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「国務委員長声明を支持する」

「国務委員長声明を支持する」

1.
 金正恩朝鮮労働党委員長は21日、トランプ米大統領の国連総会演説(朝鮮を全面破壊云々など)を強く批判する声明を出した。
 トランプ氏の発言を「歴代もっとも暴悪な宣戦布告」だと非難し、「相応の史上最高の超強硬対応措置の断行を慎重に考慮する」と警告した。
 双方とも、言葉による応酬のレベルをはるかに超えて、最高指導者を罵り合う、言葉による暴力の連鎖となっている。
 しかし、それ以上にトランプ氏の国連総会での発言は朝鮮をひどく刺激し、危機のレベルを上げたことは間違いない。
 戦争が継続中の相手国の指導者に対する言葉としても、あまりにも非常識で、戦闘を再開させようとする意図を感じる。
 強大な武力を持つ者は、むやみに騒いではいけない(言葉の暴力も含めて)―というのが、従来の国際政治の常識であったはずだが、そのような常識もない。
 また、大統領の立場にある者には、いくつかの制約があるはずだが、トランプ氏の発言はそれも破っている。
 その上、米国は今も強大な軍事力を背景に、朝鮮に軍圧力をかけ続けているのだ。
 金正恩朝鮮労働党委員長の怒りはもっともなことであり、私は支持する。

2.
 トランプ氏が金正恩委員長を揶揄した国連総会での演説要旨は以下の通り。

 ・金正恩氏を「ロケットマン」と皮肉り、「自爆行為に走っている」と述べ、「北朝鮮ほど自国民の幸福を軽視した国はない」と批判。
 ・北朝鮮の金正恩体制は向こう見ずで下劣だ。核、ミサイル開発を無謀に追求している。世界全体にとっての脅威だ。
 ・北朝鮮が敵対的な姿勢をやめるまで、北朝鮮を孤立させるために全ての国が連携する時だ。
 ・北朝鮮の脅威により、米国や同盟国の防衛を迫られれば、北朝鮮を完全に破壊するしか選択肢がなくなる。

 以上、トランプ氏は、国連という国際社会の公の場で、ロケットマン、存在が世界の脅威、完全に破壊するなどと、朝鮮の最高指導者をもっとも汚い言葉で激しく非難したのだ。
 言葉の暴力である。
 公の場でそこまで言い切ったトランプ氏の意識には、米本土まで届く核とICBMを開発した朝鮮への恐怖心と、「白人中心主義」に基づくアジア人種蔑視感が存在していたと思われる。
 米国とトランプ氏こそ、下劣で無謀な人間だ。

2017年9月22日
愛媛現代朝鮮問題研究所代表 名田隆司

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「朝鮮の『火星12』発射から考える」

「朝鮮の『火星12』発射から考える」

1.朝鮮の反撃
 朝鮮のミサイル試射、核実験に米国を中心とする西側世界は動揺している。
 朝鮮は8月29日早朝、平壌市の順安区域(平壌国際空港のあるところ)付近から、中距離弾道ミサイル(「火星12」、射程4500~5000キロ)を北東方向に発射した。
 ミサイルは北海道襟裳岬上空を通過し、6時12分に襟裳岬の東約1180キロの太平洋上に落下した。
 この発射は、31日まで続く米韓合同軍事演習「乙支フリーダムガーディアン」への強い抗議・警告のメッセージであり、米国への反撃であった。
 金正恩朝鮮労働党委員長は、ミサイル発射を「グアム島を牽制する意味深い前奏曲」だと述べ、「米国の言動を注視し、それに応じて今後の行動を決心する」と語った。
 つまり、米国による敵視政策と合同軍事演習の撤回を要求したのだ。
 一方、トランプ米大統領は声明で、近隣諸国と国連の全加盟国に対する侮辱だと非難し、「一層の孤立を生むだけだ。すべての選択肢がテーブルの上にある」と警告した。
 日本の安倍晋三首相は「暴挙だ。これまでにない深刻かつ重大な脅威で、地域の平和と安全を著しく損なう」と批判し、国連安全保障理事会(安保理)で、より厳しい制裁決議を目指す報告で積極的に動き出した。
 予想通り、日米両国首脳はいち早く国際騒動に火をつけ、朝鮮の孤立化政策へと動いている。
 その矢先の9月3日、朝鮮は昨年9月以来となる6回目の核実験を実施した。
 朝鮮中央テレビは同日午後3時(日本時間午後3時半)の「重大放送」で、大陸間弾道ミサイル(ICBM)搭載用の水爆実験に完全成功したと発表した。
 核実験は、これまでにない威力を持つ水爆で、かつ、すでに完成している米本土を射程に収めるICBMに搭載できるものだと公表した。

2.傲慢な日米の対応
 朝鮮の核実験とミサイル試射について、トランプ氏は「国際社会」への侮辱で挑戦だと非難する一方で、朝鮮が中止を要求してきた米韓合同軍事演習については、「国際的に認められた演習」だと主張した。
 米韓合同軍事演習が「国際的」に認知されているとは、聞いたことがない。
 たぶん、朝鮮戦争に参戦する目的で強引に編成し、在韓米軍司令官に冠した「国連軍」のことであろうか。いまだに「国連軍」司令部と名乗り、合同軍事演習を「国際的認知」だと吹聴しているところに、朝鮮戦争を終わらせたくないという米国の魂胆が透けて見える。
 安倍晋三氏もまた、「国際社会」と連携して朝鮮への圧力を高めていく必要性を強調している。電話会談をした2人は、安保理での強い対朝鮮制裁決議と、国際社会での圧力強化に動くことで、それぞれの思惑が一致したようだ。
 彼らが言う「国際社会」とは、果たしてどのような「社会」を指しているのかは疑問であるが、2人とも政権内部で困難な問題を抱えている。トランプ政権も安倍政権も、国民の目を外に向けさせる必要があって、「朝鮮問題」を「国際社会」の中で解決していくとの姿勢を強調しているようにも見える。

3.偏見に満ちたマスメディア
 マスメディアの朝鮮報道姿勢は、日米両政権の主張を後押ししている。
 朝鮮が核およびミサイルを試射するたび、日米両政権が必ず使用するいくつかのキーワードがある。「北朝鮮の挑発」「国際社会への挑戦」「合同軍事演習に反発」「米軍への対抗措置」などと朝鮮を悪者に仕立てて、朝鮮に対して「自制を」「追加制裁を」「圧力強化を」と常套句のように使用している。
 マスメディア側も、朝鮮批判のためにわざと使用しているこれらの言語を、何ら検証もせず使用している。どの新聞の紙面を見ても、どのテレビのチャンネルを見ても、朝鮮批判キーワードが語られているから、一般の人たちは迷惑している。
 マスメディアは、「脅威に直面する米国」とする一方で、朝鮮には、「挑発を強めた」「制裁強化を」「最大級の圧力を」「外交的圧力強化を」などと、米国の世界観そのままに、朝鮮半島危機を煽っている。
 だから、合同軍事演習「乙支フリーダムガーディアン」最終日の8月31日、米軍が戦略爆撃機B1Bを2機と最新鋭ステルス戦闘機F35Bを4機、朝鮮半島に飛来させ、航空自衛隊のF15戦闘機2機との共同訓練、その後の韓国軍F15戦闘機との爆弾投下などの合同演習を行っていたことについては、普通に報道していた。
 これら合同軍事演習こそが、朝鮮半島の危機を高めているのにも関わらずに、である。

4.識者たちの認識
 日米の識者たちもまた、朝鮮を「挑発者」「悪者」の前提で主張している。(もっとも、マスコミがそのような識者や専門家しか登用しないのだろうが)
 朝日新聞9月5日付から、2人の意見を紹介する。
 「石油を全面禁輸できれば、即座に影響がある、優先的に協議されるべきです・・・・それでも北朝鮮が核の放棄をしないならば、政権転覆を狙う政策をとる必要がある」(エバンス・リビア元米国務次官補代理)
 「大事なのはきちんとした戦略のもとで圧力をかけ、北朝鮮を交渉のテーブルにつかせることです」(薮中三十二元外務事務次官)
 2人とも、さもそれが国際常識であるかのように、朝鮮への圧力を強めることについて語っている。
 多少、メディアの意向に応じて、朝鮮への向き方が変化したのかもしれないが、多くの識者が似たような意見なのは悲しい。そこにはニュアンスの違いはあっても、朝鮮への軍事攻撃は否定しつつ、全面禁輸を実施し、朝鮮が核放棄する前提での交渉の席を設けるべきだとの内容になっている。
 彼らは、これまでの朝鮮の非核化に向けた主張の内容をまったく考慮せず、米国の主張を下敷きにした理論を展開しているだけだ。
 朝鮮に核政策を放棄させることができれば、現行の朝鮮半島情勢は解決すると理解しているのだろうか。
 仮に、朝鮮が核政策放棄に同意したとしても、そこに残る朝鮮半島の風景は、朝鮮戦争が継続したままで、南朝鮮に核武装をした在韓米軍が駐留したままで、朝鮮に対峙しているものになる。
 そのうえ、合同軍事演習などで朝鮮になお一層、軍事的圧力をかけ続けていくだろう。
 常に朝鮮半島の平和と安定を脅かされているのは、朝鮮戦争がいまだに継続し、朝米が敵対関係にあることが原因なのだ。
 だから朝鮮は米国に朝鮮戦争停戦協定を朝米平和協定に転換することを一貫して要求してきた。
 その米国は、平和協定への協議を無視して、逆に朝鮮に対して核恫喝政策を続けてきたのだ。
 朝鮮半島の危機を解消し、世界の非核化を実現するための基本は、朝鮮戦争を一日も早く終わらせることであり、朝米間の敵対関係を解消することである。
 「対話」とは、そのための対話であり、決して朝鮮の核放棄がテーマではない。

5.中露両国の主張
 中国とロシア両国は、「朝鮮の核政策と同時に、米国の対朝鮮敵視政策も放棄しなければならない。そのための関係国の対話が必要である」と、米国に対話の必要性を主張している。
 中露は対話テーマとして、朝鮮の核放棄と同時に朝米平和協定締結を挙げている。これまで朝鮮が米国に要求してきた内容とほぼ同じであり、正当な意見である。
 残念ながら中露両国とも、グローバル経済関係上、米国と深く結ばれている(米国側から言っても同じ)。中露と米国、たとえ、政治・軍事面で対立をしていても、決定的な決裂を避けつつ、妥協点、着地点を探る協議を続けている。
 安保理での朝鮮制裁決議においても、場外で行う米中、米露の個別協議で、着地点を探る秘密取引が重ねられているだろう。
 スイスで開催中の国連軍縮会議で8月30日、朝鮮代表は、「火星12」の発射について、「自衛権行使のための強硬な対抗措置を取るだけの正当な理由がある」と主張した。つまり、米国の長年にわたる敵視政策、朝鮮への攻撃・侵略を目的とした軍事演習に対して、「火星12」の発射は自衛権を行使したまでだと言っているのだ。
 にもかかわらず、日米両国は、「国際社会」への脅威だと決めつけて、朝鮮への石油全面禁輸まで云々して、朝鮮制裁を「国際社会」の義務だと呼びかけている。
 その米国は、合同軍事演習を「国際的」に認められたものだとうそぶいている。自衛権を行使する朝鮮を制裁する一方、朝鮮半島危機を作り出している米国の軍事演習を問題にしないような「国際社会」が、はたして公正な国際社会だと言えるのだろうか。多いに疑問だ。

6.揺れ動く文在寅政権
 南朝鮮では半年間にわたるキャンドルデモによって5月、民主的な文在寅政権が誕生した。
 就任以来、文在寅大統領は一貫して、北との対話の重要性を訴えていたが、言葉だけのようである。
 朝鮮が3日に核実験をした後、「対話から圧迫」へと転換したかのように、日米との協調姿勢を取るようになった。
 朝鮮の核実験直後、軍に対して、「最高レベルの反撃方法」の検討を指示した。
 韓国軍は、4日に北朝鮮の核実験場攻撃を想定したミサイル発射演習を、5日には艦砲射撃演習を実施した。
 さらにトランプ米大統領と電話協議(4日)した文在寅氏は、韓国軍の弾道ミサイルの弾頭重量制限撤廃(それによって朝鮮への地下施設攻撃などを可能とした)に合意し、米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の配備を早期に完了することを表明した。
 トランプ氏との約束通り、7日早朝、慶尚北道星州郡にTHAADの残り4基を追加配備した。
 当日は、約8000人の警官が激しく抗議する住民らを強制排除する中で、配備が強行された。
 住民たちは、「文大統領は裏切り者だ」と叫びながら抵抗した。
 悲しい南朝鮮の現実が表現されていた。
 THAAD配備完了よりさらに驚愕すべきは、文在寅氏が金正恩委員長ら朝鮮労働党首脳部を暗殺する「斬首作戦部隊」を12月1日に創設し、実戦配備することを明らかにしたことだ。これでは完全に、北との対決姿勢を明確にし、米軍とともに戦うことを明言したも同じだ。
 そのことを実証するかのように5日、北の挑発を抑止するためとして、朝鮮半島や周辺での米韓合同軍事演習や米戦略兵器の「定例的な配備」を一層強化していくことで、米韓が合意。
 今後一層、米空母や戦略爆撃機、ステルス戦闘機などの派遣による合同演習の強化が進むだろう。
 文在寅政権は、キャンドル民心の要求に反して、強硬姿勢に軸足を置いてしまったようだ。(例え、トランプ政権の圧力があったにせよ)
 キャンドル民心が要求していたのは、自主・平和・統一の推進であり、米国と朝鮮との間で平和のための役割を果たすことを期待していたのだが。

7.朝鮮の立場
 朝鮮は、米国の言動には大きな不信感を持っている。
 過去、米国と何度も交わした交渉結果、宣言、約束事が米国の政権が交代するたびに反故にされ、実行されなかったからである。
 逆にデマ宣伝を流し、制裁論を高める戦術に出て、対話のための信頼関係構築さえ、平気で壊していく。
 さらに強く印象に残っているのは、米政権によって核政策を放棄したイラクのフセイン政権やリビアのカダフィ政権の崩壊である。
 それゆえ、朝鮮は核保有が政権を守る唯一の道と信じ、核保有国として対等な立場で米国と協議し、非核化(世界及び朝鮮半島)の実現へと進む選択をしてきた。
 その道、朝鮮が描く非核化へのロードマップを、米国が阻んでいる。
 「朝鮮半島の核問題は、米国の核の脅威によって生じたもので、朝米間で解決すべき問題だ」(労働新聞)として、一貫している。
 したがって、文在寅氏が主張している「北の非核化」対話に対しては、対話するポイントが違うだろうとのサインを送っている。
 南朝鮮とは、経済協力、スポーツ、文化交流や人道面(離散家族の再開など)での協力事業も必要であるが、それ以上に重要なことは、「北南関係の根本問題である政治・軍事的な対立状態を解決すること」であり、米韓合同軍事演習の縮小あるいは中止の方向で米国を説得することであると、何度もその対話前提条件を主張していた。
 文在寅政権はそれに応えるだけの度量を持ち合わせず、日米とともに対立の陣営に逃げ込んでしまった。
 朝鮮の立場は、はっきりしている。米軍が先制攻撃すれば、米本土とその同盟国に対して全面攻撃する。米韓合同軍事演習に対抗してグアムの米軍基地周辺の海域に向けて警告のミサイル砲撃もあり得ることを明言している。
 朝鮮中央通信は8月30日、29日に試射(訓練)した「火星12」についての内容を発表した。
 1 訓練は米韓合同軍事演習「乙支フリーダムガーディアン」に対抗する武力示威の一環として行われた
 2 「火星12」は、予定された軌道に沿って北海道の渡島半島と襟裳岬上空を横切って通過し、北太平洋の海上に設定された目標水域に命中着弾し、周辺諸国の安全に何の影響も与えなかった
 3 訓練は、わが軍隊が行った太平洋上での軍事作戦の第1歩であり、侵略の前哨基地である米グアムをけん制するための意味深長な前奏曲になる
 4 金委員長は、訓練は米韓合同軍事演習への断固たる対応措置の序幕にすぎないと述べた
 5 戦略軍のすべての将兵は、107年前の「韓日併合」という恥辱的条件が公布された「血の8月29日」に日本人が驚愕する大胆な作戦を策定、首都圏地域からの弾道ミサイル発射を承認し、わが人民の恨みを晴らしてくれた金正恩委員長に、最も熱烈な感謝の挨拶を送った。
 今回の中距離弾道ミサイル発射訓練の第1目的が、米韓合同軍事演習に対抗する武力示威であったこと、第2目的が、発射訓練を実施した8月29日が107年前に「日韓併合」が公布された日であり、日本に対して過去の歴史清算を強く迫ることであったのがわかる。
 朝鮮への制裁と圧力強化を主張する日米両国への、強力な反撃意志を「火星12」で示したのだ。また、発射場所を首都の平壌の順安地区(平壌国際空港があるところ)から打ち上げることにより、同時に、朝鮮人民の積年の恨みを晴らしたことになる。
 朝鮮はさらに、3日の水爆実験後、電磁パルス(EMP)攻撃に言及した。
 「水爆を高い空(地上40~400キロ)で核爆発させ、広い地域に電磁パルス(核分裂で出る放射線)攻撃も加えられる」と発表した。
 EMP攻撃は、強い電磁波によって、情報・通信・電力インフラや交通網、社会生活上の基盤(物流、医療など)を麻痺させるもの。
 人体に直接の影響はないが。社会全体の被害は計り知れない。
 米ソ両国は60年代の核実験によって、遠隔地の電気系統などに広範な障害が出ることに気付き、大気圏内、宇宙、水中での核爆発実験を禁じた部分的核実験禁止条約(63年)に結びついた。
 米国はすでに、武器としてのEMP開発を進めている。

8.「問題の根源」
 朝鮮半島はまだ、朝米間の冷戦状態が続いている。
 停戦協定のままとなっている朝鮮戦争が、今なお継続され、朝米間の敵対関係が解消されていないからだ。
 53年7月の停戦協定後、平和協定へと転換すべきところを米国は同意せず、逆に核攻撃までちらつかせて、敵視政策を公然と続行している。
 そのような米国に対して、体制と人民を守るための防衛戦略を作らざるを得なかった。
 時代や情勢によって試行錯誤はあったものの、結果、核保有国に到達した。
 これまで朝鮮が核実験やミサイル発射実験をするたび、日米を中心に、「挑発」「暴挙」と喧伝し、まるで事の発端が朝鮮であるかのようにして、「北朝鮮問題」だと言う。マスメディアまでもが。
 正確には「朝鮮半島問題」だと言うべきだろう。または「米国問題」とも言える。
 「問題」の根本が、米国のアジア太平洋地域戦略、対朝鮮半島政策・戦略にあるのだから。
 「国の代表者が武器で脅しあうのではなく、話し合いを続けてくれた方が、国民は安心です」(毎日新聞9月6日付け「みんなの広場」欄)と、朝米対話の実現を願っている。
 ところが、朝米交渉のテーブルに着くテーマについて、米日韓側は朝鮮の核・ミサイル政策の放棄を掲げている。
 一方の朝中露は、在韓米軍の縮小・撤退を含む朝鮮戦争の終了を主張している。
 どちらの主張が正解か。
 先に掲げた朝鮮半島問題解決のための根本原因を理解すれば、答えは自ずと出てくる。
 朝米が平和協定を結べば、敵対関係は解消され、米韓合同軍事演習も在韓米軍の必要性もなくなる。
これは米国にとっては不都合なテーマなのだろう。それで、「問題」のすべてを朝鮮に押し付け、それをプロパガンダ情報に仕上げて、世界に流しているのだ。
 もう一つの問題は、マスメディアや朝鮮問題専門家たちの多くが、米国の視点から論じていることである。
 「中国は米韓の軍事演習停止と同時に北朝鮮が核・ミサイル開発を凍結するという提案をしているが、現実的ではない。対話を拒否するように挑発を続けているのは北朝鮮側だ。安保理の対立でほくそ笑むのは北朝鮮だ」(9月6日付け、毎日新聞社説)。
 朝鮮や中露の対話提案には、世界の非核化が包含されている。それを「現実的」ではないという。しかし、現実は、核兵器禁止条約が国連で採択(7月)された。核兵器開発、保有禁止が世界の大勢となっているのだ。
 その核兵器禁止条約に調印しなかった日本や米国などが、朝鮮の水爆実験を正面切って非難することができるのだろうか。
 
9.米国が提出した制裁決議案
 朝鮮半島の核・ミサイルをめぐり、朝鮮に対する「予防戦争」、または要人殺害の「斬首作戦」など敵視政策を強行する米国の横暴には沈黙し、一方的に朝鮮だけに厳しい制裁を決議してきた安保理。
 その安保理にトランプ政権は、朝鮮制裁決議案を提出した。
 内容は以下のとおりである。
 1 朝鮮への石油、石油精製品、天然ガス液の輸出禁止
 2 朝鮮側の生地やアパレル製品の禁輸
 3 朝鮮が国外派遣する労働者の雇用禁止
 4 金正恩朝鮮労働党委員長や党幹部の在外資産凍結と渡航禁止
 5 高麗航空や朝鮮人民軍の資産凍結
 ―など。たしかに厳しい内容となっている。
 一方では、朝鮮のICBM、水爆、EMP開発の進展に対して、米国の驚愕度、脅威度の大きさを表現しているとも言える。
 中露はなお、制裁強化には否定的である。
 それに対して米国は、「追加制裁が実現しなければ、北朝鮮と取引する国々との貿易を停止する大統領令を用意している」と、中露を脅している。
 背水の陣であるトランプ政権は、11日に決議することを発表した。米国の水面下の交渉が勝利するのか、世界の常識が通用するかどうか、11日を見守っていこう。

                                                                    2017年9月7日 記

「安保理の朝鮮制裁を考える」

「安保理の朝鮮制裁を考える」

1.米・中・露妥協の制裁決議
 国連安全保障理事会(安保理15カ国)は11日(日本時間12日)、6回目の核実験を行った朝鮮に対する公開会議を開いて、石油精製品の供給や原油輸出に上限を設けるなどの、米国主導の制裁強化決議案を全会一致で採択した。9回目の制裁決議となる。

 採択した朝鮮制裁決議は、以下の通り。(骨子)

①石油精製品の調達は、年間上限200万バレル。朝鮮への年間原油供給量は過去12か月の総量内(現状維持の400万バレル)。
②朝鮮への天然ガス液(天然ガソリン)や軽質原油コンデンセート(軽質原油)の輸出(供給、販売、移転)を禁止。
③朝鮮からの繊維製品の輸出禁止。
④海外で働く朝鮮の労働者の受け入れを原則禁止。
⑤公海上での決議違反の物資を運んでいる疑いのある船舶について、旗国の同意を得て、臨検を行うことを要請。
⑥朝鮮の個人・団体との共同企業体の全面禁止。

 以上、米国が当初示した決議案から、金正恩朝鮮労働党委員長に対する渡航禁止と資産凍結、高麗航空の資産凍結などは削除され、新たに渡航禁止対象としたのは1人で、資産凍結は3団体など、当初案から後退した。とはいえ、不当で厳しい内容には違いない。

 厳しい制裁には慎重で、制裁だけではなく、朝鮮との対話(平和解決)も重視していた中露両国との妥協の結果であるが、米国にとっても世界にとっても、重い決議採択となっている。

 この決議は、米国が朝鮮に対してこれ以上の積極的姿勢で戦争を仕掛けるとのメッセージとなっている。

2.朝米、非難合戦が加熱

朝鮮外務省は11日の「外務省声明」を発表。

 「『制裁決議』をあくまで作り上げるなら、われわれは必ず米国に相当な代価を払わせる」と警告。

 同時に、「いかなる最終手段も辞さない準備が全てできている」「われわれが取ることになる次なる措置は、米国を史上例のない水準で困惑させる」「米国が想像もできない強力な措置を連続して取る」などと、言葉を強めた。

 一方、制裁決議を主導してきたヘイリー米国連大使は11日、「北朝鮮が核兵器を世界のどこにでも撃ち込むことができるようになるのを食い止めなければならない。計画を支える石油と資金を断たなければならない」と力説して、米国の力を誇示した。

 これに対して、ジュネーブで開かれている国連軍縮会議で12日、朝鮮代表が「既に完成の域に達した朝鮮の核開発を逆戻りさせようとする米政府の方針は対立を加熱させている」と批判し、「米国は経験したことのない痛みに直面」するだろうと警告した。

 言葉による朝米非難合戦は、ますます加熱していく。

3.米国の本性

 国際連合(国連)は、第2次世界大戦後の平和を維持する目的の国際機構として、1945年に成立した。

 その設立の基礎となった国連憲章は、世界の平和と安全の維持のほか、諸国間の友好関係の発展、経済的・社会的国際協力の達成を目的としている。

 そのような理念は、設立時、反ファシスト連合と民主勢力の勝利などが反映されていたからである。

 つまり、加盟国は、領土・人口・経済力での大小、宗教や思想・制度などの違いを超え、すべて同一の権利が行使できるとした。

 その理念は正しい。

 国連の主要機関の一つに安全保障理事会(安保理)がある。

 侵略行為の認定、強制措置の発動など国連の集団安全保障の中枢的任務を負う機関である。

 安保理の常任理事国5カ国は、米国をはじめとする戦勝国で、核保有国。この5カ国が自国の核と安保理の理念を背景に世界を牛耳ってきた。

 米国は、国連安保理を利用し、長年にわたって国連憲章の理念に反する新帝国主義政治を推進する道具として利用してきたし、今も利用している。(特に、朝鮮に対しては、政権対決、侵略政治として)

 米国はこれまで国連憲章の理念を云々しつつも、一方で多くの国々と軍事同盟や経済協力機構を結び、新植民地主義政治(軍事同盟や軍事援助、借款や投資などの資本輸出によって、反動勢力の政権の維持をはかる)を推進している。米国の新植民地主義に与しない国家に対して、米政治の原案である安保理を活用して、政治・経済的弾圧と、時には軍事力を行使して政権崩壊を実施してきた。それが米国の本性である。

4.米国の恐怖心の表現
 今回、米国が作成した厳しい朝鮮制裁案は、米国自身の恐怖心を表現している。

 朝米両国はまだ戦争継続中の敵対国関係にある。その一方の米国が、相手(敵国)の朝鮮に、体制崩壊を策する「制裁」決議案を作成し、安保理決議に上程した行為は、朝鮮に対する「宣戦布告」だと言ってもよい。

 しかも、今回のことだけではない。

 朝鮮に対して常に挑戦・挑発しているのは米国である。それに対して、朝鮮が、米国からの恒常的な政治的圧力、核恫喝を含む軍事的威嚇を止めるため、核やミサイルを開発することを、「国際社会への挑発」であると、米国は喧伝する。それこそが、新帝国主義たる所以の、米国の論理である。

 朝鮮戦争を始めた時も、同じ手法を使っている。朝鮮人民軍を「侵略軍」だと決めつけ、安保理で強引に朝鮮を侵略行為者だと認定させたうえで、米軍は朝鮮に侵攻した。米国にとっては、朝鮮侵攻への口実が必要だったのだ。

 侵略の定義は、「侵略の定義に関するロンドン条約」(1933年)によると、開戦の宣言、他国領土への武力行為などとされている。南北朝鮮はどちら側からしても、「他国」領土上にいる多民族ではない。したがって、50年代のどの時点の南北間の軍事戦闘も、民族紛争である。米軍が参戦したことによってはじめて朝鮮戦争となったのだ。

 同様のことが、今日の朝鮮の核とミサイル開発問題についても言える。米国は、朝鮮を「挑発者」だとキャンペーンすることで、安保理などでの「制裁」執行者の権利を不当にも握りしめているからである。

5.平和協定への始動

 安保理が朝鮮に対して9回目の制裁を全会一致で決議したことを、マスメディアとマスメディアに登場する識者たちは、米国の勝利のように喧伝しているが、それはまったく違っている。

 決議は、関係国に対して緊張を緩和させる行動を求め、対話への道に立つことを示唆していることを見逃してはいけない。

 朝鮮との対話については、トランプ米政権も口にすることはある。

 だが、トランプ政権が主張する対話の前提条件とは、朝鮮が核開発放棄を受け入れることだとしている。これは現実的ではなく、米国の帝国主義的発想でしかない。

 一方で米国は、朝鮮が米本土まで攻撃できる核、ミサイル、電磁波、サイバーなどの攻撃手段を手に入れたことへの恐怖感を抱き始めた。

 そのため、従来以上に水面下での朝米接触を試み、情報分析に努めながら、朝鮮との間合いを計ろうとしているようだ。

 米国に対話を促す動き(朝米間の平和協定へ向けて)は、中露両国の他に、ドイツ、スイスなど欧州各国からも声が挙がりはじめている。「対話で解決するとの声が国際社会の主流」(中国)へと動いているのだ。それが現実の国際情勢である。

 安保理で制裁強化決議を行ったトランプ政権は面子上、しばらくは制裁強化や武力行使をちらつかせるだろうが、自国と中国のアジア地域の安保観、朝鮮の朝鮮半島平和観を探る旅へと、真剣に出発する契機になったと考えているのではないか。

 米国のアジア安保戦略と朝鮮のアジア平和政策との、距離を縮め同一線上に立つには、まだまだ多くの時間が必要なのは事実であるが、そのための始動が、11日の安保理での朝鮮制裁決議であったことを過日、史家たちは認めることになるだろう。

 朝米平和協定、世界の非核化への動き、始まりのはじまりは2017年9月11日だったと。

 私は、11日の安保理決議採択の裏に流れている情勢を、そのように見た。


                                                                  2017年9月13日 記

「特定失踪者、再度の警察捜査を」

「特定失踪者、再度の警察捜査を」

 「反北朝鮮」活動の先鋒を担っている感のある、特定失踪者(北朝鮮による拉致の可能性を排除できない)家族会が5月、家族有志の会として今夏、国際刑事裁判所(ICC)の検察官に申し立てた。

 2003年に発足した調査団体「特定失踪者問題調査会」(荒木和博代表)に届け出た失踪者は約400人。家族が名前公表を希望した約270人のリストをICCに提出したという。

 それにしても「調査会」に届け出た「特定失踪者」470人というのはあまりにも多い数字に思う。彼らのすべてを「北朝鮮による拉致の可能性がある」とするのは無理がある。「北朝鮮による拉致の疑い」とする基準も、よくわからない。

 たしかに、一般的にも、あらゆる自然災害や事故などに巻き込まれた場合、遺体が発見され本人と確認できるまでは「死亡」したとは認めず、どこかで生きていることを願いながら、葬儀をせずに帰りを待っている家族が多くいるのは事実である。その心情が、家族たちにとって普通なのである。

 特定失踪者の家族たちも同じ心情であることは、十分に察しがつく。

 長年、警察とともに捜査をしてきたが、その痕跡さえつかめなかったため、「北朝鮮に拉致されたのでは」との情報で、「北朝鮮のどこかで生きていてほしい」との希望に動かされたとしても、それが藁をもつかみたい家族の心情であったことは当然である。

 しかし、救出活動という反北朝鮮活動を続けているうちに、ネガティブな朝鮮情報ばかりをつめこみ、行方不明者の捜査運動をやっているのか、反北朝鮮キャンペーンに動員されているのか、わからなくなっているのではないだろうか。届け出た失踪者470人という数字は、あまりにも多すぎると疑ったことは一度でもあったのだろうか。

 失踪者たちが時折、日本国内でひっそりと生活をしていて、何らかのきっかけで発見されたことが、たまにニュースで報じられている。失踪者自身の中(海外に1人旅行をしている人も含めて)にも、様々な事情があって社会からも家族からも隠れていたい、といったような事柄があったのかもしれない。または、暴力団や何らかの事件に巻き込まれていたのかもしれない。

 いずれにしても、日本警察機構の捜査力の脆弱さが、470人という数字になって表れているように思う。日本社会の不寛容さ、コミュニケーション力の欠如を物語っている。

 また、家族会の人たちは安倍晋三政権をはじめとする反北朝鮮団体に、利用されているのではないかと思える。

 悪魔こそ、味方のふりをして甘い言葉で近づいてくる。もう一度、個々の家族は地元の警察に、「家族会」は警察機構に、徹底捜査を依頼し、その後の警察権力の動きをよく注視しておく必要があるのではないだろうか。

                                                                    2017年9月9日 記

「朝鮮人虐殺―小池百合子氏の発言に疑問」

「朝鮮人虐殺―小池百合子氏の発言に疑問」

 94年前の9月1日、関東大震災時に朝鮮人虐殺事件があったことは事実である。

 誰かが流した「朝鮮人放火す」との流言は、震災で不安と恐怖心に火をつけ、流言は流言と合理した。

 流言が拡大していった背景には、軍と警察、さらに新聞が流言を事実として、虐殺に手を貸したからである。

 各地で日本刀や銃器を持った自警団(計1145)が生まれ、その自警団によって虐殺された朝鮮人たちの恐怖心はいかばかりであったか。

 その事実を、その事件をなかったとする言説がいま、ネット空間にあふれ、流れているという。

 歴史を偽造しようとしているのだろうか。

 東京都の小池百合子知事は、民間団体が主催する朝鮮人虐殺被害者への追悼文送付を取りやめた。

 なぜ取りやめたのか、誰しもが疑問に思うところである。

 1日の記者会見で、記者たちが質問したのは当然であろう。

 以下は9月7日付けの毎日新聞から。

 ―追悼文を取りやめたことについて。
 「知事として関東大震災で犠牲となられたすべての方々への哀悼の意を表させていただいた。それが全て」
 ―朝鮮人虐殺の正当防衛説を勢いづかせかねない。
 「それぞれの受け止め方だ」
 ―虐殺があったととらえているのか。
 「いろいろな歴史書で述べられている。様々な見方がある」
 ―虐殺はあったのか。なかったのか。
 「書かれているものがある。どれがどういうのかというのは、まさしく歴史的な、歴史家がひもとくものではないかと思っている」
 
 小池氏は、記者の質問に、自分の意見を言わず、しかもまともに答えていない。

 朝鮮人虐殺事件を歴史家がひもとくものだと、歴史の中へ逃げ込んでいる。

 かつて安倍晋三首相が、日本軍慰安婦問題での記者質問に窮して、それは歴史家が判断すべき問題だと逃げたのと、小池氏は同じ姿勢に立ったことになる。

 記者会見で、「朝鮮人虐殺」を一度も口にしなかったということだけでも、彼女の歴史観には見当がつく。危惧すべきである。

 同日付の毎日新聞で、ジャーナリストの安田浩一氏は、小池氏の対応について、「歴史修正主義の流れに乗ってヘイトにお墨付きを与えるに等しい」と批判している。同感だ。

                                                                    2017年9月8日 記

「朝鮮の日本人遺骨問題」

「朝鮮の日本人遺骨問題」

1.
 未収容の遺骨収集を「国の責務」と定めた戦没者遺骨収集推進法が2016年春に成立した。
 遺族の減少と高齢化が進む中、政府・外務省や厚労省の動きは鈍く、沖縄やシベリアなどでわずかに判明しただけで、取組が遅い。
 とりわけ20万人以上が眠るとされる中国東北地域(旧満州)や、2万人以上が未収容の朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)では、調査すら進んでいない。
 日本の敗戦直後、朝鮮には74万余の日本人がいた。さらに労働力に適さないと見なされた人々がシベリアから送り込まれてきたが、47年頃までに大半が帰国している。
 その間に多くの人々が死亡(食糧事情などで)しており、55年、残留日本人と朝鮮側から、未帰還者問題(55年当時240人がいたとされている)、日本人遺骨問題が日本政府に提起された。
 日朝赤十字社の間で55年10月、日本人の帰国実現に努力するとの共同コミュニケを発表。それによって56年4月、40数名が平壌から舞鶴に帰った。
 残りは、朝鮮政府と契約した日本人技術者と、戦前に朝鮮男性と結婚した女性であった。
 彼らは自らの意志で朝鮮残留を決めた人たちであった(その後、技術者は帰国している)。
 朝鮮に残ったのは女性たちで、彼女たちを残留日本人妻と呼んでいる。今年、その残留日本人妻は一人となり、84歳となった。彼女は死ぬ前に日本の風景を見たいと言っている。
 問題なのは、両日赤間の話し合いが行われたものの、日本政府の傲慢な態度で、何も進まず今日まできてしまったことである。

2.
 私は8月17日、朝鮮外務省傘下である日本研究所の曹(ソ)上級研究員と会い、話を聞いた。
 彼は朝鮮赤十字会にいた際、主として残留日本人問題を担当していた。従って、日本人遺骨問題に詳しかった。彼は、戦後処理というより人道問題として、早期の問題解決を望んでいた。
 彼は、「ストックホルム合意後、数人の墓参団が訪朝するようになり、高齢の彼らは遺骨を集めて供養していたが、そのような人たちのためにも日本政府はもっと前向きに取り組むべきである、日本側の問題ではないだろうか」と話した。
 そのような墓参団も2年前からぱったりと止み、日本政府からの連絡も問い合わせもないという。
 では日本人遺骨は今、どうなっているのですか、との問いには、「一番多く埋葬されている龍山地域では、今でも開発の掘削現場で骨片が出てくることがあるが、それらは野積みされたままになっている。高齢の朝鮮人には、本人自身か、または家族や親族が日本人にひどく痛めつけられたことを記憶している人もいる。それがたとえ小さな骨片であっても、日本人だと分かると、それだけで記憶が蘇えり、見たくも触れたくもないと忌避するので、目立つような近くには置けない。朝鮮側も困っている。日本側に早く処理をするための行動を取ってほしいし、これはあくまでも日本国内の戦後処理問題のはず。日本から動かない限り、問題解決には到達しない」との返答があった。
 彼の言うとおりである。
 また、彼は、「数年前から、龍山地域では大規模果樹園の建設を計画していたが、遺骨が出てきたために、作業を延期している。しかし、数年内には、予定通り計画を進めていくことになり、日本人遺骨は、埋められたり放置されたままになるだろう」と言った。
 これはあくまで、日本の戦後処理の問題なのである。安倍晋三首相は今、朝鮮が核およびミサイルを発射したことを理由に、国連安全保障理事会での朝鮮への強力制裁を、トランプ米政権の代役として各国に要請している。
 そのこと自体も大いに問題ではあるが、朝鮮での日本人遺骨問題を放置したままにしている彼の政治姿勢も、とても許せるものではない。
 朝鮮への非難言動を直ちに中止し、「国の責務」と定めたとおりに、朝鮮の日本人遺骨問題の解決に速やかに取り組むべきだ。
 それが日本の首相としての責務ではないか。

                                                                    2017年9月1日 記

「徒に『朝鮮脅威』を拡散している」

「徒に『朝鮮脅威』を拡散している」

1.
 毎日新聞8月23日付けの社説「米韓合同軍事演習と北朝鮮―過剰な反応は有害無益だ」の主張は、米政権の言動を擁護している。

 21日からはじまった米韓合同軍事演習に対して、朝鮮側が、「危険な軍事挑発だ」と主張したことに対して、社説氏は「いつもながら物騒な発言である」と、朝鮮の主張をたしなめている。

 その上で、「緊張を高めているのは北朝鮮なのである」と、一方的に朝鮮側の(防衛的)行為を批判した。

 その一方で、米韓の軍事演習は「定例」で、「北朝鮮の核・ミサイル攻撃を想定した指揮態勢のシミュレーションに過ぎない」などと、米韓の軍事演習は当然の権利行使であって、「脅威」や「危険」ではないと、米政権と同様の主張をしている。 

 同演習に、「北朝鮮の政権中枢への攻撃を想定した『作戦計画5015』も含まれるとはいえ」として、「北朝鮮の声明は明らかに過剰反応である」と断じている。朝鮮の防衛姿勢を否定しているのだ。

 米軍はこれまで、中東各国やテロ集団への崩壊攻撃作戦などで、政権中枢部の破壊攻撃を実施してきた。

 その朝鮮版を、2年前から、金正恩委員長暗殺、党中央委員会へのピンポイント攻撃作戦「5015」の精度を高め、合同軍事演習の中核として実施を重ねているのだ。朝鮮が反発するのは当然だ。

 このようなことを堂々と演習する米軍を「定例だ」「権利だ」と擁護することは、異常で、帝国主義的だ。

 朝鮮側には、制度と人民を守る権利と義務がある。

 その一つが9日に示唆した米領グアム島周辺への弾道ミサイル発射発言であった。

 社説氏は、「日本の上空を通ってグアムの方向へミサイルを撃つ構想自体、国際常識に反していることを自覚すべきだ」と、朝鮮の自衛権行使が、「国際常識に反している」と、無知も甚だしい的外れな判断を下している。

 朝鮮は早くから米国に対し、今回の軍事演習の中止、もしくは縮小を申し入れ、対話解決方向を示唆していた。

 そのことをトランプ政権は無視し、軍事と制裁圧力を強めた結果の、軍事演習による恫喝である。

 このような米国の一連の言動こそ、「国際常識」に反しているのではないか。

 社説氏は最後に、米国に「北朝鮮との直接間接の対話を模索してもいいはずだ」と提案をしている。

 この提案それ自体が、米国情報と結びついているように思う。

 中国もロシアも、朝米対話を提案している。だがその内容は、米国は軍事演習と敵視政策を止め、朝鮮は核・ミサイル追求を中止し、双方は平和協定へのロードマップを完成させる努力をすべきだというものである。

 一方のトランプ政権が主張している「対話」内容は、朝鮮の核放棄ロードである。

 これでは、中ソの主張とは大きな開きがあり、朝鮮側も受け入れる要素はまったくない。

 従って、同じ「対話」だといっても、米国が考えている内容とは大きな開きがあり、米国流対話内容はすでに過去のものになっているのである。

 
2.
 米国に好戦的なトランプ政権が誕生して以来、朝米間の緊張度合は上がりっぱなしである。朝鮮半島の危機感をこれまで以上に醸し出している。

 その最大の要因こそ、秩序を欠いた言動が多いトランプ政権にある。

 理由は、トランプ氏を含む政権全体に、朝鮮半島および朝鮮についての知識が不足しているうえ、情報をコントロールして発信する上級スタッフを欠き、または短期間で入れ替えするなどして、真剣に朝鮮との問題を解決していくという政治姿勢になっていない、欠陥政権だからである。

 だから、対朝鮮へは政治的圧力、軍事的圧力、経済制裁偏重となり、それも早期の結果を追求している。すべての原因が稚拙な自らの政策にあることに目をつむり、予定通りに進展していかない責任を、中国やロシアに押し付けている。

 敵視政策と軍事圧力を強める米国に対して、自衛権行使のために核とミサイル防衛体制の強化策をはかってきた朝鮮。

 脅せば朝鮮は白旗を上げるだろうと傲慢に構えているトランプ政権は、対抗してくる朝鮮や中国、ロシアに向けたプロパガンダ情報を流し続けて、煙に巻いている。

 日本のマスメディアは、その米プロパガンダ情報を検証することもなく垂れ流し、「北朝鮮は恐ろしい国」だとの、世論操作に加担している。

 毎日新聞の社説も、朝鮮が一方的に「脅威」を高めているとして、逆に危機意識を煽っているのだ。


3.
 小野寺五典防衛相は10日の衆院安全保障委員会で、米軍基地のあるグアムが攻撃された場合、集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」にあたりうるとの考えを示した。憲法の拡大解釈にあたる自衛隊の参戦の可能性を示唆した。

 安全保障関連法を審議し、決議した15年9月の国会では、朝鮮からのグアムへのミサイル発射が日本の存立危機事態にあたるかどうかについては、まったくテーマにならなかった。

 にも関わらず、安倍政権は、「リスクを共有しない同盟はない」として、集団的自衛権の行使を一部認める憲法解釈変更の「武力行使の3要件」を決定した。

 武力行使3要件とは、存立危機のほかに、「必要最小限度の実力行使」「ほかに適当な手段がない」がある。

 安倍政権は、自衛隊の参戦への道を開いたのだ。

 日本が米軍と共に行動を起こせば、朝鮮だって黙ってはいないだろう。当然、反撃と、日本を標的にした攻撃への公算が大きくなってくる。

 安倍政権が直ちに実行すべきは、「リスクを共有しない同盟はない」などとの主張ではなく、朝米対話への環境を作ることと、そのことをトランプ氏に進言することである。

 米ウォール・ストリート・ジャーナル日本版は、「北朝鮮問題、トランプ氏の忠実な相棒」と題した論評で、「トランプ氏にとって頼りになる人物が1人いる。日本の首相はいつでも賛同してくれるのだ」と、安倍首相を皮肉っている。

 毎日新聞社説氏にも、その程度の観点で論を展開してほしかった。


4、
 南朝鮮の「8・15凡国民平和行動推進委員会」と「6・15南側委員会」は8月7日、ソウルの龍山米軍基地3番ゲート前で記者会見を開き、「米国の内政干渉中止、平和協定締結」をスローガンに掲げ、運動を展開していくことを表明した。

 さらに、米国の対北敵視政策が朝鮮半島の緊張を激化させてきたと強調。

 「制裁と圧力では朝鮮半島の平和を実現できないことが、過去の経験的教訓」であると主張し、「米国は朝鮮民主主義人民共和国との平和協定を通じ、朝鮮戦争を終息させなえればならない。それこそが朝鮮半島に平和を定着させる唯一の道だ」と訴えた。

 この声こそが朝鮮人民の声であり、世界良識の声である。

 なお、最後に、朝鮮の自衛権、自主権行使の権利について、もう一つの観点、約160年前のエンゲルスの説を紹介しておく。

 エンゲルスはマルクスとの連名で、「共産党宣言」(1848年)を出版した。

 当時、1850年代末から60年代にかけて、プロイセンが置かれていた国際環境から、エンゲルスはプロイセンの軍制改革について次のように述べている。

 「一方の側にはフランス軍、他方の側にロシア軍がいて、両軍が連合して同時に攻撃してくる可能性がある限り、敵前ではじめて士官学校の知識を学ばなければならぬ、ということのない部隊が必要である」(「プロイセンの軍事問題と労働者党」)として、軍事支出が少なく抑えられる民兵制より、常備兵(徴兵、現役兵)の服務年限を延長する論理に賛成している。

 つまり、敵国が圧力をかけているときに、防衛力を強化していくことこそ、国と民族(人民)を守る最大の任務だと言っているのだ。

 朝鮮がなぜ核を保有したか。それは米国の核恫喝が直接の原因であった。

 米国の恫喝によって核政策を放棄したイラクやリビアなどが、その直後の米軍の攻撃によって、政権が崩壊している。

 第2のイラクやリビア現象に陥らないため、朝鮮は核技術を向上させることで強力な自衛権を手にした。

 その核政策を放棄しろとする主張は、朝鮮に白旗を上げろということと同じである。


                                                                  2017年8月24日 記
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愛媛現代朝鮮問題研究所のブログです。

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