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「米国のアジア覇権140年後のいま」

「米国のアジア覇権140年後のいま」


1.はじめに

 米国のアジア覇権史を語る前に、日本が米帝国主義手法を学習して、朝鮮侵略への突破口とした「条約」の欺瞞性を記すことにする。

 当時の近代社会の法規定を装った「条約」こそ、米国がアジア覇権戦略上で、日本に押し付けて朝鮮開国の方法論を伝授することで自らの野望を遂げた「武器」であったと言える。

 帝国主義者の狡滑な手口とはいえ、日本はもっと酷い手口で朝鮮を植民地化した。

 この日米韓(朝)3カ国の関係。日本は、現在は米国を盟主とした日韓両国が繋がりで、米国のアジア覇権の伴奏者となっている。

 少し時代を遡ってみよう。


2.江華島条約以降

 明治政権が朝鮮への侵略行為を開始した江華島条約締結(1876年2月)から9年後の1883年7月、「日朝通商章程」(日本人貿易規則及び海関細目)を朝鮮に強要した。

 「章程」で、全羅・慶尚・江原・咸鏡4道での沿岸漁業権を奪取するとともに、「朝鮮人が日本の肥前、長門、出雲等の沿海に出漁できる」と定めた。

 これは、日朝双方の漁民が、日朝双方の沿岸で出漁できるとし、さも、近代社会の平等・互恵原則で締結したように装われた欺瞞的なものに過ぎなかった。

 事実、江華島条約締結(釜山を水産進出基地とした)直後から、朝鮮の東・南海一帯で日本漁民が密漁行為を繰り返し、朝鮮側の海産物を集団で略奪していた。
 
  この密漁行為の中で、明治政権側も朝鮮近海には豊富な水産資源があることを認識し、「章程」の締結へと動いた。(朝鮮側の水産資源を独占するために)
 
  その露骨な帝国主義的収奪意図を隠すための表現に、朝鮮漁民にも一部の日本沿海での出漁を認める規定を付加しているが、水産資源の豊富な漁場を棄てて、わざわざ日本まで来て漁をする朝鮮漁民などいるはずもない。
 
  それを証明するように「章程」後の日本漁民は、水産資源ばかりでなく、済州島およびその周辺地域に上陸して財物を略奪、住民を虐殺、婦女子を強姦するなど、まるで海賊に等しい蛮行を、「条約」という法規をバックボーンにして行った。
 
  さすがの朝鮮王朝政府も、被害住民たちの訴えを聞き入れて、日本漁民たちの蛮行に抗議し、犯罪者を逮捕し引き渡すこと、彼らが犯した暴力による被害賠償金の支払いを日本政府に要求した。
 
 これに対して明治政権は「調査をして対策を立てる」との返答で、問題解決を引き延ばしていた。
 
 蛮行は収まらず、やむを得ず犯人の一部を逮捕し、形式的に裁判にかけた。
 
 裁判長(長崎裁判所)は政府の意向を汲み、被害者の済州島民の証言を聞かず、犯人たちの虚偽的陳述を証拠として、「わが漁民が、威嚇と被害を免れるためにやむなく暴行、殺人をしたのであって、その罪を論ずることができない」(「日本外交文書」韓国編)などと、正当防衛論を展開して無罪釈放した。
 
 理屈にならない無罪判決を得た日本漁労民たちは、朝鮮沿海でどのような横暴を働いても罪にならないことを知り、ますます朝鮮の漁場と、朝鮮人民への暴力行為を繰り返した。
 
 日本帝国主義による朝鮮人民への不当な暴力行為は140年前の条約(江華島)下で容認されていたのだ。


3.日米和親条約以降

 翻って幕藩体制末期の、日米関係を学習しておこう。

 江戸幕府が鎖国を破った最初の条約が、日米和親条約(1854年3月調印)であった。

 下田・函館両港のアメリカ船寄港、物資買い入れ、下田に領事を置くことなどを認めた。

 しかしアメリカ船の薪・水・食料・石炭などを主な目的とし、売買も日本の役人の手を通し、私人との取引を禁じる制限を設けていた。

 5月の下田で和親条約付録(下田条約)を経て、日米修好通商条約(1858年6月調印)に吸収される。

 日米修好通商条約は、貿易の自由を認めるなど、本格的開国に踏み切った最初の条約。

 米国の砲艦外交によって日本を開国させた同条約のほぼ同じ内容でオランダ、ロシア、フランスと条約を結んだ。(安政の5カ国条約)

 すでに開港されていた下田、函館に加えて、神奈川・長崎・新潟・兵庫を開港し、開港場に外人居留地を設定して、その周囲に遊歩区域を設け、商業活動のため、外人の江戸、大阪滞在を認めた。

 また領事裁判権を認め、自由貿易の原則を規定したが、それは関税自主権を否定するなど、日本が一方的に不利な不平等条項であった。

 明治政権は、米国から不利な条約を強要された「日米和親条約」「和親条約付録」「日米修好通商条約」などの内容を、朝鮮に押し付けた。

 しかも、そのためのテクニックまで米国から事前に学習し、米欧列強たちの朝鮮侵略先導役まで果たしていた。


4.日米安全保障条約以降

 では、現在はどうか。

 日本敗戦後、米軍の日本駐留を規定した「日米安全保障条約」(日米安保)を、1951年9月の対平和条約と同時に調印。

 米駐留軍は、極東における平和と安全の維持のため、外部からの武力攻撃に対して、日本の安全に寄与するためだと、殊更な表現となっている。

 その当時、朝鮮戦争が38度線での陣地防衛線に移行しており、米軍は、「夏季および秋季攻勢」作戦を展開し、同時に休戦会談も提案していた。

 米国は、日本列島を安定して使用できる後方基地強化策のために、日米安保を急きょ策定し、日本に押し付けた。(同年6月には、戦争責任者の公職追放を解除している)

 以後、米国側は日本の軍事力増強を繰り返し要求し、日本も自衛隊が強化されるにつれて条約改定を要求。

 60年1月の改定新条約(6月23日発効)、70年安保改定などを経て、現在は「日米軍事同盟条約」の趣となっている。

 問題は、日米安保に基づき、米駐留軍の配備に関する条約等を規定した「日米行政協定」(52年2月調印)である。

 日本は無償で米軍に区域、施設を提供し、米軍にその使用・運営・防衛のための権利を認めた。

 さらに、関税・入港・着陸料・手数料などの免除、公益事業、公共の役務の優先的利用、米軍人・軍属とその家族などに対する刑事裁判権(その後の改定で、公務執行以外の行為から生じる罪は、日本側が第1次崔番権を有するとした)などの特権を米軍に与えた。

 このような米軍への特権は、明治時代の不平等な日米修好通商条約を彷彿させる内容となっている。

 しかも日本は、米軍の日本での調達費として、高額な防衛分担金→思いやり予算まで提供しているのだ。


5.日米韓3か国関係

 以上、近代社会以降の日米関係を少し学習した。

 そこから見えてくるのは、米国の西進(侵)とアジア覇権路線が現代まで続いており、そのアジア地域での要となる日本列島と朝鮮半島の軍事基地化政策であった。

 明治政権以降の日本は、そうした米国のアジア戦略の先導役を果たしつつ、自らの軍事力を強化し、朝鮮及びアジア地域への侵略へと突き進んでいった。

 現在の安倍晋三政権は、オバマ米政権の思惑に誘われつつ、上記のような戦前回帰路線上を歩もうとしている。

 このような安倍政権を誕生させてしまった私たちは今、非常に危険な岐路に立っている。

 そのような危険状況の中で、南朝鮮が、日韓で防衛情報を共有する「日韓秘密情報保護協定」の締結へ道を開こうとしているのだ。

 韓民求国防相は14日の国会答弁で、「軍事的な必要性を十分認識している。北朝鮮の核ミサイル問題が深刻な状況に至り、必要性が高まったと評価している」とGSOMIAの必要性を語り、「締結をするという意味ではなく、認識がそうだと申し上げた。国民の同意などが今少し必要だ」として、慎重姿勢も見せていた。

 GSOMIAについては、米国の強い要請で、日韓両政府は2012年6月に締結する予定であったが、南朝鮮側の官民あげての強い反対運動があり、直前になって延期された。

 米国は、安倍政権には、「後方支援」名目など、安保関連法案を仕上げさせて、自衛隊の朝鮮半島上陸作戦を可能にし、朝鮮半島有事に備えようとしている。

 米国が一番、GSOMIAを必要としているのだ。

 日韓がGSOMIAを締結すれば、近代社会以降、米国が推進してきたアジア覇権戦略が完成していくことになる。

 米国は、オバマ後の新政権であっても、中国封じ込めのアジア地域支配スタンスで立つであろう。

 米政権中枢部メンバーたちが、朝鮮核ミサイルを利用して、朝鮮半島やアジア地域の「平和」「安定」「安全」を語り出すとき、その裏面に隠している覇権主義の「武器」を、指摘し批判していく必要がある。

 今後とも、米国のアジア覇権戦略の動向と、その動向に合わせて進む日韓両政権の強硬政策、朝鮮敵視政策を注視し、批判活動を展開していく必要がある。


                                                                 2016年10月16日 記
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「『核兵器禁止条約案』国連総会に提出」

「『核兵器禁止条約案』国連総会に提出」


 核兵器禁止条約の交渉開始を求める決議案を、オーストリア、メキシコ、ブラジル、南アフリカ、ナイジェリア、アイルランドなど6カ国が13日、国連総会第1委員会(軍縮)に提出した。

 決議案は、核兵器禁止条約の交渉を来年3月27日~31日と6月15日~7月7日の2回、ニューヨークの国連本部で行う内容である。

 事前協議で、決議案の賛成国は多いものの、賛成する非核保有国と核保有国(日本を含む核の傘にいる国も)との駆け引きが続くことが予想される。

 イギリスなど核保有国は、朝鮮の核実験を例に挙げて、「核実験禁止条約」の方が現実だと主張。

 全世界の核兵器条約議論が、国連の場で緒についたばかりの時に、朝鮮の核保有・実験が「問題」として利用されることは何とも残念だ。

 一方、日本も同じく13日、核兵器全廃を目指す決議案を提出した。

 日本の決議案は、段階的な核軍縮を主張する米国などの意向を踏まえ、核拡散防止条約(NPT)体制を強化し、核保有国と非核保有国との「意味ある対話」を呼び掛け、協力を促すことが目的。

 さらに、朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射をNPT体制への「挑戦」だと位置づけ、核活動の検証可能かつ不可逆的な形での即時放棄を要求する内容となっている。

 この日本の決議案は、先に米国が提案の「核実験禁止」が国連安保理で決議された内容、意図が同じである。

 当然、朝鮮からの反発は必至。

 しかし、「核兵器禁止条約」が国連の場で議論、検討されるようになったことは、世界の趨勢が間違いなく、朝鮮が主張してきた「世界の非核化」へと歩み出したことを実証している。

 その実現のためには、長い時間と限りない努力が必要とされているが、これは、世界の自主化運動の一環である。


                                                                 2016年10月15日 記

「9代目国連事務総長に期待すること」

「9代目国連事務総長に期待すること」

 国連安全保障理事会が、今年末で任期を終える藩基文国連事務総長の後任に、国連難民高等弁務官を務めた(2005年から2期10年)グテレス元ポルトガル首相(95年から6年半)を選んだ。

 これまで、拒否権を持つ常任理事国間の裏取引、駆け引きによる密室協議が先行し、結局、藩氏を含む8人の歴代事務総長は、米国好みの人物が選ばれてきた。

 国連憲章には、世界の平和、安全に脅威を与える問題について、安保理に注意を促すことが規定(安保理を直接指導できる権限はないが)されている。

 ところが、米国の力の背景で選ばれたこれまでの事務総長は、米国による朝鮮半島の南北分断強行、南朝鮮単独選挙、朝鮮戦争、駐韓米軍の撤退問題、停戦協定の朝米平和協定への転換問題など、何一つとして朝鮮半島の平和と安全問題に寄与してこなかった。

 むしろ逆に、米国に気兼ねしてか、米国が進めてきた朝鮮人民の南北分断政策を支持してきた側面も見られる。

 藩氏の場合、朝鮮人として朝鮮半島の現状を憂い、朝米平和協定締結のために、国連の場で汗をかくと期待されていたが、やはり、米国の意向で選出されたとの思いがあってか、北の核、ミサイル、人権問題を米国目線で繰り返していた。失望している。

 今回の9代目の事務総長選びについては、公開質疑と6回の模擬投票など、透明性を高める改革があって、人物本位で、グレテス氏が選ばれたようだ。

 グレテス氏もまた、現在のシリア危機や難民問題への課題に向けて行動を起こしていきたいと意欲を語っていた。

 欧州の危機への対応も重要であるが、アジア危機、特に朝鮮半島危機にも目を向けてもらいたいと思う。

 朝鮮半島危機という時、米プロパガンダ情報が流す北の核開発やミサイル発射が問題ではなく、朝鮮戦争停戦協定が調印から63年経っても平和協定に転換されていないことの異常性が、根源的な問題である。

 来年1月から、9代目の国連事務総長に就任するグレテス氏が、朝鮮半島の危機問題に目を向けることを期待したい。

                                                                  2016年10月10日 記

「米次期政権への期待度」

「米次期政権への期待度」

1.
 2006年10月9日、朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)が初めて核実験を実施して以降、日本のマスメディア各社は挙って、国際社会への「挑戦」「挑発」だと断じ、それを「暴挙」だとして「制裁」を科す必要があると論じ、報道してきた。

 そうした論調の本家は、米政権から発せられたものであったから、米国の意向を無批判に垂れ流す宣伝機関となっていた。

 もう少しはっきり言えば、日本と韓国の両政権が米国以上の悪態をついて批難していることに同調し、政権との朝鮮バッシング合唱を行ってきた。

 つまりマスメディア各社は、日米韓3か国政権の対朝鮮制裁強化の外交政策を支持、後押ししていたことになる。

 そうした報道姿勢であったから、朝鮮半島情勢や朝米対話での問題解決を提唱している中国やロシア、欧州などの主張についてはまったく触れないか、断片的にしか伝えていない。

 それはまるで米政権の意図を汲んで、「国際社会」が朝鮮への制裁論を支持しているのだと、「演出」をしているに等しい。

 その演出を裏付けようとして、どのメディアも朝鮮問題研究者・専門家を登場させ、メディア作文を裏書きする内容のコメントを引っ張り出してくる。(または、万一のときの責任回避用の手段として)

 残念なことに日本社会と個々人は70数年間、朝鮮半島問題や在日朝鮮人問題関連では、様々な虚偽情報が擦りこまれ、それすら疑うことも知らずに、朝鮮問題を論じてきた。(若しくは批判してきた)

 こうしたマスメディアの罪は、政権側が作文する朝鮮半島危機策動以上に重い。

 もはや、朝鮮関連のマスメディア及び報道マンたちは、ジャーナリズム精神を全く欠いていると言うしかない。


2.
 日米韓3か国およびマスメディア側が言う「国際社会」に朝鮮は入っているのだろうか。

 米国に従わないリビアやシリアなど、中国やロシアはどうか。

 2期目以降のオバマ政権は、核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す朝鮮を持余し、国連安保理での朝鮮制裁決議のナイフを製造し、国際社会(全国連加盟国)にナイフの使用を要請し続けている。

 では、国際社会の反応はどうか。

 データが少し古い(2010年4月)が、手元にあるその実態数字を見てみよう。

 *西ヨーロッパグループ27カ国中26カ国が何らかの制裁を実施(報告した)

 *東ヨーロッパグループ23カ国中18各国(同)

 *アジアグループ52カ国(朝鮮を除く)中26カ国(同)

 *ラテンアメリカ・カリブ海グループ33カ国中9カ国(同)

 *アフリカグループ53カ国中5カ国(同)

 上記の傾向は、現在でもほとんど変化はない。

 中南米やアフリカ諸国では、対朝鮮制裁決議に批判的であると同時に、自主時代を開拓していく同志国としての、朝鮮との結びつきが深く長いという結果を示している。

 この数字から、国際社会は決して米国の対朝鮮制裁に同調しておらず、朝鮮は決して国際社会から孤立しておらず、逆に米国の不平等な要求に反発していることがわかる。

 そうしたことを危惧したのか、米国の意向を受けた日韓両国は、援助金というアメ玉を用意して、「対朝鮮制裁」実行を口説く首脳外交を、アフリカと中南米で展開している。

 世界平和に逆行するような、米国の先兵隊的な外交は直ちに中止すべきだ。

 日本の安倍晋三首相も、韓国の朴槿恵大統領も、世界の声にもっと耳を傾けるべきだ。


3.
 オバマ政権8年間の対朝鮮政策(核問題)は、完全に失敗している。

 ブッシュ政権時のネオコン閣僚たちが、朝鮮に自衛のための核兵器保有を決定させたとすれば、オバマ政権の「戦略的忍耐」政策は、朝鮮に核兵器を、質、量ともに強化する措置を取らせた。

 このような現象は、米国自身の核政策の矛盾と傲慢さに原因がある。

 米国は、現実の核兵器を保有したまま(臨界前核実験などで)、他国に核廃棄を説得する「世界の非核化」を唱えている。

 全世界の核兵器禁止運動には、強く反対し、朝鮮への核恫喝(核先制攻撃など)政策を続けていることの、何重もの矛盾点の淵に沈んでいる。

 世界の自主化発展に伴い、核問題での米国は、今や孤立化状態に陥っている。

 そうした傾向にヒステリックになったオバマ政権は、朝鮮が核実験を続けているのは、中国が制裁への抜け道を作っているからだと、中国責任論を展開している。

 これに対して中国外務省報道官の華春瑩は、「朝鮮の核問題の原因と難題は中国というよりむしろ、米国に責任がある」、「問題の核心は朝鮮と米国の対立にある。どのようにして今日の状況が招かれたかを反省し、効果的な解決方法を探し出す必要があるのは米国である。自ら生み出した事態を緩和するのは実行者であるべきだ。米国は当然支払うべき責任を負う必要がある」と、冷静に反論している。

 華報道官の発言内容は中国の原則的立場であって、当然のことながら、彼女の一時的な意見の表明ではない。

 「朝鮮半島の永続的な平和と安定へのアプローチは、対話を通じて見出さなければならない」とも語っている。

 日本のマスメディアは、中国のこの原則的な立場の発言を報道せず、米国が主張する「中国責任論」にばかり言及し、朝鮮半島の危機を煽っている。


4.
 近年、米国社会の一部では、朝鮮制裁の無益さが認識され、外交手段による危機の解決を支持する声が出てきている。

 米核科学者のジークフリート・ヘッカー(何度も朝鮮を訪問している)は、所属する『38ノース』に、米政府は金正恩政権と交渉するのが不快だと考えるかもしれないが、不足しているのは外交だと発表して、朝鮮との対話による核問題解決を提案している。

 また、元米駐韓大使のジェームズ・レイニーは、一歩進めて、朝鮮戦争の正式な終結と、1953年の休戦協定に代わる平和条約の締結を提唱している。

 残り時間がほとんどない今のオバマ政権にとって、こうした声を聴いて取り組む余裕はまったくないだろう。

 だが、次期大統領(クリントンであれ、トランプであれ)の政権にとっては、米国内から出てきた声として、朝鮮との対話外交路線を無視することはできないだろう。

 内容はともかくとして、政権として最優先事項にする必要性も出てくる。(オバマ政権の「戦略的忍耐」の見直し)

 もし、ヒラリー・クリントン氏が大統領になった場合は、夫のビル・クリントン氏が2000年に中断した朝米接近外交(関係正常化)を利用し、再開することだって、朝米双方にとって悪いことではない。

 ヒラリー・クリントン政権が成立すれば、その可能性が政権内外で大きなテーマとなるだろうが、夫のように時間を費やす前に、迅速な決断と実行が求められている――。

 
 


 今日、10月10日は朝鮮労働党創立71周年の記念日である。

 これまでの原稿は米国批判を基調に書いてきたが、間もなく米新政権が誕生するのに合わせて、その新政権が対朝鮮政策でとるべきスタンスを考察しながら書いた。

 朝鮮との核問題で疲れ切っている米国社会、朝米対話を主張する潮流などから、新政権が進むべき道を「対話外交」とした。

 単に「希望」とまでは言えず、米新政権がこれまでの対朝鮮政策の失敗を真剣に学べば、自ずと出てくる結論であり、朝鮮外交でいいスタートを切れるはずだ。


                                                                 2016年10月10日 記

「安倍政権へのレッスン」

「安倍政権へのレッスン」


1.
 安倍晋三首相は昨年の「戦後70年談話」で、かつての大戦を侵略戦争だったとは言わず、朝鮮半島を植民地支配したことにも言及せず、「アジア解放論」的な言説を駆使していた。

 その延長上で、十分な国会論戦のないまま、安全保障関連法(戦争法)を成立させ、「駆け付け警護事態」などの解釈次第(国会にはからず)で、朝鮮半島有事の場合、自衛隊が朝鮮に上陸し攻撃ができる道を開いてしまった。

 安倍政権の日本ナショナリズム、歴史修正主義、極端な右寄り・戦前回帰的な性格が表面化していることを示している。

 閣僚人事にもそれが表れている。

 その一人が稲田朋美防衛相である。

 彼女の歴史認識は安倍首相に近く、以前からタカ派的な言動で知られている。

 月刊誌「正論」(2011年3月号)で、「長期的には日本独自の核保有を国家戦略として検討すべきではないか」と語っていた。

 そのことを参院予算委員会で、民進党の蓮舫代表に追及されて、「非核三原則を守り、核のない世界を実現するために尽くしていく」「現在、核保有はまったく考えていないし、考えるべきでもない」と、秘書官から渡されたメモを読み上げてかわそうとした。

 しかし、防衛相就任直後の記者会見では、「将来的にどういった状況になるかもあるが、現時点で核保有を検討すべきではない」と、メモなしでの発言の方が本音を語っているようで、防衛相を辞めれば再び持論を復活させるのでは、との予感を持った。

 彼女は「変節」(蓮舫氏)したのではなく、一時的に「変装」しているにしか過ぎないのではないか。

 しかも防衛費を「軍事費」と表現していることは、安倍首相が自衛隊を「わが軍」と呼んでいたときと同調している。

 何とも気味の悪い政権だ。


2.
 米国は、安倍政権の右寄り戦前回帰的な性格を上手く活用し、利用しながら、自らのアジア重視政策を推進している。

 中国及び朝鮮を牽制する役を日本に負わせ、自衛隊の「軍隊化」容認を進めている。

 少なくとも、アジア地域において、自衛隊がいつでも米軍の代役になれるよう、米国内、日本内、日米共同の法整が進行中である。

 同じような事柄が、日本が朝鮮を植民地化する、その最初に強要した「江華島条約」に映し出されている。

 幕末、日本が米国から受けた不平等条約のコピーを、改めて米国のサゼスチョンを受けて、朝鮮に押し付けた。

 日本が1876年2月に締結した江華島条約は、12カ条で構成されている。

 条約第1条で、「朝鮮国は自主国であり、日本国と共に平等な権利を有する」、両国は、「同等の礼儀で相対し、僅かな侵略もしないことにより双方の永遠なる安寧を期す」と規定した。

 「平和」「同等」「不可侵」などの美辞麗句で飾り、日本が朝鮮を侵略する意思もなく、助けるために条約を締結したのだと、専ら西欧列強国に日本の侵略性を覆い隠すための欺瞞的なものであった。

 この第1条の規定を通じて、日本は、「自主国」の朝鮮と「平等」的、「平和」的外交関係を締結したためにどの第3国もこの両国の関係に対して干渉することはできない、という「論理」を構築したのだ。

 朝鮮を独占して支配するためのテクニック、論理であった。

 最後の条約第12条で、不可変の条約で永遠に遵守しなければならないとし、双方はこの条約を両国間の平和親善を厚くするために服従しなければならないと定め、朝鮮が条約を破棄できないような仕組みで隷属化した。

 条約全体で、日本に開港権、開港地の土地賃貸権、家屋建築権、沿海測量権、難破船寄港修理権、自由通商貿易権、公使及び領事駐在権、治外法権、補充条約締結権など、一方的な侵略特権を規定する内容となっている。

 これらの規定は、欧米資本主義列強が日本に強要した不平等条約と同じで、隷属的な内容を朝鮮側に一方的に押し付け、調印させた。(軍事力を背景に)

 江華島条約は、朝鮮を日本資本主義、帝国主義下の半植民地に隷属するために締結された、侵略的で欺瞞的な文書であったのだ。

 同時に、江華島条約締結は、欧米列強が朝鮮を侵略するのに有利な道を作り、日本帝国主義が欧米列強の対朝鮮侵略を容易にする道案内の役割を果たした。

 特に当時の米国は、米武装「シャーマン号」が撃沈(1866年)、米アジア艦隊の敗北(1871年)など、数回にわたる朝鮮への武力侵攻に惨敗していた。

 このため、米帝は、朝鮮への単独侵略計画を放棄したが、侵略の道案内(開拓者)として、日本の明治政権を押し立てた。

 江華島条約は結局、日米侵略政権による共同行動であったことになる。

 シャーマン号事件から150年後の現在、日米両政権は共同して朝鮮への「制裁」攻撃を行っている。

 再び、朝鮮半島およびアジア地域に「軍隊」を侵攻させる動きをしている安倍政権を、強く危惧している。


                                                                  2016年10月9日 記

「『おわびの手紙』が書けない安倍首相」

「『おわびの手紙』が書けない安倍首相」


1.
 安倍晋三首相は3日の衆院予算委員会で、南朝鮮の元軍慰安婦への「おわびの手紙」を出すことを強く否定した。

 日韓両政府が昨年末、韓国が元慰安婦を支援する財団を設立、日本が10億円を拠出することなどによって慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」で合意した。

 合意に至る道筋では、アジア戦略における日韓協調を必要としている米国が、双方政権に「圧力」という演出を行っている。

 その結果、日韓双方とも問題点を残しつつ、金銭的解決での着地点で合意した。

 その直後から、南朝鮮の元軍慰安婦たちや支援団体は、首相による公式の謝罪を求める運動を展開しており、その後、韓国の財団側も安倍首相の「おわびの手紙」を求めていた。

 安倍首相が手紙を出すことを拒否したのは、これに対する回答の意味があるのだろう。

 南朝鮮ばかりではなく、慰安婦問題が抜本的に解決しないのは、日本側の歴史認識にある。

 特に安倍首相とその周辺の右派論客たちは、「軍の関与はなかった」「強制連行はなかった」「当時の公娼制度での慰安婦だった」「対価を受け取っている」などと、植民地支配制度から見える部分的痕跡を、都合よく展開している。

 そのため、反省もなく、歴史的清算もできずに、各国に不信感を与えている。


2.
 慰安婦問題に関して、東京で開かれた民衆法廷「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」のハーグ最終判決(2001年12月)で、多くの証言と公文書資料に基づいて、昭和天皇をはじめとする日本軍責任者10人が、「人道に対する罪」で断罪された。

 さらに、日本政府に「明確かつ曖昧さのない形で」謝罪を求める決議案が、米下院本会議で採択(2002年7月30日)、同年オランダ下院本会議(11月)、カナダ下院(11月)、欧州議会本会議(12月)、韓国国会(08年)、台湾立法院と広がった。

 日本国内でも2008年の宝塚市議会の意見書採択以降、2010年3月末までに20の市議会でも意見書が採択されている。(金富子著「継続する植民地主義とジェンダー」世織書房刊より)

 90年代以降の歴代政権は、外交上、形式的には、「遺憾」「謝罪」を繰り返してきたが、「植民地支配」という表現での「謝罪」ではなかったため、世界の批判のトーンが上がっていった。

 その批判に応える形で95年、民間からの募金での「補償にかわる措置」として、「女性のためのアジア平和国民基金」(07年3月解散)を設立。「償い事業」を行った。

 償い金が日本政府の資金ではなく、民間からの募金であった点で、日本政府の慰安婦への対応、歴史認識が批判され、まともな謝罪がなされていないと被害者がいる国々から反対表明が続いた。


3.
 「国民基金」は、民間からの募金で「償い金」を支払うと同時に当時の村山首相の「手紙」を添えた。

 今回、日本政府が韓国財団に拠出した10億円の性格は、「賠償」(国家間)ではなく、「補償」(国家―個人間)であったのだろう。

 その拠出金が、韓国の財団から元慰安婦たちに支払われるとすれば、「償い金」なのであろう。

 そこには明確な日本政府の謝罪はない。

 であるから、安倍首相の「おわびの手紙」を求めるのは、当然のことである。

 安倍政権の歴史観を問うているのだから。


                                                                 2016年10月4日 記 

「日本の無責任体質」

「日本の無責任体質」

1.
 連日報道されている、東京都の豊洲市場の盛り土問題。

 小池百合子知事は9月30日の記者会見で、「責任者を特定することは難しい」との調査結果を発表した。

 都の調査チームがまとめた自己検証報告書の内容の説明で、都庁全体の無責任体質を指摘。

 土壌汚染対策として決まっていた盛り土計画(専門家会議が08年7月に提言)は、いつ頃、どのような経緯で変更され、地下空間となったのか。

 報告書では、経費6千億円近い大型事業の変更、決定、発注にもかかわらず、「1.部局トップの市場長が判断して事を進めた形跡はない、2.担当者らは許可済みと思い込み、上司や他の担当と連携せずに設計を固めていった」(朝日新聞、10月1日付)のだと、「流れの中で、空気の中で」(小池百合子知事)進んでいったとすれば、呆れてしまう。

 もう一つの論点は、都議会への説明責任である。

 報告書では、11年9月に都新市場整備部が地下空間を決めた後、都議会の委員会などで計21回の答弁の機会があった。

 土壌汚染対策に関連した質問に答えたのは土木部署。

 歴代の土木担当部長は、盛り土は敷地全体にされているとの認識で、前例に沿って答弁していたと言う。

 一方、施設の建設を担う建築担当部長は、建物の下に広い地下空間があることを認識していた。

 にも関わらず、盛り土についての答弁は担当ではないため、修正する必要を感じなかったと言う。(越権行為だと思ったのだろうか)

 さらに驚くべきことは、統括し、すべての答弁を了承する立場の市場長は、議会答弁と実態が違っているとの認識がなく、答弁案の修正や意思統一の整正もしなかったということが明らかになった。

 典型的な官僚主義的、無責任体質の人間群である。

 こうした体質は東京都庁だけではなく、地方の市町村、民間大企業も、同様である。

 誰も責任を取らず、責任も感じない。目前の間違いや問題点に気づいても、見て見ぬ振りをしている組織の中の人間関係を考えているとき、以前に読んだ、むのたけし氏の言葉を思い出した。

2.
 むのたけし氏は、戦後、ジャーナリズムの戦争責任を感じて、朝日新聞を退社し、秋田県横手市で、地域新聞「たいまつ」を発行した。

 以下は、むの氏が100歳のときの、「埼玉市民ジャーナリズム講座」での『戦後70年ー未来への課題、ジャーナリズム、メディアの再生』での講演の一部(抜粋)である。

 「・・・8月16日からは、戦争記事を書くために使った活字で、戦後のインターナショナルピースを語る新聞を作ったのです。それほど新聞はだらしなかった。日本の新聞社の中に、今からでも本当のことを伝えなくてはいけないと、たった1人でもいう人がいたら、日本中の新聞はがらっと変わったのです」

 「何をやらなければならなかったのかは、はっきりしています。まず、15年戦争とは一体何だったのか、何を目的として、誰があの計画を立てたのからなぜ行われたのか、これらを日本人自らの手で調べてら裁かなければいけなかったのです。そして、戦場へ行って何をやったのかを調べなければならなかったのです。中国では2000万人が殺されたといいます。強姦、略奪、火付け、それが許され続けたのです。三番目に、では、今後どう生きるかという作業を模索しなければならないはずです。・・・この戦争責任の問題に取り組まない限り、日本の社会状況は変わらないと思います」

 「・・・ドイツではワイゼッカー大統領が『ナチスを止めることができなかったことはドイツ民族の屈辱。お詫びします』と、ドイツ全国民の名において、迷惑をかけた方々にあの戦争の間違いを謝りました。ところが、日本は指一本動かさないのです。我々日本人は、やるべきことを何もやらないまま、ここまで来てしまいました。一番いけないことは、『自分でやる』のではなく、『してもらう』ことに慣れてしまったことです。

 神様仏様を拝んだり、英雄、偉人を拝んだり、政治家を拝んでも、何もなりません。拝むなら自分を拝め、ということです」

 以上、むのたけし氏は日本人の無責任体制は、一度立ち止まって、戦前、戦時日本を批判し、身に染み付いてしまった帝国主義思考を洗い落とさずに、今日まできてしまったところにあると言っている。

 まったくそのとおりである。その精神構造が、東京都庁職員たち(官僚機構)の無責任体制を形成している。

3.
 東京都庁問題を考える上で、もう一点、根源的なことを指摘しておきたい。

 第二次世界対戦の敗戦で日本は、45年8月15日を境に、天皇が主権の植民地帝国から、植民地を喪い、「日本国民」が主権をもつ国家へと変化した。

 しかし国家形成上における外形は、米占領軍の政策に従順に従って急変を装ったものの、個々人の内面は戦前と断絶することなく、米国式の民主主義や自由の仮りものをまとっていった。

 それをすぐさま、在日朝鮮人および中国人への日本国籍問題で、戦前の帝国臣民観を反省せず、排外思考に基づく不当な扱いを行なった。(外国籍をもつ「非国民」とした)

 そうした延長上で現在、在日朝鮮人差別思考やヘイトスピーチとなって噴出しているのではないか。

 今からでも遅くはないので、安倍首相の「70年談話」を含め、戦後70年間の総括をし、染み付いた戦前の帝国主義観を洗い落とす作業が必要だろう。

                                                                  2016年10月2日 記

「朴槿恵氏の舌禍」

「朴槿恵氏の舌禍」


 南朝鮮の朴槿恵大統領は1日、「国軍の日」の記念式典で演説し、北の政権運営を「反人道的」と非難した上で、「いつでも韓国の自由の地に来られることを望む」と、脱北を促す呼び掛けを行った。

 「北朝鮮が核と経済の並進路線を放棄しなければ、国際的な孤立や経済難は日増しに深刻化し、体制の亀裂や内部の動揺は拡大するだろう」、「北の住民に真実を伝え、尊厳が重んじられて幸せに暮らせるよう、最善を尽くす」と語った。

 異常な発言である。

 現在の南朝鮮社会では、大学を卒業しても満足な就職ができず、経済不安と将来に対する不安感が広がっており、受験競争は過熱し、政・官・財の癒着病は深刻化し、自殺者も増大している。

 そのように病んだ社会では、「尊厳が重んじられ」るわけもなく、自由に暮らすこともできないだろう。

 まずは足元の不安定な社会構造を正し、政権・政党内部と国民との間の対立と不信感政治を解消していくことが、今の朴政権にもっとも求められていることではなかったのか。

 彼女の発言は、北に対して、強硬姿勢をとって、方針転換を図るという既定路線の延長であろう。

 しかし、その「既定路線」はすでに失敗している。

 失政を認めたくないため、さらに強硬発言を重ね、エスカレートして、彼女自身の孤立化を招いている。

 ここにきて、与党セヌリ党内部でも、「北の体制は揺らいでいない。朴政権の(北の)分析には、強硬路線の正しさを証明したい思惑があるのではないか」と語られているようだ。

 また、南朝鮮との外交、経済、軍事など多様な面での対北圧力政策を強化していきたい米国も、最近の朴槿恵政権が強く北朝鮮を非難し、南北対話に消極的になっている状況を懸念している。

 強硬発言のエスカレートの果てに、南北間の偶発的な衝突があるのではないかと、心配し始めているのだ。

 このような政権の姿勢から、政権と南朝鮮民衆との距離がますます開いていることが、現在の政権バロメーターとなっている。


                                                                  2016年10月3日 記

「シリア戦争と私自身の戦争」

「シリア戦争と私自身の戦争」


1.
 米英仏の要請で国連安全保障理事会は25日午前、(日本時間26日未明)に緊急会合を開き、内戦が続くシリア問題を協議した。

 しかし米露の溝は深く、批判と対決の場となり、外交的解決の道が遠のき、12日に発効した一時停戦は早くも崩壊の危機にある。

 維持されていた停戦が崩壊状態に陥った転換点の一つは、米軍主導の有志国連合が17日、シリア東部のデリゾールで、シリア政府軍などを空爆(米軍は誤爆だったと主張)した問題で、アサド政権は反揆し、19日に停戦終了を表明して、援助物資を運ぶ国連機関などの車列を空爆したためである。

 これで、米国とロシアの信頼が大きく崩れた。

 米国はアサド政権を平和の「スポイラー(破壊者)」とみて、反体制派を支援し、アサド政権の後ろ盾となっているロシアは、攻撃停止には米国が反体制派と過激派を引き離すべきだと主張して、両国の立場は平行線のまま。

 結局、シリア内戦は米露の代理戦争の様相を呈している。

 23日から26日にかけてシリア北部の激戦区アレッポで、政府軍の激しい攻撃が続き、300人近い犠牲者が出ている。

 その多くは女性や子供、一般民間人だ。

 戦争の犠牲者はいつも、立場の弱い一般民衆だ。

 
2.
 安保理会合でシリアの国連大使は、「シリアはリビアやイラクのようになるわけにはいかない」と主張した。

 米軍の軍事介入後、政権が崩壊し、国内が混乱して戦場と化した事例を挙げ、外国の介入こそが問題で、(米国などの)介入を拒否する姿勢を明確にした。

 即ち自主、主体的な意思表明であり、米国は彼の主張に真摯に向き合う必要がある。

 同じくシリアのアレム外相は24日、国連総会の一般討論演説で、有志国連合側による17日の空爆(誤爆)は、「意図的なものだ」と米国を非難した。

 一方で、米国のパワー国連大使は、「空爆は3日間で150回以上に及んでいる。蛮行だ」と、政府軍とロシアを非難した。

 もはや、国連機関はシリア内戦(戦争)の仲介を果たす役割を喪失し、米露の対立と非難合戦の場と化していた。

 『ニューズウィーク』は2015年11月3日号で、特集・国連の限界で、「国連は国際社会版町内会にすぎない」「(国連は)大国のエゴ、小国の自己宣伝、腐敗した国々の代表による利益獲得の場と化している」と指摘し、国連組織の欺瞞と脆弱性に言及していた。

 現在の国連機関を的確に表現している。

 シリア問題にして、また、朝鮮問題にしても、国連機関は根源的な問題討論や解決能力を喪失しており、米国ら大国の覇権行為の隠し場所となっている。

 国連が無能機関と評されてはいるが、それに代わり得る国際的機関が存在しないことが、21世紀になっても帝国主義国家の存在を許している。


3.
 さて、ここで少し、私自身の「戦争」のことを記す。

 2015年10月27日の2回目の手術で、腹水が若干たまっていて、小さく残した膵管内も、癌細胞の進展があることがわかった。

 その腹水が癌細胞を拡散していく可能性があるから、腫瘍(癌種)を縮小する目的での科学療法(抗癌剤)の治療が必要だと主治医の説明。

 1回目の手術は生還への希望を持っていたが、短期日内での2回目の手術は、死を意識しながら手術台に乗った。

 2回目の手術からも生還し、本質的に癌(帝国主義、外敵)と戦う戦線上に立つ覚悟を決めた。

 TS-1(内服薬)から始める。

 4週間内服、2週間休薬。朝と夕食後に2錠ずつ。計4錠服用。これを1クールとして4クール続ける。

 11月14日から、私自身の戦争を開始するのだと、病室の窓から見える夕景に呟き、たまっていた新聞紙面を広げた。

 その最初に目についたのが、大きな活字のパリでのテロ事件であった。


4.
 パリ中心部と近郊で13日夜(日本時間14日早朝)、サッカー競技場、劇場、レストランなど6カ所で自爆テロや銃乱射事件を、最初に見た新聞紙面は伝えていた。

 128人が死亡、250人以上が重傷と。

 「イスラム国」(IS)は14日、『忌々しい十字軍とのパリでの戦い』と出した声明、「戦士たちが不貞の都を攻撃した。爆弾と自動小銃で武装した8人の同胞がパリの選ばれた場所を標的にした」と、『ISフランス州』名義で発表した。

 オランド仏大統領はテレビ演説で、ISの犯行を断定し、「国内の共犯者の支援を受け、海外で準備、組織、計画された戦争行為だ」と非難し、非常事態を宣言した。

 劇場でのテロ実行犯が「これはオランド(大統領)の犯罪だ。シリアを攻撃してはならない」と、対IS空爆を批判したとの証言がある。

 ISは声明で、今回のテロ行為は、フランスが今年9月からシリアでの対IS空爆に参加(米国主導の対IS有志国連合)したことへの抗議であるとしている。

 新聞記事はおおむね、以上のことを伝えていた。

 これは、キリスト文明とイスラム文明の対立、キリスト教対イスラム教の戦争。米国が仕掛けたテロ戦争である。

 米国が、シリアのアサド政権を崩壊する目的で行ったのだ。

 こうした米国の内政干渉に、国連機関は何らの役割も果たせず、「有志連合」なるものを許してしまった。

 米国を中心とする有志国連合は14年からのイラクとシリアでの対IS空爆を1万回超え(2015年末まで)実施している。

 IS支配地域の空爆とは言うけれど、多くの非戦闘員、女性や子供たちが犠牲になっている。

 その彼ら彼女たちの無念の声が、国連機関には聞こえないのだろうか。

 大国のエゴに右往左往するのではなく、無名の人民大衆の怒りと悲しみの声をこそ、国連機関は聞くべきである。

                                                                  2016年9月25日 記

「朝鮮半島の38度線」

「朝鮮半島の38度線」

1.
 朝鮮半島を東西に横切る38度線。

 38度線は、朝鮮民族を南北に分断する象徴、恨みの緯度となっている。

 朝鮮半島をその形像から「うさぎ」に見立てているが、38度線はうさぎの首にあたる部分を通っているため、朝鮮人民に突き立てるアイクチと見て、なお朝鮮の苦悩、痛噴、怒りと悲哀を表現している。

 その危険極まりないアイクチを握っている犯人は誰か。

 米国である。

 米帝国主義のアジア地域覇権の最先端線が、この38度線であり、野望線である。

 米帝は、38度線を過去3回、時代と米国自身の戦略観によって、強固な最前線へと築き上げている。

 1回目は旧ソ連軍との占領境界線。

 2回目は朝鮮戦争停戦協定が設定した軍事分界線。

 3回目はこの9月に国連安保理に提起した核実験禁止条約での核攻撃「前哨線」である。

 ついに38度線は、米国(オバマ大統領)の黒い野望によって、地球での最も恐ろしい場所、米国の核攻撃最前線となってしまった。

 その始まりは71年前である。

 
2.
 38度線の受難史の最初は、日本敗戦後の朝鮮半島占領、米軍の侵攻線決定の米ホワイトハウスでの密室会議から始まる。

 以下、著書『2つのコリア』から、少し長いがその部分を紹介する。

 「45年8月10日夕、東京が和平を求め、ソ連が軍隊を動かそうとしているさなか、徹夜の会議がホワイトハウスに隣接するエグゼクティブオフィスビルで開かれた。 朝鮮やアジアの他の地域における日本の降伏が差し迫っている事態に、どう対応するかを決める会議である。 真夜中ごろ、2人の若い当局者が会議室の隣の部屋に送り込まれた。朝鮮における米国の占領地域を確定するためだ。ソ連が半島全域を占領し、直ちに日本に向かうという事態は阻止しなくてはならない。後にケネディ、ジョンソン両大統領の国務長官になった、ディーン・ラスク中佐と、後に在韓米軍司令官に任命されたチャールズ・ボーンスティールの2人は、ほとんど準備もないままこの作業にあたった。急いで仕事にかかり、大変なプレッシャーの下で、ナショナル・ジオクラフィック誌の地図を参照しながら、彼らは北韓38度線以南の地域を米軍が占領するよう提案する。38度線は半島のほぼ真ん中に位置し、首都ソウルの北にある。そしてソ連軍は38度線の北側を占領するという提案だった」

 「38度線は日本領土占領に関する米軍の一般命令第1号に急ぎ、盛り込まれた。米軍がまだ朝鮮の遠方にあって、現地到着に数週間はかかるという事実にも関わらず、ソ連は38度線から南へ向けての進軍を慎重に思いとどまった。このように朝鮮は2つの『暫定的』な占領地域に分割されるに至った。しかし冷戦が深まるにつれ、それはイデオロギーと支援国の対立を土台とする2つの憎しみ合う体制の場になってしまった」(第3版『2つのコリア』ドン・オーバードファー、ロバート・カーリン共著、共同通信社刊)

 朝鮮の南北分割への、定説となっている。

 今でもアジア軽視観の強い米国は、朝鮮の歴史、社会、地理など注目もせず、ほとんど無知の状態が当時のホワイトハウスの空気であった。

 8月10日の会議は専ら、ソ連との駆け引きに置かれている様子が、著書『2つのコリア』からもわかる。

 だがもう一点、38度線が世界史となっていく状在を付け加えておく。

 米大統領のルーズベルトは、朝鮮半島を米英ソ中による50年以上もの信託統治案(スターリンとも話し合っていた)を持っていた。

 45年4月、ルーズベルト死去に伴い、大統領に昇任したトルーマンは、対ソ封じ込め政策など、反共強硬政策に終始した。

 同時に、太平洋から西進してアジアの地域へ至る覇権意識をもって、日本列島(沖縄の米軍基地化)を基点とする朝鮮半島前線基地の反共防波堤ラインを構想していたと思われる。

 それが、8月のホワイトハウス会議でのもう一つのベースになったと考えれられる。

 米占領軍が南朝鮮に上陸した直後から、朝鮮人たちの自主独立建国運動を否定し、徹底した反共反ソ政策を推し進めたことが、それを裏付けている。

 米軍政庁は38度線の自由往来を禁じ、朝鮮人の自主権を奪い取った。

 その後の米歴代政権が、38度線を強固な軍事分断線へと築き上げ、オバマ政権は「アジア・リバランス」の重要前線基地にしてしまった。


3.
 2度目は、朝鮮停戦協定を遵守せず、38度線を軍事分界線とし、いつでも北侵できるラインにしてしまったこと。

 在韓米軍は、韓国軍の戦時作戦統制権を握り、形式上の米韓相互防衛協定を結んで、南朝鮮を支配している。

 毎年、数回の大規模な米韓合同軍事演習を実施し、第2次朝鮮戦争を誘発しつつ、共和国を恐喝している。

 恒常化した米国の恐喝政策はエスカレートしてゆき、軍事的圧力のほか、政治・経済制裁、核恫喝、国際的孤立化政策などを実施している。

 その延長上で、核先制攻撃論で脅しつつ、社会主義体制と金正恩委員長の抹殺、平壌と核関連施設へのピンポイント攻撃を想定した作戦計画の改訂、その作戦計画に基づく軍事演習などにより、38度線はまさに戦線の瀬戸際に立っている。

 現在、南北軍事境界線では、朝米および南北いずれの両軍の通話ラインが切断されたままである。

 つまり、38度線は朝鮮戦争停戦協定締結以前の状態となり、朝米両軍の緊張度が高まっているラインとなっている。

 その上で米国は、9月の国連安保理で「核実験禁止条約」を決議させ、38度線を「核攻撃前哨線」へと強化した。これが3回目である。

 「核実験禁止」の第1目的は、共和国の核実験を「禁止」することにあった。

 その上で米国は、爆発のない臨界前核実験を繰り返し、核を保有することができるようにしたいという思いのようである。

 米国は今も共和国への核先制攻撃発言を撤回せず、対朝鮮敵視政策を強化している。

 ということは、38度線が米軍による核攻撃の前線ラインとなったことを意味し、危険度が増したことになる。

 しかも、それを国際機関たる安保理が決議した。

 世界平和維持を無視した安保理は、米帝意思の下請け機関化しているとの批判は免れないだろう。


                                                                  2016年9月29日 記

「朴槿恵政権の反動性」

「朴槿恵政権の反動性」

1.
 現在の南朝鮮は、とても民主主義社会だとは言い難い。

 ファッショ体制を象徴する「国家保安法」を恣意的に用いて、野党、民主団体、労組、民主人士のほかにも罪なき一般民衆など多くの人々を、「従北」「容北」名目で逮捕し、弾圧し、恐怖政治を続けているからである。
 
 つまり、共和国のことを話題にしただけで、国家保安法を適用して、口封じを強行する政治体制を敷いているのだ。

 狂気政治というほかないが、それ以上に朴槿恵氏のヒステリックな声が聞こえてくる。

 南朝鮮の国家保安法は、日本の植民地統治の「治安維持法」を根源としている。

 1925年に制定された治安維持法は、28年に死刑制度を加え、41年に予防拘禁制度を導入して、思想、結社、運動の自由を剥奪し、朝鮮人の民族性と自主権の一切を否定した。

 朝鮮解放後、南朝鮮を占領した米軍政庁は45年10月、治安維持法を廃止した。

 しかし、南朝鮮全土に、単独選挙反対、米軍占領反対、李承晩政権打倒運動が激しくなり、ついには「米ソ両軍の撤退」「統一政府樹立」「李承晩政権退陣」スローガンを掲げたパルチザン闘争へと広がった。

 内戦状態となり、風前の灯となった李承晩政権は、米軍の銃剣と、右翼過激派、テロリストたちを使って徹底して弾圧した。

 それでも不安定な政権は、延命措置として、「国家保安法」を48年12月に強行制定した。

 恐怖感にかられていた李承晩は、日帝が制定した「予防拘禁制度」以上に改悪し、ファッショ政権の「武器」とした。

 国家保安法が「韓国版治安維持法」だと言われているのは、以上のような経緯があったからである。

 これにも「反共法」的性格は付加したので、米国は李承晩政権もろともこの「悪法」を保護した。

 そのため、李承晩政権は60年に人民闘争で追放されるまでの間、法と言う名の「武器」を駆使し、延命していた。

 その後に続く歴代政権、盧泰愚以降の民主政権も、国家保安法を存続させ、利用することで、政権延命を図ってきた。


2.
 朴槿恵政権は、李承晩時代同様に国家保安法を駆使して、政権に反対する人々に「容北」「従北」のレッテルを貼り付けて、弾圧・追放を強化している。

 徹底した反共和国政策を実施し、彼女自身は金正恩委員長への悪罵発言を繰り返している。

 ついには、尹炳世(ユン・ビョンセ)外相が22日、国連総会の一般討論演説で、「北朝鮮は国連加盟国としての資格があるか、深く再考しなければならない」とまで非難した。

 朴槿恵政権がこのように突出した反北言動を繰り返す理由は、外政と内政の失敗、国民と政権内の対立、大統領と閣僚たちのスキャンダルなどを、国民の目から反らし、隠すためであったと言われている。

 そのため、ことさらに「北の脅威」を煽り、エスカレートさせる中で、「容北」「従北」の武器を使っての弾圧を続けている。

 そうした政権運営には、政権と朴槿恵自身にファッショ的体質があり、それが前面に出てきた結果である。

 21世紀の現在、世界に例を見ない悪法の「国家保安法」が、金大中・盧武鉉政権の10年間においても、法改正や廃止が出来なかった。

 とはいえ、法を存続させたままでも、この悪法の利用度いかん、政権の前向きな性質と国民との距離間などによって、共和国との交流深度を計ることができる。

 金・盧政権の10年間がそれを実証し、南北交流と協力、信頼の「わが民族同士」を築き上げた。

 「わが民族同士」がさらに深まっていけば、国家保安法そのものが邪魔になり、不必要になっていくはずだ。

 このことから、南朝鮮の政権が統一問題をどのように理解し、どのように実行していくのかによって、つまり政権の性向によって、国家保安法を弾圧の「武器」として利用するのか、しないのかが、これまでの南朝鮮の政治史から見えてくる。

 李承晩政権とその軍事政権時代に、政権維持のために必要とした「悪法」を、そのまま存続させ利用することは、反動的、反民衆的、反民主的な政権であると、自ら貼り付けていることになる。

 ましてやその悪法をフルに活用することは、政権の外皮をどのように装おうとも、李承晩時代に先祖返りをしていると言えよう。

 政権の失政を隠すために悪法を使って弾圧している朴槿恵政権の政治的手法は、ファッショ的だと言うしかない。

 
3.
 反動的な朴槿恵政権下の南朝鮮で、継続して政権を批判し、地道に反対運動を続けている波の存在があり、活動していることは頼もしい。

 例えば、南朝鮮550余の市民団体で構成している「2016民衆総決起闘争本部」は9月20日、ソウル市内の記者会見で、11月21日に朴槿恵政権を審判する民衆総決起を開催する宣言した。

 また、民族和解協力汎国民協議会、対北協力民間団体協議会、自主平和統一実践連帯仏教委員会などが、8月末の大型台風被害を受けた咸鏡北道への支援活動を展開している。

 政権側が民間人道支援を不許可としている中で、支援活動の輪が広がっていることに、「わが民族同士」の意識が、南朝鮮の社会にはしっかりと根付いていることが理解できる。

 さらに7月に共和国側が提案して結成された「6・15共同宣言実践南側委員会連帯会議推進企画団」は、「10・4宣言発表9周年記念」北・南・海外共同討論会開催を受け入れ、準備していくことを表明した。

 このように南朝鮮の在野勢力たちは、政権が南北民間交流の全面禁止、対北への水害支援活動を遮断する中で、朝鮮民族の矜持と自立精神を失わず、北との交流拡大を試みている。

 そのことに未来への大いなる希望を感じると共に、その粘り強い意志力がやがて、現在の閉塞感と弾圧社会を打ち破っていくだろう。

 
4.
 朴政権は24日、大統領府で政策点検会議を開き、対北朝鮮政策の見直し作業を行った。

 政権発足当初は、北との対話と周辺国との協力を重視する「韓半島信頼プロセス」政策を掲げていたが、現在は、制裁と軍事的圧力を重視する政策に転換。

 共和国が核実験と弾道ミサイル開発を続けているとの理由からの政策作業の見直しとしているが、その背景には、アジア覇権戦略を進めている米国からの強い要請があったと思われる。

 短期日に2転3転と対北政策の根本が変わるのは、朴槿恵氏本人に、確たる南北関係への信念がなかったことからくる、動揺の表れであったろう。

 米軍の高高度迎撃ミサイル(THAAD)の配備決定、国家情報院による、北の国家安全保衛部との非公式な情報交換の禁止をはじめ、南北対話の全ての窓口を閉じたこと。非難合戦のエスカレート。

 野党「共に民主党」が北へ特使派遣と南北対話を要求したことを拒否。

 8月末から9月初めにかけて起きた東北部の大規模水害に対しても、いっさいの人道支援(民間団体のも)を行わないとした。

 完全に北との窓口を閉じた上で、国際社会と力を合わせた圧力強化策を推進してきた。

 このような強硬政策に対して与党内からも、「戦略として対話も掲げるべきだ」との声が出ている。

 24日の政策点検会議で、どのような練り直しを行うのかは未定だが、朴政権内での政策の行き詰まり感と動揺が透けて見える。

 そのことがファシズム政権の末期症状を表している。

 朴槿恵政権が実施してきたファシズム的な政策は、歴史上から必ず断罪されるだろう。


                                                                  2016年9月25日 記

「核実験抑止案、安保理が採択」

「核実験抑止案、安保理が採択」

1.
 国連安保理は23日、核実験全面禁止条約(CTBT)の早期発効と、すべての国連加盟国に対して、核実験のモラトリアム(休止)を求める決議案を採択した。

 オバマ米大統領が、プラハ演説で「核兵器のない世界」を提唱後、具体的な実績を上げていないことへの焦りと、今回が最後の国連総会の場で、自身の「レガシー(政治的遺産)」づくりをしたいとの思惑が読み取れる。

 地下などあらゆる空間での核爆発実験を禁止するCTBTが国連総会で採択されてから20年、まだ発効されていない。(その存在すら忘れられている側面がある)

 現在、署名は183カ国、批准は168カ国(日本はいずれも調印)。

 条約発効には、核活動を大規模に実施している44カ国(潜在的な核開発能力を持つ国)の批准を必要としている。

 米国、中国、イスラエル、エジプト、インド、パキスタン、イラン、朝鮮の8カ国が未批准。(米国は96年に署名、インド、パキスタン、朝鮮の3カ国は署名もしていない)

 今回採択された決議内容は、まだ批准していない国々に対して、行動を求める内容となっている。(米国の動向が注目される)

 さらに、98年5月に核実験をしたインド、パキスタンを最後に(朝鮮は今世紀に入って核実験を行った唯一の国)核実験モラトリアムが続いており、全加盟国にこの状態の継続を要請している。

 また、各国が核実験を探知する観測施設を整備し、その実施状況をCTBTの本部(ウィーン)に定期的に報告することも求めている。

 だが、現状の国際的核規範の核拡散防止条約(NPT)は、米英仏中露の5カ国だけに核保有(この枠組みのため、米国は朝鮮を核保有国とは認めていない)を認める「核クラブ」を作り、CTBTは、超核大国の米露が主導し、いずれも「核クラブ」の権利だけを守る意味合いを持たせたものである。

 このため、国際的には、「不平等条約」で、かつ、核兵器全廃にはつながらないとの批判が、非核保有国から出ている。

2.
 条約を提案した米国の狙いは2点ある。

 第1は、今月5回目の核実験を行った朝鮮を、核実験のモラトリアムを守らない国、国際規範を守らない国だと印象づけようとしている点。

 朝鮮を国際的に孤立化させようとする作戦である。

 第2は、国連総会第1委員会(軍縮)で10月から、核兵器禁止条約の議論が本格化するため、先手を打って、核兵器禁止条約への動きを牽制することである。

 カントリーマン米国務次官補(不拡散担当)は22日、ニューヨークでの会見で「核保有国が参加しない核兵器禁止条約は意味がない」「国際社会の溝を深め、現実的で実際的な歩みをより難しくさせる」と、核兵器禁止条約に取り組む非核保有国を批判しながら、米国自身の本音を語った。

 米国はこれまで、CTBTの対象外の「臨界前核実験」(核爆発を伴わない)を繰り返してきた。

 決議採択後も、この実験を継続していくだろう。

 だとすれば、米国はまた、自国の核兵器を温存したまま、世界の核削減を唱える条約で、二重基準を作ったことになる。

 「世界の核兵器廃絶」への動きは、朝鮮と米国との核対話からしか始らない。

 米国は朝鮮との核対話から逃げてはいけない。


                                                                  2016年9月24日 記

「常軌を逸した安倍首相の言動」

「常軌を逸した安倍首相の言動」


 安倍晋三首相は21日午後(日本時間22日未明)、国連総会で一般討論演説を行った。

 冒頭、「北朝鮮は今や、平和に対する公然たる脅威として我々の正面に現れた。今まさに国連の存在意義が問われている」などと発言し、15分の演説の3分の1強を対北朝鮮関連にあてて、核実験や弾道ミサイルを発射したことを批判し、国際社会が一致して制裁強化を行うことを訴えた。

 それ以外にも安倍氏は演説の前後、立ち話や電話協議を含め、10カ国の首脳と話し、うち7カ国と朝鮮問題を取り上げて、安保理決議の採択による制裁強化の必要性を繰り返し呼びかけた。

 日朝関係は戦前と戦後の歴史清算問題で、いずれも日本側が宿題と課題を多く積み残したまま、未だに何も解決していないため、継続対話を必要としている。

 国連会場での安倍氏の言動は、重要問題を無視し、朝鮮との関係を断絶するとのメッセージに聞こえる。

 しかも、朝鮮の核、ミサイル開発を阻むためには、物資や燃料の供給、収入源を遮断する強い制裁が必要だと、米国のメッセンジャー役まで務めている。

 安倍氏が発しているこれらのメッセージが、果たして国際社会にどこまで通用するのかは不透明だが、常軌を逸し、国際感覚と外交のバランスを崩していることは確かだ。

 日本の役にも立たない動を慎むべきだ。


                                                                  2016年9月23日 記
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愛媛現代朝鮮問題研究所のブログです。

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