「7月1日の2つの会議」
「7月1日の2つの会議」
1.
偶然のこととはいえ、7月1日に、朝鮮半島に関わる2つの重要会議があり、その結果が報道された。
1つは、安倍政権が集団的自衛権の行使容認を臨時閣議で決定したことである。
閣議後の記者会見で安倍首相は、高揚した姿勢のまま、「閣議決定により、日本が戦争に巻き込まれる恐れは一層なくなる。海外派兵は一般に許されないという原則は全く変わらない」ことの理解を求めていた。「憲法の平和主義は守る」とも言っていた。
だが、閣議で決定していた内容は、海外での武力行使を事実上可能とするものであったから、記者会見での説明内容とは落差があって、分かりにくい言葉になっている。
記者会見での安倍首相は、「日本周辺を警戒する米軍さえ自衛艦が守ることができなくて、米国民の日本に対する信頼感が続くのかと何人かの米政府高官に言われたことがある」ことを明らかにした。
ということは、首相自身が米側から何度も要請を受けていたことになり、米国は日本の集団的自衛権行使を待望していたことになる。
それは何のためか。言わずと知れた、対北朝鮮のためである。
オバマ米大統領は4月に来日したおり、集団的自衛権の行使容認に向けた取り組みを「歓迎し支持する」と言って、安倍首相の背中を強く押している。
中東情勢が混迷を深めている現在、米国のアジアへのリバランス(再均衡)政策は、日本の朝鮮半島抑止力強化政策に一層期待を掛けるしかない。
安倍政権の閣議決定・発表は、米国にとっては歓迎すべきタイムリーになった。
「日本が普通の国になり、日米同盟もより普通になる」(マサチューセッツ工科大学のリチャード・サミュエルズ教授)などとの、評価の仕方がそれを表明している。
米国が、日本に対して「普通の国」になったと評価している意味は、朝鮮半島有事の際、自衛隊が米軍の後方支援ではなく、先遣隊として出動できるようになったことを歓迎しているためだ。
であるから、第2次朝鮮戦争がより近付いてきた、ということになる。
今年12月の日米防衛協力の指針(ガイドライン)改定作業で、朝鮮半島有事での自衛隊の役割を、従来以上に重視するはずだ。
韓国外務省が、1日、「韓半島の安保やわが国の国益に影響を与える場合、わが国の要請あるいは同意がない限り、(自衛隊出動は)決して認めない」との、報道官声明を出した。
いかなる理由であれ、朝鮮半島上で日本軍(自衛隊)の姿を二度と見たくないとの思いは、朝鮮人であれば、その立場を越えて、共通認識となっている。
韓国は、米国の同盟国でもあり、だから米国を意識して、日本に対して、「防衛安保政策の重大な変更と見て、鋭意注意している」と、日本の集団的自衛権行使決定には、ややトーンダウンした表現にとどめている。
一方、北京で協議(日朝外務省局長級協議)を行っているというのに、その当の相手である朝鮮を米軍と共に軍事攻撃することを決定した内容を発表したことを、安倍晋三氏は何の痛痒も感じなかったのであろうか。
2.
もう一点は、前段で少しふれた、北京で行われた日朝外務省局長級協議のことである。
北京協議は、5月末のスウェーデン協議を受けて開かれたものである。
朝鮮側は、スウェーデン協議で合意していた、全ての日本人の安否を調査する「特別調査委員会」の組織、構成、責任者などを立ち上げたことを説明した。
(注―すべての日本人の安否調査とは、①未帰国の拉致被害者《12人》と特定失踪者《約470~860人》、②在日朝鮮人の帰還事業で北に入った日本人妻約1800人《その子どもを含めて約6840人》、③戦前に朝鮮に居て、終戦時の混乱時に日本へ帰国できなかった人《未帰還者1442人》、④残留日本人の遺骨収集墓地調査など)
一方の日本側は、その調査委員会に実効性があると判断した場合には、日本独自で実施している制裁のうち、3つだけを解除すると説明した。
解除する3つの制裁とは、①人的往来の制限(北朝鮮籍者の入国禁止、総連幹部の再入国禁止、北への渡航自粛要請)、②送金・現金の持ち出し規制(送金300万円超の報告、持ち出し10万円超の届け出)、③北朝鮮船舶の入港禁止(今回は人道目的に限り解除)――である。
4時間余りの1日の協議は、日朝双方が最初のカードを、同時にテーブル上に出しあったことになる。
双方、相手側のカードを持ち帰り、政権内で精査し合い、次の行動を起こすかどうかを決めることになっている。
日朝間には、信頼関係がなく、双方ともに不信と解曲だけが積み上がっているから、以上の行為は最初の儀式で、それも止むを得ないだろう。
だが、日本はまたしても、特に安倍政権は、さも拉致問題だけを解決しているかのように、スウェーデン協議以降、拉致問題のテーマを拡大し、結果の部分的報告だけを行っている。
日本のマスメディアもまた、安倍政権に迎合して、各社とも拉致問題を中心に報道している。
このように、日朝協議の中心テーマが拉致問題であるかのように、誤解させている政権側とメディア側との合作報道姿勢の罪は限りなく大きい。
日朝関係、日朝問題とは、日本の戦前・戦後処理に関わる、朝鮮への清算関係のことであった。
日朝間の協議のテーマとは、日本の過去問題の謝罪と補償交渉から始まり、ゴールの国交正常化へと導くことである。
過去、何度かの日朝協議でも、基本問題から入ろうとする朝鮮側を無視しクレームをつけて、日本はその時々に別の難題を持ち出して、交渉を不毛のものにしてきた。
李恩恵問題、核問題、ミサイル問題、食糧支援問題、2002年以降は拉致問題である。
日本の歴代政権は、これらの問題を米韓と連動して朝鮮側に突きつけ、すべての問題がさも朝鮮側にあるかのようにして、一般世論を「反北朝鮮」へと誘導してきた。
日本は朝鮮への自らの過去清算問題から逃れるため、「拉致、核、ミサイル」の先行解決を主張して、ずっと世論を欺いてきたし、安倍政権も同じ姿勢である。今回も、北京協議まで、幾つかの曲折はあった。
とはいえ、その北京協議は、日朝平壌宣言にのっとった、国交正常化実現までの長いロードマップのための、最初の第一歩を踏み出すことを、日朝双方が確認できた協議になった。
マスメディアには、そのことをしっかりと伝えてほしかった。
さて、依然として拉致問題解決だけを叫ぶ安倍政権に危惧はするものの、今は文句を言わずに、その成果をしばらく見ていよう。
2014年7月3日 記
1.
偶然のこととはいえ、7月1日に、朝鮮半島に関わる2つの重要会議があり、その結果が報道された。
1つは、安倍政権が集団的自衛権の行使容認を臨時閣議で決定したことである。
閣議後の記者会見で安倍首相は、高揚した姿勢のまま、「閣議決定により、日本が戦争に巻き込まれる恐れは一層なくなる。海外派兵は一般に許されないという原則は全く変わらない」ことの理解を求めていた。「憲法の平和主義は守る」とも言っていた。
だが、閣議で決定していた内容は、海外での武力行使を事実上可能とするものであったから、記者会見での説明内容とは落差があって、分かりにくい言葉になっている。
記者会見での安倍首相は、「日本周辺を警戒する米軍さえ自衛艦が守ることができなくて、米国民の日本に対する信頼感が続くのかと何人かの米政府高官に言われたことがある」ことを明らかにした。
ということは、首相自身が米側から何度も要請を受けていたことになり、米国は日本の集団的自衛権行使を待望していたことになる。
それは何のためか。言わずと知れた、対北朝鮮のためである。
オバマ米大統領は4月に来日したおり、集団的自衛権の行使容認に向けた取り組みを「歓迎し支持する」と言って、安倍首相の背中を強く押している。
中東情勢が混迷を深めている現在、米国のアジアへのリバランス(再均衡)政策は、日本の朝鮮半島抑止力強化政策に一層期待を掛けるしかない。
安倍政権の閣議決定・発表は、米国にとっては歓迎すべきタイムリーになった。
「日本が普通の国になり、日米同盟もより普通になる」(マサチューセッツ工科大学のリチャード・サミュエルズ教授)などとの、評価の仕方がそれを表明している。
米国が、日本に対して「普通の国」になったと評価している意味は、朝鮮半島有事の際、自衛隊が米軍の後方支援ではなく、先遣隊として出動できるようになったことを歓迎しているためだ。
であるから、第2次朝鮮戦争がより近付いてきた、ということになる。
今年12月の日米防衛協力の指針(ガイドライン)改定作業で、朝鮮半島有事での自衛隊の役割を、従来以上に重視するはずだ。
韓国外務省が、1日、「韓半島の安保やわが国の国益に影響を与える場合、わが国の要請あるいは同意がない限り、(自衛隊出動は)決して認めない」との、報道官声明を出した。
いかなる理由であれ、朝鮮半島上で日本軍(自衛隊)の姿を二度と見たくないとの思いは、朝鮮人であれば、その立場を越えて、共通認識となっている。
韓国は、米国の同盟国でもあり、だから米国を意識して、日本に対して、「防衛安保政策の重大な変更と見て、鋭意注意している」と、日本の集団的自衛権行使決定には、ややトーンダウンした表現にとどめている。
一方、北京で協議(日朝外務省局長級協議)を行っているというのに、その当の相手である朝鮮を米軍と共に軍事攻撃することを決定した内容を発表したことを、安倍晋三氏は何の痛痒も感じなかったのであろうか。
2.
もう一点は、前段で少しふれた、北京で行われた日朝外務省局長級協議のことである。
北京協議は、5月末のスウェーデン協議を受けて開かれたものである。
朝鮮側は、スウェーデン協議で合意していた、全ての日本人の安否を調査する「特別調査委員会」の組織、構成、責任者などを立ち上げたことを説明した。
(注―すべての日本人の安否調査とは、①未帰国の拉致被害者《12人》と特定失踪者《約470~860人》、②在日朝鮮人の帰還事業で北に入った日本人妻約1800人《その子どもを含めて約6840人》、③戦前に朝鮮に居て、終戦時の混乱時に日本へ帰国できなかった人《未帰還者1442人》、④残留日本人の遺骨収集墓地調査など)
一方の日本側は、その調査委員会に実効性があると判断した場合には、日本独自で実施している制裁のうち、3つだけを解除すると説明した。
解除する3つの制裁とは、①人的往来の制限(北朝鮮籍者の入国禁止、総連幹部の再入国禁止、北への渡航自粛要請)、②送金・現金の持ち出し規制(送金300万円超の報告、持ち出し10万円超の届け出)、③北朝鮮船舶の入港禁止(今回は人道目的に限り解除)――である。
4時間余りの1日の協議は、日朝双方が最初のカードを、同時にテーブル上に出しあったことになる。
双方、相手側のカードを持ち帰り、政権内で精査し合い、次の行動を起こすかどうかを決めることになっている。
日朝間には、信頼関係がなく、双方ともに不信と解曲だけが積み上がっているから、以上の行為は最初の儀式で、それも止むを得ないだろう。
だが、日本はまたしても、特に安倍政権は、さも拉致問題だけを解決しているかのように、スウェーデン協議以降、拉致問題のテーマを拡大し、結果の部分的報告だけを行っている。
日本のマスメディアもまた、安倍政権に迎合して、各社とも拉致問題を中心に報道している。
このように、日朝協議の中心テーマが拉致問題であるかのように、誤解させている政権側とメディア側との合作報道姿勢の罪は限りなく大きい。
日朝関係、日朝問題とは、日本の戦前・戦後処理に関わる、朝鮮への清算関係のことであった。
日朝間の協議のテーマとは、日本の過去問題の謝罪と補償交渉から始まり、ゴールの国交正常化へと導くことである。
過去、何度かの日朝協議でも、基本問題から入ろうとする朝鮮側を無視しクレームをつけて、日本はその時々に別の難題を持ち出して、交渉を不毛のものにしてきた。
李恩恵問題、核問題、ミサイル問題、食糧支援問題、2002年以降は拉致問題である。
日本の歴代政権は、これらの問題を米韓と連動して朝鮮側に突きつけ、すべての問題がさも朝鮮側にあるかのようにして、一般世論を「反北朝鮮」へと誘導してきた。
日本は朝鮮への自らの過去清算問題から逃れるため、「拉致、核、ミサイル」の先行解決を主張して、ずっと世論を欺いてきたし、安倍政権も同じ姿勢である。今回も、北京協議まで、幾つかの曲折はあった。
とはいえ、その北京協議は、日朝平壌宣言にのっとった、国交正常化実現までの長いロードマップのための、最初の第一歩を踏み出すことを、日朝双方が確認できた協議になった。
マスメディアには、そのことをしっかりと伝えてほしかった。
さて、依然として拉致問題解決だけを叫ぶ安倍政権に危惧はするものの、今は文句を言わずに、その成果をしばらく見ていよう。
2014年7月3日 記