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「朝鮮半島平和協定が姿を現してきた」

「朝鮮半島平和協定が姿を現してきた」


1.中国側の提起
 
 米中両国は、対朝鮮の制裁問題を国連安保理で協議する前に、双方の意思を確認する会談を行っていた。

 中国は米国に対して、朝鮮半島の非核化問題は、制裁だけでは解決しない、非核化実現と朝米平和協定の協議が必要だと、米国に提案した。

 王毅中国外相は17日、訪中したオーストラリアのビショップ外相との会談後の記者会見で、「中国は朝鮮半島の非核化実現と、停戦協定から平和協定への転換協議を並行して進める交渉方式を(米国に)提案する」と、改めて中国側の考えを述べていた。

 朝鮮半島の非核化問題も、朝米平和協定の実現も、これまで朝鮮側が何度も米国に提起している。

 朝鮮半島情勢が悪化の一途をたどっている現在、中国が改めて交渉による問題解決を提起した意味は、決して小さくはない。

 朝鮮半島の平和安定問題は単純なように見えて、余りにも時間が長く経過していて、問題権益の政治的、経済的、軍事的な複雑さが絡み合っている。さらに関係国間の不信感が重層的に重なって、これまでの交渉で到達した言語(合意文など)の解釈においてでさえ、常に非難合戦となってきた。

 そして、問題「解決」への出口が見出せないまま、70余年が過ぎ去った。

 「解決」とは何を指すのかさえ不明のまま、時間だけが流れ去り、朝鮮半島に緊張感だけが繰り返されてきた。

 その間、様々な協議体が誕生し、協議が重ねられてきたが、朝米間の政治的不信感情から、交渉は途中で決裂している。

 その不信感と会談決裂の根源的な問題は、朝鮮半島が停戦協定を維持したままの準戦時状態で、朝米間が敵国関係にあったからである。

 そこから抜け出すことが、朝鮮半島には求められていたのだ。


2.朝米平和協議の進行

 昨年11月頃、朝米間に平和協定に関連する協議があったものの、成果なく終わったとの情報が流れていた。

 米紙ウォールストリート・ジャーナルが2月21日付で、「米朝平和協定に向けた秘密の協議」があったことを報じているが、内容等の仔細は伝えていない。

 それらからして、朝米間に平和協定関連の協議があり、協議が成果なく終わった事実だけは確かなようである。

 秘密協議とはいえ、朝米間で平和協定関連問題がテーマとなっていたことに、一つの前進を感じる。

 米国がこのテーマでの協議を受け入れたことを考えたとき、リ・スヨン朝鮮外相の昨年10月1日の第70回国連総会基調演説に行きつくことになる。

 演説では、停戦協定が締結されてから60年が経ったが、朝鮮半島ではいまだに恒久平和が遂げられずにいる、 朝鮮半島で停戦状態が持続する限り、緊張激化の悪循環は繰り返され、戦争の瀬戸際へと突っ走るのは不可避である、このような深刻な事態を防ぐため、朝米が一日でも早く停戦協定を廃案にし、新たな平和協定を締結するべきである、と朝米平和協定協議の必要性が強調された。

 さらに、公式ルートを通じて米国側に、平和協定の締結に心から応じることを促すメッセージを送ったとして、米国が提案に肯定的に応じることについても、公表したことが始まりとなった。

 こうして、朝鮮半島に恒久平和保障システムの樹立、平和協定をめぐる議論が始まった。

 しかし、朝鮮は平和協定以外は協議しないと主張、米国は非核化に向けた議論が、平和協定協議の一部になるべきだと主張して対立した。

 非核化についての米国の立場は、朝鮮半島ではなく、「北朝鮮」を対象としており、それも先行実施を要求している。

 朝鮮側にとっては、妥協の余地もない考えで、非核化の話は封印し、平和協定関連協議にこだわった。

 平和協定に向けての協議の進展状況に応じて、朝鮮側には、「関連」問題としての非核化を協議する意思があったようである。

 その意思をはっきりしたメッセージで米国側に伝える前に、両国ともそれ以上に対話を続けていく意味を見つけられなかったようだ。

 それはまた、敵対関係にある両国の不信感情の深さを物語っている。

 朝米間に横たわるその不信感情が、表現上の解釈の違いによっても対立を生み、過去、何度も朝鮮半島の緊張を激化させていった。

 その後の米国は、朝鮮への制裁を強化した内容を、国連安保理で決議する意思を固め、中国と協議した。

 ただ、中国がその場で平和協定の必要性を提起したことで、これに向けた動きが以前よりは確かさを見せ始めたことが分かる。


3.南朝鮮側の疑念

 朝米間で、平和協定をテーマに協議をしていたことを知った南朝鮮内では、動揺が走っている。

 特に、米中外相会談後の2月23日、平和協定に向けた協議の可能性が言及されたことに、朴槿恵政権の一部から、「平和協定は、韓国が主体にならなけらばならない」と、不快感を表明する声がはっきりと聞こえるようになった。

 中国は、05年9月19日の共同声明と07年2月13日の合意には、平和協定が明示されているとして、非核化との同時進行を米国に提起したようである。

 朝鮮半島では、核なくして初めて平和が可能であり、対話することこそが活路であり、協力してこそウィンウィンが可能になると、米国を説得した。

 南朝鮮政権の関係者は、こうした中国側の言動に不快感を募らせ、「韓国の安全保障政策に口を出すな」と怒りを中国に向けている。

 朴槿恵政権のその不快感、不安感、動揺、怒りは結局、平和協定に対する腹案が何もないことの裏返しであったろう。

 南朝鮮では、中国が提案する平和協定案は、北が核保有国と認められ、米国と外交関係を結び、在韓米軍の撤収などによって赤化統一に進むという意図があるとされ、それへの危惧と疑念を強めている。

 彼らの疑念は、①北の核開発に正当性を与える、②在韓米軍駐留の根拠が弱まる――の2点に集約される。

 こうした疑念が生じる背景には、誤解と情勢分析不足、自由主義体制による統一思考、在韓米軍依存安保体制、北への敵対概念などが、長年の中で体質化してしまった結果があるのだと思われる。

 だが、南朝鮮にとっては、疑念の2点は切実な問題であったろう。

 そのため、仮に、朝米間で平和協定の協議が進展したとしても、途中で、または協議のテーマによっては、南朝鮮が米国を通じてクレームを付けてくる可能性は大きいと思われる。

 朝鮮半島の恒久平和を維持していく上で、南朝鮮も対象者だという地位にあるからである。

 かつて金正日総書記は、朝鮮半島の恒久平和保障システムを協議する場として、3者もしくは4者協議を提起したことがあるが、その協議体に倣って、まずは中国を入れた4者での「朝鮮半島恒久平和保障システム」協議体を設立することは可能ではないか。協議体は、朝鮮半島の緊張対立状態に二度と戻らないために、停戦協定の平和協定への転換、朝鮮半島の非核化、南朝鮮と在韓米軍の削減、米韓合同軍事演習の中止、朝米および南北間の常設対話機構の設立、非軍事境界線の通路拡大(南北双方からの外国人観光客の通過拡大)などのテーマを整理し、協議する。(事前協議が必要)

 同時に、国交正常化を見据えた朝米協議、交流協力と統一を見据えた南北朝鮮の2国間協議を、それぞれ同時的に併設して進める。

 本協議での非核化と平和協定、朝米協議の同時進行、ゴールインまでには、難しい調整と多くの時間を必要とするだろうが、協議が継続している期間中は、平和保障の予備期間だと考えれば、事を急いで対立関係に戻るよりは、平和保障への価値があるだろう。

 これが可能になるかは、米国の度量が試されていると言える。

 
4.朝鮮半島の正義の声

 米国は核拡散防止政策をかざして、朝鮮の核保有を認めていないが、朝鮮の先核政策放棄を要求し続けている。

 過去の6者会談や朝米協議で、朝鮮半島の非核化問題が議論されるとき、必ず「北朝鮮の非核化」と読み替えて、問題を振りだしに戻し、協議の進行を妨害してきた。

 朝鮮半島の非核化となれば、米国による南朝鮮への核の傘政策、核搭載可能な空母、潜水艦、戦闘機などの寄港・飛来、核攻撃を想定した軍事演習、核恫喝政策などのすべてを、米国は中止しなければならない。

 米国の朝鮮半島政策、ひいてはアジア戦略の転換を迫るものである。

 だが、米国のこの戦略転換なくして、朝鮮半島の恒久平和は保障されない。

 つまり、米国のアジア太平洋地域の戦略が、朝鮮半島を危機に陥れ、準戦時状態にしているからである。

 朝鮮半島における停戦協定の平和協定への転換要求は、国連憲章に則った正義の声であることを改めて米国に訴える。


                                                                  2016年3月27日 記
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「米国のミサイル防衛計画」

「米国のミサイル防衛計画」


1.
 朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)が7日、人工衛星(長距離弾道ミサイル)を打ち上げると、日米韓3カ国は対朝鮮の独自制裁強化へと動き出した。

 特に米韓両国は、最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル」(THAAD)の配備協議を開始することを発表した。

 当初、韓国側はしぶっていたものの、米国に押し切られたかたちで、「韓国は米国のアジア、太平洋再均衡政策の核心パートナー」(2015年10月の米国訪問時の朴槿恵大統領の発言)路線を確認したことになる。

 「THAADは北朝鮮にだけ核兵器があって、韓国には核兵器がないという核戦力不均衡状態を逆転させることのできる会心のカード」(韓国KBS、3日放送)だと伝え、THAADが配備されても北に対してのみ運用することを強調した。

 「射程距離3000キロくらいの北朝鮮のスカッド、ノドン、ムスダンミサイルや潜水艦発射弾道ミサイルを迎撃することができる」などと、米韓両国はTHAAD配備の目的が、あくまでも対朝鮮のミサイル防衛にあることを強調している。

 しかしTHAADの射程距離は5000キロ超えであり、大陸間弾道ミサイルを迎撃するための防衛システムである。

 このことから、対朝鮮というよりはむしろ、「中国とロシアを全般的に牽制するための米国の軍事戦略」そのものであることが明瞭である。


2.
 ソ連崩壊後、ワルシャワ条約機構は解体されたが、米国のNATO東進は続いている。

 米国は、ロシアがウクライナのクリミア半島を合併したからだと、NATO東進の理由を説明しているが、それは国際社会に対して弁明するための都合よい「利用」にしか過ぎない。

 この東欧地域に、米国が地域ミサイル防衛システムの構築を、本格的に試みるのは2000年代半ばからである。

 オバマ米政権が2009年に、新しい欧州ミサイル防衛計画を発表して、具体化していった。

 この計画は、イージス艦の運用を中心としており、イージス艦システムを陸上に適用する「イージスアショアー」を、陸上基地に設置する内容となっている。

 第1段階は2011年までに、ミサイル防衛のイージス艦運用能力を高め、地中海にも増強配置する。

 第2段階は、ルーマニアにイージスアショアーのテベル基地を作ること。(従来のチェコレーダー基地計画から、衛星情報分析センターに変えるとしたために、チェコは反発して、米国ミサイル防衛計画から離脱している)

 第3段階は2018年までに、ポーランド陸上ミサイル防衛基地を設置する。

 第4段階で、ポーランドとルーマニアに中長距離迎撃ミサイル「SM3-1B」を配備する―との計画であった。

 ロシアが2013年に反発し、この4段階は現在、推進していない。(ロシアがカリーニングラードのミサイル配置案を撤回し、オバマ政権も第4段階のミサイル防衛基地構築計画を中止した)

 だが、昨年12月、ルーマニアの首都ブカレストから約145キロ離れた南部のデベゼルに、米国はミサイル防衛基地を完成させている。

 米国はこのミサイル防衛基地をイランのミサイル防衛用だと説明してきた。

 ロシアは以前から、東欧に米国のミサイル防衛システムが設置することに反対しており、デベゼル防衛基地の運用にも反発している。

 米ロ間は、米国のミサイル防衛構築をめぐり、摩擦が生じており、両国間の不信感は解消されていない。

 米国は欧州ミサイル防衛計画推進の名分に、イランのミサイル脅威を挙げて、ロシアからの批判をかわそうとしてきた。

 イラン核協議が一応の妥結に達した現在、イランの核、ミサイル脅威が大幅に減少しているにも関わらず、計画を推進している米国に、ロシアや周辺国が疑念をもつのは当然のことである。

 昨年末、ロシアのラブロフ外相は「イランの核プログラムが国際原子力機関(IAEA)の厳格な統制下に入れば、米国の欧州ミサイル防衛計画も必要なくなる」と発言し、米国を牽制した。

 これに対して米国家安全保障会議報道官は「欧州ミサイル防衛に対する我々の計画は変わらない」と答えていたから、米国の欧州ミサイル防衛計画が、イランの核以外に他の意図(そのことが真意)があることを示唆する発言となった。

 米国のミサイル防衛システムが、他の地域でも拡大しつつあることが、そのことを裏付けている。

 近年、ペルシャ湾諸国にミサイル迎撃システムの販売を積極的に行っており、2011年にアラブ首長国連邦が、THAADを35億ドルで導入する契約を米国と結んでいる。

 THAADの各地域、各国への導入は、結局は米国の産軍政策上のビジネスでもあったのだ。


3.
 朝鮮の核開発・実験というタイミングを計って、南朝鮮にTHAADを導入しようとしている米国。

 米国のTHAAD計画は、導入しようとする地域で必ず、米国への不信感と摩擦が生じている。

 中国は、米韓による合同軍事演習やTHAADの南朝鮮への配備を、「朝鮮半島だけでなく、中国の安全も脅かしている」と強い警戒感を米国に向けて発している。

 THAADの防衛圏内に入るロシアも、米国に抗議していて、米国対中ロの構図となっている。

 南朝鮮へのTHAAD配備のきっかけは、イランの核と同様、朝鮮の核問題を利用してのものだ。

 ただ、水面下で、米中協議が進み、その進展具合で、朝鮮半島の非核化問題が前進していく可能性はある。

 その最初となるのが、米ワシントンで31日から4月1日に開かれる核安全保障サミットである。

 中国の李保東外務次官は24日、記者会見でサミット期間中に習近平国家主席とオバマ米大統領との首脳会談が行われることを発表した。

 主要議題は、朝鮮の核問題になると言う。

 李氏は、「北朝鮮の核問題で、中国は一貫して対話を通じた解決を主張しており、今回も十分に意見を交わす機会となる」と強調した。

 米中首脳会談の議題は、米中間の安保関係だけでも多岐にわたっている。その中にあって朝鮮半島の緊張緩和に関して、米韓合同軍事演習、国連安保理決議、六者会談、朝鮮半島平和協議などの問題が協議されるだろう。

 今のところ、6者会談と朝鮮半島平和協議問題が、どのように進展していくのかは不明ではあるが、オバマ氏が朝鮮との対話を展開するかどうかにかかっている。

 米国政治にとって難問であったイラン、キューバとの窓口を開け、推進してきたオバマ氏だが、最後の難題、朝鮮との対話を実現させ、それを次期政権に「レガシー」として引き継ぐのか、対朝鮮問題は失敗したとするオバマ政治の欠陥を歴史に残してしまうのか、今回の米中首脳会談が一つの試金石となるであろう。


                                                                  2016年3月25日 記

「南朝鮮の市民団体も米韓合同軍事演習に反対」

「南朝鮮の市民団体も米韓合同軍事演習に反対」


1.
 7日から始まった米韓合同軍事演習「キー・リゾルブ」「フォール・イーグル16」は、参加兵員、武力兵種、訓練内容ともに、史上最大規模となっている。

 同軍事演習の上陸演習「双竜訓練」(7~18日実施)だけでも強襲揚陸艦「ボノム・リシャール」と「ボクサー」(いずれの排水量とも4万1000トン)が参加しており、「ヘリ空母」とも言われている同強襲揚陸艦2隻が参加するのは、米韓合同軍事演習では初めてのことである。

 同艦には、垂直離着陸機の「オスプレイ」や「ハリアー」、輸送および攻撃用ヘリなど約60機の航空機とヘリなどを搭載している。

 このほか、戦車、装甲車、155ミリけん引砲、トラックなど、数十台の上陸戦力と兵員2000人も搭載している。

 同時に「キー・リゾルブ」に参加する空母「ジョン・C・ステニス」(10万3000トン級)を含めると、空母3隻が参加しており、それだけで150機の戦闘機とヘリを出撃させることができる能力を有する武力となっている。

 この双竜訓練に動員している空軍力だけで、有に中小国をしのぐレベルだという。

 問題は、同訓練に、国連軍司令部派遣軍の資格で、オーストラリア軍約130人とニュージーランド軍約60人の将兵が参加していることだ。

 「国連軍司令部」とは、米国が朝鮮戦争時に、15カ国の軍隊を参加させるために作り上げたものである。

 国連憲章の規定による「国連軍」が組織された例は一度もなく、安保理が「国連司令部」設置を決議したこともない。

 「国連軍司令部」という名称は、朝鮮戦争時に米国が、軍事介入をするための「道具」としたものである。

 オーストラリア軍とニュージーランド軍は、朝鮮戦争に参戦しただけではなく、安保理違反の「国連軍司令部」軍として、米韓合同軍事演習にも参加した。

 このことから、同軍事演習そのものが国連憲章と安保理に違反していることがはっきりとわかる。

 国連は同演習の中止を直ちに要求する必要がある。


2.
 南朝鮮の市民団体「釜山・平和統一を開く人々」は13日、米軍の原子力空母「ジョン・C・ステニス」が停泊している釜山港海軍基地前で記者会見を開き、米韓の「先制攻撃作戦計画に基づいた合同軍事演習は、北朝鮮の核放棄どころか核戦力強化に帰結するだけ」だと訴え、米韓合同軍事演習の即時中止と原子力空母の撤収を求めた。

 また、民主労総の朴ソンミン統一委員長は、今回の軍事演習の目的は、北朝鮮の体制崩壊だと指摘。

 「危機管理システムもない状況での軍事的対立は、民族の生存と民衆の生活を一層危機に追い込んでいくだけだ」と述べ、米韓両国の北朝鮮への軍事的圧力を批判した。

 また進歩市民団体は合同軍事演習が始まった7日、「米韓合同軍事演習により南北の些細な軍事的衝突さえも、戦争拡大に導く状況」にあると指摘し、合同軍事演習の中断を要求した。

 朴槿恵政権は、彼ら市民団体の切実な声を聞いているのか!


                                                                   2016年3月23日 記

「米国の二重基準を徹底審議せよ」

「米国の二重基準を徹底審議せよ」


1.
 朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)は18日の早朝、平安南道の粛川(スクチョン)から、弾道ミサイル2発を発射した。

 これに対して、安倍晋三首相は「国連安保理決議、日朝平壌宣言に違反し、6者会合共同声明の趣旨に反する」と指摘し、米韓両国とともに対応していくことを強調した。

 自衛隊に対しては16日付で、(北の)ミサイルを撃ち落とす破壊措置命令をすでに出していた。(今年に入り、1月28日と2月3日に続き3度目)

 1月の核実験以降、朝鮮が実施してきた数回の弾道ミサイル発射について、日米韓3カ国の政権とマスメディアはそろって、「独善的な行動」「暴走」「挑発」「無謀な行為」などの表現を使って、朝鮮側の主張を全否定している。

 朝鮮に対して様々なマイナスイメージの刻印を押し、敵概念を強調し定着させるため、極端な悪口表現を使用しているとしか思えない。


2.
 少し翻って、朝鮮半島の現状と朝鮮の現在とを整理しつつ考えてみよう。

 朝鮮半島の現状は、朝鮮戦争がまだ停戦状態のままで、戦争が終結していない。

 つまり、53年7月27日に朝鮮人民軍と米軍(国連軍)との間で、停戦協定を結んだまま、38度線の非武装地帯を挟んで、朝米(韓国軍も)両軍が対峙している現場なのである。

 このような危険な状況を改善しようと朝鮮側は、米国に停戦協定を平和協定に転換して、朝鮮半島の平和安定の実現を呼び掛けてきたが、米国はまだ一度も応じていない。

 平和協定の協議に応じない米国は、朝鮮停戦協定に違反しているばかりか、国連憲章の精神を無視し、国連安保理の規定にも違反していることになる。にも関わらず、米国は一度も安保理の審議対象になったことはない。

 その米国は朝鮮と敵対関係を維持していくことに利益(政治的軍事的なポジション)を得ている。

 それ故、朝鮮との平和協定締結を無視している。

 そのためには朝鮮への敵概念を強化し、朝鮮に対する様々な誹謗をねつ造し、朝鮮を脅威の発信源に仕立て上げていく必要があった。

 米国は、朝鮮半島は常に緊張状態が続いており、その主体が朝鮮だと言うシナリオを創作し続けているのだ。


3.
 米国と同盟国の関係にある日本と韓国の両国は、米国同様に、ともに朝鮮を敵視する政策を続けている。

 日本は、朝鮮侵略・植民地支配とその結果による朝鮮半島の南北分断への戦後責任が問われているが、その謝罪と清算を未だに終えていない。

 サンフランシスコ講和条約による朝鮮との和解条約を結ばず、敵対関係を続けている。

 過去に何度か、日朝国交正常化を話し合うチャンスがあったが、結局、米国の圧力で交渉も頓挫している。

 一方で韓国は、同じ朝鮮民族であるにも関わらず、反共反北法を施行し、敵対関係の政策を強化している。

 現朴槿恵政権は、唯一の南北経済の窓口であった開成工業団地を閉鎖し、南北交流・協議のチャンネルのすべてを閉じる、没交渉姿勢策を取っている。

 その上、朝鮮への制裁をさらに強化している。

 もはや、同族という意識を捨てて、敵対意識を強め、米国と同じ制度的統一(北の政権を崩壊させ、自由主義社会の実現)を追求して、南北共同宣言での「6・15」精神にも違反する姿勢に立っている。

 以上のように、米国を筆頭とする日米韓の3カ国が朝鮮に対して、敵対関係を維持し、核恫喝を70年間余も続けてきた結果、朝鮮半島は危険なホットスポットになっている。(日米韓3カ国が、朝鮮を包囲する図式)


4.
 もう一つの現実は、今年の場合は、7日から開始している米韓合同軍事演習(4月30日までの予定)が毎年実施されているという実態である。

 同軍事演習は、米軍がベトナム戦争で敗北し、米ペンタゴン側が朝鮮半島に重点対象(対中国との関係上)を移したことで、76年(チームスピリット)から実施しているものである。

 演習はあくまで対朝鮮攻撃を想定したものであったが、表向きは「防御」だと言い繕ってきた。

 しかし、今年の「キー・リゾルブ」「フォール・イーグル16」合同軍事演習の目的は、北への「攻撃作戦」であることを公表し、昨年6月に策定した「作戦計画5015」(北の核・ミサイルなどの攻撃兆候が見られた場合、先制攻撃を行う)を実践し、より攻撃的となっている。

 「作戦計画5015」は、「体制転覆」「占領統治」「斬首作戦」「ピンポイント攻撃」「ゲリラ攻撃」および、核・戦略ミサイル武力の「除去作戦」など特殊作戦を中核事項としている。

 こうした作戦のため、原子力潜水艦ノースカロライナを釜山港に入港させ、ステルス戦闘機F22Aを烏山米空軍基地に機動展開させている。

 さらに米陸軍第1特殊作戦連隊、米空軍第720特殊戦術群、米海軍特殊部隊シールズなどの特殊作戦部隊が、朝鮮の最高指導部および核・戦略ミサイル基地などを攻撃する作戦任務を遂行している。

 自らの目前で、このような軍事演習を展開されていて、何らの反論もせずに黙って見ているだけの政治組織だったら、そのような国家や政権を誰が信用するだろうか。

 国連憲章を持ち出すまでもなく、国家体制と人民を守る自衛・自主権は、どの政権にも与えられている人類普遍的な概念である。

 このため、多くの世界の民主的な政治家や市民たちは、米国の対朝鮮敵視政策、核兵器恐喝政策の撤回を求めてきたし、合同軍事演習についても、中止を要求している。

 米国の外交専門誌「ナショナル・インタレスト」(1月20日号)でも、朝鮮がこの10年間に行った4回の核実験は、核兵器と関連した米国の誤った政策が招いたものであることを米国は認めなければならないと主張している。

 このように米国内の世論でさえ、認めているように、朝鮮が核を保有せざるを得なくした理由は、米国の核恐喝策動である。

 つまり、朝鮮の核実験・保有、弾道ミサイル発射は全くの自衛的な核抑止政策、核戦争抑止力であったことを、世界の良心は認めているのだ。

 このことに関して、朝鮮は以下のように主張している。

 「こんにち、日増しにさらに露骨になる米国の核の威嚇・恐喝策動で停戦協定が白紙に戻された状態にある朝鮮半島で、偶発的な要素によって核戦争が起こり得る確率は極めて高い。米国が対朝鮮敵視政策を放棄しない限り、われわれに対する核の威嚇は続くであろうし、それに対処して核抑止力を質的、量的に強化するためのわれわれのさらに強度の措置が引き続き講じられるであろう。朝鮮半島の今日のような情勢が生じた全責任は米国の支配層にある。米国は、現実を冷徹に見るべきであり、一日も早く対朝鮮敵視政策を根本的に撤回する決断を下すべきであろう」(2月2日)


5.
 米国は、自らの価値観に与しない国家、社会集団、個人を、いかなる者であれ「悪者」だと断定し、自由と民主主義(米国)の敵だと位置付ける政治を実施している。

 第2次大戦以降は特に、それら敵は、あらゆる手段を講じてでも、必ず攻撃(敵が脅威を与える前に先制攻撃をする)をしなければならないとまで、傲慢的に信じ、実行してきた。

 それが米国の正義であると信じ、世界の警察官気取りで、他国領土への軍事攻撃を正当化している。

 それでも91年の湾岸戦争(攻撃)までは、米国自身が捏造した「証拠」正当化に必要としていたが、それ以降は、そのような時間と手間さえも省いてしまい、直接行動を取っている。

 米国が「脅威」だと宣告し非難するだけで、どのような相手も世界の「脅威」となり、時には国連安保理の制裁決議の対象となっている。

 具体的にはイラクやリビアの実例があり、そのような米国という「凶器国家」を目の前にしている朝鮮の場合、取り得る手段はただ一つしかない。

 現在の停戦協定を解消するため、米国と協議することである。

 停戦協定を転換して、米国との間で平和協定の締結へと進めることが、朝鮮半島の平和安定と繁栄を保証することであった。

 朝鮮半島の平和安定プランも米国は、無反応、拒否の態度を貫いてきた。

 やむを得ず朝鮮は、朝米協議の中で、相互の不可侵、体制の保証を要求することになった。

 それらの要求は、90年代に結んだ「朝米共同宣言」で明記され、確認されている。

 にも関わらず、米国の政権が代わると、その約束を実行せず、米国本来の性格のまま、対朝鮮核恐喝、敵視政策を露骨化させ、米韓合同軍事演習を強化した。

 これにより、朝鮮は自衛上、核政策を決定した。


6.
 朝鮮のミサイル発射は、国連安保理決議2270号に違反しているという。

 朝鮮半島の「現実を冷徹に見る」ならば、安保理は朝鮮の核問題を協議する前に、米軍の朝鮮停戦協定違反を審議すべきであろう。

 しかも、米国には、イスラエル、インド、パキスタンの核実験は不問にしてきた過去があるから、米国の二重基準が国際社会を支配していることが分かる。

 このような米国の二重基準を問わずして、朝鮮の核政策だけを制裁対象とすることは、全くの帝国主義者の論理であると言える。

 安保理は18日(日本時間19日午前)、日米韓3カ国の要請で、朝鮮が10日と18日に実施した弾道ミサイル発射に対して、緊急理事会を開いた。

 非公開の理事会は、(発射は)「容認できるものではない」「強く非難し、重大な懸念を表明する」との報道声明を発表した。

 過去の安保理決議の明確な違反だとして、朝鮮にさらなる行動の自制を要した。

 なぜ、朝鮮の核政策だけを批判し、米国が主導して行っている米韓合同軍事演習を批判しないのか。

 軍事演習を含め、米国が朝鮮半島でやっていることは、朝鮮を刺激し、誘発し、戦争へと仕立てることにある。

 米国には、いつでも戦争準備ができているからである。

 だから、朝米がいま朝鮮半島で繰り返していることを、その現象面だけを見て判断している者たちは、朝鮮が「挑発」をしているのだと考えてしまうのだろう。米国のプロパガンダ情報に汚染されていることも知らずに。

 米国こそ、その所業を安保理で審議されるべきである。


                                                                   2016年3月20日 記

「米政治は変質している」

「米政治は変質している」

 
 米大統領選予備選で米国は苦しい表情を見せている。

 今回の選挙、始まる前から民主党候補のヒラリー・クリントン氏のための、通過儀礼的なものだと、米政界の誰もが認識していたようだ。

 ところが選挙戦が始まってみると、予想外の出来事が出現した。

 民主党では、民主社会主義者を名乗るバーニー・サンダース上院議員の善戦と、共和党では、実業家トランプ氏がトップを維持し、その優位性は動かし難い情勢になっているからだ。

 二人は共に、泡沫候補だと思われていた。特にトランプ氏の勢いは止まらず、彼の言動は共和党候補者選びの予備選の枠を超えて、「トランプ現象」にさえなっている。

 彼は、現行の社会保障制度の維持、米国市民の雇用を確保、白人市民の地位の優位性維持などのためとする外国駐留米軍経費の削減、移民の排斥、富裕層への課税強化などを主張している。

 しかし、過激なワン・センテンス発言のため、「暴君」とまで揶揄されるようになった。

 メキシコからの不法移民を防ぐために「メキシコ政府の費用で壁を建設する」、国内でのテロ行為を防ぐため「イスラム教徒を入国禁止とする」など、彼の極端な排外主義的発言を、一面では、現在の米国市民が歓迎しているのだとも言える。

 そのようなトランプ氏を支持しているのは主に、かつての中流層(世帯年収4万2000~12万6000ドル)白人と40歳以下の若年層で占められている。

 米国の中流層は、かつてのアメリカン・ドリームの体現者である。

 誰でも勤勉に働けば相応の成功と富を手に入れることができ、安定と名誉が受けられると考えられてきた。その思考の裏側には、権威主義的であると同時に同調と秩序を重視する傾向がある。

 彼らは既存の社会規範(米国式の民主主義と自由主義)を守護し、よそ者(社会主義者、非キリスト信者、有色人種)を嫌い、排除する傾向が強く、外からの脅威に対して強い指導者を求めたりする。

 そのような彼らと、彼らの思考が米政治を形成してきた。

 アメリカン・ドリームはまた、諸外国への侵略を弱小民族への軍事制圧などで、多くの血潮を吸い取ることで、世界へと拡大させていき、米国式の夢を善意化してしまった。

 だが80年代以降、移民の増大と貧富の格差が拡がるにつれ、中流層の割合は50%を切り出し、下流層が増えていくにつれ、米国自身の優位性まで揺れ出した。(中流層が下流層化)

 そこにリーマンショック以降の経済低迷と失業率の増大が重なり、世界における米国政治の力は下降線にあると、米国市民たちも感じるようになった。

 下落した中流層たちは、既存政治に失望した。それらが反体制的言辞のトランプ氏とサンダース氏支持に向かっていったのだろう。

 クリントン氏の立ち位置は米国既存政治にあるが、彼女の発言は当初の保守強硬発言から、ややリベラル色を帯びてきている。これは、有権者たちがトランプ氏やサンダース氏の反体制的言辞を共有していることを認識してからのことである。

 だが、対外政策は、現オバマ政権よりは強硬姿勢に傾く可能性がある。

 気になるのは、朝鮮半島政策である。

 オバマ大統領は16日、北朝鮮への新たな制裁の大統領令に署名し、制裁の厳格化と強化策を実行していくことを明確にした。

 オバマ政権下の8年、北朝鮮と対話をせず、核実験やミサイル発射のたび、国連安保理を通じての制裁だけを強化してきた。

 もし、クリントン氏が米大統領に選ばれた場合、オバマ政権のこのような遺産を引き継ぎ、最も厳しく、敵対する朝米関係が続くことになる。

 彼女自身、国務長官時代(11年)、対リビア軍事介入を支持するなど、対外情勢には比較的強硬な姿勢を取っていた。

 だが、選挙戦で米国市民が強硬よりも対話を求めていることを幾らかでも理解していたなら、米国の国際政治をリベラルの方向に向けていくことの必要性を理解しているだろう。

 彼女を迎える米国社会は、保守層が混迷していて従来よりは左の政策が選択しやすくなっていること、中国との経済、軍事関連、協議が避けられなくなっていることから、こうした米国政治の変質(軍事費よりは社会保障、経済対策を重視)の声を彼女が上手く活用すれば、朝鮮への再接近はあり得るだろう。

                                                                   2016年3月18日 記

「朝鮮半島非核化協議が始まっていく」

「朝鮮半島非核化協議が始まっていく」

 国連安保理は2日、朝鮮の核・ミサイル問題に関する第2270号決議を、理事15カ国の全会一致で採択した。

 中国は、決議案を取りまとめる重要な内容の協議を、米国との間で長期間行ってきた。

 その過程で、朝鮮半島核問題における中国の原則的な立場を3点明らかにしている。

 第1は、決議に賛成した中国の朝鮮半島核問題における立場は、朝鮮半島内に核があってはならないとの姿勢を堅持することを改めて表明している点。

 その原則は(朝鮮の)北側であれ、南側であれ、自ら製造するのであれ、導入・配備(持ち込み、核の傘)するのであれ、核兵器開発には反対していくという立場で、朝鮮側のさらなる核・ミサイル開発を阻止する決議に賛成したということである。

 中国政府は、国際的な核不拡散体制の有効性を維持することに賛成しているとして、どの国であれ、核・ミサイルなどの大量破壊兵器を開発することに、擁譲することも放任することもできないとして、安保理の朝鮮制裁決議に賛成した背景の説明をしている。

 だが中国は常任理事国であり、米国ほどではないとしても、核大国には違いない。

 自ら保有する核兵器の削減行動、または放棄につながる提案と動きなどを、米国に働きかけたことがあるのだろうか。この点に関して、中国の核政策も米国と同一であることが分かり、大国主観を朝鮮に押し付けた格好になっている。

 核大国・安保理常任5カ国が、朝鮮を含む他国の核問題に否定的態度を取り続けるのであれば、まずは5常任国が別の場所で自らの核削減交渉を行うのでなければ、朝鮮への核制裁論自体、大国の高慢、傲慢な態度でしかなく、国際的不公平、二重基準である。

 第2は、対朝鮮制裁では、朝鮮の民生を損なうべきではないとして、米国案の制裁を通じて体制崩壊へと導こうとする幾つかの項目を、削除させている。

 朝鮮の核・ミサイル計画に対しては打撃を与えるが、朝鮮人民の人道と民生に配慮し、幾つかの民生、医療関連、人道目的の活動についての制裁措置を排除している。この点については評価できる面もある。

 だが、中国の特別な経済事情、東北3省と朝鮮との結びつき、大陸から抜け出る港湾の必要性など、自国の経済政策との関係からの考えであったのだろう。

 ただ、そうしたツールを残していくことも、悪いことではない。

 第3に、安保理の朝鮮制裁決議は、決して朝鮮半島の摩擦と困難な問題、朝米間の敵対感情の解消には決してつながらないと考えていた点である。

 むしろ制裁決議の成立は、問題解決のいっそうの困難性と反発を生み、敵対的反感が増大して、新たな緊張関係が発生するだろうと理解している。

 それで、朝鮮半島の核問題を根本的に解決する方法として、以前のように交渉を軌道化することを併せて提案している。

 制裁決議が決着点ではなく、交渉の席を用意していく努力を、そこから始めていくことを米国に強く要求した。

 その内容及びテーマは、朝鮮半島の非核化と停戦協定から平和協定に転換する並行推進構想である。

 いずれの案とも、朝鮮はずっと以前から提案しており、米国は拒否している。

 従って、朝鮮半島非核化と平和協定への並行推進構想協議への出発点は、中国が米国を説得していく時間の長さで決まっていくだろう。

 この並行推進構想には賛成だ。

 6カ国協議の議長国である中国には、なお多くの汗をかいてもらう必要があるようだ。

 現在、6カ国協議が休眠状態となっているのは、その基本課題に対する朝米間の認識の違いと対立からであった。

 朝鮮は朝鮮半島の非核化を主張し、米国は(北)朝鮮の核政策放棄を主張し、対立点となっていた。

 この対立点の解消と妥協は進まず、朝米間対話そのものが決裂、6カ国協議も進まず、休眠となってしまった。

 今では、朝米とも6カ国協議の再開には否定的になっている。

 こうした現状を転換させていくために、朝鮮半島および東アジア地域の平和と安全、安全保障を保証していく地域集団協議体を設置することも、一つの方法だと思う。

 アジア太平洋地域の中のアジア平和安全構想体である。

 それを現状から新しく作る困難性より、既存の6カ国協議にそうした性格を持たせたうえで、会議再開準備協議での議題の再調整が必要になってくるだろう。

 その努力も中国に期待するしかない。

 だが中米間は現在、永興島(英語名ウッディー島)、南沙諸島(英語名スプラトリー)などでの対立点が、やや深刻化してきている。

 中国の軍事基地化、米国の接近偵察による武力誇示。

 この点での意志疎通をはかる中米の対話継続を中米両国とも必要としているから、この問題での決裂、軍事衝突は考えられない。後は時間とタイミングだけである。

 今月末に米ワシントンで第4回核安全保障サミットがあり、その後、中国がG20抗州サミットを開催する。

 両核サミットでは、中米首脳会談が予定されていて、南沙諸島問題、朝鮮制裁問題、朝鮮半島問題などの意見交換が行われるだろう。

 南沙諸島問題と朝鮮半島問題は、中米協議の中でつながっている。

 中米協議の中から、朝鮮半島非核化問題、朝鮮半島平和協定問題が浮上してくる可能性があるだろう。

 朝鮮はいずれのテーマも、米国との2国間協議にこだわっている側面があるものの、同テーマでの朝米2国協議を何十年間、米国に提案していても、米国は無視したままである。

 多国間協議、地域安定協議体の中での協議がいかにも遠回りであったとしても、協議を続けていく先には、必ず一つの結論が生まれてくるだろう。対話がないよりは良い。

 ところで、安倍晋三首相はワシントンでの核安全保障サミットを、「米韓と連携して明確なメッセージを出したい」と、安保理制裁決議後の行動を、朝鮮への制裁検証、さらなる制裁強化の実施にすることを考えているようだ。

 とんでもない思い違いである。

 制裁後は、制裁の検証ではなく、朝鮮を含めた対話再開への努力が必要だ。

 それが例え、中米対話から始まったとしても朝鮮半島の平和安定問題に必要な様々なケースの対話が、そこから立ち上がっていく可能性があるのだ。

 安倍政権と朴槿恵政権は、この点でも読み違いをしている。


                                                                   2016年3月11日 記

「日米韓の対北朝鮮敵対政策こそが問題」

「日米韓の対北朝鮮敵対政策こそが問題」


 7月から始まった米韓合同軍事演習は、予定通り朝鮮半島南部周辺で、北朝鮮への侵攻作戦を展開している。

 目の前で軍事侵攻作戦を展開されている北朝鮮が、防衛的な対応策を敷くのは当然で、国と人民を守護していく上でも、常識的なことだ。

 軍事演習とはいえ、米韓両軍の実態は実弾を撃ち込み、上空、海上、上陸作戦を含む陸上から、隙あらば狙い撃ち(ピンポイント攻撃、斬首作戦)を実践しようとしている。

 そのように凶暴となった敵を目前にして、徒手空拳で眺めているだけの政府では、当該国民はもちろん、敵たちとともに周辺国からも、自衛隊さえも、準備・行為できない、自主国家ではないと侮られてしまう。

 北朝鮮の朝鮮人民軍が新型多連装ロケット砲から短距離弾道ミサイルを、3日に6発、10日に2発、それぞれ発射したのは、自衛的で守護的な対応である。


2.
 日本政府は、北朝鮮の短距離弾道ミサイル発射に対して、一段と非難の声を挙げている。

 安倍晋三首相は10日午前、国家安全保障会議(NSC)を開催して、「弾道ミサイル発射を実施した場合、さらなる重大な措置を取る」として、今月末開催予定の米ワシントンでの核安全保障サミットで、米韓と連携した明確なメッセージ(非難および追加制裁)を出したい」と表明した。

 さらに、①情報収集、分析、②航空機、船舶などの安全確認の徹底、③国民への迅速、的確な情報提供――の3点を関係省庁に指示した。

 なお、弾道ミサイル発射は、国連安保理の決議違反にあたるなどとして、北京の大使館を通じて、北朝鮮に抗議したことも明らかにした。

 一連の安倍政権の言動の背景には、北朝鮮の安保理決議違反、挑発行動を取っている、米韓合同軍事演習に「対抗」する軍事的示威行動だとの判断があるのだろう。

 前提とする全体の思考力が、帝国主義的立場からの偏見であったから、「決議違反」「対抗」「軍事的示威行動」など、まったく間違った表現を使用している。

 これはマスコミ全体にも言えることで、そこに登場する「朝鮮問題専門家」たるコメンテーターたちも含めて、何ら考察することなく、平気で「米国言語」(プロパガンダ)を使用している。


3.
 果たして北朝鮮の核実験、ミサイル発射を、日米韓は非難できる立場にあるのかを、考える必要があるだろう。

 日本は、米国の核の傘に守られながら、サンフランシスコ講和を履行せず、北朝鮮とは第2次大戦体制(植民地支配観)での、敵対行為をとっている。

 米国は、停戦協定の平和協定への転換をずっと拒否して、北朝鮮と敵対状態のままを続け、時には核恫喝を行っている。

 南朝鮮は、朝鮮戦争を戦いながら、停戦協定にさえ調印していないから、法的な関係で言えば、戦争継続での対戦相手のままになっている。

 その上に、米軍の核の傘の下、米軍の核兵器の持ち込み配備を許し、米軍と共同で北朝鮮への核攻撃作戦をプラン化してきた。

 このように見てくると、北朝鮮は70有余年間という長時間にわたって、日米韓3カ国との敵対関係(それぞれの状況は違っているものの)を保ったまま対峙し、対立してきたことになる。

 米国一国だけでも強大な軍事力で、常に最新兵器を更新してくる相手であるのに、南朝鮮と日本が加わっての軍事的政治的圧力を常時、北朝鮮は受けてきた。

 北朝鮮にとって、その不当な圧力は、国家存亡の危機にまで達していただろうことは、想像がつく。

 国家と民族の自主権を守り、発展させていくのは、どの国家にも認められている権利である。

 その崇高な権利を行使するための自衛権は、国際社会ならびに国連憲章では認められている。

 北朝鮮はどの国家にも認められている自衛権行使として核実験とミサイル技術発展に踏みきった。(核恫喝を続けている日米韓3カ国の戦略に対応して)

 そのように理解すると、北朝鮮の核実験とミサイル発射行為は、国連憲章の安保理規定の範囲内にある権利行使であったと言える。

 むしろ、米国の行為、長期間にわたって停戦協定を解消・転換しないこと、毎年の米韓合同軍事演習そのものが、安保理規定の「敵対行為」に違反している。

 米国が違反しているから、米国こそが安保理で制裁決議を受けねばならないということは明白だ。


4.
 ベトナム戦敗北直後から米国のアジア安保体制は東アジア・朝鮮半島を重視するようになった。

 米韓第1軍団司令官ホリングスワースは74年、韓国軍司令官に「これからは、攻撃的な軍隊に変える」と伝えていた。

 米アイダホ州からF111戦闘爆撃機が南朝鮮に着陸して、大規模(米韓両国併せて約20万人が参加)な米韓合同軍事演習「チームスピリット76」が6月から始まった。

 初の米韓合同軍事演習である。

 パラシュート部隊兵の降下、水陸両用車での上陸演習となった。

 北朝鮮は政府声明で、「(米韓が)今や戦争準備を整え、戦争の導火線に直接火を付ける冒険的な策謀にかかっている」と非難した。

 以降、演習は毎年、海・空・陸から、南朝鮮への大規模な米軍増援部隊を得て、核装着可能な米軍戦闘爆撃機が非武装地帯近くを飛行、重装備した米韓両国の地上軍が南朝鮮を移動する有様は、どのように考えても、北朝鮮に脅威を与えようとする意図以外、ないのではないか。

 だが、米国は長年、毎年の定例の演習だとして、自らの演習が北朝鮮にとっての安全保障上の脅威になると北朝鮮が批判することに、どうかしていると考えてきた。

 北朝鮮を敵国ととらえ、朝鮮人民軍を敵軍と考え、その壊滅作戦計画を実践し、そのレベルを上げてきているというのに、米国の解釈はまことにもって理解し難い。

 こうした米国の対応こそが、相手への脅威レベルを上げ、追い詰めていても、相手との距離を計る理性が無感覚になっているのだろう。

 もはや、米政治指導者たちには、理性がないに等しい。

 そのような人間集団が決定したのが、今年の米韓合同軍事演習で、最も忌わしく、最も汚らしく、最も下劣な「斬首作戦」「ピンポイント攻撃」「テロ作戦」、実戦重視となっている。

 罰すべきは、オバマ米大統領本人であり、彼に迎合しつつ、自らの安全保障強化策に役立てるために北朝鮮脅威と制裁論を合唱している安倍晋三首相と朴槿恵韓国大統領である。

 ともに、国連憲章違反者として国際軍事法廷で裁くべきである。


                                                                   2016年3月11日 記

「日本の安保理常任理事国入りに疑問」

「日本の安保理常任理事国入りに疑問」


1.
 安倍政権は、国連安全保障理事会(安保理)の常任理事国入りを目指して、その動きを加速させている。

 国連総会は今秋まで、節目の70回期に当たっているため、日本は今会期中での結果にこだわっているようだ。

 「国連総会70回期は重要で大切なチャンスだ」と、岸田文雄外相は2月、安保理改革(日本の常任理事国入り)を目指す外務省の戦略本部で強調していた。

 常任理事国入りを目指しているのは日本と、ドイツ、インド、ブラジルの4カ国(G4)で、現在の15カ国の安保理での理事国を25~26カ国に増やす(常任・非常任双方を拡大)改革案を、すでに国連に提出している。

 安倍政権は常任理事国入りを「日本の国益と安全保障に極めて重要」だとし、多くの国連分担金を負担しているのだから、常任理事国入りは当然だとの思考に立っている。

 しかし、そうした日本の理屈は、国際社会には通用しない。

 日本は、対日平和条約(サンフランシスコ講和条約、51年9月8日調印、52年4月28日発効)を調印しなかった国とも平和条約を締結することで、早期の国際社会復帰を約束していた。

 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)とはまだ、講和条約、平和条約を調印していないから、サンフランシスコ講和条約を達成、完成させているとは言えない。

 南朝鮮(1965年6月、日韓基本条約締結)とは国交を回復する一方で、北朝鮮とは未だに敵国関係のままだということは、日本は朝鮮半島の南北分断の現状に深く関与していることを疑いもなく証明している。

 以上のように、対日平和条約がまだ未完である上、北朝鮮との敵国関係を維持している日本に果たして安保理の常任理事国入りの資格があるのだろうか。安保理理事国は、世界平和の審判員ではなく、保障人であるのだから。

 
2.
 古くは日朝3党宣言で、その後の日朝共同宣言、ストックホルム合意においても、必ず北朝鮮への賠償(日朝共同宣言以降は、日韓基本条約と同じ経済支援方式となっている)問題、交渉が重要項目に位置付けられている。

 日本からの戦前・戦後の賠償が完了してはじめて、日朝間の国交正常化の入口に立つことができるからである。

 70有余年という時間が経ち、様々な問題が介在してきたために、日朝間での基本問題(日本の賠償)を日本はいまでは後方に押しやってしまっている。

 日本の北朝鮮の賠償問題は、日朝間の入口問題ではあったが、これはあくまでも日本側の「日本問題」である。

 つまり、日本が国際社会(少なくともアジア地域では)での政治的信頼を得るためのメルクマールである。

 その意味で、拉致問題よりも先行して解決しなければならない問題であり、北朝鮮との賠償問題の解決が進んでこそ、アジア各国から真の信頼を獲得し、安保理常任理事国入りへの最短切符も得やすくなる。それと同時に拉致問題そのものも解決に向かって進展していくだろう。

 しかし、安倍政権が現在のように、安保関連法制(戦争法案)の成立を目指して自衛隊をいつでも海外に派兵させる体制をつくろうとしているのでは、強権力を発揮する安保理常任理事国入りに関して、どの国が安心して日本という国を支持するだろうか。

                                                                  2016年3月10日 記

「国連安保理の北朝鮮制裁は疑問」

「国連安保理の北朝鮮制裁は疑問」


1.朝鮮制裁の意味
 
 国連安全保障理事会(安保理)は2日午前(日本時間3日未明)の公式会合で、朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)の4回目の核実験と長距離弾道ミサイル発射(人工衛星)への制裁決議案を、理事国15カ国の全会一致で採択した。対朝鮮制裁決議は5度目で、過去最高の53カ国が共同提案国となっていた。

 決議は、国連憲章7章(平和への脅威)の41条(非軍事的措置)を適用し、今後、さらなる核実験やミサイル発射があった場合は、「さらに重大な措置をとる」と警告。今回は、核とミサイル開発につながる「ヒト・モノ・カネ」を絶つための措置を強化する内容となっている。

 禁輸対象が石炭や鉄鉱石といった朝鮮の主要資源となったことで、厳しい内容になっていることは事実だ。

 パワー米国連大使は「この20年で最も強力」だと満足気だ。

 決議内容(項目)のほとんどが「決定」となっているので、今後、国連加盟国は決議に従うことが義務づけられていく。

 その意味でも、これまでと比較して強化され、厳しい制裁決議であることがわかる。

 ところで、朝鮮制裁決議を伝えるどのマスメディアも、朝鮮の行為を非難し、安保理決議を評価する態度をとっている。

 「(朝鮮の)無謀な兵器開発を見逃すことはできない。厳しい制裁強化はやむをえまい」(3月4日付、朝日新聞社説)「安保理決議の誠実な履行は国連加盟国としての義務である。・・・・北朝鮮は国際的圧迫を体制への脅威と受け止めている。だが、それは国際社会の平和と安定を害する自らの行動が招いた結果でしかない」(3月4日付、毎日新聞社説)

 表現が朝鮮に対して厳しいのは、米国論に寄り添った結果であろう。米国が国連安保理を活用して自国意思の浸透、自国戦略の実現を追求した結果だという視点が欠けていることを指摘したい。

 ただ、このような姿勢をとるマスメディアへの批判はここで留め、以下では、国連憲章および安保理機構の原則論から、朝鮮制裁がいかに不当(米国の朝鮮への圧力政策)であるかを論じていきたいと思う。


2.国連組織の原則性

 第2次世界大戦が反ファシスト連合国側に有利になり出した1943年頃から、戦前の国際連盟(ファシズム国家の排出と対立などで46年4月に解散)に代わる、より強力な国際機構の必要性が論議されるようになった。

 45年4~6月のサンフランシスコで開かれた連合国全体会議で、平和と安全の維持、平和への脅威に対する集団的措置、国際問題の平和的解決、国際協力の増進、基本的人権の尊重、人民の同権と自決、加盟の主権平等などを規定した国連憲章を採択して、同年10月に国際連合(UN)が成立した。

 反ファシスト連合国と世界の民主勢力の勝利を反映して、加盟国の主権平等などと共に、紛争の平和的解決、武力行使と武力による威嚇の禁止など、一定の進歩的、民主的(世界の平和と安全の維持、諸国間の友好、経済、社会的国際協力)な原則が含まれている点などから、世界平和が期待された。

 総会などいくつかの機関のうち、安全保障理事会(安保理)の機能と権限が、国連の中心的機関の一つとして強化された。

 安保理は、国際平和と安全を維持するため、主要な責任を有し、侵略行為の認定、(侵略者への)強制措置の発動(軍事力による制裁)の決定など、強力な権限が与えられている。

 絶対的権限を持つ、常任理事国の米、英、仏、中、ロ(旧ソ連)5カ国と、総会で選出される非常任理事国10カ国(任期2年)の15カ国で構成されている。

 決定は手続き事項については9カ国の賛成で、それ以外の事項はすべて常任理事国(拒否権が行使できるため)を含む9カ国の賛成で行われている。(今回の朝鮮制裁決議は後者)

 以上のように、国連機構は、世界平和と秩序安定の維持を目的に設立された。このことから、外部に仮想敵国を持たず、国連内部の諸国間で相互不可侵を約束し、これに反して侵略を抑圧するために軍事協力する内容の集団安全保障概念が生まれた。

 国連機構そのものが、集団安全保障体制だという考え方ではあったのだが、憲章上、その対極となる地域的安全保障機構(軍事同盟)の設置を許してしまったために、冷戦体制下の欧州では、米国をリーダーとする北大西洋条約機構(NATO)と、旧ソ連をリーダーとするワルシャワ条約機構(WTO)とが対峙して、軍拡競争を出現させてしまった。冷戦終結後も米国は、NATOを維持強化し、欧州全体への軍事力支配を維持している。 

 国連を設立した理念は世界平和を築くという点で評価ができるものの、米国をはじめとする帝国主義勢力が長年にわたって国連憲章を犯し、侵略政策の道具として国連機構を利用してきたのである。
 
 70年代以降、帝国主義の侵略や、新旧植民地主義、人種差別主義などに反対する諸国の加盟で、米国などの横暴をチェックする国際世論が結成されたとはいえ、まだ不十分である。
 
 逆に、経済力・軍事力を駆使する米国は、国連憲章や安保理規定を自己都合的に解釈し、国連内における圧倒的な和や優位性、その機関の非民主的な構成を利用し、運用している。
 
 そのよい例が、安保理の任務の「侵略を認定」した場合にこれに対する軍事的措置を含む制裁措置を決定するとしている規定を、朝鮮に対して、朝鮮戦争以降、拡大適用していることである。

 その際に米国が多用する表現は「国際平和」「国際秩序」「国際協調」「安定維持」などである。誰もが反対できない口当たりの良い表現を多用しているときの米国は、侵略的野望、軍事的恫喝、内政干渉など、帝国主義的行為を隠そうとしているのである。


3.南北分断の固定

 少なくとも紀元668年以降、朝鮮半島は単一の統治体制下で、朝鮮民族としての政治、経済、文化、伝統を育み、発展させてきた。

 一方で、その地理的な条件から、強大国からの侵略をたびたび受け、外国からの占領(中国、モンゴル、日本)も、5回体験している。

 第2次大戦で、ファシズム勢力の敗退が明らかとなり、連合国側は1943年のカイロ宣言で、「しかるべき時期に、朝鮮の自由と独立を認める」ことを確認した。

 45年のヤルタ会談で、ルーズベルト米大統領が米国・ソ連・中国による朝鮮信託統治(4~50年間)を提案している。この頃までは、米国を含む国際社会は、朝鮮を単一の民族主体と認識し、対応していた。(日本軍も対米英戦に備えて、38度線を境に朝鮮守備隊を2つに分けていたが、政治的支配は1つであったから)

 45年8月10日、ワシントン・ホワイトハウス内では対朝鮮半島の戦後政策を真剣に話し合うことになったのは、ソ連軍が満州と朝鮮北部に軍隊を送ってからである。

 徹夜の会議室に掲げられた朝鮮半島の地図に一本の線が引かれた。北緯38度線である。以南地域(首都ソウルが含まれていたから)を米軍が、以北をソ連軍が占領することを決定し、これを米軍の一般命令第1号として発令した。この時点ではまだ、朝鮮は「暫定的」に分割された2つの占領地域にしか過ぎなかった。

 冷戦体制が深まると、朝鮮半島は米ソ対立の最前線と化し、朝鮮人民の意志とは関係なく、2つの憎しみの体制の現場となってしまった。これは、米国が強引な要請で、国連機関を一方的に利用して、朝鮮半島を2つの国家に分断してしまったからである。

 「朝鮮分断は当時、民族自体に内在した諸条件や感情とは全く関係なしに実施された。・・・朝鮮分断ほど米政府に重大な責任がある分断はない」(1974年)と、元米外交官のグレゴリー・ヘンダーソンは指摘し、現在につながる米国の対北朝鮮政策の原罪を批判している。

 50年6月25日未明、38度線沿いで南北双方の大規模な武力衝突が発生。当初は民族紛争であった。米国は直ちに反応し、安保理を招集すると、朝鮮人民軍を「侵略軍」だと詭弁して、国連旗の下に15カ国の軍隊を統率して侵攻。中国義勇軍が参戦して、朝鮮戦争となった。

 戦争の起源については論じないが、米国が安保理規定をねじ曲げ解釈したことと、規定違反を犯していた事実だけは指摘しておく。欠格安保理(ソ連欠席、中国代表不在)であったこと。「侵略軍」解釈の強引な適用。ニセの第一情報で安保理決定を行ったことなどである。

 戦闘中も反共反北の一環として、ソ連と中国の支援を受けた(北)朝鮮が戦争を起こした、共産主義陣営からの戦争である、とのプロパガンダ情報を流し続けた。

 朝鮮戦争は結局、朝鮮人民に大きなダメージを与えた。戦争被害の大きさもさることながら、それより南北間のイデオロギーと政治路線の対立が以前より強硬となり、朝鮮統一への道程がさらに遠ざかってしまった。

 そのことに米国が深く関わっており、米国の歴史的断罪は、朝鮮が自主的平和統一を実現するまで追及していく必要があるだろう。


4.米国の対朝鮮政策

 80年代後半、朝鮮半島のクロス承認案が、米国によって提起された。

 日米両国が朝鮮を、中ソ両国が南朝鮮をそれぞれ承認し、国交正常化を進めるという内容である。

 その後の南北朝鮮の国連加盟と、朝鮮半島の安定化をめざすというもので、一見、朝鮮半島の平和安定にとって理にかなったプランのようであった。

 しかし、米国の本音は別のところにあった。社会主義朝鮮の崩壊または体制転換を予定していたのである。

 以後もそれが米国の対朝鮮政策の基本で、時代と国際情勢の変化によって、展開内容が違ってくるだけであった。

 一方、この時期の南朝鮮(盧泰愚政権)は、北方外交(対共産圏外交)に力を入れていた。

 南朝鮮の北方外交は、89年のハンガリーを皮切りに、東欧社会主義諸国と次々に国交を結び、ソ連とは90年(92年1月、ソ連崩壊)、中国とは92年7月に、それぞれ国交正常化を締結して、北方外交は、「クロス承認」プランをも吸収して完結した。

 日米両国は、朝鮮との関係正常化交渉の入口にも立たず、逆に今日まで敵視政策を続けている。


5.朝米核対決
 
 米国は、東アジアを軍事的緊張・軍事的紛争が生じやすい地域だとしている。朝鮮の核・ミサイル問題と台湾海峡問題の2つが火薬庫だという。

 89年、フランスの商業衛星が、寧辺(ヨンビョン)の核施設の写真を公開したことで、朝鮮の核開発疑惑が注目されるようになった。

 朝鮮は74年9月に国際原子力機関(IAEA)に加入、85年12月には核不拡散条約(NPT)に加入していた。IAEAとの保障措置協定を92年1月に署名。同年5月に最初の報告書をIAEAに提出し、小規模のプルトニウム抽出の事実と、16か所の核保有施設を申告。IAEAは92年5月から93年2月まで計6回の臨時査察を行った。

 米国からのサゼスチョン(介入)を受けたIAEAは、報告書と実際の状況との間に「不一致」があるとして、追加の特別査察を要求した。

 朝鮮はそれを否定。

 以降、IAEA側とではなく米国との間で、核対決が始まった。朝鮮は93年3月にNPTから脱退、94年6月にはIAEAからも脱退。これに対して米国が国連安保理に朝鮮制裁案を提案したことで、極度の対立と緊張関係が生じた。

 この時、米大統領は、朝鮮に向けての核ボタンに手を伸ばしかけていたともいう。

 同時期、朝米間では、「枠組み合意」が調印(94年10月)され、朝鮮が核計画を凍結し最終的には解体することに対して、米日韓を中心とする「朝鮮半島エネルギー開発機構」(KEDO)が、軽水炉が提供することになっていた。

 しかし、KEDOの軽水炉建設は当初から予定通りには進まず、遅れ気味のうえ、2002年10月、朝鮮が濃縮ウランの核開発を行っているとして、03年に工事を停止している。

 協議は進まず、KEDOは06年5月31日に軽水炉事業の廃止を正式に決定した。

 朝米核問題で、KEDOによる軽水炉事業が一番現実的であり、解決に向かって進展していたと思われていたが、米国の思惑は違っていたのだ。

 94年7月8日、金日成主席の急死で、米国内の対朝鮮政策は急変し、新たに加わったのが、朝鮮の「内部崩壊」論であった。95年から98年まで続く朝鮮の大自然災害が、崩壊論を裏付け、加速させたことは事実である。

 南朝鮮の金永三政権は、「北朝鮮は政治的にも経済的にも崩壊直前の危機にある」、「北朝鮮に対するいかなる譲歩もその政権の延命を手助けするだけだ」などと、朝鮮への敵意をむき出しにして、米国(クリントン政権)にも同意を求めた。

 クリントン米政権は、困難な核凍結協議(軽水炉をめぐって)を朝鮮側と再開させていたが、米議会や米軍司令部は、金正日政権「崩壊」論の風圧を受けて、KEDO事業の中止を決定(06年5月)してしまった。

 これ以降の米国の対朝鮮政策では、その政策決定の中枢に、朝鮮政権の「崩壊」論が比重を占め、同時に対話路線が後退して、圧力と制裁へと傾いていった。

 従来の社会主義朝鮮「崩壊」政策と結びつき、経済制裁の加重、国際包囲網、軍事的脅迫への度合いを強め続け、両国間の不信感情が高まっていった。

 それはまた、対朝鮮「作戦計画」にも反映しており、米韓合同軍事演習で実施されている。

 米国による第2次朝鮮戦争の現実味は、抽象的な書類上のコンピュータプログラムを超えている。

 
6.米韓合同軍事演習

 米国は常に、朝鮮半島での戦争再発を念頭に置き、対朝鮮半島政策を策定してきた。

 53年7月の停戦協定以降、その規模に増減はあったものの、一貫して在韓米軍を駐屯させてきた理由は、朝鮮人民軍が攻撃を仕掛けてきた場合、直ちに米軍が反撃できるとの「威嚇」と「抑止力」の効果を持たせるためである。

 75年のベトナム戦争終結後、米軍首脳部は、次は朝鮮半島で戦争が起こると認識して、米韓合同軍事演習のレベルを上げると同時に、朝鮮への核威嚇を強めていった。

 ソ連が崩壊して冷戦が終結すると、米軍は主な役割を2つの地域(中東と朝鮮半島)紛争に同時に対応するとの作戦を立て、朝鮮半島での戦争再発を常に念頭に置くようになっていた。

 朝米核危機が高まっていた93年末から94年初めにかけて、「作戦計画」を策定している。在韓米軍司令部が本格的な戦争(第2次朝鮮戦争)を想定し、その準備に入ったことを示す行為であった。

 作戦計画で示された「50-27」などの番号に変更はないものの、計画内容は何度も現実作戦に沿って更新されている。ちなみに番号の「50」はアジア地域のことである。

 90年代末の作戦計画では、平壌制圧と朝鮮労働党政権の転覆を策定、侵略部隊をさらに北上させて中国との国境まで占領し、朝鮮再統一を計画している。

 昨年策定した「作戦計画5015」は、ゲリラ作戦、ピンポイント作戦、斬首作戦など、金正恩第1書記と朝鮮労働党中央委員会を狙った攻撃、上陸作戦となっている。これまでの「作戦計画5027」までは防御が中心であったが、5015は攻撃が中心となっている。もはや、実戦と演習との区分がつかなくなっている。これを脅威と言わず、何と言えばよいのか。

 今年の米韓合同軍事演習「キー・リゾルブ」「フォール・イーグル」が7日から始まった。ゲリラ戦主体の戦闘へと変更した演習は、米軍約1万7千人(例年の2倍)、南朝鮮軍約30万人(同1.5倍)が参加する「史上最大」「史上最先端」で朝鮮に圧力をかける意図をもっている。

 「キー・リゾルブ」(米軍増援演習)は、在韓米軍が96時間以内に前線で展開、「フォール・イーグル」(米韓軍の野外実働演習)は上陸進撃、空爆やミサイル攻撃、特殊部隊での敵重要拠点(局地戦)の制圧などの訓練が柱となっている。

 米国は、この合同軍事演習は、毎年春の「定例」で、朝鮮の4回目の核実験と長距離弾道ミサイル発射を受けて「史上最大」規模になったものだとしている。

 脅威を増す朝鮮に対する予防訓練であると、「詭弁」を弄している。


7.朝米コミュニケ

 米国防総省の国防情報局(DIA)は、何事であれ朝米間が和解へと進む協議には反対で、常に朝鮮への緊張を高めるためのニセ情報を流し続けている。

 さらに、米軍事偵察衛星は毎日、毎時間、朝鮮上空から、軍事目的の様々な地下施設掘削作業を監視し続けている。このように朝鮮は絶えず米軍からの監視と空爆の脅威にさらされている。

 米国の歴代政権は、朝鮮には圧力をかけなければ、核兵器の放棄か体制崩壊かの選択を迫れないし、そうしないと朝鮮は核開発計画を決してあきらめないだろうとの認識に立っている。だから米国は、朝鮮への制裁論は「正論」なのだと強弁している。

 だが、対話路線をとったクリントン政権、対話不在のブッシュ政権、時の政権によって、朝鮮半島政策は異なっていた部分はある。この対極にある朝鮮半島政策を簡単に見ておきたい。

 金日成主席の逝去で中断されていた核問題をめぐる朝米高官協議第3ラウンドは、ジュネーブで94年10月、「朝米基本合意」(枠組み合意)として結実した。

 内容は、①米国が2003年までに軽水炉2基を提供。それまでは年間50万トンの重油を供給。②朝鮮は現存する原子炉と関連施設を凍結する。③両国政府は関係正常化の最初の段階として、貿易や投資の障壁を緩和し、双方の首都に連絡事務所を置く。④米国は北朝鮮に対し、核兵器を使用しないことを正式に保証する。

 朝鮮側の懸念を取り去り、国交正常化までが予定されていた。この「合意」は朝米両国政府によって調印された、歴史上、初めての公式外交文書となった。

 「基本合意」によって、朝米間の対話チャンネルは増え、一定程度の進展を見せたが、97年後半から米国防総省や中央情報局などからの圧力、政権と議会との対立が重なり、枠組み合意の履行そのものが難しくなっていった。

 米国政治の矛盾的表現である。

 米国は97年頃から基本合意を守らず、言いがかりを付けては経済制裁を強化し、軍事的圧力をも強めていった。

 米国内での矛盾した対朝鮮政策とは別に、南北首脳会談後、01年初めにかけての朝鮮は、英国、ドイツ、カナダなど数カ国との外交関係を築いていた。クリントン政権とは2000年9月までにベルリン、ローマ、ニューヨークで、5回にわたる外交正式協議を行っていたのだ。

 その結果、朝米関係に再び進展の兆しが現れ、朝鮮は趙明禄国防委員会第1副委員長を特使としてワシントンに送った。(10月9日~12日)

 趙明禄氏は帰国する直前に、「朝米コミュニケ」に調印している。

 「双方は他方に対して敵対的な意図は持たない」「両国関係は相互の国家主権の尊重と内政不干渉の原則に基づくべきである」など、国連憲章にうたわれている通りの、朝鮮の体制および民族、外交と安全保障が保障された。

 「朝米コミュニケ」は朝米間に新しいドアを開いたかのように見えた。

 趙明禄氏と入れ替わるように、米国はオルブライト国務長官を平壌に派遣した(10月23日)。クリントン大統領の平壌訪問、朝米首脳会談を成功させるためであった。

 金正日総書記は、オルブライト氏との会談で、①弾道ミサイルと関連技術および装備の輸出を停止する。(米国との補償条件の交渉次第で)、②長距離弾道ミサイルの開発、実験、生産、配備の停止。③長期の米軍駐留(南)問題について熟慮する、④朝米間の全面外交関係樹立問題について熟慮する――などを約束し、年に3~4回の第3国の科学衛星打ち上げ提案(ロケットを保有していないため)まで行った。

 しかし、米側が示していた弾頭搭載可能重量の制限や、生産されたミサイルの扱いについて明確な考えを示さなかった(ミサイル協定順守の検証作業の必要性は認めたが、射程距離制限を加えることには反対した)ため、なお交渉すべき点が多く残されて、時間切れ(クリントン氏の任期切れ)となり、クリントン大統領の訪朝と朝米首脳会談は実現しなかった。

 
8.ブッシュ政権の失敗

 2001年1月に発足したジョージ・W・ブッシュ政権は02年10月、朝米枠組み合意の廃止を表明し、対朝鮮交渉を打ち切ってしまった(クリントン政権との間で到達した朝米合意すべてが崩壊)。

 こうした米国の約束違反に対して朝鮮は、寧辺のプルトニウム製造施設を再稼働させている。94年から2000年まで続けられてきた核計画抑止の進展協議はこれによって滅んでしまった。代わってブッシュ政権は、朝鮮の核およびミサイル脅威を作り上げることを、対朝鮮政策の中心とした。

 ブッシュ氏は02年1月の一般教書演説で、イラン、イラクとともに北朝鮮を「悪の枢軸」だと決めつけた。

 この一般教書演説の前に、米国防総省は報告書「核体制の見直し」(NPR)の公開用の政策要旨を発表している。

 この報告書で、朝鮮を米国による潜在的な核攻撃の対象国としてリストアップ(対象国には他にイラン、イラク、シリア、リビア、中国、ソ連が加えられていた)していた。

 クリントン政権時代の様々な合意の中では、朝鮮を核兵器で脅さないことを公約していたこともあって、朝鮮側は一気に米国への不信感を強めていった。

 朝鮮が米軍の有事対応計画の対象、米軍の軍事的圧力について公然かつ明白に記述されていることについても朝鮮は反感を強めた。さらに過去の米政策と矛盾しており、米国政治の深刻な約束違反ではないかと、米交渉担当者に抗議している。

 イラク侵攻計画が進みつつある状況であったから、米国への不信感と懸念はなお深まっていった。

 その後、米軍が実施したイラクやアフガニスタンへの攻撃、ユーゴスラビアやセルビアへの集中攻撃、中東各国への空襲などはそれぞれの政権や軍部が米国に反撃できないからだと理解し、朝鮮は絶対に同じ立場に陥らない決意を固めた。

 以後、朝鮮からの米国への要求(主張)の原則は、朝鮮の政治体制の保証、不可侵の公約(攻撃しないこと)、経済発展妨害の中止、平和協定の締結となった。

 一方のブッシュ政権は朝鮮のウラン濃縮計画(疑惑)に、朝米関係に対する重大な違反だとする懸念を朝鮮側に伝えていた。

 2002年5月、ブッシュ政権の強硬派高官たちは、情報機関からの情報を通じて、朝鮮が米朝枠組み合意に違反していると決めつけて議論していた。ワシントンの対朝鮮関連決定が、ウラン濃縮のことから、間違った方向に進んでいく兆候の一つとなった。

 朝鮮側は米国のこの「懸念」を晴らすための外務省声明(2000年10月25日)を出した。

 懸念を以下の3点と引き換えるとの答えでもあった。

 第1に、米側が朝鮮の主権を認める声明を出し、朝鮮を攻撃したり、体制を転覆させたりすることなく、正当な国家として受容すること。第2に、経済制裁や禁輸措置を取らず、朝鮮の経済政策には干渉しないこと。第3に、米国が朝鮮に対して核兵器や他の兵器で攻撃しないと、法的に保障する不可侵条約の交渉を進めること。

 以上の朝鮮側の要求内容は、決して不当なものではなく、国連憲章にも則った主権国家としての当然のものであった。

 ところが、ブッシュ政権はまったく反応せず、朝鮮の声明を無視してしまった。

 声明にも応えず、対話の窓口も閉ざしてしまったブッシュ政権を、朝鮮は、米国には悪化してく事態を変えて行動する意思がないのだと受け取ってしまった。

 それが朝鮮側の結論となったと言ってもよい。それはまた、朝鮮が核抑止政策へと転換する始まりともなった。

 ブッシュ政権は2001年から2005年まで、朝鮮との外交プロセスに関与しなかった。そのため、朝鮮からのメッセージや主張、対米関係の改善要求などについては、その意図や意味をまともに受け取ることができず、逆に朝鮮の体制転換につながる諸プログラムだけを追求するという負のスパイラルに陥っていた。

 ブッシュ政権の8年間とともに、現オバマ政権の7年余りも同じ道を歩んでいる。

 朝鮮が「核保有国宣言」をしたのは05年2月10日である。これは、あくまでも米国からの核攻撃に対する「防衛上」の理由からだとしている。

 つまり、核抑止論である。

 朝鮮はこれまで、米国との核問題交渉で、何度か、核政策放棄を示唆したことがある。ところが米国は、交渉の場では朝鮮に核放棄を迫りながら、もう一方の手で、核脅迫を続けるという矛盾した政策を続けている。

 この意味から、朝鮮半島に緊張と軍事的危機を作り出してきたのは、米国自身だということに、誰も疑いを入れないだろう。

 今考えてみると、93年から2002年までの朝米間交渉の時期、日朝間、南北朝鮮間は対話でつながっていた。そう考えると、朝鮮半島が現状の危機から脱却していくためには、「交渉」「対話」しかないことが改めて理解できるはずだ。

 その対話の中枢こそが、朝米会談であり、朝米会談の基本が平和保障であることも、誰も疑問視しないだろう。米国が朝米関係の改善を進めていく勇気を持てば、朝鮮半島の平和安定に対する米国の影響力は、もっと効果的に発揮できると思う。


9.朝米平和協議を

 以上、米国が朝鮮半島上で国連憲章や安保理規定にいかに違反していたかについて、やや拡散したきらいはあるものの、事例を挙げて記述してきた。

 朝鮮が国連憲章上の人民の同権と自決、加盟国の主権平等、基本的人権の尊重、平和的解決と国際協力の増進を追求しているにも関わらず、米国の側は、ニセ情報を流して朝鮮半島の危機を創造していくことで自らの存在感を誇示してきた。

 最後に、朝鮮半島の平和安定を作り上げるための措置について、私案を簡単に述べる。(素案のみ)

 中国は、今回の安保理制裁の決議問題で、米国に朝鮮との「平和協定」を結ぶための協議を、強く提案した。1つの前進であると思う。

 しかし、これまでの朝米間の協議、米国の朝鮮半島安保政策を見たとき、前段準備無しでの協議に、米国は入ってこないのではないかと思う。このため、前段の協議が必要になってくると思う。

 幸い朝米間には、朝米共同コミュニケ、朝米共同宣言という、朝鮮半島の平和安定と朝米間の正常化を目指した立派な内容の文書が調印されている。まず、その再確認を朝米間で行う形で協議することを提案したい。

 また、敵対関係にある朝米2国間協議だけでは難しいので、朝鮮半島地域安全保障協議として、6者協議の復活を考えてもよい。但し、6者協議のテーマは「朝鮮半島の非核化」だけにはせず、「朝鮮半島の平和保障」を中心テーマに据える必要がある。

 同時に、もう一つの保障体制の設定が必要である。国連機構の活用である。

 現実的には、国連は米国とその追従集団が牛耳っていること、どの国が発議するのかということなどの難しさもありはするが、朝鮮半島が分断と戦争状態にある現在の状況が作られた責任は、国連にもある。

 国連内で、「朝鮮半島の平和安定」を討議する新たな機構を発足させ、その新機構で、「国連軍司令部」解体問題、朝鮮半島の「平和保障システム」または「不可侵条約」の成立を協議することによって、朝米協議を動かしていく。

 このようにして、現停戦協定の平和協定への転換を進める。

 米軍は現在も、停戦協定の規定に違反して、朝鮮半島への兵力増強や史上最大の軍事演習を展開している。

 重武装されている非武装地帯、恒久的な取り決め(軍事紛争の防止)に関して、国連機関にも責任がある。その責任論を棚上げしての、朝鮮の核とミサイルだけを一方的に断罪する国連機関は、その機能を発揮しているとは言えない。

 以上が、朝鮮半島の緊張状態を解消していくために私が考える方法論である。

参考文献①「二つのコリア」(ドン・オーバードーファー著、共同通信社)
      ②「強盛大国へ向かう朝鮮」(名田隆司著、さらむ・さらん社)

                                                                   2016年3月6日 記

「どこか変、朴槿恵氏の3・1節発言」

「どこか変、朴槿恵氏の3・1節発言」


1.
 朝鮮半島の3月1日は、1919年に起きた「3・1反日独立闘争」の日である。

 日本の朝鮮植民地支配からの反日、独立をめざす運動は、韓国併合直後から、各地での義兵闘争、農民運動が広範に展開された。

 日本は武断政治の強硬策で、これら反日運動に臨んだ。

 時代は、ロシア革命や米大統領ウィルソンの民族自決議要求などの影響が朝鮮にも及び、1919年3月1日に「独立万歳」を叫ぶ示威運動が、朝鮮全土に展開された。

 この日、宗教指導者らが、パゴダ公園(ソウル)で独立宣言書を発表、大衆集会の後に、示威運動を行った。

 日本官警は激しい団圧を加え、多数の民衆を虐殺、負傷させ、逮捕したが、運動は朝鮮全土から中国東北部の朝鮮人多住地域にまで及び、約250万以上もの人々が参加して、3~6カ月以上にわたる長期間の闘争を行った。

 この闘争の中心となった地主や小ブルジョア出身の指導者たちは、平和的(武装集団に対して無抵抗主義的に)、外交的請願(周辺国に時国の独立を願う)スタイルで独立を求めようとして、朝鮮国内の勤労大衆や農民、革命勢力を結集しようとはしなかった。

 そのため自然発生的な闘争で終わってしまったが、日本帝国主義支配者に与えた打撃は大きかった。

 限定的とはいえ、日帝に言論、出版、集会、結社ならびに民族資本などの自由を認めさせ、後の労働者階級を先頭とする朝鮮人民の民族解放闘争、抗日パルチザン闘争の新しく発展した段階の出発点となった。

 それ故、朝鮮では今も「3・1独立闘争」の3月1日を記念日として、または朝鮮人のアイデンティティーとして認識し、祝賀や集会を開いている。


2.
 韓国の歴代政権は、「3・1独立運動」を記念する政府式典を開き、大統領が演説している。

 朴槿恵大統領も1日、政府式典後に演説した。

 演説内容は、対内関係(構造改革関連法の早期成立の訴え)、対北非難、日本との問題の3分節で繋いでいた。

 対内問題は、世界市場と朝鮮半島安保の不安が重なり、韓国経済が安保と経済の複合危機に陥るのではないかとの感情から、韓国経済の活力向上と構造改革を朴政権が推進しようとしている内容。

 そのプランの中に日米韓3カ国の軍事情報の共有化、ミサイル防衛体制構築、対テロ法案など、米国の要請に沿った安保体制強化があり、野党が反対している。このため、関連法の早期成立の訴えに、演説時間の多くを費やした。

 次いで、北朝鮮の核政策を厳しく非難した。

 「対話の扉は閉じないが、北が非核化の意思を示さず、変化を拒否する限り、われわれと国際社会の圧迫は続く。北が核を放棄するほかないような状況をつくる」と、米国と同一内容の主張を展開した。

 最後に日本問題について言及。

 日本問題はただ一点、慰安婦問題である。

 慰安婦問題は昨年末に日韓で交わした合意について、「被害者が一人でも多く存命中に問題を解決しなければならないとの切実な心情で努力を傾けた結果だ」と、外交的成果を強調した。

 一方で「日本政府歴史の過ちを忘れず、合意の趣旨と精神を完全に実践に移し、未来世代に教訓として記憶されるように努力をしなければならない」と、日本に注目することも忘れなかった。

 元慰安婦や支援団体が、合意内容に反対しているための、国民への改めての理解を求めるために言及したのだろう。

 演説での日本に関する発言は、最も短く、全体の1割程度にしか過ぎなかった。発言内容も抑制的で、大統領就任1週間後の2013年の3・1節祝辞での「加害者と被害者という歴史的立場は千年の歴史が流れても変わり得ない」として、「(日本軍)慰安婦」問題の解決を日韓関係の入口だとしていた超強硬対日姿勢とは、明らかな違いを見せていた。

 
3.
 対北発言で、「対話の扉は閉じないが」としている点については、2月16日の国会演説での(北との)完全交流・対話拒否発言とでは、若干の温度差を感じる。

 短期日のうちに変化したとは考えられないから、そこに米国政治に操られ、韓米同盟関係を取り繕ろおうとする哀れな姿が、垣間見えてしまう。

 それにしても、3・1節を祝う内容としては、どのテーマも相応しいものではなく、特に同族として北朝鮮を批判することは最も相応しくない発言であった。

 そのことを朴政権および南朝鮮の人々は理解しているのだろうか。


                                                                    2016年3月2日 記

「瀕死体の朴槿恵政権」

「瀕死体の朴槿恵政権」


1.
 韓国の朴槿恵政権の任期が3年を過ぎ、残り2年となった今、極端な醜悪ぶりをさらけ出している。

 2月16日、彼女は国会本会議場で行った国政に関する国会演説の最初で、「開城工業団地全面中断は、今後、国際社会とともに取っていく諸般の措置の開始にすぎない」と述べた。

 開城工業団地中断措置は、前李明博政権時の5・24対北朝鮮制裁措置で、最後に残った南北協力の窓口を閉ざすことを意味していた。

 その反動で、軍通信網と板門店の連絡の窓口まで閉じることで、南北通交の窓口のすべてを閉じることになってしまい、没交渉の状態に陥ってしまう。それを少しも恥じる様子はない。

 その上で、「今後、北の体制の根本的変化を自ら導くという目標を設定し、これを国会演説を通じて内外に明らかにする」として、それを金正恩体制の崩壊(レジームチェンジ=政権交代)まで続けるとの強硬発言を行った。

 朴政権が北の「体制崩壊」との表現を使ったのは初めてである。

 北の「体制崩壊」にまで言及したことによって、現政権任期内の南北関係改善、対話および接触はないだろうと、南朝鮮内部からも声が出ている。


2.
 彼女は演説で、南北対話はもちろんのこと、朝米や6カ国協議など、対話と交渉を通じた朝鮮半島の危機問題解決については、一度も口にしなかった。

 北との対話や交渉などはまったく考えていないという態度であり、北への人道的支援や交流協力までも排除するという姿勢を示した。

 「一方的な支援はこれ以上行ってはならない」と、厳しく言い切った。

 これまでの「人道支援」と「交流協力」が、「一方的支援」だったと断定して、北への外貨流入を完全に遮断するとした。

 その考え方が開城工業団地を全面的に中断するという決定につながったのだろう。(もっとも、米国からの強いサゼスチョンがあってのことではあるが)

 朴政権の北への暴言はさらにエスカレートして、国連安全保障理事会や国連本部会議にまで波及している。

 国連駐在韓国代表大使のオ・ジュン大使は2月15日(現地時間)、国連本部で開かれた公開討論で、「国連加盟の際の義務に違反した北朝鮮が、果たして加盟国になる資格があるかどうかを、問題にせざるを得ない」などと発言して、(北の)国連加盟国資格まで問題視した。

 ハン・チュンヒ次席大使も16日、国連憲章特別委員会で、北朝鮮の国連加盟国としての資格に問題を提起した。

 さらに韓国外交部は2月2日(北の人工衛星打ち上げ5日前)、安保理の15理事国に対し、「北朝鮮の4回目の核実験に対する国連安全保障理事会の対応」という非公式外交文書を国連代表部に送っている。

 外交部は文書で、(北の)大量破壊兵器の開発は批判レベルをはるかに超えており、「北朝鮮は国家全体が一つの巨大な大量破壊兵器の開発機構」だと断定している。

 「北朝鮮否定外交」だとしても、北を「敵国」概念化した、あまりにも非常識で恥を知らない外交行動となっている。

 彼女の一連の言動は、親米政権を標榜していた李明博前政権よりもさらに米国側に忠実な働きをしたことの結果である。


3.
 北の4度目の核実験と人工衛星(長距離ミサイル)の発射後、何故か朴政権はテロ防止法施行への発言を強めている。

 「北朝鮮のテロや国際テロ組織の危険に備えるには、テロ防止法の制定が必要」で、「(テロ防止法を制定しないのは)国民の安全を危険の中に放置しているも同然だ」(1月13日の国民への談話)と強調して、北をテロ国家呼ばわりして、(ありもしない)北からの脅威を煽っている。

 朴氏は16日の国会演説でも、「テロなど様々な形態の危険に国民の安全がさらされている」と、テロ防止法の必要性に言及していた。

 (北からの)テロ脅威は、3月7日からの米韓合同軍事演習のプログラムにも用意している。

 「北のテロ国家」発言とともに、高高度防衛ミサイル(サード)配備議論の公式化は、オバマ米政権の予定調和の中にあったシナリオである。

 結局、朴槿恵政権の「対北朝鮮制裁」外交行動は、米国の掌の中で、米国のスピーカーとして一生懸命に動いていたにしか過ぎないということである。

 その過程で、周辺国からそうした役割を悟られまいとしてか、北への過激で、余りにも常識外れの言動となったようだ。

 こうした朴政権の一連の言動は、韓国憲法が政府(第4条)と大統領(第66条3項)に規定する「平和統一」を推進していくことの義務を早々と放棄したことになり、憲法違反行為である。

 それだけでなく、残り2年任期となった朴槿恵政権が、北への極度の不信と反目、緊張関係をさらに助長していくことの事実にも大いに憂慮するが、それより次期政権への影響に対しての懸念の方が大きい。

 朴槿恵氏の一連の言動は、「6・15南北共同宣言」を全面否定し、北を敵視し、朝鮮半島の情勢を対決へと導いていく決断姿勢をとったことになる。残り2年の政権内で、その後発足する次期政権が新たな南北交流を始めること、または考えることすらできないほど、南北関係を破壊してしまう可能性があるのだ。

 そうなれば、朴槿恵氏は朝鮮現代史から厳しい審判を受け、抹殺されるだろう。

 今回の言動によって朴政権は、残り2年の任期を経ずに「瀕死体」となったと言える。


                                                                   2016年2月29日 記

「米韓合同軍事演習を中止せよ」

「米韓合同軍事演習を中止せよ」


1.
 朝鮮半島問題における米国の思考は、正常ではない。

 偏執的で、冷戦思考的である。

 21世紀に入ってからも冷戦思考を朝鮮半島に振り向け、実行しているからである。

 朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)との対話を拒否し、「悪の枢軸」呼ばわりした政権同様、現オバマ政権も頑ななまでに接触を避け続け、圧力と制裁を強化している。

 ここ数年の米韓合同軍事演習実施内容が、それを十分に物語っている。

 社会主義朝鮮の崩壊作戦をエスカレートさせる作戦計画を次々に更新し、ついには朝鮮労働党中央委員会、または金正恩第1書記を直接狙うピンポイント攻撃作戦を実施しようとしている。

 オバマ氏は大統領最後の任期を意識したのか、3月7日から強行する米韓合同軍事演習「キー・リゾルブ」「フォール・イーグル」は、規模も過去最大となり、内容的にも北の政権を崩壊させることを目的としている。

 今回の合同軍事演習のために作り上げたと思われる「作戦計画5015」が基本となった演習を実施しようとしているからである。

 「作戦計画5015」の意図は、朝鮮の最高首脳部を狙った「斬首作戦」を第1とし、第2に朝鮮の核および戦略ミサイル戦力の「除去作戦」を追求する内容となっている。

 つまり、朝鮮の核および戦略ミサイルを除去、破壊することを目的に、「命令権者」を事前に「除去」する、それができないときは直接、核および戦略ミサイルを破壊するという、先制攻撃型となっている。

 このように今回の合同軍事演習のキーポイントは、「斬首作戦」「体制崩壊」「先制攻撃」「ピンポイント攻撃」になっている。

 内容的には、もはや防衛のための軍事演習だとは言えず、進攻作戦前夜(準備戦)の様相を呈している。

 そのため米軍は陸軍、海軍、海兵隊、空軍の特殊作戦武力を、2月中旬から順次、南朝鮮や沖縄基地に結集させている。

 米原子力潜水艦「ノースカロライナ」号が釜山港に入港、F22Aステルス戦闘爆撃機が烏山米空軍基地に機動し展開、米陸軍第1特殊戦団と第75特攻連隊、米海兵隊特攻連隊、米空軍720特殊戦術戦隊、米海軍特殊戦団「シールズチーム」など、特殊作戦部隊が南朝鮮に集結している。

 これらの部隊は、「先制攻撃」「ピンポイント攻撃」に動員された兵器である。


2.
 朝鮮人民軍最高司令部は25日、重大声明を発表した。

 今この時刻から、わが革命武力が保有している強力で威力あるすべての戦略・戦術打撃手段は、いわゆる「斬首作戦」と「ピンポイント打撃」に投入される敵の特殊作戦武力と作戦装備がいささかの動きでも見せる場合、それを事前に徹底的に制圧するための先制的な正義の作戦の遂行に進入するであろう、として、1次打撃対象と2次打撃対象を表明した。

 1次打撃対象は、「同族対決の謀略巣窟である青瓦台と反動統治機関である」とし、2次打撃対象は、「アジア太平洋地域米帝侵略軍の対朝鮮侵略基地と米本土である」としている。

 「現情勢がこれ以上、袖手傍観できない険悪な境地に至った」ため、朝鮮人民軍最高司令部は、「斬首作戦」や「ピンポイント作戦」に参加する米韓両軍の行動が、いささかの動きでも見せた場合、朝鮮人民軍は躊躇することなく先制的な正義の作戦遂行に進行すると、最高の決意を表明したことになる。

 朝鮮はすでに、強力な電磁波兵器と小型化した核兵器を保有していることを忘れてはならない。それ故、朝鮮人民軍最高司令部の重大声明は、言葉だけの脅しではないことを、米国は真摯に受け止め、米韓合同軍事演習を中止すべきである。

3.
 米国は25日、国連安保理に朝鮮への制裁を大幅に強化する新決議案を提出した。

 朝鮮が1月6日に核実験(水爆)と、2月7日に長距離弾道ミサイル(地球観測衛星)発射を行ったことに対しての「懲罰」で、中国との長い協議の末の妥協案となっている。

 それでも、朝鮮への航空機燃料やロケット燃料の輸出禁止と兵器の全面禁輸、朝鮮産鉱物資源の一部輸入禁止を柱とする厳しい内容となっている。

 決議案は核実験を強い表現で非難。

 渡航禁止や資産凍結の対象として、朝鮮の国家宇宙開発局や原子力工業省など12団体、17個人を追加指定するという、大幅強化になっている。

 米国の強硬な姿勢が押し切った形となっているが、それはまた、オバマ米政権の対朝鮮政策の矛盾した表現でもあった。

 朝鮮には恫喝や制裁を強化し、核政策の放棄を迫る一方で、南朝鮮には常時、核艦船の寄港や戦闘爆撃機を飛来させている。(朝鮮への核攻撃を準備していることを示唆)

 そのもっとも象徴的で、結果的なものが、3月7日から予定している米韓合同軍事演習での中核的内容の最高指導者への「斬首作戦」、党中央委員会への「ピンポイント攻撃」であろう。

 しかし、指導者と指導機関の中枢を破壊すれば、社会主義朝鮮が崩壊するとの認識は、朝鮮では通用しない。70余年間、米国を中心とする帝国主義陣営からの圧力、暴力、孤立化政策に向かい、朝鮮式社会主義を維持発展させてきた力量は、指導者と人民大衆との一体感、強固な一心団結社会の構築であり、そうした社会を誇っているからである。

 朝鮮の指導者と人民大衆は、すべての点で一心同体であるから、指導者が人民大衆を裏切ることも、人民大衆が指導者を裏切ることもない。

 従って、米国政治が考えている指導者と人民大衆との離間作戦も、安保理での制裁内容も、3月からの米韓合同軍事演習プログラム強化も、朝鮮人民を一層強固に団結させる作用となり、その力量をもって米国に向かい、防衛的反撃戦を実行するのだ。


4.
 朝鮮半島および地域の平和と安定を維持するためにとの主張で、これまで米国が実施してきた行動は、朝鮮半島に冷戦思考と自国の目的を持ち込み、緊張感を煽っただけである。

 米国が朝鮮半島で実施している在韓米軍の長期駐屯、冷戦期間中に核兵器を配備し、休戦協定を維持し、平和協定への対話を拒否する、このすべての政策・戦略は平和とは対極にある。

 そのうえ、南朝鮮には過度の核兵器・ミサイル防衛策を講じる一方で、朝鮮の核・ミサイル開発に対しては、全否定するという矛盾する政治を実施し続けている。

 米国は朝鮮半島問題の利害関係者ではあるが、その立場を利用して、南朝鮮には安全保障と政治・経済的支援を与え続けている。

 北側に対しては、高圧的な敵視政策を実施するという、真逆の立場を実施してきた。

 米国がこのように南北双方に対して長年、全く異なる政策、南北朝鮮が直接対立するような仕組みを画策してきたために、朝鮮半島には不信感情が流れ、少しのことで緊張関係が発生するという状況が作られてしまった。

 それも米国の帝国主義的な政治の結果だ。

 米国が口先だけの朝鮮半島の平和と安定を表現する言語が、かえって朝鮮半島に戦争の危機を呼び込み、南北協力と統一事業を困難にしていることも事実だ。

 3月から実施予定の「キー・リゾルブ」「フォール・イーグル」米韓合同軍事演習は、以上の米国の朝鮮半島政策のもっとも矛盾した結果で、象徴であるため、朝鮮半島の平和と安定を願う者として、永久の中止を要求する。

 米韓合同軍事演習は、朝鮮半島の緊張緩和策には全く無益であり、かえって戦争前夜の危機を造成するだけである。

 世界と朝鮮半島の平和を願う権利者として、米韓合同軍事演習の中止を米国に要求する。

 そして、朝鮮との対話政策に切り替えることをオバマ政権に強く要求する。

                                                                   2016年2月28日 記

「北朝鮮核批判に関する『断章』」②

「北朝鮮核批判に関する『断章』」②



6.日米軍事同盟の強化

 2月7日に打ち上げた北朝鮮の人工衛星を仮に米国が言う「長距離弾道ミサイル」だとしても、直接に日本を狙ったものではない。

 過去のどの時点の打ち上げも、北朝鮮は日本を攻撃することを目的とはしていない。

 にも関わらず、日本政府は北朝鮮「脅威」を喧伝して、米国と一体型の過剰なまでの防衛体制を敷いてきた。

 安保関連法施行を前に、安倍晋三首相は事あるごとに安保法の必要性に言及し、日米一体化を進めようとしている。そのいい機会だと捉えていたのではないか。

 中谷元防衛相は1月28日、(北朝鮮のミサイルに備えて)最初の破壊措置命令を出した。

 命令時、新ガイドライン(日米防衛指針)で設立された同盟調整メカニズム(ACM)を初めて活用した。

 日米合同の指揮所演習「キーンエッジ」の真っ最中だった。

 演習は、北朝鮮ミサイル発射に備えて、海上配備型迎撃ミサイル(SM3)塔載のイージス艦が日本海や東シナ海に展開し、首都圏などに地対空誘導弾パトリオット3(PAC3)の展開を巡る弾道ミサイル防衛(BMD)の協力が始まったばかりであった。

 BMDは膨大な量の情報をコンピュータが瞬時に分析し、遠隔操作で迎撃ミサイルを発射する再新の装備。日本独自では動かせないので、米国との協議が必須である。

 演習の中心拠点であった東京都内の防衛省と在日米軍横田基地が、そのまま「ミサイル対応の司令塔」となった。

 「訓練をしているのか、実際の対応をしているのか分からなくなるほどだった」(参加した自衛隊幹部)との声も出るほどの状況であったようだ。

 中谷防衛相は「日米で連携し、対応していく」などとの考えを明らかにした。

 現実の方が先行して、(米国を標的とした)弾道ミサイルを、自衛隊が迎撃することを想定した日米一体運用(弾道ミサイル防衛)が、国会審議の前に始まっていたことになる。

 日米一体運用は集団的自衛権行使によって成立する。

 15年の新ガイドラインによって初めて明記され、安保法が法的に担保することになる。

 このように安保法施行(16年3月)前の段階で、現場ではすでに日米一体化が進んでいたことになる。

 だが日米の連携強化が進んでいくほど、米国の戦争に日本は巻き込まれていく可能性が高まっていく。

 日本は緊張、危機、紛争状況を自ら作り、その現場に自ら求めて参加しようとしているのだ。

 
7.サンフランシスコ平和体制とは

 1951年9月8日(日本時間9日午前3時34分)、サンフランシスコ講和会議で吉田茂主席全権が対日平和条約に調印(発効は翌年4月28日)し、日本は独立を回復した。

 太平洋戦争の終結と国交回復のため、日本国と連合国との間に結ばれた条約である。

 別名、対日平和条約ともいう。

 米国と英国だけで条約草案を作り、いっさいの審議・修正・討議を認めない調印会議として、米英両国が招請した。

 旧連合国55カ国のうち、中国(代表政権について米国と英国が対立したため)、南北朝鮮は招請されず、インド・ビルマ(現ミャンマー)、ユーゴスラビアは招請されたが参加せず、ソ連、ポーランド、チェコスロバキアは出席したが調印しなかった。

 結局、48カ国だけが日本と調印。

 単独講和条約であった。

 しかし、これは、単独不講和を決めた42年1月1日の連合国共同宣言に違反しており、米軍の日本への駐留を認める日米安全保障条約と抱き合わせであったため、ソ連を含む共産圏諸国や東南アジア諸国からの反発が強く、日本の独立は完全な講和条約体制とは言えなかった。

 連合国が分裂したため、その後、それに調印しなかった諸国との2国条約を推進することになる。

 台湾の国民党政府とは52年4月28日、インドとは52年6月9日、ビルマとは54年11月5日、ユーゴスラビアとは52年に国交を回復、それぞれ平和条約を調印。

 ソ連とは56年10月19日、日ソ共同宣言に調印して国交回復。

 ポーランドおよびチェコスロバキアとは57年に国交回復。

 中国とは72年9月に国交回復。

 植民地支配をしていた朝鮮が南北に分裂していたため、南の韓国政府とは65年6月22日、日韓基本条約に調印した。

 北の朝鮮民主主義人民共和国とは、未だに日朝国交正常化交渉さえ開かれず、同国とは戦争終結には至っていない。

 なお、賠償は原則として役務賠償を採用した。これは米国の意向であった。

 東西冷戦が激化し、実際に朝鮮半島で戦争が起こっていたため、米国は日本の早期の経済復興・発展を促し、経済部門でアジア地域の反共最前線基地としての日本の活躍を期待していたからである。

 役務賠償は、当該国の希望に応えて、ダム、道路、橋、鉄道などの巨大工事を行う工事建設の主体が日本企業であったから、日本政府が出資した金額の大半は企業を通じて日本に還元される。

 日本はこのことによってアジア各国への企業進出を果たした。

 日本の講和条約は単独であったうえ、未完成なのである。

 対日平和条約の特徴は、日本の個別的及び集団的自衛権を承認し、日本の再軍備と外国軍隊(米軍)の駐留継続を許容していること。

 朝鮮の独立、台湾・澎湖諸島、千島列島、南樺太の領土権の放棄を規定したものの、放棄した領土の帰属を規定していなかったから、今日まで続く問題を残した。

 さらに沖縄・小笠原諸島は引き続き米国の施政下に置かれることになった。

 そして必然の如く、条約が調印された日の午後に、日米安全保障条約が調印された。

 サンフランシスコ講和会議と条約は、戦後の日本政治、外交、経済関係の起点となり、今日まで歴史問題、沖縄基地、領土問題、朝鮮との関係に大きな問題を残した。

 現在、安保関連法をめぐっての、自衛隊と米軍との一体化議論が進み、朝鮮半島の両軍の侵攻を計画し、北朝鮮への脅威を与えるまでに、軍事体制が突出している。


8.「日朝平壌宣言前段交渉」

 日本自身が、帝国主義体制から脱し、平和国家に向かって歩んでいくことを宣言する上においても、また、サンフランシスコ平和条約を誠実に実行するうえにおいても、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との正常な関係、国交正常化は必須条件であったにも関わらず、歴代政権は、一方の韓国とだけ国交を結び、北朝鮮とは敵視政策を取り続けてきた。

 植民地下で、強制連行した軍人、軍属及び労務者たちの実態解明と補償、軍慰安婦たちへの謝罪と補償、広島、長崎での原爆被害者の調査と治療、強奪した文化財等の返還問題は、未だに議論もされず、放置されたままになっている。

 こうしたことは、人権問題以上に、日本国家の品格が問われている問題だ。

 当初、北朝鮮との交渉の中心は、議員個人、政党、赤十字間だけであったが、その政党間交渉が初めて形になるのが、1990年9月に自民党と社会党及び朝鮮労働党との間で結んだ3党共同宣言である。ここから現実進行していく。

 3党共同宣言の精神に則り、翌年1月から92年11月まで8回にわたる政府間交渉が行われた。

 政府間交渉では基本問題(信頼の醸成)、経済問題、国際問題、その他の4議題のテーマが設定された。

 中心議題は36年間の植民地支配をめぐる請求権問題と北朝鮮の核関連施設への査察受け入れ問題であった。

 90年代に入って、米国は北朝鮮の核開発を「核疑惑」問題として追求していたから、日本も核問題を取り上げた。

 初めての日朝交渉においても、日本側は米国の影と意向が揺れていたことになる。

 第8回交渉で日本側が「李恩恵(リ・ウネ、日本人行方不明者)」の身元確認を要求したことで、交渉は中断した。

 その後、北朝鮮からのコメ支援要請(水害被害などで食糧不足に陥っていたため)に、日本は30万トンを供用(95年)。

 日朝赤十字連絡会議によって、日本人妻の一時帰国(97年)実現などがあり、現安倍政権のように圧力、没交渉一辺倒ではなかった。

 しかし、98年夏のミサイル発射、「不審船」の出没があり、日朝関係は冷え込んでしまった。
 
 99年末、村山元首相を団長とする超党派代表団の訪朝実現で、翌年4月に第9回交渉が開かれ、第10回(東京)、第11回(北京)と開催された。

 交渉で日本側が拉致問題を、北朝鮮側が過去の清算問題を持ち出したため、暗礁に乗り上げ、再び交渉は中断した。

 北朝鮮が2002年3月、日本人行方不明者調査、赤十字会談の再開を提案してきた。

 これに対して同年7月のブルネイでの外相会談で国交正常化交渉再開に向け、局長級会談が開かれることになった。

 局長級会談で小泉首相の親書が渡され、それに対する金正日総書記の返答があり、日朝首脳会談へとつながる劇的な変化があった。


9.日朝首脳会談

 小泉首相は02年8月末、北朝鮮への訪問を発表、9月17日に平壌に到着した。

 金正日総書記との日朝首脳会談が始まった。

 首脳会談で金正日総書記は、拉致の事実を認め、責任者の処罰と再発防止を約束し、率直に謝罪を表明した。

 また不審船問題についても、事実と認め、再発防止を約束した。

 小泉首相はこの謝罪を受け入れ、「日朝平壌宣言」に調印した。

 平壌宣言の骨子は、①国交正常化の早期実現への努力、②日本の植民地支配の反省と謝罪、対朝経済協力、③国際法の遵守、拉致、工作船事件の再発防止、④東北アジアの平和と安定のための相互協力、核問題解決への国際的合意の遵守などの、4項目である。

 共同宣言で両国は、2002年10月中の日朝国交正常化交渉の再開に合意。

 朝鮮半島における植民地支配について、日本は、「歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明」して謝罪、国交正常化後の無償資金協力、低金利の長期借款供与等の経済協力(賠償方式ではなく、韓国の時と同じ経済資金協力)を約束した。

 北朝鮮は「このような遺憾な問題が今後再び生じることがないよう適切な措置をとることを確認」し、ミサイル発射のモラトリアムを2003年以降も延長するとした。

 両国は「朝鮮半島の核問題の包括的な解決」のため、関連するすべての国際的合意を遵守するとした。

 だが、北朝鮮が正式に拉致を認めたことで、以降の日本社会は衝撃を受け、マスメディアを中心に対北朝鮮非難一色となった。

 その後、北朝鮮は拉致した日本人の大半は死亡しているとし、生存者5人の一時帰国を認めた。

 予備交渉の結果、小泉首相が04年5月22日、再度の訪朝で第2回日朝首脳会談を行った。

 会談で、拉致被害者の家族8人のうち5人の帰国、安否不明者10人の再調査の依頼と、日本からの食糧25万トン、医療品1000万ドル分の人道支援、平壌宣言が順守されている限り、日本からの経済制裁は実施しない、との合意をみた。

 日朝平壌宣言は、それまでの党間共同声明とは違い、初めて両国首脳が会談し、合意したもので、その重要性はケタ違いである。

 しかも両国の懸案事項、日本は拉致被害者を含むすべての行方不明者の調査要求、北朝鮮は戦前・戦後補償問題を協議し解決することを約束した。

 それぞれの協議進行は、「一括妥結方式」「行動対行動」で解決するとした。

 この方式モデルは、その後の朝米会談でも適用されていて、有用な方式である。

 以上の点からしても、画期的な宣言であった。

 しかし、日朝間では、「拉致問題」だけを協議、解決すべきものの如くにして、問題の質を歪めてしまった政権によって、日朝間の正義の協議を壊してしまった。


10.ストックホルム合意の内容

 2015年の「日朝ストックホルム合意」内容についても、安倍政権は解曲し、都合のよい部分だけを強調して伝えている。

 即ち、拉致問題の解決を前に進めたとしている。

 ストックホルム合意で北朝鮮が約束したのは、すべての日本人の再調査(拉致被害者や日本が言う特定失踪者、日本の敗戦前後に北部朝鮮で死亡した人たちの遺骨返還、日本人妻)で、拉致被害者の再調査はその一部でしかない。

 それらの調査進展(特定部門を先行して調査するとの約束はない)具合によって日本は制裁を解除し、日朝国交正常化交渉へとつなげていくことになっている。

 拉致を先行させる、拉致問題を解決するだけのストックホルム合意ではない。

 合意内容はまた、02年の日朝平壌宣言を双方は尊重して、交渉を続けていくことも確認している。

 2015年に行われた日朝非公式協議の場で、北朝鮮は何度か中間報告をしようとしたが、日本は拉致被害者の調査結果が満足のいくものではないとして報告書の受取を拒否してきた。

 日本国内では、北朝鮮からの調査報告はまだないと、言い繕う安倍政権の言説を信用し、日本社会は北朝鮮への悪感情を増幅させている。

 長年の米国からの反北朝鮮プロパガンダ情報によって、日本社会は北朝鮮への予断、偏見、反発認識が沈殿している。

 問題があるたびに、マスメディアが垂れ流すニセ情報が、人々の中の反北朝鮮感情を増幅させ、北朝鮮への理解、日朝の歴史的解決を難しくし、問題解決を遠くへと押しやっている。


 
 ところで、2月16日、17日に朝日新聞社が世論調査をした結果が、2月16日付けの紙面に掲載されていた。

 その中で、「北朝鮮は今月7日、事実上の長距離弾道ミサイルを発射しました。今回のミサイル発射に対する安倍内閣の対応を評価しますか。評価しませんか」に対する質問に、評価する54%、評価しない24%との結果が出ていた。

 現国会で議論している安保関連法の、まるで現実的適応の如く、ミサイル迎撃防衛体制を敷き、日本国中を北朝鮮危機の中に置いた安倍政権の態度に、これは24%もの人々が反感を持ったということである。

 日本は植民地支配時代のことを清算せずに、朝鮮戦争を清算しない米国とともに、対北朝鮮への敵視政策を続けていることこそ、歴史の正義に反している行為なのだ。

 何かにつけて、北朝鮮への制裁を論じ、実施する立場にはない。


                                                                   2016年2月21日 記
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愛媛現代朝鮮問題研究所のブログです。

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