fc2ブログ

「朝鮮問題へのレッスン」2.朝鮮半島の呼称問題

2.朝鮮半島の呼称問題


 朝鮮半島と朝鮮に関する呼称は、戦前から「朝鮮」で統一されていた。

 ところが48年8月に、米国が南半分だけの選挙を強行して「大韓民国」を成立させると、彼らは自らの「国家」略称と地域名を「韓国」と言い出した。

 同時に、日本国内で使用し普遍化していた「朝鮮」を否定して、韓国、韓国人、韓半島、北韓、韓国語を主張するようになった。

 日韓基本条約が調印された65年以降は、日本政府も「韓国」を国籍とし、「朝鮮」を単なる記号とする差別政策を、在日朝鮮人社会に刻印していった。

 「韓国」籍であれば、日本社会でも有利(あくまでも、朝鮮籍に比べて)な生活が保障(融資や海外渡航など)され、韓国政府もまた、彼らの自由往来を認めた。

 だが、こうした政策の裏側には、黒い罠が潜んでいたのだ。

 日韓両政府とも、在日朝鮮人の全てを韓国籍化して、やがて日本国簿を取得(日本人化)させ、在日朝鮮人の存在を無くしていく方針を持っていたからである。

 棄民政策である。棄民政策は李承晩政権から金泳三政権まで、温度差はあったものの続けられていた。

 もちろん日本政府も「民団」も裏面で協力をして、「韓国」籍への切り替えを積極的に勧めていたのだ。

 在日朝鮮人はこの棄民政策とは別次元での現実生活から、1在日朝鮮人の90%以上が南朝鮮出身で、2朝鮮との商業活動に有利であり、3反共的立場の人たちから、有利な「韓国」籍に切り替えていくといった現象もあった。

 こうして朝鮮総連に結集していた「朝鮮」籍の人たちは、日本政府と日本社会以外にも、「韓国」系列につながるものとの闘いが強いられていった。

 時とともに、「朝鮮」「韓国」双方の名称のバックに政治色が着いていると、在日の若い人たちのなかから、自らを「コリア」「コレア」と名乗る者たちが出てきた。

 英語の「コリア」(Korea)は、中世の高麗王朝の名称からきており、特にヨーロッパ地域で広がり親しまれていた。

 コリアの名称がヨーロッパ地域で広まったのは、モンゴルの元帝国の侵略路との関係があると考えられる。

 しかし現在では、「コリア」は単なる名称にしか過ぎず(コリア人など存在していないのだから)、帰属先がはっきりしない欠陥がある。結局は、「朝鮮」「韓国」問題から逃げ出しているにしか過ぎないというべきではないだろうか。

 日本人のなかにも、「朝鮮・韓国」(その反対も)とか「韓国人・朝鮮人」(または朝鮮・韓国人)などと表現する人たちがいる。

 これなどは「朝鮮」「朝鮮人」と「韓国」「韓国人」の2民族がいるような表現で、無意識の内に朝鮮半島の分断政策に荷担する罪を犯している。

 日本ではまた、朝鮮半島の南北両政府の略称を、北を「北朝鮮」とし南を「韓国」と表現しているが、これにも違和感がある。

 ここで、南北朝鮮の呼称問題を図式的に整理しておくと、

 国名/朝鮮民主主義人民共和国と大韓民国
 略称/朝鮮または共和国と韓国
 地域名/北朝鮮と南朝鮮

 ―ということになる。

 では朝鮮半島側では自らを、どのように表現しているのだろうか。北側は略称を「朝鮮」または「共和国」としていて、朝鮮半島、朝鮮人、朝鮮語、朝鮮史、南北朝鮮とし、相手の南を「南朝鮮」と呼んでいる。しかし自らを「北朝鮮」と呼ぶことはない。

 一方の南は略称を「韓国」としていて、以下、韓半島、韓国人、韓国史、韓国語などとしている。相手の北を「北韓」と呼んでいるが、自らを「南韓」とは言わない。

 以上の対比で分かることは、「北朝鮮」との呼称は地域名ではあるものの、南北両朝鮮とも使用していないということである。

 では、日本のマスメディアなどで使用している呼称は、どうであろうか。朝鮮民主主義人民共和国については、初出を「朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)」として、以下は「北朝鮮」で統一している。

 ところがこの表記は、南北両朝鮮が国連に加盟をした92年以降のことである。

 それ以前は、初出を「北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)」とし、以降を「北朝鮮」としていた。

 この2つの表記の違いは、前者が正式国名の「朝鮮民主主義人民共和国」を認識し認めているのに比べ、後者は正式国名を通称名的に扱い、やや蔑み的な忠誠が残っている。

 70年代以前は、「北鮮」「南鮮」または「北韓」「南韓」などと、全くの侮蔑表現を使用していたから、隔世の感はある。

 だが今でも一般には、「北朝鮮」と簡単に表現している。

 その場合でも、国名の略称を指しているのか、単なる地域名なのか、または区分して使用しているのかが分かりづらい。

 国名の略称での「北朝鮮」表現は、相応しくないことだけは言っておく。

 私自身は講演や会話(または原稿)で、「北朝鮮」と表現する場合がある。

 その場合は地域名(朝鮮北部)のことを意識してのことであり、その反対の南部を「南朝鮮」と表現している。

 ところが聴く側では、誤解をしている場合が多いようである。

 経験を紹介する。時折り、若い記者から取材を受けることがある。

 私が「朝鮮民主主義人民共和国」のことを「朝鮮」と表現していると、記者の方は「朝鮮半島」と聞き違いをしていたことがある。

 また別の取材者の場合、私が地域名のつもりで「北朝鮮」と言ったのを、国名の略称だと受け取っていたことが何度かあった。

 ことほど左様に日本社会では、北部朝鮮、朝鮮民主主義人民共和国を表現する場合、「北朝鮮」で意思疎通が出来上がっていることが分かる。

 その場合でも、それが国名の略称なのか地域名なのかといった、難しい論点など全く意に介さないのだろう。使いやすい表現との理由だけで使用している「北朝鮮」との語感には、日本人特有の侮蔑感と、朝鮮の存在をその国名と共に認めまいとする、米国史観が潜んでいることに気付いてほしいものである。

 「北朝鮮」表現は決して、字数を節約するとのマスメディア特有の表現法ばかりではなく、そこには米国のプロパガンダが反映されていることを理解してほしい。

 将来、日朝国交正常化が進み、実現した場合、現在一般化している「北朝鮮」との表現は、朝鮮半島の北部地域名のみに限って使用することになるであろう。

 ところで「朝鮮」「韓国」名はともに、朝鮮半島古代に興亡した王朝名、地域名である。

 だから双方の名称を、朝鮮人が用いる場合には、それぞれ正統性があるものの、日本人が用いる場合には、まだ「政治的」な問題が残っていて、十分にこなせていない。

 それは日本政府が過去の歴史清算をまだ行っていないことと、南北分断政策に深く荷担しているからである。

 「朝鮮」と「韓国」か、「北朝鮮」と「韓国」か、日本人にとってどの表現を用いるのかは、その人の思考や人生観表現とともに、朝鮮半島に向き合う際の政治的立場も同時に反映していることになる。

 だからよけいに、朝鮮問題を語ることを難しくしているのだろうと思う。

                                       2013年11月3日 記

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

takasi1936

Author:takasi1936
愛媛現代朝鮮問題研究所のブログです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR