「河野談話検証は何のため」
「河野談話検証は何のため」
名田隆司
1.
安倍晋三政権は20日、軍慰安婦への旧日本軍の関与を認めた1993年の河野洋平官房長官談話について、作成過程を検討した有識者チームの結果を国会に報告した。
報告書は、日本が韓国(金泳三大統領)と同年8月4日に談話を発表する直前まで、水面下で綿密に文言調整をして談話を作成した経緯と、両政府の合意でこうした経緯が伏せられたことなどを明らかにした。
河野談話では、軍慰安婦に1募集の強制性に関して「総じて本人たちの意思に反して行われた」(韓国側は、強制性を強調)、2旧日本軍の関与について「軍の要請を受けた業者」(韓国側は、軍の意向を受けた業者とした)などと、慰安所の設置や慰安婦募集への旧軍の関与に関しては、総じて「玉虫色」的妥協の表現ではあった。(しかし、その後はそれ以上の表現はなかった)
談話発表前の8月3日夜、金泳三大統領が最終文言に同意して、河野談話となった。
菅義偉官房長官は同日の記者会見で、「河野談話を見直さないという政府の立場に何ら変わりはない」ことを強調していた。
しかし、韓国の朴槿恵政権は「深い遺憾の意」を表明している。
検証自体が談話の信頼性を失わせるうえ、当時の政府間の秘密内容まで暴露したことが、今後の日韓関係と慰安婦問題の解決を、さらに難しくしたのではないだろうか。
韓国海軍が同日、島根県・竹島(独島)沖を含む海域で、北の潜水艦侵入に備えた射撃訓練を実施したのは、河野談話の検証結果を発表した安倍政権に牽制球を投げるためであったろう。
河野談話を検証するという話は、2月の国会で元慰安婦たちへの政府(当時の宮沢政権)の聞き取り調査)の信憑性に疑義が出されたことから、動き出した。
安倍晋三首相はもともと河野談話には批判的であったから、当初は、そうした首相の意向を踏まえて、談話見直しにつなげていこうとしていたようだ。
だが、これ以上の日韓関係の悪化を食い止めたい米国からの強いサゼスチョンで、安倍首相は3月に談話の継承をしぶしぶ表明することになる。
これは米国の手前だけの態度表明でしかない。
一度振り上げた腕を降ろせなくなった安倍氏はそれ以降、談話は継承するが検証も実施するという、二律背反的で分かりにくい対応に終始した。
検証結果は、当時の日韓担当者が慰安婦問題の解決に向けて、真摯に努力し歩み寄っていった後を明らかにした。
私はその努力と姿勢を評価する者だが、一部保守系の国会議員のなかには「談話の信頼性は崩れた」として、談話の見直しを早くも求めている。
そのような彼らの態度こそ、築き上げてきた国際政治を壊すことになる。
日本国内でも何のための検証で、何のための発表だったのかと、疑問の声が挙がっている。
当の河野洋平元官房長官は、「21年前、日韓関係の大きな問題を乗り越える懸命の努力をした結果が『河野談話』だ。安倍晋三首相は『談話見直しは行わない』としており、検証報告に付け加えることも差し引くこともない。慰安婦と呼ばれた人たちが総じて自らの意思に反して働かされたことを申し訳ないという日本人の気持ちは、今も変わっていないと思う。日韓関係の厳しい環境が続く中、双方の指導者の大局的な判断で、一日も早く関係改善がなされることを切に願う」(6月21日付、毎日新聞)と、日韓関係の悪化を心配している。
また、アジア女性基金時の首相であった村山富市氏は、「政府はこれまでの経緯は経緯として妥当と認め、河野談話を継承するということだから、今回の検証結果に新しいものは何もない。慰安婦の扱いや軍の関与の問題など、肝心な部分の検証は政府ではなく、今後専門家の手にゆだねられた。現在問題となっている慰安婦問題をどう解決するつもりなのか。政府が検証を基に表明することを期待していたが、これでは関係改善につながらないだろう。この検証に何の意味があったのか分からない」(6月21日付、毎日新聞)などと、安倍政権に苦言を呈している。
さらに米政権からは、これ以上のことはせず(河野談話と検証結果を尊重)し、関係国との関係改善を進めていくべきだと、安倍政権の政治スタイルに危機感を表明した。
2.
安倍晋三氏は首相になる以前から、右派近親者たちの口を借りて、慰安婦の軍関与説の否定を合唱させていたため、韓国・朴槿恵政権との交流が出来ない幼稚な外交を続けていても、平気な顔をしている。
アジアでの日米韓の軍事的経済的結束を重視しているオバマ米政権は、その枠からはみ出ようとする安倍政権に対して、時には強く手綱を引き締めたりしている。
米政権からの鞭があるときだけ、安倍氏個人は靖国神社の参拝を中止し、河野談話や村山談話を認める発言をしているが、それは本心からではないだろう。
彼は、集団的自衛権の行使容認、特定秘密保護法などを確定させて、集団安全保障、自衛隊の多国籍軍参加、すべての国民の情報監視社会づくりを急いでもいる。
その先に見ているものは、来年2015年の「戦後70年首相談話」ではないだろうか。1995年(戦後50年)の「村山首相談話」を超える内容を発表し、日本史に「安倍晋三」の名を残そうと画策しているからである。
つまり、植民地支配・侵略戦争史観に立って、朝鮮人労務者などの強制連行はなく、慰安婦への旧軍の関与はなく、日本は、アジア諸国民の解放のために戦い、努力をしてきた。
その日本精神を、戦後70年を節目としてさらに発展させる、と考えているのだろう。
そうした安倍氏の信条からすれば、河野談話の検証結果が、談話作成過程で当時の金泳三政権との事前協議があったとの報告に、ひとり満足しているのではないだろうか。
慰安婦の、募集の強制性と旧軍の関与のいずれもが、韓国側の強い要請で、そうした表現になったとする事実を手に入れたことで、今後は、その部分を安倍流に解釈し、表現し、利用する可能性があるからである。
3.
一方、河野洋平氏は21日、山口市での講演で93年の「河野談話」作成過程に関する
検証結果に対して、次のように話している。
「慰安婦は、いろいろな集まり方があったかも知れないが、施設に入ったら軍の命令で働かされた。帰れず、拒否できないなら強制的と見るのが当然だ」として、慰安所での彼女たちの生活は、強制的な状況下で、痛ましいものであったとの認識を、河野談話に反映させたとした。
また、軍の関与に関しては「過去の資料でも、戦時中に軍の施設に慰安所があり、大勢の女性がいたのは否定できない」と指摘した。
検証結果の報告について「私が足すべきものも引くべきものもない。正しくすべて書かれている」と評価した。
そのうえで「間違いは間違いと認めて謝罪することが、日本はプライドを持つ国と理解してもらえる一番近道だ。他国がやっていたというぐらい卑怯な言い訳はない」と強調。
「あとは冷静に、両国をより良い関係にする努力を指導者にしてほしいと語り、安倍政権下での日韓関係の改善に期待を示した」(6月22日付、毎日新聞)
慰安婦問題は92年1月、宮沢喜一首相(当時)の訪韓直前に問題化した。(91年8月に韓国の元慰安婦が名乗り出たことから始まる)
同年7月、加藤紘一官房長官(同)が「政府の関与」を認める調査結果を発表したが、それだけでは韓国側の反発は収まらなかった。
93年4月の日韓外相会談で、渡辺美智雄外相(同)が慰安婦への「強制性」の表現について、日韓で検討することを提案したことで、協議は進んだ。
宮沢政権側が、元慰安婦16人の聞き取り調査、関係資料や書籍などを検討した結果、河野談話の原案が出来上がったのだ。
92年1月から93年8月までの1年半、宮沢政権は真筆に日本の過去問題と向き合った結果、軍慰安婦問題に関して一つの答えを出した。
慰安婦に対して、その募集と生活に強制性があり、慰安所の運営と組織に旧日本軍が関与していたとする内容と立場を明らかにした。
これは、日本の研究者たちを含む一般的な認識ではあったが、日本政府が正式に認めたという点で、過去のマイナスの歴史を動かす決断でもあった。
その後の日本政府がこの河野談話をしっかりと継承せず、唯一、民間基金によるアジア女性基金(村山政権時)で済ませようとしたところに、多くの問題点を残した。
河野談話の精神は、政府の予算で彼女たちへの「償い金」を支払うとする、方向性を示していた。その後の政府のサボタージュが、問題解決を複雑にしてしまった。
そうした政治的背景に加えて、安倍政権の一連の言動が、アジア各国に反感を与えてきたことに多言する必要はないだろう。
ところで河野談話の検証結果は、一面では当時の宮沢政権の日韓関係を発展させようとする真箪な姿勢を確認できた、ということでもある。
それに比べて、談話を検証した安倍政権の周辺諸国への対応は、右顧左眄している。
右顧左眄的性向は日本の政治家の特質のようで、その代表例が昨今の安倍晋三氏ではないかと思う。彼の言質は分かりにくく、内容的にも深見がない。
その典型例が河野談話を否定し、見直す発言をし、検証するとまで広言し、(米国からの忠告があると)談話は容認すると前言を翻し、そうかと思うと検証は行うと強がってみせる。
検証結果を発表し、河野談話を継承すると言いつつ、当時の日韓政府間の秘密交渉を暴露して談話の価値を貶め、当時の宮沢政権の対応を否定し、河野談話の部分否定への道へと進む用意をしているのだと、内外からの危惧感を招き寄せている。
だから、米国務省のサキ報道官は20日(ワシントン時間)の記者会見で、河野談話は「日本が近隣諸国との関係を改善する上で重要な節目となった」と述べ、談話を評価し、堅持することを安倍政権に求める発言を行った。
菅義偉官房長官が談話を見直さないとの安倍政権の立場を表明したことに、サキ氏は「留意している」と(安倍政権の二枚舌のため)、クエスチョンのサインを送った。
日本には、歴史問題について韓国などとの関係修復・強化に資するような形で取り組むことを、強く促したのだ。
軍慰安婦問題を含む日本の過去問題の解決は、93年の河野談話を誠実に実行していくことが、日本に課せられている最低のラインだ。
当時の韓国政府との刷り合わせがあったとはいえ、表現は日本自身が責任をもっては発表したものだ。
それを21年後の今、検証(見直し)するなどということは、当時の日韓両政府の真摯な努力結果の瑕疵を言い立てようとすることにも似て、その安倍政権の汚らしい魂胆をこそ、国際社会が非難しているのだ。
だから、韓国側はよけいに批判的である。
「日本政府の反省を込めた談話という立場を全面的に否定した」(21日付、朝鮮日報)として、朴槿恵政権は、外交当局間の詳細なやりとりが公開されたことへの反発がでている。これについて、納得できる解決策を提示することを日本に求めていくとしている。
今回、河野談話の作成過程を検証した報告書で、「強制性」の認識を巡って、日韓両政府が緊密な文言調整をしていたことを明らかにした。
その一方で談話の正当性がはっきりとした。
そのことで、安倍政権に注文をしておく。
今後は検証結果を解曲することなく、また日韓間の文言調整に言いかがりを付けるのではなく、慰安婦問題の解決に真正面から取り組んでもらいたい。
政府予算で、各国の元慰安婦およびその遺族の方々に償うことを要求する。
2014年6月22日 記
名田隆司
1.
安倍晋三政権は20日、軍慰安婦への旧日本軍の関与を認めた1993年の河野洋平官房長官談話について、作成過程を検討した有識者チームの結果を国会に報告した。
報告書は、日本が韓国(金泳三大統領)と同年8月4日に談話を発表する直前まで、水面下で綿密に文言調整をして談話を作成した経緯と、両政府の合意でこうした経緯が伏せられたことなどを明らかにした。
河野談話では、軍慰安婦に1募集の強制性に関して「総じて本人たちの意思に反して行われた」(韓国側は、強制性を強調)、2旧日本軍の関与について「軍の要請を受けた業者」(韓国側は、軍の意向を受けた業者とした)などと、慰安所の設置や慰安婦募集への旧軍の関与に関しては、総じて「玉虫色」的妥協の表現ではあった。(しかし、その後はそれ以上の表現はなかった)
談話発表前の8月3日夜、金泳三大統領が最終文言に同意して、河野談話となった。
菅義偉官房長官は同日の記者会見で、「河野談話を見直さないという政府の立場に何ら変わりはない」ことを強調していた。
しかし、韓国の朴槿恵政権は「深い遺憾の意」を表明している。
検証自体が談話の信頼性を失わせるうえ、当時の政府間の秘密内容まで暴露したことが、今後の日韓関係と慰安婦問題の解決を、さらに難しくしたのではないだろうか。
韓国海軍が同日、島根県・竹島(独島)沖を含む海域で、北の潜水艦侵入に備えた射撃訓練を実施したのは、河野談話の検証結果を発表した安倍政権に牽制球を投げるためであったろう。
河野談話を検証するという話は、2月の国会で元慰安婦たちへの政府(当時の宮沢政権)の聞き取り調査)の信憑性に疑義が出されたことから、動き出した。
安倍晋三首相はもともと河野談話には批判的であったから、当初は、そうした首相の意向を踏まえて、談話見直しにつなげていこうとしていたようだ。
だが、これ以上の日韓関係の悪化を食い止めたい米国からの強いサゼスチョンで、安倍首相は3月に談話の継承をしぶしぶ表明することになる。
これは米国の手前だけの態度表明でしかない。
一度振り上げた腕を降ろせなくなった安倍氏はそれ以降、談話は継承するが検証も実施するという、二律背反的で分かりにくい対応に終始した。
検証結果は、当時の日韓担当者が慰安婦問題の解決に向けて、真摯に努力し歩み寄っていった後を明らかにした。
私はその努力と姿勢を評価する者だが、一部保守系の国会議員のなかには「談話の信頼性は崩れた」として、談話の見直しを早くも求めている。
そのような彼らの態度こそ、築き上げてきた国際政治を壊すことになる。
日本国内でも何のための検証で、何のための発表だったのかと、疑問の声が挙がっている。
当の河野洋平元官房長官は、「21年前、日韓関係の大きな問題を乗り越える懸命の努力をした結果が『河野談話』だ。安倍晋三首相は『談話見直しは行わない』としており、検証報告に付け加えることも差し引くこともない。慰安婦と呼ばれた人たちが総じて自らの意思に反して働かされたことを申し訳ないという日本人の気持ちは、今も変わっていないと思う。日韓関係の厳しい環境が続く中、双方の指導者の大局的な判断で、一日も早く関係改善がなされることを切に願う」(6月21日付、毎日新聞)と、日韓関係の悪化を心配している。
また、アジア女性基金時の首相であった村山富市氏は、「政府はこれまでの経緯は経緯として妥当と認め、河野談話を継承するということだから、今回の検証結果に新しいものは何もない。慰安婦の扱いや軍の関与の問題など、肝心な部分の検証は政府ではなく、今後専門家の手にゆだねられた。現在問題となっている慰安婦問題をどう解決するつもりなのか。政府が検証を基に表明することを期待していたが、これでは関係改善につながらないだろう。この検証に何の意味があったのか分からない」(6月21日付、毎日新聞)などと、安倍政権に苦言を呈している。
さらに米政権からは、これ以上のことはせず(河野談話と検証結果を尊重)し、関係国との関係改善を進めていくべきだと、安倍政権の政治スタイルに危機感を表明した。
2.
安倍晋三氏は首相になる以前から、右派近親者たちの口を借りて、慰安婦の軍関与説の否定を合唱させていたため、韓国・朴槿恵政権との交流が出来ない幼稚な外交を続けていても、平気な顔をしている。
アジアでの日米韓の軍事的経済的結束を重視しているオバマ米政権は、その枠からはみ出ようとする安倍政権に対して、時には強く手綱を引き締めたりしている。
米政権からの鞭があるときだけ、安倍氏個人は靖国神社の参拝を中止し、河野談話や村山談話を認める発言をしているが、それは本心からではないだろう。
彼は、集団的自衛権の行使容認、特定秘密保護法などを確定させて、集団安全保障、自衛隊の多国籍軍参加、すべての国民の情報監視社会づくりを急いでもいる。
その先に見ているものは、来年2015年の「戦後70年首相談話」ではないだろうか。1995年(戦後50年)の「村山首相談話」を超える内容を発表し、日本史に「安倍晋三」の名を残そうと画策しているからである。
つまり、植民地支配・侵略戦争史観に立って、朝鮮人労務者などの強制連行はなく、慰安婦への旧軍の関与はなく、日本は、アジア諸国民の解放のために戦い、努力をしてきた。
その日本精神を、戦後70年を節目としてさらに発展させる、と考えているのだろう。
そうした安倍氏の信条からすれば、河野談話の検証結果が、談話作成過程で当時の金泳三政権との事前協議があったとの報告に、ひとり満足しているのではないだろうか。
慰安婦の、募集の強制性と旧軍の関与のいずれもが、韓国側の強い要請で、そうした表現になったとする事実を手に入れたことで、今後は、その部分を安倍流に解釈し、表現し、利用する可能性があるからである。
3.
一方、河野洋平氏は21日、山口市での講演で93年の「河野談話」作成過程に関する
検証結果に対して、次のように話している。
「慰安婦は、いろいろな集まり方があったかも知れないが、施設に入ったら軍の命令で働かされた。帰れず、拒否できないなら強制的と見るのが当然だ」として、慰安所での彼女たちの生活は、強制的な状況下で、痛ましいものであったとの認識を、河野談話に反映させたとした。
また、軍の関与に関しては「過去の資料でも、戦時中に軍の施設に慰安所があり、大勢の女性がいたのは否定できない」と指摘した。
検証結果の報告について「私が足すべきものも引くべきものもない。正しくすべて書かれている」と評価した。
そのうえで「間違いは間違いと認めて謝罪することが、日本はプライドを持つ国と理解してもらえる一番近道だ。他国がやっていたというぐらい卑怯な言い訳はない」と強調。
「あとは冷静に、両国をより良い関係にする努力を指導者にしてほしいと語り、安倍政権下での日韓関係の改善に期待を示した」(6月22日付、毎日新聞)
慰安婦問題は92年1月、宮沢喜一首相(当時)の訪韓直前に問題化した。(91年8月に韓国の元慰安婦が名乗り出たことから始まる)
同年7月、加藤紘一官房長官(同)が「政府の関与」を認める調査結果を発表したが、それだけでは韓国側の反発は収まらなかった。
93年4月の日韓外相会談で、渡辺美智雄外相(同)が慰安婦への「強制性」の表現について、日韓で検討することを提案したことで、協議は進んだ。
宮沢政権側が、元慰安婦16人の聞き取り調査、関係資料や書籍などを検討した結果、河野談話の原案が出来上がったのだ。
92年1月から93年8月までの1年半、宮沢政権は真筆に日本の過去問題と向き合った結果、軍慰安婦問題に関して一つの答えを出した。
慰安婦に対して、その募集と生活に強制性があり、慰安所の運営と組織に旧日本軍が関与していたとする内容と立場を明らかにした。
これは、日本の研究者たちを含む一般的な認識ではあったが、日本政府が正式に認めたという点で、過去のマイナスの歴史を動かす決断でもあった。
その後の日本政府がこの河野談話をしっかりと継承せず、唯一、民間基金によるアジア女性基金(村山政権時)で済ませようとしたところに、多くの問題点を残した。
河野談話の精神は、政府の予算で彼女たちへの「償い金」を支払うとする、方向性を示していた。その後の政府のサボタージュが、問題解決を複雑にしてしまった。
そうした政治的背景に加えて、安倍政権の一連の言動が、アジア各国に反感を与えてきたことに多言する必要はないだろう。
ところで河野談話の検証結果は、一面では当時の宮沢政権の日韓関係を発展させようとする真箪な姿勢を確認できた、ということでもある。
それに比べて、談話を検証した安倍政権の周辺諸国への対応は、右顧左眄している。
右顧左眄的性向は日本の政治家の特質のようで、その代表例が昨今の安倍晋三氏ではないかと思う。彼の言質は分かりにくく、内容的にも深見がない。
その典型例が河野談話を否定し、見直す発言をし、検証するとまで広言し、(米国からの忠告があると)談話は容認すると前言を翻し、そうかと思うと検証は行うと強がってみせる。
検証結果を発表し、河野談話を継承すると言いつつ、当時の日韓政府間の秘密交渉を暴露して談話の価値を貶め、当時の宮沢政権の対応を否定し、河野談話の部分否定への道へと進む用意をしているのだと、内外からの危惧感を招き寄せている。
だから、米国務省のサキ報道官は20日(ワシントン時間)の記者会見で、河野談話は「日本が近隣諸国との関係を改善する上で重要な節目となった」と述べ、談話を評価し、堅持することを安倍政権に求める発言を行った。
菅義偉官房長官が談話を見直さないとの安倍政権の立場を表明したことに、サキ氏は「留意している」と(安倍政権の二枚舌のため)、クエスチョンのサインを送った。
日本には、歴史問題について韓国などとの関係修復・強化に資するような形で取り組むことを、強く促したのだ。
軍慰安婦問題を含む日本の過去問題の解決は、93年の河野談話を誠実に実行していくことが、日本に課せられている最低のラインだ。
当時の韓国政府との刷り合わせがあったとはいえ、表現は日本自身が責任をもっては発表したものだ。
それを21年後の今、検証(見直し)するなどということは、当時の日韓両政府の真摯な努力結果の瑕疵を言い立てようとすることにも似て、その安倍政権の汚らしい魂胆をこそ、国際社会が非難しているのだ。
だから、韓国側はよけいに批判的である。
「日本政府の反省を込めた談話という立場を全面的に否定した」(21日付、朝鮮日報)として、朴槿恵政権は、外交当局間の詳細なやりとりが公開されたことへの反発がでている。これについて、納得できる解決策を提示することを日本に求めていくとしている。
今回、河野談話の作成過程を検証した報告書で、「強制性」の認識を巡って、日韓両政府が緊密な文言調整をしていたことを明らかにした。
その一方で談話の正当性がはっきりとした。
そのことで、安倍政権に注文をしておく。
今後は検証結果を解曲することなく、また日韓間の文言調整に言いかがりを付けるのではなく、慰安婦問題の解決に真正面から取り組んでもらいたい。
政府予算で、各国の元慰安婦およびその遺族の方々に償うことを要求する。
2014年6月22日 記