「米国の新たな対北戦略を批判する」
「米国の新たな対北戦略を批判する」
名田隆司
長期安定政権の現実に安心したのか、このところの安倍晋三首相の言動には、右翼っぽさがますます滲み出てきている。
特に今国会での成立を目指している「特定秘密保護」「国家安全保障会議」の両法案には、安倍氏の傲慢姿勢の現在が現れていて、不吉な予感を覚える。
安倍政権が、国家の安全保障政策の司令塔にしたいとしている「国家安全保障会議」は、いま以上に国家情報を独占し、隠匿し、コントロールしていこうとするもので、危険極まりないものである。
その中核となるのは、首相、外相、防衛相、官房長官らの4者会合(月に2回開くという)である。日本版NSC(米国のマネ)だと言われる所以だ。
この4者会合の事務局を担うのは、「国家安全保障局」(約60人、14年1月に発足予定)で、総括、戦略、情報、同盟国・友好国(米国など)、中国・北朝鮮、その他(中東など)の6班体制でスタートするようだ。
菅義偉官房長官は、「外国の情報機関から重要な情報を入手するには、特定秘密保護法案をセットで成立させる必要がある」と説明をし、秘密保護法案も今国会での成立を目指すという。
特定秘密の定義については、「漏えいがわが国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの」としている。
その範囲は、防衛、外交、特定有害活動(スパイなど)防止、テロ防止などの4分野で、閣僚ら行政機関の長が指定するのだとしている。
特定秘密を漏らした公務員や民間人には、最高10年から5年の懲役が科されることになっていて、厳しく対処することを目指している。
また、特定秘密と指定された情報が、今後、半永久的に公開されない恐れがあり、運用によっては、国民の知る権利を損ねる以上に、国民をコントロールしていく危険な武器となる可能性すらある。
同時期、安倍政権は集団的自衛権の行使を、容認していく方向で検討している。
首相の私的懇談会「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)では、日本は権利はあるが憲法上(集団的自衛権が)行使できないとの従来の立場から、自国の存立を維持する「自衛のための措置」と解釈をして、集団的自衛権を容認する方向へと開いていくことを検討している。
先の2法案と、安保法制懇が検討している集団的自衛権容認問題が重なっているのは、決して偶然のことではない。
安保法制懇は10月16日の会合で、米国を攻撃した国に武器を供給する船舶に対する強制検査(臨検)、日本への原油輸送に関わる海峡封鎖時の機雷除去など、自衛隊の活動内容の拡大事例を具体的に検討していた。
こうした集団的自衛権の範囲の検討は、東京で10月3日、日米安保協議委員会(10.3共同声明)で協議し、すでに合意していたものである。
「10.3共同声明」は、米軍主導で、日米韓安保会議の一環として開かれた。
第38回米韓軍事委員会(9月30日)、第45回米韓安保協議会(10月2日)、そして日米安保協議委員会(10月3日)と、米国を軸にして連続的に協議をした後、原子力空母「ジョージ・ワシントン」号を釜山港に入港(10月4日)させている。
つまり、9月30日から10月4日までソウル―東京―釜山を結んだ「安保協議」を、米国は連続して行っていたのだ。
この時期に、それぞれ非公開の安保協議を行った米国の意図は、どこにあったのだろうか。協議直後にソウル(10.2共同声明)と東京(10.3共同声明)で発表した、2つの「共同声明」をつなげて、少しのぞいてみよう。
「10.2共同声明」では、「両長官(国防)は停戦協定(朝鮮戦争)と国連軍司令部が、朝鮮半島の平和と安定を維持する上で必須的であるという点を確認した」としている。
この表現こそは、オバマ米政権の現在の心境を素直に表明していると言えるだろう。
どういうことかと言えば、米国は朝鮮戦争の停戦協定を今後とも維持し、かつ、「国連軍司令部」も解体する考えのないことを、共和国へのメッセージとしたのである。
このことは同時に、韓国軍に戦時作戦統帥権を返還(15年12月1日の予定)し、米韓連合司令部が解体された場合でも、「国連軍司令部」の名称による米軍を引き続き存続させる、ということのようである。
これが新戦略とはなんとも陳腐である。
だから共同声明では、「ミサイルの脅威に対する探知、防御、攪乱および破壊のための包括的な同盟のミサイル対応戦略を引き続き発展させていくことにした」と、「ミサイル脅威」を強調している。
ここで言っている「ミサイル脅威」とは、「北のミサイル体制」のことであって、決して60年にわたって核とミサイルで共和国に脅威を与え続けてきた米国、それ自身ではない。
共同声明で主張する「対北戦略」は、共和国のミサイル攻撃能力をミサイル防衛システムで弱化させたうえで、自陣の対北ミサイル攻撃能力を強化するとしている。
そのために、朴槿恵政権に対しては、対北ミサイル防衛システム「キー・チェーン」と、韓国型ミサイル防衛システムを早期に確保するよう、ミサイルシステムの売り込みを図っている。
日本との「10.3共同声明」は、南朝鮮との「10.2共同声明」とリンクさせたものである。
「10.3共同声明」では、「より強固な同盟とより増大された責任の分担に向かって」と前置きをして、日本と米国とが直面している5つの「危険要因」を列挙している。
「北朝鮮の核及びミサイルプログラム」「北朝鮮に対する人道主義的関心」「海洋領土における強制的で不安定な行動」「宇宙およびサイバー空間で起こっている破壊行動、大量破壊兵器の拡散」「人為的にまたは自然に発生する災難」のことである。
「海洋領土」における不安定行動とは、中国の釣魚島への軍事行動を意味しているのだが、それ以外の4つのすべては共和国のことを指している。
つまり、日米ともに「危険要因」の優先順位を、共和国を第1とし、中国を第2としたことがこの共同声明から分かってきた。
さて、「危険要因」の第1に挙げた共和国に対処するために、共同声明では3者協力(日米韓)を高めていく努力が必要だとしている。
それで、強力な3者協力体制を構築するために、米軍司令官が日本の自衛隊と韓国軍を同時に指揮することができる、新たな作戦指揮体系を米国は必要としている。
それが、詐称「国連軍司令部」だというのである。
米国が「国連軍司令部」の名称にこだわっているのは、すでに使用していることと、「国連」の名称があるからである。
また、この「指令部」であれば、自衛隊と韓国軍を同時に指揮できる権限があると考えているからでもある。
さらに自衛隊の役割を拡大させて、集団的自衛権の行使を、日本の国内法に先行して認めている。
共同声明で「日本は国家安保会議を創設し、国家安保戦略を発表するために準備中」だとしたうえで、日本は集団的自衛権を行使する問題、防衛費を増加させる問題、国家防衛プログラム指針を検討する問題、領土主権を守護する能力を強化する問題、域内活動を拡大する問題、そしてアジア諸国を相手に能力を拡大する問題などの、安保の法的根拠を再検討中だとした。
そして「米国はそのような努力を歓迎し、日本と緊密に協力する」ことを強調している。
安倍政権が今国会で成立させようとしている安保関連法の教科書は、この「10.3共同声明」にあったことが分かる。
すでにして米国との間で約束(米国のお墨付き)していたことを、国内法制化しようとしているのだ。
何のことはない、米政権の対共和国戦略を日本は、軍事力と予算面から積極的にタッグマッチを組もうとしていたことになる。
そうした安倍政権の政治姿勢を絶対に許してはならない。
だから、日本が「右傾化」しているとばかりは言っておれない。
2013年10月30日 記
名田隆司
長期安定政権の現実に安心したのか、このところの安倍晋三首相の言動には、右翼っぽさがますます滲み出てきている。
特に今国会での成立を目指している「特定秘密保護」「国家安全保障会議」の両法案には、安倍氏の傲慢姿勢の現在が現れていて、不吉な予感を覚える。
安倍政権が、国家の安全保障政策の司令塔にしたいとしている「国家安全保障会議」は、いま以上に国家情報を独占し、隠匿し、コントロールしていこうとするもので、危険極まりないものである。
その中核となるのは、首相、外相、防衛相、官房長官らの4者会合(月に2回開くという)である。日本版NSC(米国のマネ)だと言われる所以だ。
この4者会合の事務局を担うのは、「国家安全保障局」(約60人、14年1月に発足予定)で、総括、戦略、情報、同盟国・友好国(米国など)、中国・北朝鮮、その他(中東など)の6班体制でスタートするようだ。
菅義偉官房長官は、「外国の情報機関から重要な情報を入手するには、特定秘密保護法案をセットで成立させる必要がある」と説明をし、秘密保護法案も今国会での成立を目指すという。
特定秘密の定義については、「漏えいがわが国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの」としている。
その範囲は、防衛、外交、特定有害活動(スパイなど)防止、テロ防止などの4分野で、閣僚ら行政機関の長が指定するのだとしている。
特定秘密を漏らした公務員や民間人には、最高10年から5年の懲役が科されることになっていて、厳しく対処することを目指している。
また、特定秘密と指定された情報が、今後、半永久的に公開されない恐れがあり、運用によっては、国民の知る権利を損ねる以上に、国民をコントロールしていく危険な武器となる可能性すらある。
同時期、安倍政権は集団的自衛権の行使を、容認していく方向で検討している。
首相の私的懇談会「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)では、日本は権利はあるが憲法上(集団的自衛権が)行使できないとの従来の立場から、自国の存立を維持する「自衛のための措置」と解釈をして、集団的自衛権を容認する方向へと開いていくことを検討している。
先の2法案と、安保法制懇が検討している集団的自衛権容認問題が重なっているのは、決して偶然のことではない。
安保法制懇は10月16日の会合で、米国を攻撃した国に武器を供給する船舶に対する強制検査(臨検)、日本への原油輸送に関わる海峡封鎖時の機雷除去など、自衛隊の活動内容の拡大事例を具体的に検討していた。
こうした集団的自衛権の範囲の検討は、東京で10月3日、日米安保協議委員会(10.3共同声明)で協議し、すでに合意していたものである。
「10.3共同声明」は、米軍主導で、日米韓安保会議の一環として開かれた。
第38回米韓軍事委員会(9月30日)、第45回米韓安保協議会(10月2日)、そして日米安保協議委員会(10月3日)と、米国を軸にして連続的に協議をした後、原子力空母「ジョージ・ワシントン」号を釜山港に入港(10月4日)させている。
つまり、9月30日から10月4日までソウル―東京―釜山を結んだ「安保協議」を、米国は連続して行っていたのだ。
この時期に、それぞれ非公開の安保協議を行った米国の意図は、どこにあったのだろうか。協議直後にソウル(10.2共同声明)と東京(10.3共同声明)で発表した、2つの「共同声明」をつなげて、少しのぞいてみよう。
「10.2共同声明」では、「両長官(国防)は停戦協定(朝鮮戦争)と国連軍司令部が、朝鮮半島の平和と安定を維持する上で必須的であるという点を確認した」としている。
この表現こそは、オバマ米政権の現在の心境を素直に表明していると言えるだろう。
どういうことかと言えば、米国は朝鮮戦争の停戦協定を今後とも維持し、かつ、「国連軍司令部」も解体する考えのないことを、共和国へのメッセージとしたのである。
このことは同時に、韓国軍に戦時作戦統帥権を返還(15年12月1日の予定)し、米韓連合司令部が解体された場合でも、「国連軍司令部」の名称による米軍を引き続き存続させる、ということのようである。
これが新戦略とはなんとも陳腐である。
だから共同声明では、「ミサイルの脅威に対する探知、防御、攪乱および破壊のための包括的な同盟のミサイル対応戦略を引き続き発展させていくことにした」と、「ミサイル脅威」を強調している。
ここで言っている「ミサイル脅威」とは、「北のミサイル体制」のことであって、決して60年にわたって核とミサイルで共和国に脅威を与え続けてきた米国、それ自身ではない。
共同声明で主張する「対北戦略」は、共和国のミサイル攻撃能力をミサイル防衛システムで弱化させたうえで、自陣の対北ミサイル攻撃能力を強化するとしている。
そのために、朴槿恵政権に対しては、対北ミサイル防衛システム「キー・チェーン」と、韓国型ミサイル防衛システムを早期に確保するよう、ミサイルシステムの売り込みを図っている。
日本との「10.3共同声明」は、南朝鮮との「10.2共同声明」とリンクさせたものである。
「10.3共同声明」では、「より強固な同盟とより増大された責任の分担に向かって」と前置きをして、日本と米国とが直面している5つの「危険要因」を列挙している。
「北朝鮮の核及びミサイルプログラム」「北朝鮮に対する人道主義的関心」「海洋領土における強制的で不安定な行動」「宇宙およびサイバー空間で起こっている破壊行動、大量破壊兵器の拡散」「人為的にまたは自然に発生する災難」のことである。
「海洋領土」における不安定行動とは、中国の釣魚島への軍事行動を意味しているのだが、それ以外の4つのすべては共和国のことを指している。
つまり、日米ともに「危険要因」の優先順位を、共和国を第1とし、中国を第2としたことがこの共同声明から分かってきた。
さて、「危険要因」の第1に挙げた共和国に対処するために、共同声明では3者協力(日米韓)を高めていく努力が必要だとしている。
それで、強力な3者協力体制を構築するために、米軍司令官が日本の自衛隊と韓国軍を同時に指揮することができる、新たな作戦指揮体系を米国は必要としている。
それが、詐称「国連軍司令部」だというのである。
米国が「国連軍司令部」の名称にこだわっているのは、すでに使用していることと、「国連」の名称があるからである。
また、この「指令部」であれば、自衛隊と韓国軍を同時に指揮できる権限があると考えているからでもある。
さらに自衛隊の役割を拡大させて、集団的自衛権の行使を、日本の国内法に先行して認めている。
共同声明で「日本は国家安保会議を創設し、国家安保戦略を発表するために準備中」だとしたうえで、日本は集団的自衛権を行使する問題、防衛費を増加させる問題、国家防衛プログラム指針を検討する問題、領土主権を守護する能力を強化する問題、域内活動を拡大する問題、そしてアジア諸国を相手に能力を拡大する問題などの、安保の法的根拠を再検討中だとした。
そして「米国はそのような努力を歓迎し、日本と緊密に協力する」ことを強調している。
安倍政権が今国会で成立させようとしている安保関連法の教科書は、この「10.3共同声明」にあったことが分かる。
すでにして米国との間で約束(米国のお墨付き)していたことを、国内法制化しようとしているのだ。
何のことはない、米政権の対共和国戦略を日本は、軍事力と予算面から積極的にタッグマッチを組もうとしていたことになる。
そうした安倍政権の政治姿勢を絶対に許してはならない。
だから、日本が「右傾化」しているとばかりは言っておれない。
2013年10月30日 記