fc2ブログ

「国連を動かしている朝鮮」

「国連を動かしている朝鮮」

1.
 国連総会一般討論演説に出席していた朝鮮の李容浩外相は9月23日、国連本部でグテレス事務総長と会談し、国連事務総長との対話と事務局との対話ルートの開設を打診した。
 グテレス氏は即答を避けつつも、好意的に受け止めていた。
 一方で、朝鮮半島を巡る緊張に懸念を示し、核・ミサイル開発などを禁じた決議の順守を求めた。
 トランプ米政権が、朝鮮との対話開設に反対の立場を国連に伝達したため、国連も朝鮮側の要求には直ちに応じにくかったのだろう。
 しかし、グテレス氏は代わりに、事務次長のフェルトマン政治局長(米国)を、平壌に派遣した。

2.
 朝鮮はまた、米国の核戦争演習を提訴する書簡を13日、国連事務総長に送った。
 書簡は、国際平和と安全維持を基本使命にしている国連安全保障理事会が、人類を残酷な災難に陥れようとする米国の核戦争演習にあくまでも背を向けるという、二重基準的な態度であると指摘。
 国際正義と公正さの見地から一連の問題点に対する国連事務総長の見解を明らかにすることを求め、以下、2点を質問した。
 第1に、米国が主権国家を目標に朝鮮半島周辺で年中絶え間なく行う核戦争演習が平和と安全の維持に関する国連憲章の目的に合致するのか。
 第2に、朝鮮と米国が法律的に停戦状態にある現状で、国連安保理が一方の交戦相手の核戦争挑発行為は無視し、それに対応したもう一方の交戦相手の自衛的措置は「脅威」であるとして問題視するのが国連憲章の主権平等の原則に合致するのか。
 以上、原則的な問題を突き付けた。
 国連及び事務総長は、誠実に応えなければならない。

                                                                 2017年12月19日 記
スポンサーサイト



「朝米『対話』の意味とは」

「朝米『対話』の意味とは」

1.朝鮮側の主張
 朝米とも、「対話」へのシグナルを出している。
 それにしては、対話への接近が試みられないのはなぜか。
 敵国同士で、不信感があるのは事実だろう。
 双方とも観測気球を打ち上げているのかもしれない。対話について朝鮮は以前から、米国の対朝鮮敵視政策と核の威嚇が続く限り、自衛的な核抑止力を協議のテーブルに乗せないと主張している。
 つまり、米国の敵視政策と核の威嚇中止が対話への前提条件であり、米国との対話への入り口は、朝鮮半島を超えた全世界の非核化を協議するとの態度を表明しているのだ。「肉を切らせて骨を切る」姿勢を貫いている。
 こうした姿勢は、ややICANが進めている核兵器禁止条約の立場に近い。
 だが、一方で、核戦力強化の道からはただの一歩も退かないとする「核抑止力」の立場にも立ち、米国の対朝鮮敵視政策が完全に破棄されない限りは、核抑止力に依拠するとの立場なのだ。
 
2.ティラーソン発言
 直ぐに訂正させられたとはいえ、ティラーソン米国務長官は、朝鮮と「前提条件なし」で対話する用意があると発表した。
 長官発言以前にも、サリバン米国務副長官は、「われわれの目標は圧力を通じて、北朝鮮が前提条件を付けずに協議に臨むようにすることである」(10月18日)と発言していた。
 こうした発言から、米国務省の主流派は、「対話」路線を探りながらも、朝鮮側が主張している前提条件について否定している立場であることがわかる。
 もっとも、トランプ政権の対朝鮮対応からするなら、朝鮮との「対話」とか「前提条件」なしとの主張が出ていること自体、驚きとして聞こえる。
 ホワイトハウスのメンバーは、朝鮮との「対話条件」、「前提条件」と言うとき、それはすべては朝鮮側にあり、朝鮮が是正すべきであるとの態度に終始している。こうした態度は、自らのいっさいの罪は認めず、相手側の現実の言動にだけクレームを付けるものだ。
 現実の朝鮮半島に絶えず緊張激化の状態が作られるのは、朝鮮との敵国関係が解消されていないためであるとの歴史理解が米国側に少しあれば、現状より違った局面が展開されたであろう。
 休戦協定締結、朝鮮への敵視政策の解消、さらには核兵器による威嚇の即中止。米国がこの前提条件を解消してこそ、朝米対話へのステップにつながる。この3条件こそ、朝鮮半島が緊張状態に陥る原因となっているからである。
 中露両国は、朝鮮から米国が主張する「前提条件」の内容を聞き、理解したうえで「米韓合同軍事演習と同時に朝鮮の核政策の一時中止」を前提条件に朝米に対話への道を提示したと思われる。

3.米国の対応
 アジア歴訪中のトランプ氏は7日、韓国の文在寅大統領との首脳会談で、朝鮮の「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」が、朝鮮半島の平和構築につながるとの認識で一致したと発表した。
 これは、米国の一方的な認識である。
 少なくとも、米軍が南朝鮮に配備している各種戦術核の検証がない限り、「朝鮮半島の平和構築」は、米国の一方的な演技でしかない。彼らは常に、「朝鮮半島の非核化」を「朝鮮の非核化」と言い換えている。
 つまり、米国は朝鮮半島の非核化ではなく、朝鮮の非核化で対話を要求しているのだ。
 90年代半ばと現在とでは、情勢が大きく変化していることを、米国が一番よく知っているのではないか。そのことの整理ができず、対応が遅れて、右往左往している。
 これが米国の現状だろう。

                                                                 2017年12月19日 記

「拉致問題の解決へ」

「拉致問題の解決へ」

 最近、拉致被害者家族の2人が、相次いで亡くなられた。
 残りの方もみな高齢で、わが身のことと悲しんだことであろう。
 拉致問題は何程も進展がなく、これほど長い期間、解決に向かっていないことに、彼らは不信感を高めているだろう。
 それが不誠実で非協力的な朝鮮のためだと安倍政権から何度も吹き込まれ、信じ込まされてきた家族会の人たち。
 家族会側は、拉致被害者の「帰国」問題を、直接交渉できない以上、解決を早めるには政府に頼るしか方法がない。つい、政府側の説明を信じてしまう。
 安倍晋三首相は「拉致問題の解決なくして、日朝国交正常化はない」、「安倍政権で解決する」などと大見栄を張っている。このようなパフォーマンスは、政権運営のための人気取りであって、拉致問題の政治利用である。
 唯一、解決への道に近づいたのは、「ストックホルム合意」である。
 この合意によって解決へ進むかと思われていたが、日本は合意違反を繰り返した。日本側の不実な態度に、朝鮮は「拉致問題は解決した」と交渉すら打ち切った。助かったのは安倍政権だったかもしれない。
 安倍政権がここまで問題解決を長引かせてきたのは、「拉致問題」を利用して、朝鮮に対して様々な言い掛かりをつける口実を残しておくためで、対朝鮮圧力体制の維持に活用している。
 さらに、国連や米国、各国に対して拉致問題を「人権問題」だと、同情を買う外交を展開していることも、一生懸命に取り組んでいる政権の姿勢をアピールすることに利用している。
 問題の解決には、どのような場面でも朝鮮との協議を進めるしかない。
 朝鮮の「拉致問題は解決した」との姿勢にも、その責任は日本側にある。
 そろそろ、家族会側も安倍政権に対して不信感を抱いてもいいころだ。(遅いくらいだが)
 拉致問題の解決には、まずは安倍政権の姿勢を正すしかないのだ。

                                                                 2017年12月16日 記

「安保理に朝鮮が出席」

「安保理に朝鮮が出席」

1.
 核・ミサイル開発を進める朝鮮に関する問題(制裁・圧力強化)を協議する国連安全保障理事会(議長/日本・河野太郎外相)が15日(日本時間16日未明)、閣僚級会合を開催した。
 この時期の開催に拘ったのは日本で、議長国としての日本の任期が12月末で終わるため、米国と協議して朝鮮へのさらなる圧力強化に国際社会の足並みを揃えようとした。
 「朝鮮問題」と言うが、決して「問題」解決への姿勢ではない。
 この日の発言内容で注目されたのは、米国のティラーソン国務長官と朝鮮の慈成男(チャン・ソンナム)国連大使である。
 
2.
 3日前(12日)、ティラーソン氏は、「北朝鮮といつでも前提条件なしに対話を始める用意がある」と発言し、朝鮮のハードルを下げるメッセージを送っていた。
 15日の閣僚級会合では、朝鮮との直接対話は「北朝鮮による軍事行動の『継続的な中断』がなければ始めることはできない」と「圧力路線」への軌道修正発言をした。
 また、対話開始のために、米韓合同軍事演習の停止や制裁の一部解除、人道支援再開などの条件を受け入れることはないなどと、強硬姿勢を主張した。
 トランプ米大統領との調整をした意見だろう。
 ところで、安保理に朝鮮が自ら出席して意見表明することは、極めて「異例」(めずらしい)と言われている。
 出席することを決意した理由には、①米国の動向を直接確かめようとしたこと(ティラーソン氏の「前提条件なしの対話」発言の行方)、②国連が「対話」に向けて動いている環境、③実際の中ロの対応、④安保理内の変化―などが挙げられるだろう。
 予測していたとはいえ、朝鮮の慈成男氏はティラーソン氏の発言を聞いて、米国に改めて不信感を持っただろう。米国とは、いまだ「対話の時期ではない」と判断したのではないか。そのうえで従来からの原則論、対話を否定せず、あくまで自衛目的の核・ミサイルについては一切、取引はしないとの立場を表明したのだろう。
 ティラーソン氏の「前提条件なし」の発言からは、結局、対話には朝鮮の核・ミサイル開発の一時的な凍結が前提条件となっていることがわかる。「対話」への環境がいっそう厳しくなったことは事実だろう。

3.
 安保理は一枚岩ではない。
 以前のように、米国の強引さが通じる環境ではない。
 今回の閣僚級会合でも、朝鮮への「制裁圧力」強化を主張していたのは日米2国だけで、中ロ両国は反対している。ここまでの構図は、従来と変わりない。
 国連が対話開始のための準備に着手したことについて、日本の河野外相は、「核・ミサイル開発計画を放棄する気がまったくないという恐ろしい現実が再確認されただけだった」と、評価しなかった。
 安保理メンバーの中でも温度差があった。「とても有益だ」(エチオピア)、「歓迎する」(スウェーデン)などと評価する国もあった。
 こうした現象は、国際社会の中で、核兵器禁止条約や非核化に向けた対話開始のための準備を、国連がはじめたことが影響しているのだろう。
 議長を務めた河野外相は、「北朝鮮の核武装、核開発は容認しないという明確なメッセージを出すことができた」と、非核化達成まで朝鮮に圧力をかけ続けるべきだと、会合を強引に総括した。
 日本政府の強硬姿勢が目立った会合となったが、それはまた、日本が危険な坂道を転がり落ちる前兆を示していると言える。

                                                                 2017年12月17日 記

「国連は『朝鮮問題』の仲裁者たり得るか」

「国連は『朝鮮問題』の仲裁者たり得るか」

1.ティラーソン米国務長官の発言
 12月14日の各紙が、驚くべき情報を伝えた。
 ティラーソン米国務長官が12日のワシントン市内で行った講演で、「米国はいつでも前提条件なしに(朝鮮と)対話を始める用意がある」、「核計画の放棄を事前に示さなければ対話の席につかないという考えは現実的ではない」、「天気の話から始めてもよい」などと柔軟な姿勢を見せて、朝鮮に対話をよびかけたのである。
 トランプ大統領も同様の考えだと説明した。
 対話開始には、「静かな期間が必要」だと強調し、対話中を含め、朝鮮が一定期間は核・ミサイル実験を停止する必要があるとの考えも示した。
 だが、朝鮮側の条件だけを示しただけで、米国自身の条件、例えば既に中露両国が主張している合同軍事演習の中止問題などには一切触れていない。
 あくまでも米国目線による対話提案でしかないことが判る。
 それでも、トランプ政権が対朝鮮政策を転換したのではないかと思わせる衝撃的な発言であった。ところが、トランプ氏が同日、「さらなる圧力が必要だ」とツイートしたことから、その舞台裏がすぐに暴露されてしまった。
 10日にも同様のことがあった。
 ティラーソン氏が朝鮮との外交交渉を進める考えを示した直後に、トランプ氏はツイッターに「時間の無駄だ」と投稿した。
 サンダース大統領報道官は声明で、「大統領の北朝鮮に対する見方には変化がない」との見解を示し、厳しい対応で臨む考えを改めて強調した。
 一瞬、相手の出方を試すために、政権内で掛け合い戦術を行っているのかと思った。
 だが、そうではあるまい。対朝鮮政策について、国務省内で統一されていない状況が露呈したまでである。 
 それ以上に、ホワイトハウス中枢部が不統一のため、意見一致の政策が出せないことが、よりはっきりとしたまでであろう。
 トランプ政権は、政権発足直後から一貫して朝鮮に対する認識、理解、情報が不十分な上、担当人員が不足したままで推移してきたから、朝鮮情勢への分析や整理ができていない。勢い、自己流、自己本意のままで動いてきた。
 また、トランプ氏自身の政治的技量にも問題がある中で、ロシア疑惑など政権内部のスキャンダルにさらされている。
 それやこれやで、統一した朝鮮政策を発信する能力を持ち合わせていない。
 その政権内混乱が、そのまま表現されたのが、今回の「ティラーソン発言」問題だと言えそうだ。確かなのは、米国もまた対朝鮮問題で、対話への着地点を探っている状態だということだ。

2.米中首脳会談の結果
 一方でティラーソン氏は、中国と、朝鮮の「暴発」を見越して朝鮮半島有事に備える詳細な危機対応策を協議し、詰めていることを明らかにした。
 「米軍が休戦ラインの38度線を越え、北朝鮮に侵攻する場合、いずれ韓国側に撤退する」、「米軍は朝鮮国境を越えて東北地方には侵攻しない」などを確約したほか、朝鮮が数10発保有すると見られる核兵器の確保手段についても、「中国とすでに話し合った」としている。
 10月の米中首脳会談時、確認し合ったことを言っているのだろう。
 朝鮮に対してトランプ氏が「最高の圧力をかけていく」と表明していることと言い、中国の習近平氏が朝鮮半島有事があり得る可能性を否定していない点で、米中首脳の2人は同床異夢で朝鮮半島情勢を見ている。
 中国にとっては、朝鮮そのものより東北地方の安全保障の方が重要で、気にかかる。
 中国は50年代の朝鮮戦争の際、大量の志願兵を投入した。米軍を東北地方に引き入れないためであった。
 東北地方の後方、台湾海峡を挟んで国民党軍と対峙しているときに、米国を引き寄せることは、中国にとっては最大の危機であったからだ。当時の毛沢東はそのことを一番恐れた。
 朝鮮北部一帯は山岳地帯で複雑な地形であった。その地形に明るい東北軍区の部隊(多数の在中朝鮮人を投入)は、米韓軍を一気に敗走させた。
 その後も中国は、米軍と「台湾軍」が手を結び、中国東北地方に越境してくる可能性の「悪夢」を検証している。
 悪夢が正夢になるとすれば、唯一それは朝鮮半島有事でしかない。
 米軍が東北地方に侵入する通路は、北部朝鮮しかないからである。
 米中協議の表現は、習近平氏の本音だったろう。
 朝鮮にとっては、「穏やか」ではない事柄だ。
 
3.国連事務次長の訪朝
 フェルトマン国連事務次長(政治局長)は5~9日、朝鮮を訪問した。
 国連側は朝鮮との間で、「国連憲章に基づいて朝鮮半島の緊張緩和に貢献する意思」を示し、「様々なレベルでの往来を通じた意思疎通」を定例化することで合意したと発表した。
 朝鮮半島の政治的軍事的緊張関係を緩和するために、国連が仲裁しようとする意思を公にしたことは、これまでの6者協議枠に比べて有効と考え、評価したい。
 しかし、ここ1~2年の緊張緩和が目的では、本質を見失っている。
 国連には本来、朝鮮戦争時の責任がある。(以下の事柄)
 ①早々と朝鮮人民軍を「侵略軍」と決めつけたこと
 ②米軍が「国連軍司令部」を名乗ったことを黙認したこと
 ③「国連軍」16カ国の参戦を許したこと
 ④米軍機が投下した生物兵器を調査しなかったこと
 ⑤米軍が一般人に散布した化学兵器を黙認したこと
 ⑥未だに米国が朝米平和協定に移行しないことに何ら勧告しないこと
 ⑦核兵器や最新鋭兵器の南朝鮮導入等、休戦協定違反を何ら咎めないこと
 ⑧米国の朝鮮への核脅威政策を安保理に提起できないでいること
 ―以上は一部であるが、米国の一方的な情報のみで判断し、決断を下してきた国連の姿勢には重大な責任がある。
 それはまた、激化する今日の朝鮮半島情勢に繋がっているのだ。
 朝鮮との対話、朝米対話の接点を探っていくというのであれば、朝米関係の原点である、朝鮮戦争の解消を一日も早く実現できるアプローチに向けて努力していくべきであろう。

4.朝鮮側の主張
 国連のフェルトマン事務次長は在朝中、主として李容浩外相らと会談した。
 李外相は核保有問題に関して、冷戦期の米ソ対立に言及し、(核脅迫を加える)米国に対抗する自衛の「抑止力」として、核兵器を保有する必要があることを力説したという。
 これに対してフェルトマン氏は、「紛争を制御するため互いの考えを伝える手段」が、米ソ間でも存在したことを伝え、「対話」も抑止力の一部になることを伝えたと語った。
 たしかに、冷戦期の米ソ間には、政治や核問題で対立する一方、文化や宗教(キリスト教)というツールを維持していた。(しかし、そのことがソ連とともに東欧社会主義社会の崩壊となっている)
 朝鮮と米国などが主張する「対話」問題の認識にも、大きな開きがある。
 だからといって、現在の朝米関係のまま、核対立の緊張感を膨らませていけば、いずれ弾けてしまうことは誰にでも理解できる。
 チキンレースではないのだ。核のチキンレースなど、人間の尊厳を無視した行為だ。
 その意味で、朝米どちらも原則論に拘らず、ティラーソン氏が提示したように、「お天気」話の入り口からの「対話」を行うことが、重要なステップの入り口になるかもしれない。
 
5.国連事務総長の訪日
 国連のグテーレス事務総長が14日、日本を訪問し、首相官邸で安倍晋三首相と朝鮮問題を中心に協議した。
 首相は共同記者発表で、「朝鮮半島の非核化に向けた意味ある対話でなければならないとの認識を共有した」と述べ、安易な対話を牽制した。ティラーソン氏の発言が念頭にあったのか、トランプ氏の代弁になっている。
 安倍氏が主張する「意味ある」対話とは、どのような内容なのか不明であり、疑問でもある。さらに15日の国連安保理の閣僚級会合に触れ、「圧力強化に資する力強いメッセージを共に発信したい」と、圧力一点張りの姿勢を崩していない。
 一方、グテーレス氏は安保理決議に基づく朝鮮制裁を各国が完全履行する必要性を強調した。安倍氏の制裁発言に引きづられたのか、それともグテーレス氏の本音なのか、朝鮮制裁論の「正当性」を主張している。
 国連事務総長たる者、どうしたことなのか。
 しかも「制裁の履行が平和的な非核化のための外交努力にもつながる。それなくしては悪夢が起こるだろう」と述べたが、信じられない。
 まったく、トランプ氏の言葉を復唱しているようだ。これでは、国連の仲裁など考えられない。
 さらに、フェルトマン事務次長が朝鮮に、「朝鮮半島の緊張緩和に貢献する」と約束した言葉とは随分違った響きで聞こえる。
 国連事務総長の選出は、建前は立候補とはなっているものの、米国の強い後押しがなければ選出されない仕組みとなっている。
 前事務総長のバン・ギムン氏の場合、米国の強い支援によって決定した。
 その結果かどうかは判らないが、北に南北交流・会談をアプローチする際、朝鮮の先核放棄的発言を繰り返したため、会談さえ実現しなかった。
 グテーレス氏はどうか。朝鮮側の見る目は厳しい。これまでの事務総長とは違う、米国のコントロール下にはないところを示さなければならないだろう。

                                                                 2017年12月15日 記

「核なき世界へ」

「核なき世界へ」

1.
 ノルウェー・オスロ市庁舎で10日、核兵器を法的に禁じる核兵器禁止条約の国連採択に主導的役割を果たした国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)に、ノーベル平和賞を与える授賞式があった。
 ICANと共に活動してきたカナダ在住のサーロー・節子(被爆者)さんは、授賞式の演説で、「人類と核兵器は共存できない。核兵器は必要悪ではなく絶対悪だ。私たち被爆者は72年にわたり、核兵器の禁止を待ち望んできた。これ(条約の採択)を核兵器の終わりのはじまりにしよう」と訴えた。
 核兵器は「必要悪」なのではなく、「絶対悪」だとの言葉に強い勇気をもらった。賛同する。
 核兵器禁止条約は、核兵器に「絶対悪」の烙印を押し、核の保有・製造・使用・脅威など、核を兵器として使用するほか、核そのものが人類にとって「悪」の存在だとして、非合法化している。
 
2.
 核を持つ国と持たない国の関係で成り立っている核不拡散条約(NPT)を主導してきた核保有5カ国(米・露・英・仏・中)は、かたくなに条約の成立を拒んでいる。
 5大国は、国連機構を含め国際社会を支配してきたという意識から脱皮できず、条約成立を妨害してきた。(不当な経済援助を押し付けて)
 NPTは、核を持つ国は核軍縮を実施し、持たない国は厳しい査察を受け入れることを条件とした、「核不拡散と軍縮」の取引という関係で成立している。つまり、核抑止の世界である。
 現在、世界にある約2万発以上の核兵器の95パーセント余は米国とロシア両国に存在する。これは、米ソ冷戦時代の負の遺産である。
 国際社会は、負の遺産除去を要求している。
 同時に冷戦思考の安全保障からの脱却の必要性、重要性が要求されている。
 しかし、米露の政治的対立が深刻化し、長引いて、核兵器への依存思考から抜け出せず、核削減・軍縮義務へのロード・マップは何も示せず、進んでいない。
 この現実をNPT体制だけでは対処(核の脅威)できないと考え、NPTを補完し、核抑止論を前提とする幾つかのグローバルな条約や制度を成立させた。
 核実験を禁止する「包括的核実験禁止条約」(CTBT)の発効、「戦略兵器制限条約」(SALT)、戦略兵器削減条約(START)、核兵器の原料の生産を禁止する「兵器用核分裂性物質生産禁止条約」(FMCT)など、分野別の核管理措置も、残念ながら交渉は進まず、実現には至っていない。
 トランプ米現政権が、絶え間なく朝鮮半島周辺上空で、核搭載可能なB52戦略爆撃機の訓練(朝鮮への軍事圧力及び核脅威)を行っているのは、NPT体制違反と同時に、核管理の在り方の不備もついている。
 さらに問題なのは、航空自衛隊が共同訓練(演習)に参加していることである。
 これはNPTが定める「核脅威」「核攻撃」に違反している。
 被爆国を売りにしている日本が、核兵器の使用を前提とする共同演習を繰り返し行うことは最悪で、被爆者への裏切り行為である。
 被爆者にとっては、「最悪の悪夢」のはずだ。

3.
 安倍政権は常に、核実験や弾道ミサイルの発射を繰り返す朝鮮を理由として、「現実の脅威に真正面から取り組んでいく必要がある」などとして、日米同盟に基づく米軍の「核の傘」は欠かせない、との立場を取り続けている。
 もっとも、従来から日本政府は、(北朝鮮を念頭に)、生物・化学兵器や通常兵器など核以外の脅威に対して、核兵器で抑止することが必要であるとの立場をとってきた。
 安倍政権下では、国会の答弁などで、
 ①核の先制使用のオプションは残しておきたい
 ②核の役割限定にも不賛成
 ―との立場を取り続けている。
 その根底には、核・生物・化学・通常兵器など幅広い脅威に対して、核使用(先制攻撃も)可能との考えをもっているからだ。
 核使用肯定論者である。
 「唯一の被爆国」だと表現していることとは、大いに矛盾する立場だ。
 一方、河野太郎外相は「アプローチは違っても、核廃絶というゴールは共有しているので、それぞれの立場で果たすべき役割をしっかりやっていくことが大事だ」と、いささか苦しいメッセージを出している。
 日本政府と関連機関は、「朝鮮」の名前を使って、現実の「脅威」だと主張して、米国の核政策に依存し追従している。
 米軍の「核の傘」を冠ったまま、取り除く努力もしないで核廃絶決議案を国連に提出し続ける行為は、核兵器信奉姿勢を隠すためのパフォーマンスでしかない。
 11月、被爆者と面会したローマ法王フランシスコは、「核兵器の保有だけでも断固として非難されるべきだ」と、核兵器の保有と核の傘を批判した。また、すでに、北大西洋条約機構(NATO)に加盟しているイタリアやノルウェーでは、条約に向けた動きが出始めてていることを考える時、かたくなに核抑止論、核の傘論など核兵器信奉側に拘っていること自体、すでに時代遅れなのだ。

                                                                 2017年12月12日 記

「防衛装備品増大の怪」

「防衛装備品増大の怪」

1.
 防衛省は来年度当初予算案に、関連経費約22億円を決めた。
 19日に閣議決定する。
 18年の防衛費予算案は過去最大の5兆1500億円前後にある。
 弾道ミサイル防衛(BMD)システム整備費導入のためである。
 (北朝鮮)の弾道ミサイル発射に対応するためだとして、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」は、これまで1基800億円程度と見積もられていたものが、今回、1000億円程度になることを示し、19年度以降に2基設置するとして、計2000億円超えが上乗せされた。
 イージス・アショアは、オバマ政権が2009年、欧州ミサイル防衛計画を発表して、具体化した。
 計画では、イージス艦の運用を中心としており、イージス艦システムを陸上に運用するのが、イージス・アショアだ。
 ところで、米国から購入する軍事装備品はどれも、当初見積もり予算から大幅アップしているのはなぜなのか。
 大型防衛装備品は、商社を通さず日米両政府間で取引する「有償軍事援助」(FMS)を導入しているからである。
 FMS取引では、価格や納入期日などは米国政府が一方的に決定し、クレームや返品なども受け付けないもの。米国(米産軍体制)に有利な「奴隷的」取引である。
 日本は、米産軍体制側が一方的に押し付けてくる軍需装備を購入してきたため、毎年、防衛省関連予算が増大し続けている。
 防衛省が来年度予算案に、長距離巡航ミサイルの導入を決めたのも、日本の防衛に必要だからではなく、米産軍体制側の意向を受けれてのものだろう。
 だとしたら、日本の政治的主体性はおろか、防衛ラインを超えた装備品を「防衛」との名の下に購入決定していることになる。
 防衛省は8月、イージス・アショアの導入を内定している。
 今後10年程度の防衛力の在り方を示す「防衛計画の大綱」(防衛大綱)と5年毎の装備品の購入を定めた「中期防衛力整備計画」(中期防)のいずれも、イージス・アショア導入は記載がない装備品となっている。
 今回の導入で、金額を示さずに導入を決定したことと、導入への対応が早急に進んできたことは、武器輸出に熱心な米トランプ政権からの、直接的圧力があっただろうことが、十分に疑われる。
 
2.
 今回、航空自衛隊の戦闘機に搭載する米国製ミサイルは射程900キロ。
 900キロは日本海から発射すれば朝鮮全域に届く距離。
 専守防衛を旨とする自衛隊にとって、これほどの長距離がはたして、イージス艦防護や離島防衛に不可欠なのであろうか。そうは思えない。
 こうした長距離巡航ミサイルの導入は、すでに専守防衛の枠を超えているだろう。
 にもかかわらず、最新鋭のミサイルシステムを導入し、構築していることは、日米両政権とも、専守防衛ラインを踏み越えていこうとしていることを意味している。
 さらなる巨額な兵器購入のために。
 米産軍体制に奉仕するために。
 そうした意味からも安倍政権とトランプ政権は、同床異夢の危険な道へ進んでいる。
 年明けの通常国会では、そうした安倍政権の姿勢を徹底的に追及していく必要がある。
 野党の出番である。野党の真価が問われている。

                                                                 2017年12月13日 記

「朝鮮の声が聴こえるか」

「朝鮮の声が聴こえるか」

1.不合理なNPT体制
 朝鮮の核とミサイル開発を突然、「国難」だと言って、第48回衆議院選挙を強行した安倍晋三首相。
 「国際社会全体で北朝鮮に対して最大限の圧力をかけなければならない」などと、朝鮮への圧力と制裁を国内や国連総会で語った。
 また、アジア各国首脳との会談でも、トランプ米大統領と共に、朝鮮への国際的圧力と制裁だけを強調した。
 日米両国は制裁論で一致、強硬発言だけを続けている。
 一方で中国の習近平政権は、中米・日中首脳会談で「対話」での解決を主張した。
 朝鮮の核問題の中国の立場は、朝鮮の核実験には反対で、朝鮮の核問題の根本解決には、朝米会談が必要だとするものである。
 現在、朝鮮との「対話」解決を主張しているのは中国のほか、ロシアと南朝鮮(文在寅政権)である。また、フランス、ドイツなどもそうである。
 ただ、中露韓3カ国が主張している「対話」要件は、核不拡散条約(NPT)体制の枠内にとどまっている。
 NPT体制は、米国、英国、仏国、ロシア、中国の5カ国だけが「核兵器国」という公認の地位を持つとするものである。
 後に、NPT外で核兵器を持ったインド、パキスタン、イスラエルの3カ国は、「事実上の核保有国」として非公認扱いとした。
 一方、朝鮮の核保有については、米国はまだ認めず、「非公認」扱いもしていない。中国とロシア両国は、「非公認」扱いとして、朝鮮に非核化を求めている。
 つまり、核5大国をはじめ、米国の核の傘にいる国々は、NPT体制を堅持することで、核の拡散を防ごうとしているのだ。
 NPT体制では一時期、米露間で、核削減交渉が進められたこともあったが、全体としては現状維持のままである。
 朝鮮側が米国に核対話を要求しているのは、この不合理なNPT体制を崩壊させることによって、世界の非核化を実現したいからである。
 米国が朝鮮との対話を拒否しているのは、対話のテーブルに着くことそのものが、朝鮮の核保有を認めてしまうことになるからである。
 トランプ政権が主張している「対話」とは、朝鮮が要求する対話内容よりはるか手前、朝鮮が核政策を放棄することのみ指している。
 
2.2つの凍結案
 朝鮮は7月4日、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を行った。
 モスクワでは同じ日に、ロシア大統領プーチンと中国国家主席習近平が首脳会談を開いていた。
 中露の善隣友好協力条約を確認するとともに、朝鮮問題解決についても一致した。
 ICBMの発射を受け、日米韓は、公開での国連安保理の緊急会合を要求。
 7月の議長国・中国が受け入れて、5日に緊急会合が開かれた。
 ロシアの国連次席大使サフロンコフは、モスクワから伝えられた内容に沿い、主張を展開した。
 すなわち、中国が以前から主張していた「2つの凍結」案、米韓による大規模合同軍事演習と、朝鮮による核実験と弾道ミサイル発射の停止をまず実施すること。
 その上でさらに軍事的緊張のない静かな環境の中で、武力行使、平和的共存、非核化への具体的な協議へと進めることを提案した。
 中国が提案する朝鮮半島の軍事的緊張感を高めている「2つの凍結」案は、現実的な解決への入り口に見えるものの、米国による朝鮮への核恫喝や南朝鮮への核兵器持ち込みなどについてまったく触れていない点で、朝鮮半島非核化への入り口にもならず、朝鮮にとって不満がある内容だろう。

3.朝鮮の主張
 第72回国連総会第1委員会(軍縮、国際社会)で国連朝鮮代表は10月6日、核問題に対する朝鮮側の原則的な立場を演説した。
 「共和国は核兵器の全面禁止を目的とする条約の目的と趣旨に共感するが、われわれを核で威嚇恐喝する米国が条約を拒否する状況の下で加盟することはできない」
 「米国はわれわれの自衛的な国防力強化措置を『威嚇』と『挑発』として言い掛かりをつけて、国連安保理で複数の反共和国『制裁決議』を作り上げることによって、この問題を朝鮮対国連間の問題のように変身させた」
 「朝鮮半島の核問題は徹頭徹尾、米国のため生じた問題で、米国のため、こんにちの域へ広がった問題であり、その全責任も米国にある問題である」
 「米国の敵視政策と核威嚇が根源的に一掃されない限り、われわれはいかなる場合にも核と弾道ロケットを協商のテーブルに乗せず、われわれが選択した核戦力強化の道からたった一寸も退かないであろう」
 以上、朝鮮半島の核問題とは、米国の朝鮮敵視政策と核威嚇であり、それを除去することがテーマにない「対話」には参加しないというのが、朝鮮の立場であることを鮮明にした。
 もっとも、昨年後半頃、一時的に「2つの停止」案については、朝鮮は米国に提案していた。トランプ政権が最大の合同軍事演習を準備していることを知り、原則的立場を固守するようになった。
 朝鮮の平和擁護委員会と全民族非常対策委員会は10月30日、共同発表で「2つの停止」プランを完全に否定した。
 「・・・一部の国が正義のわれわれの核と侵略的な米国の核を同一線上に置いていわゆる『双方(同時)中断』を主張しているのは、朝鮮半島核問題の本質と因果関係、自衛の核と暴悪の核を見分けられない無責任な行為である」と主張した。
 米国との「対話」を全否定したわけではなく、対話の入口と内容、テーマのレベルを上げたのだ。

4.朝鮮の最終目標とは

 朝鮮は10月16日、国連総会第1委員会(軍縮)で、自国の立場を一層明確に表明した。
 「米国による敵視政策と核の脅威が完全に根絶されなければ、核兵器や弾道ミサイルを交渉のテーブルに置くことはない」とし、「米国の軍事行動に加わらない限り、核兵器を使ったり、使うと脅したりするつもりはない」と、(日本など米国の)同盟国をけん制した。
 さらに、国際会議出席のためにモスクワを訪問していた朝鮮外務省の崔善姫北米局長は22日、モスクワで記者団に「米国との力の均衡を得ることが我々の最終目標だ」と協調。
 米国との対話への朝鮮側の「最終目標」を示唆したのだ。
 米国が模索する対話については、「最大の圧迫を加えて、我々が核を手放すように強要している」と批判し、「このような対話には応じる必要性を感じない」と断言した。
 では、朝鮮が「最終目標」と考えている「目標」とは具体的に何か。
 核弾道を搭載したICBMを米東海岸に到達させる能力を持つことを考えているのではないか。
 米中枢部への反撃能力を保有することによって、米国とは核抑止力で対等となり、対等な立場で朝鮮半島から全世界の非核化議論ができると考えている。
 「労働新聞」は10月28日の論評で、「国家核戦力の建設は既に、最終完成のための目標が全て達成された段階にある」と主張し、「最終目標」が近いことを示唆していた。
 さらに朝鮮の韓大成駐ジュネーブ国際機関代表部大使は11月17日、ロイター通信のインタビューに対して、中国が提案している「2つの凍結」案について、「米韓側が受け入れたら、我々も将来どうするか考える」と述べた。
 これは、「2つの凍結」案を拒否する方針に変化はないものの、「最終目標」に近づいているとの、シグナルだったのかもしれない。
 朝鮮は、米国などが制裁の遂行目的で抑圧するあらゆる試みや行為を、「攻撃行為」であり、「戦争行為」だととらえている。
 米国などが制裁などと言って朝鮮に抑圧をかければかけるほど、朝鮮の立場とすれば「核防衛」「核抑止」に頼ることになる。
 そのような朝鮮を米国は国際社会の「脅威」だ「挑発」だと批判して、圧力を加えてきた。
 結局、米国が恐れているのは、NPT体制の崩壊であろう。核保有国となってしまった朝鮮との対話は、朝鮮の核保有を公然と認めることになる。さりとて時間をかければかけるほど、朝鮮の核は国際公認となってしまう。核ジレンマを抱えているのは米国なのである。
 または、米国のみに向けられた朝鮮の核保有は、国際社会が核の「常識」としているNPT体制に対する朝鮮の挑戦だと言えるかもしれない。

5.
 今年7月7日、122カ国の賛成票を得て、「核兵器禁止条約」が国連で採択された。
 ノルウェー・ノーベル賞委員会は10月6日、条約の成立に努力してきた核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)に、ノーベル平和賞を授与すると発表した。
 条約の第1条では、締約国は、「いかなる場合も」次のことを行わないとしている。
 核兵器の開発、実験、生産、製造、取得、保有、貯蔵、核兵器やその管理の移譲、核兵器の使用、使用の威嚇、使用行為の援助、奨励、勧誘、自国内への配置、設置、配備など。全面的に禁止している。
 条約は核兵器の禁止を厳格にした。
 これまで、包括的核実験禁止条約(CTBT)では、核爆発を伴う実験に限定して禁止していた。
 また国際司法裁判所の勧告的意見(1996年)は、核兵器の使用・威嚇は「一般的に国際法違反」だとした。
 60年代以降、朝鮮に対して核兵器使用の威嚇を続けてきた米国は、これに違反している。
 また、「国家の存亡に関わる自衛の極限的な状況」では、核保有が合法か違法かは判断できないとしている。国家の自衛権を優先したのである。
 朝鮮の自衛のための核保有は、これにあたる。
 だが、核兵器禁止条約は、すべての例外規定のない完全な核兵器禁止を求め、定めている。
 ということは、朝鮮の自衛の核もまた、禁止ということになる。
 しかし条約の第2~4条で、核武装国が将来、核兵器禁止条約に加入することができるとしている。
 その場合、核兵器を保有しているかどうかを申告し、国際機関が廃棄を検証し、締約国は定期報告の義務を負うことになる。
 これは、朝鮮が主張する南朝鮮の核兵器配備撤去、 米国の核兵器全廃要求と合致している。
 朝鮮が主張している世界の核兵器全廃要求は、核兵器禁止条約の基本精神と通底しているのだ。
 国際社会はこれまで、核兵器による戦争抑止効果に依存してきた。
 果たして、この核抑止力は、戦争防止に貢献してきたのであろうか。むしろ逆に、人々に核戦争へのリスクや恐怖心を植え付けてきただけではなかったのか。
 核抑止論は、核保有国家特有の強者の論理であって、NPT体制は世界を支配しようとするものであった。
 だが、核兵器禁止条約の登場によって、NPT体制はもはや旧制度となっていく。
 朝鮮は、このNPT体制を崩壊させることに挑戦しているのだ。
 NPT体制の一番の受益国家・米国のトランプ政権は、朝鮮が掲げる「最終目標」の内容と意味を知り、恐怖心を持ち、朝鮮への国際的圧力を強め、大騒ぎを演じているのである。

                                                                 2017年11月18日 記

「トランプ氏のアジア歴訪の影」

「トランプ氏のアジア歴訪の影」

1.武器セールスマン
 トランプ米大統領は11月5日からのアジア歴訪中、特に日本、韓国、中国の3か国で、何を語ったのか。
 トランプ政権が現在、最も気にかけているのは朝鮮の核問題と貿易関係(2国間取引)である。 双方ともアジア地域に集中している。その難問の答えを引き出す目的で、日韓中にやってきた。
 斜陽の帝国主義国家とはいえ、いまだに米国は、政経軍のいずれも圧倒的な力量を保持し、各国に圧力をかけている。その米国の大統領、トランプ氏の最初のアジア歴訪とあって、各国とも国賓として、慎重で手厚い「おもてなし」で厚遇した。
 日本は天皇が高齢であり、体力を考慮してか、会食以外の儀礼的な行動をカットして、国賓に次ぐ「公式実務訪問賓客」者として招待した。
 そのかわり、安倍晋三首相は、首脳間の個人的信頼関係を必死に演出して、トランプ氏へのサービスに努めていた。
 韓国は国賓(特別に国会で演説)待遇で、中国は故宮博物院をトランプ氏のために開放、習近平主席自らが案内する厚遇。(マスコミ評では国賓級以上だという)
 3か国ともトランプ氏を厚遇したことになる。それに対してトランプ氏の態度は、日韓両国の訪問は玄関口にあたる首都圏の国際空港ではなく、米国にとって通用口(非常口)にあたる米軍基地から入った。
 日韓両国とは軍事同盟下にあるという意識だったのか、余りにも失礼な態度である。
 「国賓」として迎えられる品格に欠けたもので、まるで占領軍の最高司令官の振る舞いのようで、不愉快だ。
 中国へは、玄関口となる北京国際空港に到着した。
 日韓中3か国へのトランプ氏の対応は、各国と信頼を深めるというより、アジア諸国が一致して「北朝鮮」包囲網と圧力を強めることを説得する歴訪であった。
 そのために、朝鮮半島の緊張を演出している。アジア歴訪直前から、米原子力空母ロナルド・レーガン、セオドア・ルーズベルト、ニミッツの3空母打撃群を引き寄せ、朝鮮半島近海に展開させ、軍事演習を行った。
 3打撃群以外に、トランプ氏は原子力潜水艦を配置したとも明言しており、今回の演習に参加している可能性はある。艦載機は計150機前後を搭載。
 3打撃群は先制攻撃や局地戦などの際に最低限必要な戦力を保持しており、巡航ミサイルやステルス機で、防空施設を破壊した後、爆撃機などで重要拠点を攻撃することになっている。
 海上自衛隊は、護衛艦いなづまが3~6日、インド海軍の艦艇と米空母ロナルド・レーガンとの日米印3か国による日本海での共同訓練を実施。
 さらに10~26日、全国の部隊を動員して米海軍との「海上自衛隊演習」、カナダ海軍を加えた3か国での共同訓練を実施した。
 3空母打撃群は10日以降、韓国軍との合同軍事演習(米軍は日米韓3か国共同訓練を提案したが、韓国軍が否定)を実施するなど、強い米国の「軍事力」を見せつけた。
 その演出の先にあるのは、北朝鮮への圧力強化よりも、日韓両国に対して高額な武器購入を押し付けることであった。
 中国とは28兆円もの大型経済協力を約束させた。
 3空母打撃群を背景に、「北朝鮮脅威」を活用した、まさに武器商人トランプ氏の真骨頂が発揮されたといえる。

2.安倍晋三氏の卑屈な接待
 米軍基地という非常口から訪問したトランプ氏を、安倍晋三首相は「米国大統領」として丁重にもてなした。安倍氏は、「日米同盟の深化」、「北朝鮮に政策を変えさせるため、圧力を最大限に高める方針」、「自由で開かれたインド太平洋戦略の実現」などと、トランプ氏が好む内容を語り、注目を引こうとしていた。(一部は安倍氏の本音ではあるが)
 それに対してトランプ氏は、「日本が大量の防衛装備を買うことが好ましい。そうすべきだ」(6日の記者会見)、「首相との友情が、我々の偉大な国に多くの利益をもたらす。軍事とエネルギーで莫大な発注があるだろう」(7日のツイッター)。
 トランプ氏が語っているのは、国交の深化や首脳同士の友情よりも、すべては商売と利益の手段を「第一」とするビジネスマン特有のものだ。
 政治家としての常識も、大統領としての品格も感じられない。
 日本は近年(特に安倍首相になってから)、米国からの防衛装備品購入が大幅に増加している。
 特にステルス戦闘機F35、垂直離着陸輸送機オスプレイ、弾道ミサイル防衛対応のイージスシステム(イージス艦搭載)などの高額装備品の購入が増えている。
 今回、トランプ氏が要求したF35戦闘機、新型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」などの導入はすでに決定している。安倍政権はそれ以上の購入を要求され、検討しているということか。(トランプ氏へのご機嫌伺いのために)
 7日の米各紙は、安倍氏を「米国の忠実な相棒」を演じたと、皮肉交じりで報道していた。
 「トランプ氏の忠実な相棒役を演じた日本の指導者」(ワシントン・ポスト紙)、「北朝鮮に乾杯、米国製兵器が日本を救う」(ニューヨークポスト紙)、「米兵器が日本を守るとトランプ氏」(ニューヨークタイムズ紙)など、安倍氏は、トランプ氏と共同で「北朝鮮緊張」感を作り出すことによって、日本を「戦争のできる国」へと進める下地を作っていた。

3.文在寅氏の動揺
 韓国でトランプ氏を迎えたのは、文在寅政権のほかに、キャンドル革命を成立させた市民たちの「抗議」の声であった。
 5月の政権発足以降、「北朝鮮核問題」をめぐって、文在寅氏は、その立ち位置がずっと揺れていた。
 キャンドル市民たちの声を受けて「対話」を呼びかけるものの、米国からの圧力を受けて「制裁」を実施するなど、基本姿勢が定まっていない。
 トランプ氏が訪韓する前日の6日、文政権は北朝鮮に対する独自制裁として、大量破壊兵器への開発資金調達に関わったとして、金融機関関係者18人を制裁対象に指定したと発表した。
 制裁とはいえ、明らかにトランプ氏へのメッセージだ。
 同時に韓国外務省は、「韓国は制裁と圧迫を通じて北朝鮮を対話の道に導き、核問題を平和的に解決する努力を継続する」と発表した。
 北との対話による非核化については、文在寅氏が大統領就任直後から北に呼びかけていた。
 4年に1度のスポーツの祭典、平昌冬季五輪が来年2月9日に開会式を迎える。文氏は5月の大統領就任直後、南北合同チーム結成などの提案を行っている。「平昌に向けて一歩を踏み出すことは数百発のミサイルでは決して得ることのできない平和に向けた大きな前進となるだろう」などと、北の金正恩党委員長に対して対話を呼びかけていた。
 五輪を契機に、朝鮮半島の緊張の激化を緩和し、安全で平和な大会になるよう万全の準備をしようと努めてきた。
 さらに、国際機関を通じて約800万ドル(栄養強化事業450万ドル、ワクチン・医療品支援350万ドル)の人道支援の実施を決定。(9月21日)
 続く9月26日には、南北軍事会談、赤十字会談の開催を改めて呼びかけた。
 以上のいずれも、米国からの圧力で、実現していないが、それ以外にも、文在寅氏の対話へのアプローチには問題がある。
 文氏は、北朝鮮の「核先放棄」論に立っている。その立場は、米国と同じで、文政権は、米政権の先導役を果たしているにしか過ぎないとして、いずれの提案にも応じていない。その象徴的なことが、9月にあった国連総会第一委員会(6日、軍縮)で、南北代表の意見対立の形で表れていた。
 南の趙兌烈国連大使は、北の核・ミサイル開発を止めるために、国連安保理決議の履行を求めた。これに対して北の慈成男国連大使は、米国が核の脅しをやめないなら、一歩も引かないと強調した。
 文政権は、朝鮮半島の核問題、朝米核対決の根源的理由と北朝鮮側の主張に対する理解が欠けているようだ。
 対話重視だとはいうが、以上のような文氏の「対話」姿勢は、北朝鮮はもちろんのこと、キャンドル市民たちにも、米国側にも受け入れられない内容となっていて、市民と米国との間で右往左往している。トランプ氏を迎えて、そのことがより鮮明となっていた。
 トランプ氏は、韓国国会での演説で、「力を通じた平和」を強調した。
 一方、キャンドル市民や労働組合系の団体などが、戦争反対の批判集会を国会前で開いた。「NOトランプ共同行動」主催の「トランプ国会演説反対集会」があった。
 彼らは、「キャンドルで独裁者を追い出した誇らしい大韓民国が、米国の前では小さくなってしまう」として、「文在寅政権は米国に同調してはならない」と声を挙げていた。「トランプ氏は遠く離れた米国から戦争を煽っている」とも。

4.習近平氏の自信
 10月の共産党大会を終え、盤石な2期目を迎えた中国の習近平国家主席は9日午後、トランプ氏に自信に満ちた手を差しのべた。
 首脳会談後の会見で、「両大国が世界の平和と安定を守っていく」「世界のトップ2の経済体として貿易と投資の協力を拡大する」と、米国との大国同士の対等な関係を強調した。
 その自信の背景には、党大会で打ち出した「社会主義現代化強国」を築くという長期目標があるからだ。「一帯一路」(シルクロード経済圏構想)を推進するためにも、多くの国との協力関係を築いていく必要がある。外交努力が必要で、党大会でも外交重視を打ち出した。
 習指導部2期目最初のビッグイベント、それがトランプ氏を迎えての中米首脳会談であった。トランプ氏を「国賓」以上で厚遇し、故宮博物院を完全封鎖して自ら案内し、「建福宮」での夕食会と、破格の「おもてなし」を行った。
 さらに、米中企業が総額約2500億ドル(約28兆円)の契約を結び、トランプ氏への「訪中みやげ」を演出して見せた。首脳会談の中心は経済問題のようであった。
 今後、米国とは、「インド太平洋解放」と「一帯一路」で衝突があるとしても、習氏は、「太平洋は両国にとって十分な広さがある」との意思表明を、しっかりとトランプ氏に伝えたようである。
 経済関係を含む「米中対等」(米中新時代)を強調した習氏の前で、トランプ節も日韓両国の時とは違って、小さくなっていたようだ。
 トランプ氏お得意の「北朝鮮脅威」、「圧力と制裁」論は陰っていたようである。
 習氏は、「引き続き国連安保理の制裁決議を厳格に実行すると同時に、対話と協議を通じて朝鮮半島の核問題を解決していく」と発言し、国際的な圧力を強調したトランプ氏との立場の違いを主張した。
 朝鮮半島の核問題では、米中の立場の違いは埋まらず、より鮮明になったのではないか。
 
5.戦争を仕掛けている
 11月14日、トランプ氏が10日間にわたる初のアジア歴訪を終えた。
 トランプ氏がアジア各国の首脳と語ったのは、「自由で開かれたインド太平洋戦略」のことより、「北朝鮮に最大限の圧力をかけて、政策を変えさせる」ための言葉であった。
 その結果として、米国との二国間貿易の不均衡の是正、米国製武器購入拡大の要求などの本心を語った。
 彼のアジア歴訪は、北朝鮮を挑発するためのものであったともいえる。その言動からは、アジアでの戦争のリスクを高めている姿が見えてくる。
 7日の米韓首脳会談では、「北朝鮮問題が議論の中心だ」として、北への圧力論だけを展開していた。
 また、日韓両国に対しては、対北朝鮮包囲網の構想による圧殺を語り、実質的な日米韓三国軍事同盟実働化と強化策を示し、武装自衛隊の朝鮮半島上陸、戦闘参加まで語っていたようだ。
 トランプ氏の頭の中には、核兵器使用もためらわない第2次朝鮮戦争準備の完成を急ぐ風景があるのではないか。トランプ氏は戦争を仕掛けている危険人物だ。
 韓国に次いで、フィリピンの首都マニラでも12~14日、反トランプの大規模デモがあった。「帝国主義とファシズムに死を」と、トランプ氏と星条旗に抗議していた。
 さらに、もう1人の危険人物として、安倍晋三氏も挙げておきたい。
 彼らはこの間に主張されてきた「制裁と圧力による北朝鮮崩壊論」に代わって、「対話論」、「朝米和解論」が台頭しているという時代の変遷を、まだ理解していない。
 
                                                                 2017年11月15日 記
プロフィール

takasi1936

Author:takasi1936
愛媛現代朝鮮問題研究所のブログです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR