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「危険なTPP」

「危険なTPP」


1.
 日米両政府は4月9日、10日の両日、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の打開に向け、甘利明TPP担当相とフロマン米通商代表部代表による閣僚会議を東京で開いた。

 日本は農産物のコメ、牛肉、豚肉、乳製品、砂糖の5両目を関税維持の重要項目と位置づけ、特別扱いとすることを主張している。

 一方の米国は、すべての関税の原則撤廃への強硬姿勢を崩してはいない。

 会談は昼食をはさんで、2日間で18時間余り、それでも合意点に達しなかったと、報道していた。

 安倍政権はTPPの決着を目指していて、やや前のめりな姿勢が見られる。

 しかもこれまで、国内でのまともな議論もなく、交渉内容も公表してこなかったため、全体像が全く見えないという不満が、関係者にもある。

 TPPを、日本や米国、オーストラリアなど12カ国が貿易や投資の自由化を進める協定で、主として関税撤廃や知的財産などの分野別に協議をすすめる、新貿易協定であるかのように理解している向きがある。

 だがこれは、関税撤廃をめぐる「戦争」なのだ。

 単純な経済問題ではなく、それ以降の国家運営に重大な影響を及ぼしていく、政治問題である。

 政治問題とはつまり、TPPの成立を仕掛けている米国側からすれば、軍隊を用いた古い帝国主義スタイルではなく、協議で関税の防波堤を撤廃させて、資本進出の突破口を作り、そこからあらゆるものを略奪していく現代帝国主義システムなのである。


2.
 帝国主義とは一般に、国家の膨張主義を意味している。

 歴史学的には、19世紀末より資本主義の独占段階への移行を基礎とした、レーニンの「帝国主義論」に拠る。

 国家利益と結び付いた資本はやがて、政治的発言力を強化し、植民地支配を国家政策の中心にすえた資本主義国家をつれて資本市場(植民地支配)の拡大に奔走していく。

 その相互衝突が戦争で、戦争の危機が常に存在していたのが、帝国主義時代である。

 戦争、侵略、民族運動の抑圧などを常の姿としていた帝国主義国家群は、第1次、第2次世界大戦を引き起こした。

 戦後は、社会主義国の拡大と植民地独立運動が進み、縮小されていく資本主義圏の中で、米国が圧倒的な力をもつようになった。

 こうして、戦後の帝国主義体制は米国中心、米国一強システムのなかで進み、米帝が社会主義と民族運動、非キリスト教勢力から、資本主義圏を守る(国際警察の役割)ため、各地での局地戦を繰り広げてきた。

 しかし、近年、中国や新興国が進出し、米一国体制が維持できなくなった。

 さりとて米国も、以前の力量もなく、すぐに軍隊を送ることもできず、創設したのが自由貿易圏である。

 その中で、他国の金融関係、サービス部門、知的財産分野まで合法的に取り込める、戦略展開を進めようとしている。

 米国にとっては、自由貿易圏の設定は、自国軍隊を送りこむことと同一であって、関税という防波堤を撤廃する協定を結んだ国とは、新植民地国の関係に移行していく。これがTPPの本質である。


3.
 米国はTPPの成立によって、全世界の国内総生産(GDP)の40%を占める膨大な自由貿易圏をつくろうとしている。

 これは、国家間の自由貿易、経済取引というよりは、米国の世界戦略の根幹をなすもので、現帝国主義の「侵略軍」と同じである。

 そしてまたそれは、対中国への「戦争」でもあった。

 TPPは、工業製品、農産物、サービス取引、訴訟の裁定、知的財産、金融と投資、公共事業の契約、競争政策など、幅広い領域をカバーしている。

 かつ、国家の公共利益より私企業の営利活動を主体としているため、非常に危険なものを含んでいる。

 2012年の米大統領選でオバマ氏は、TPPによって米国の影響力を従来通りに保持し、それを対中国の戦略的な道具とすることを表明していた。

 現実は、2000年からの8年間で、中国の貿易量は約4倍に増加しており、2008年頃からは、世界貿易のリーダーの地位を、中国が急追し、やがて占めるようになった。

 国際取引通貨が、米ドルから中国人民元に移行するかもしれない現象となっている。

 そうした危機からの脱出策として、米国は中国を排除もしくは参入困難な巨大な自由貿易圏を設定して、中国への「軍事基地」を築こうとしている。

 100年近く続いた世界貿易のリーダーの地位を失いたくない米国は、TPP以外にも米州自由貿易協定(FTAA、南米地域)、EUとの自由貿易協定(FTA)、ブラジル、インド、ロシア、南アフリカなどとの自由貿易圏も構想している。

 TPPを含む米国構想の自由貿易圏は、非常に危険なものを内包している。

 知的財産制度は、国境を越えて施行される司法制度(米国)が導入されるため、個人の権利と表現の自由問題を踏みにじっていくだろう。

 労働市場では、低賃金の外国人労働者の導入が助長され、さらに非正規労働者が増加して給与は減少し、労働環境は不安定となり、社会保障制度が崩壊し、失業者が増大していくだろう。

 また、各種規制が撤廃されてゆき、環境保全、食品の安全、公衆衛生が無視され、安全・安定した日常生活は破壊されていくだろう。それ以上にTPPがもつ本質的な危険性は、人権よりも投資(資本)の保護にある。

 これは、国が公共利益のために、私企業の営利活動を妨害したとの理由で、企業から告発される可能性を言う。

 先の知的財産権問題も含めて、国家主権、政府、地方自治体、公的機関など、国民や市民を守る活動よりは、営利企業の利益追求権が上位者となる世界が、出現することになるからである。

                                          2014年4月11日 記

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愛媛現代朝鮮問題研究所のブログです。

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