「朝鮮問題へのレッスン」1.はじめに
1.はじめに
私たちは朝鮮問題の現在や日本との関係を、どれほど理解しているだろうか。
地理的には隣国で、歴史的にも古代から関わりを持ち、現在においても日常的に政治的に関係の深い朝鮮半島を、である。
また、在日朝鮮人たちが多く居住している理由についても、その歴史的経緯を知っているのだろうか。
わけても朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮または共和国)についての理解は、偏見に満ちているのではないか。
米マサチューセッツ工科大学教授のノーム・チョムスキーは、「アメリカ国民の知っている北朝鮮は、強力なプロパガンダ組織(注一米国家情報機関)によって創り出された内容である」と言っている。
つまり米国民は朝鮮問題について、政権側にとって都合の良い情報しか知らないか、ほとんど何も知らないということなのだ。
また、日本では近隣の朝鮮や中国のことは「アメリカのフィルターを通して捉えられている」とも、指摘している。
彼が言うまでもなく、日本で報道されている朝鮮半島関連の情報は、必ず米国のバイアスがかかったうえで伝えられている。
なかでも社会主義朝鮮に関してのものは、米国のバイアスがかからないものがないとまで言えるほどである。
日本人が抱く社会主義朝鮮のイメージと認識は、米政権の情報機関によって加工された内容で、ひょっとしたら、それすらも知らない人たちが多いのではなかろうか。
そのような人たちにとっては、毎日、マスメディアによってたれ流されている朝鮮半島関連の情報(特に北関連)を、疑問もなくそのまま受け入れていることになる。
こうした事柄は米国にとっても、日本の政権(歴代の、どの政権)にとっても、全く都合が良い世論操作となっているのである。
社会主義朝鮮に関しては、米CIAや米国防委員会など、諜報機関によって加工された謀略情報が、日本政府や大手マスメディアから流され続け、それを検証もできない一般の人々にとっては、そのまま受け入れるしかない、ということになっている。
その結果は、「怖い北朝鮮」などの情報通りの脅威感だけが増幅され、反朝鮮、嫌朝鮮感情が何層にも積み上がっているのが、現在の日本社会だとも言えるだろう。
それこそが、日米など帝国主義陣営側が意図している情報操作なのである。米国の国際政治の中心は、冷戦後も、世界から共産主義・社会主義政権を崩壊させることであった。
ソ連・東欧社会主義諸国が連鎖崩壊したときには、当時の米政権担当者たちは有頂天になり、なお一層、自らの政治制度(民主主義、キリスト教文化)の伝道者としての使命感に燃えていたかも知れない。
次はアジア諸国の社会主義政権の瓦解だと判断し、米国流のアプローチを試みていた。
モンゴル、ベトナム、中国などは、開放経済路線を実施していたから、やがては政治の多党化、民主化が実現するだろうと理解していたはずだ。
だから、それらの国々とは経済交流・強力、政治の正常化プログラムをすすめていた。だが朝鮮だけは、「朝鮮式社会主義」の旗を高く掲げて、米政治とは対抗していた。
93年、朝鮮の黒鉛炉原子力発電所建設を「核開発疑惑」だとして、世界に発信した米国は、以来、「核」と「ミサイル」開発を理由とした、社会主義朝鮮の崩壊劇を演出している。
一方で、自らの産軍体制を維持する必要性から、「脅威」の社会主義朝鮮の存在を利用してきた側面もある。
米韓、日韓、日米韓、六者会談、国連、国連の安保理など場を活用しながら、アジア太平洋地域を重要視してきた米国は、敵国朝鮮の「脅威」を叫びつつ、その一方では朝鮮を必要とする矛盾した政策を築いてきた。
日本との関係においても、「日米2プラス2共同文書」(13年10月3日)では、自衛隊の行動範囲の増強、防衛予算の増額、米国のアジア太平洋地域の重視、さらに在日米軍再編のためにとして、「北朝鮮の核・ミサイル計画や人道上の懸念、海洋での力による安定を損ねる行動、宇宙やサイバー空間での撹乱をもたらす活動」との表現を必要とし、同時に自衛隊の伸張については一定程度は押さえ込もうとしていた。
朝鮮の核やミサイルが、日本や在日米軍に向けられ、それが脅威になっているとするのは、日米両国の軍事的存在力を主張する作文であって、そのことがプロパガンダ表現なのである。
だが一般には、何がプロパガンダで、真実とは何か、という事柄まで考えたりはしないはずだ。
社会主義朝鮮の存在自体を忌避しようとしている米国、さらに朝鮮とはまだ敵対関係にある米国、自らの帝国主義的存在のために脅威の朝鮮を必要としている米国、これら矛盾した立場の米国から発信してくる朝鮮半島情報など、信じることはできない。
日本の保守政治陣営は、米プロパガンダの朝鮮情報によって、集団的にも個人的にも、その政治生命を保っているようだ。そうした彼らから発する朝鮮情報もまた、米国のプロパガンダ情報でしかない。
マスメディアが活用している朝鮮問題「専門家」たちの的外れなコメントに頷く社会、それが今の日本社会の朝鮮問題への理解レベルとなっていることは、悲しい。
以上のことから、日本の朝鮮半島関連の情報や理解、認識や判断などは、必然的にも米国の「マスク」を被っていて、それすらも理解していない精神風土になっている。
だからなお、現実の朝鮮半島情勢、政治状況を伝えることは難しい。
難しいことの第1は、朝鮮半島関連情報の大半が、米国のプロパガンダによって汚染されているからである。
第2は、日本人の意識下にある朝鮮および朝鮮人への「蔑視観」があるからである。
第3は、政府およびマスメディアからの情報を公的なものとして受け止め、信用してしまう日本的習性があるからである。
以上のことから、民間の小さな研究所や肩書きのない個人などの情報発信は、信頼性がないとする社会的風土もまた大きく影響している。
さりとてこうした現実や傾向を黙って見過ごしているのは、朝鮮問題の専門家、研究家とは言えないだろうし、第一、日本人としての存在が問われていると思う。
右傾化している現実社会ではなお、朝鮮半島問題の正しい認識と理解のための発言、発信、言葉を継いでいく作業こそ、ますます重要なのではないかと考え、今回は「朝鮮問題へのレッスン」を執筆することにした。
朝鮮半島の分断を招いたもの、それを維持している政治勢力の追及を、用語および事件や事柄の解説を通じて、時代と政治勢力などの背景を見、現代朝鮮史となるようにした。
説明が重複している部分があるかも知れないが、それは各項目を独立したものとして扱い、項目毎の理解の助けにしたいと考えたからである。
2013年11月3日 記
私たちは朝鮮問題の現在や日本との関係を、どれほど理解しているだろうか。
地理的には隣国で、歴史的にも古代から関わりを持ち、現在においても日常的に政治的に関係の深い朝鮮半島を、である。
また、在日朝鮮人たちが多く居住している理由についても、その歴史的経緯を知っているのだろうか。
わけても朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮または共和国)についての理解は、偏見に満ちているのではないか。
米マサチューセッツ工科大学教授のノーム・チョムスキーは、「アメリカ国民の知っている北朝鮮は、強力なプロパガンダ組織(注一米国家情報機関)によって創り出された内容である」と言っている。
つまり米国民は朝鮮問題について、政権側にとって都合の良い情報しか知らないか、ほとんど何も知らないということなのだ。
また、日本では近隣の朝鮮や中国のことは「アメリカのフィルターを通して捉えられている」とも、指摘している。
彼が言うまでもなく、日本で報道されている朝鮮半島関連の情報は、必ず米国のバイアスがかかったうえで伝えられている。
なかでも社会主義朝鮮に関してのものは、米国のバイアスがかからないものがないとまで言えるほどである。
日本人が抱く社会主義朝鮮のイメージと認識は、米政権の情報機関によって加工された内容で、ひょっとしたら、それすらも知らない人たちが多いのではなかろうか。
そのような人たちにとっては、毎日、マスメディアによってたれ流されている朝鮮半島関連の情報(特に北関連)を、疑問もなくそのまま受け入れていることになる。
こうした事柄は米国にとっても、日本の政権(歴代の、どの政権)にとっても、全く都合が良い世論操作となっているのである。
社会主義朝鮮に関しては、米CIAや米国防委員会など、諜報機関によって加工された謀略情報が、日本政府や大手マスメディアから流され続け、それを検証もできない一般の人々にとっては、そのまま受け入れるしかない、ということになっている。
その結果は、「怖い北朝鮮」などの情報通りの脅威感だけが増幅され、反朝鮮、嫌朝鮮感情が何層にも積み上がっているのが、現在の日本社会だとも言えるだろう。
それこそが、日米など帝国主義陣営側が意図している情報操作なのである。米国の国際政治の中心は、冷戦後も、世界から共産主義・社会主義政権を崩壊させることであった。
ソ連・東欧社会主義諸国が連鎖崩壊したときには、当時の米政権担当者たちは有頂天になり、なお一層、自らの政治制度(民主主義、キリスト教文化)の伝道者としての使命感に燃えていたかも知れない。
次はアジア諸国の社会主義政権の瓦解だと判断し、米国流のアプローチを試みていた。
モンゴル、ベトナム、中国などは、開放経済路線を実施していたから、やがては政治の多党化、民主化が実現するだろうと理解していたはずだ。
だから、それらの国々とは経済交流・強力、政治の正常化プログラムをすすめていた。だが朝鮮だけは、「朝鮮式社会主義」の旗を高く掲げて、米政治とは対抗していた。
93年、朝鮮の黒鉛炉原子力発電所建設を「核開発疑惑」だとして、世界に発信した米国は、以来、「核」と「ミサイル」開発を理由とした、社会主義朝鮮の崩壊劇を演出している。
一方で、自らの産軍体制を維持する必要性から、「脅威」の社会主義朝鮮の存在を利用してきた側面もある。
米韓、日韓、日米韓、六者会談、国連、国連の安保理など場を活用しながら、アジア太平洋地域を重要視してきた米国は、敵国朝鮮の「脅威」を叫びつつ、その一方では朝鮮を必要とする矛盾した政策を築いてきた。
日本との関係においても、「日米2プラス2共同文書」(13年10月3日)では、自衛隊の行動範囲の増強、防衛予算の増額、米国のアジア太平洋地域の重視、さらに在日米軍再編のためにとして、「北朝鮮の核・ミサイル計画や人道上の懸念、海洋での力による安定を損ねる行動、宇宙やサイバー空間での撹乱をもたらす活動」との表現を必要とし、同時に自衛隊の伸張については一定程度は押さえ込もうとしていた。
朝鮮の核やミサイルが、日本や在日米軍に向けられ、それが脅威になっているとするのは、日米両国の軍事的存在力を主張する作文であって、そのことがプロパガンダ表現なのである。
だが一般には、何がプロパガンダで、真実とは何か、という事柄まで考えたりはしないはずだ。
社会主義朝鮮の存在自体を忌避しようとしている米国、さらに朝鮮とはまだ敵対関係にある米国、自らの帝国主義的存在のために脅威の朝鮮を必要としている米国、これら矛盾した立場の米国から発信してくる朝鮮半島情報など、信じることはできない。
日本の保守政治陣営は、米プロパガンダの朝鮮情報によって、集団的にも個人的にも、その政治生命を保っているようだ。そうした彼らから発する朝鮮情報もまた、米国のプロパガンダ情報でしかない。
マスメディアが活用している朝鮮問題「専門家」たちの的外れなコメントに頷く社会、それが今の日本社会の朝鮮問題への理解レベルとなっていることは、悲しい。
以上のことから、日本の朝鮮半島関連の情報や理解、認識や判断などは、必然的にも米国の「マスク」を被っていて、それすらも理解していない精神風土になっている。
だからなお、現実の朝鮮半島情勢、政治状況を伝えることは難しい。
難しいことの第1は、朝鮮半島関連情報の大半が、米国のプロパガンダによって汚染されているからである。
第2は、日本人の意識下にある朝鮮および朝鮮人への「蔑視観」があるからである。
第3は、政府およびマスメディアからの情報を公的なものとして受け止め、信用してしまう日本的習性があるからである。
以上のことから、民間の小さな研究所や肩書きのない個人などの情報発信は、信頼性がないとする社会的風土もまた大きく影響している。
さりとてこうした現実や傾向を黙って見過ごしているのは、朝鮮問題の専門家、研究家とは言えないだろうし、第一、日本人としての存在が問われていると思う。
右傾化している現実社会ではなお、朝鮮半島問題の正しい認識と理解のための発言、発信、言葉を継いでいく作業こそ、ますます重要なのではないかと考え、今回は「朝鮮問題へのレッスン」を執筆することにした。
朝鮮半島の分断を招いたもの、それを維持している政治勢力の追及を、用語および事件や事柄の解説を通じて、時代と政治勢力などの背景を見、現代朝鮮史となるようにした。
説明が重複している部分があるかも知れないが、それは各項目を独立したものとして扱い、項目毎の理解の助けにしたいと考えたからである。
2013年11月3日 記