義政権の常套手段たる、2枚舌、3枚舌を駆使し始めていることに今後は注視していく必要性がある。
そうした環境下での、朝鮮側の調査結果とその内容発表のタイミングが、やはり気にならざるを得ない。
発表のタイミングと内容によっては、1.日本は約束していたように現在以上の制裁解除、または「人道的」名目の医療、食糧などの支援を実施しなければならない。2.今まで以上に、北朝鮮への非難が日本社会で沸き起こり、「ストックホルム合意」は実行できずに、平壌と東京との溝はさらに広がっていくだろう。
だが1の場合であれば、安倍政権は逆に困窮するだろう。
発表の時期にもよるが、安倍政権はオバマ米政権に対し媚びを売るはめになるのではないか。米韓合同軍事演習への自衛隊の参加、TPPへの妥協、日米ガイドラインでの朝鮮半島有事参加の明言など、米国追従政治姿勢から更に抜け出せなくなるだろう。
2の場合であれば、安倍政権の日米韓3国体制の強化表明と同時に、日本国内で嫌北朝鮮感情が再び沸騰していくだろう。
このように見ていくと、日本は日本独自の問題でさえ、主体的判断と力量によって解決できず、米国政治の掌の中でしか声を出せない情けない姿になっていることが分かる。
このように情けない日本政治の実態を、サンフランシスコ体制が形作ってきたことを、果たしてどれほどの人たが理解しているだろうか。
米国は冷戦体制を勝ち抜くため、特に東北アジアでの強固な反共基地を形成するために、日本をその要とした。
その結果、日本は経済復興を早々と遂げることが出来たものの、過去清算問題を十分にはせずにきた。特にアジア各国からは、日本は政治的責任、道徳責任、歴史的問題をあいまいにしてきた国家だと、好ましくない評価を受けるようになった。
朝鮮半島とのそうした問題を、日本は暖昧にしサボタージュしてきた。拉致問題はそうした国際環境のなかで発生したことを忘れてはいけない。
だから拉致問題の解決は、朝鮮側の問題であると同時に、それ以上に日本の問題でもあったのだ。
日本の問題だと言うとことは、拉致問題を明らかにし拉致被害者を救出すると同時に、未清算であった日本の過去問題をも処理することが含まれていたからである。
つまり、日朝政府間協議での「ストックホルム合意」を実行することであった。
安倍政権はその約束を、朝鮮にも日本国民にも破ってはいけない。
2014年7月17日 記