「北朝鮮核批判に関する『断章』」①
「北朝鮮核批判に関する『断章』」①
1.世界の核兵器数
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所は毎年、世界の核戦力の実態について報告している。
2013年については次のとおりである。
* アメリカ(1945年から)7700発
* ロシア(1949年から)8500発
* イギリス(1952年から)225発
* フランス(1960年から)300発
* 中国(1964年から)250発
* インド(1974年から)90~110発
* パキスタン(1998年から)100~120発
* イスラエル(―)80発
* 北朝鮮(2006年から)6~8発
以上、核保有国9カ国の実数である。
予想していたとおり、米国とロシアの保有数が突出していることが、改めて明らかになると同時に、英・仏・中を含む5カ国の国連安保理常任理事国が核兵器を独占している現状も確認できる。
米ソ両国の核削減交渉は進んでいない実態も、この調査から明らかになった。
インド、パキスタンの核は領土問題などからの紛争と核開発競争の結果である。インド、パキスタンの両国は、イスラエルとともに核拡散防止条約(NPT)にも包括的核実験禁止条約(CTBT)にも加盟していない。
だが、米国はこの3カ国の核保有と未臨界核実験、コンピュータを使用した核実験のシュミレーションは黙認している。
日本はインドとの間で、「日印原子力協定」(2015年12月)を結んだ。
日本がNPT未加盟国と原子力協定を結ぶのは初めてで、「NPT未加盟国で核兵器保有」という状況を、日本は作り出そうとして、内外からの批判を受けている。
NPTに加盟していない場合、原発など核の平和利用が認められていないためである。
印パ紛争で、米国はインド側を支援しており、今回の日印原子力協定も黙認・容認する方向である。
印パ紛争以降、中国はパキスタンの核開発を支援してきたから、印パ対立は別の米中対立の様式となっている。
日本のインドへの原発輸出が、印パ間に新たな緊張感をもたらす可能性は十分にある。
その下地を、日本と米国が作り出していて、世界の核兵器削減とは逆行している。
一方、北朝鮮に関しては、ストックホルム国際平和研究所の世界の核兵器数報告によって、6~8発保有とされ、他の8カ国と比べても圧倒的に少ないが、9カ国目の核保有国と認定されている。
米スタンフォード大のヘッカー教授は、北は20年までに計50個の核爆弾を保有する可能性もある(16年1月)と予想しているが、その根拠は不明である。
インド、パキスタン、イスラエルの核開発と保有についてを不問にしてきた米国は、なぜ北朝鮮の核政策だけを神経質に問題にするのであろうか。
そこには、米国の核政策での二重、三重の基準と、北朝鮮の核が米本土に向けられているとする恐怖心があったのだろうと思われる。
それ故に、北朝鮮が核実験をするたびに、国際社会への「挑発」「脅威」だとのレッテルを張って、制裁論を主張することになるのだ。
2.朝鮮半島の現在
北朝鮮と米国、南北朝鮮の対立について理解するには、朝鮮半島の現在を正しく知る必要がある。
その朝鮮半島の現在は、朝鮮戦争がまだ終結せず、準戦時状態のまま38度線をはさんで、(北の)朝鮮人民軍と(南の)米韓両軍が対峙している状態である。朝鮮半島唯一の外国軍隊である在韓米軍がずっと南朝鮮に駐屯しているのだ。これはなぜか。
53年7月27日に朝鮮半島停戦協定が締結されて以降も、米国は北朝鮮との戦争を終わらせることを拒否してきた。
本来なら、停戦協定後に当時国間で、または第3国を介在させての和解講和、平和協定を締結するための協議を行うのが、国際社会の慣例である。
朝鮮戦争は当初の内戦から、米軍介入、米韓国連軍の38度線突破、中国義勇軍の参戦によって、新たな国際戦争へと発展してしまった。
51年6月23日、マリク・ソ連国連代表の停戦会談の提案により、7月10日から開城で停戦交渉に入った。
停戦会談中も、米韓「国連軍」は51年秋、52年秋、53年春と、大攻撃を仕掛け、38度線を挟んだ戦線では、砲撃の音が鳴り響いていた。
全戦線で銃声が止んだのが53年7月26日。
翌27日、朝鮮人民軍と中国義勇軍および国連軍(米軍)のそれぞれ代表が停戦協定に調印して、停戦は成立した。
韓国軍代表は調印式に出席していたものの、李承晩大統領の「武力北侵統一」の意向が強く、調印しなかった。
停戦協定から和解、講和、平和協定に向けての協議が一度だけ行われている。
54年4月26日から開催されたジュネーブ会議である。
会議には、「国連軍」として朝鮮戦争に参戦した15カ国代表が出席したが、双方の非難合戦の場となり、何らの妥協もなく決裂してしまった。
米国は当初から停戦協定を解消する意思がなく、インドシナ問題(ベトナムなどの共産主義化を防ぐための)を協議する場を利用しての会談であった。
その後、北朝鮮は米国に対して、停戦協定を解消し、その後、朝鮮半島の平和安定への様々なプランを提示するが、いずれも米国は無視をしてきた。
北朝鮮からの提案を無視し、協議のテーブルに座ることさえ、拒否をした米国は、代わりに核兵器での恫喝、米韓合同軍事演習のレベルを上げて、常に朝鮮半島の危機状態を作り出してきた。
米国は現在も、朝鮮半島の「制度的統一」(米国式の自由、民主主義体制)を追求していて、そのための様々な圧力を北朝鮮に仕掛け、北朝鮮を敵視している。
北朝鮮と米国は、敵対した関係が続いている。
それを解消したいと願う北朝鮮は、朝米平和協定の締結を呼び掛けているのに対して、米国は北の体制崩壊作戦で応じている。
朝鮮半島での「緊張」「危機」「脅威」の類は、米国の自作自演、米国の対北朝鮮政策の結果である。
3.長距離弾道ミサイル説
北朝鮮は2月7日、地球観測衛星「光明星4号」の打ち上げに成功したと報道した。
ところが、日本のマスメディアのすべては、宇宙周回衛星とはせずに、「事実上の弾道ミサイル」とか、「(北朝鮮が)人工衛星と称するミサイル」などと報道した。
つまり、北朝鮮が打ち上げたものは、長距離弾道ミサイルだと断定しての報道であった。
そうした情報源は米国である。
では、人工衛星とミサイルはどのように違うのだろうか。
衛星もミサイルも、飛行技術(弾道ミサイル技術)は、共通のロケットを使用する。
その後、衛星の場合、高度約500キロまでロケットが飛び、その先端に搭載した「衛星」を、地球周回軌道に入れる。
一方のミサイルの場合は、高度1,000キロ以上の大気圏外まで打ち上げて、ロケット部分を切り離し、大気圏に再突入させて、先端部分の搭載物を地上に向けて落下させる。
両者の違いは、打ち上げた後、大気圏に再突入させるか否かの違いと、先端の弾頭部に搭載するものが衛星か大量破壊兵器(小型化した核)かの違いであり、それによって、人工衛星かミサイルかとなる。
北朝鮮が打ち上げた搭載物2個が、地球周回軌道に乗り、周回していることを米国も確認したと発表した。人工衛星打ち上げと認定したのだ。
ところが、米国務省は「ミサイル発射」、米大統領府は「ミサイル技術を用いた発射」だとして、北朝鮮に向き合う立場の違いから、その見解も違っていたことが明らかとなった。
日本は、安倍晋三政権側もマスメディア側も、「人工衛星と称するミサイル」の発射との立場と表現を変えず、国民に不安と緊張、反北朝鮮感情を与えていた。
ところで日本は2月17日、X線天文衛星「アストロH」を搭載したH2Aロケット30号を、鹿児島県種子島宇宙センターから打ち上げた。
14分後に予定の軌道に衛星を投入し、打ち上げは成功したことを報道した。
この衛星はブラックホールの成長過程など宇宙の全体像を解明するため、3年以上の観測を目指すとしている。
この打ち上げ物について、すべてのマスメディアは、「人工衛星と称するミサイル」だとは表現せずに、「人工衛星の打ち上げ」と報道していた。
結局は、マスメディアまでが(米国の)政治判断に従った北朝鮮情報を流し、一般市民に情報操作していることが、はっきりした。
4.テレビ出演のコメンテーターたちの質
北朝鮮関連で、問題や緊張が発生するたび、特に民放テレビ局は、朝鮮問題専門家と称するコメンテーターたちを出演させて、彼らの口を借りた北朝鮮批判を行っている。
民放テレビ局が多用する、いわゆる朝鮮問題「専門家」と称す人たちの北朝鮮情報の分析内容のほとんどは、米情報当局からのネタであって、それを自己流に色づけしているにしか過ぎない。
特にマスメディアで多用されている(有名)専門家たちの大半は、北朝鮮を訪問したことがないから、北朝鮮の都市および農村建設の状況、人民たちの生活環境の発展と変化、人民と指導層との一体感の様子などを紹介したり、語ることができず、ワシントン情報の北朝鮮批判とプロパガンダ情報を上書きしているだけである。
何も知らない多くの者たちには、彼らの言語の方が浸透しやすく、コメンテーターたちによって、北朝鮮への偏見が刻印されていく。
彼らは、北朝鮮の水爆実験(1月6日)、人工衛星を打ち上げ(2月7日)についても、米国流否定的立場に立っている。
「(以前に比べて)技術進歩しているとは言え、まだ問題がある」などとのコメントなどはまだいい方で、すべてが疑問、懐疑的言語に終始している。
彼らのことばは偏見、軽視、解曲、予断に満ちており、決して北朝鮮の現実や実態を語ってはいない。
そのため、彼らの北朝鮮否定的論調が、日本社会を覆う状況となっている。
その意味で現テレビコメンテーターたちの言語は、有害であると言える。
彼らを多用している民放の北朝鮮報道も、日朝国交正常化交渉の進展を促しているのではなく、妨害している可能性がある。
過去、私に対しても地元テレビ各局はもちろん東京のNHKおよび各民放キー局から、出演依頼、事前取材が何度もあった。
そのつど、訪朝したおりの見聞や、関連資料から導き出した見解などを、取材記者たちに語った。
若い取材記者たちの中には、私の(新鮮な)北朝鮮情報と見解に感動したり、長い期間の活動経験に敬意を表明する人たちもいたが、いずれも取材段階までで、朝鮮間連問題での直接のテレビ出演は一度もなかった。(演説や活動をしている場面でのニュース報道はあったものの)
以上が日本での北朝鮮情報、報道の現実である。
各報道機関が米プロパガンダ情報に基づいた反北朝鮮情勢を形作っている現実を、理解しておく必要があるだろう。
5.米韓合同軍事演習
米軍は今年も、米韓合同軍事演習「キー・リゾルブ」及び「フォール・イーグル」を3月7日から4月末まで、予定通り実施すると発表した。
過去最大規模(韓国国防省関係者)で実施するという。
8月には「ウルチ・フリーダム・ガーディアン」も予定している。
米軍は北朝鮮の核実験を口実に、対中国牽制の思惑まで込めて、米韓、日米、日韓の軍事連携を次々と強め、合同軍事演習を経てそれらを実現(実戦)、完了させようとしている。
すでに3月の米韓合同軍事演習前には、米海軍のバージニア級原潜と韓国海軍潜水艦が日本海で合同演習(2月13日~15日)している。
レーダーが捉えにくい米空軍のF22ステルス戦闘機4機を韓国の鳥山(オサン)空軍基地に着陸させ、うち2機は当分の間、鳥山に残留させて、軍事力を誇示すると共に、核攻撃の可能性を維持している。
また、合同軍事演習中には、米原子力空母のジョン・C・ステニスと同時に、米海軍佐世保基地配備の強襲揚陸艦「ボノム・リシャール(乗組員1200人」を派遣するという。米間両海兵隊による上陸作戦演習に参加し、北朝鮮に強い圧力をかけようとしている。
新型輸送機オスプレイの搭載も可能で、沖縄の米海兵隊との一体運用となる。日本(自衛隊)もすでに、合同軍事演習に参加していることになる。
北朝鮮が人工衛星(米軍はあくまでも弾道ミサイル発射実験と解釈)の打ち上げを受けて、北朝鮮によるミサイル攻撃に対抗して計画した「4D作戦」の訓練まで実施する方向で検討している。
4D作戦は、探知・かく乱・破壊・防御の4段階からなる作戦で、米国の偵察衛星レーダー、無人偵察機などを動員して、北朝鮮側の動きを探知し、短時間内に相手のミサイルを攻撃して破壊するというものである。
そして、米軍念願の高高度迎撃ミサイルシステム(サード)配備に向けた公式協議を韓国側と開始し、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)締結に向けた動きを後押ししている。
以上のような軍事演習は、演習だけで終わるのではなく、朝鮮人民軍の動きを誘発し、直ぐさま実戦へと転化できる先制攻撃を準備していて、非常な危険性を有している。
米国は北朝鮮との戦争を終わらせることを一貫して拒否しており、北朝鮮の体制を破壊する様々な作戦計画を策定し、それを軍事演習で実施しているのだ。
(続く)
1.世界の核兵器数
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所は毎年、世界の核戦力の実態について報告している。
2013年については次のとおりである。
* アメリカ(1945年から)7700発
* ロシア(1949年から)8500発
* イギリス(1952年から)225発
* フランス(1960年から)300発
* 中国(1964年から)250発
* インド(1974年から)90~110発
* パキスタン(1998年から)100~120発
* イスラエル(―)80発
* 北朝鮮(2006年から)6~8発
以上、核保有国9カ国の実数である。
予想していたとおり、米国とロシアの保有数が突出していることが、改めて明らかになると同時に、英・仏・中を含む5カ国の国連安保理常任理事国が核兵器を独占している現状も確認できる。
米ソ両国の核削減交渉は進んでいない実態も、この調査から明らかになった。
インド、パキスタンの核は領土問題などからの紛争と核開発競争の結果である。インド、パキスタンの両国は、イスラエルとともに核拡散防止条約(NPT)にも包括的核実験禁止条約(CTBT)にも加盟していない。
だが、米国はこの3カ国の核保有と未臨界核実験、コンピュータを使用した核実験のシュミレーションは黙認している。
日本はインドとの間で、「日印原子力協定」(2015年12月)を結んだ。
日本がNPT未加盟国と原子力協定を結ぶのは初めてで、「NPT未加盟国で核兵器保有」という状況を、日本は作り出そうとして、内外からの批判を受けている。
NPTに加盟していない場合、原発など核の平和利用が認められていないためである。
印パ紛争で、米国はインド側を支援しており、今回の日印原子力協定も黙認・容認する方向である。
印パ紛争以降、中国はパキスタンの核開発を支援してきたから、印パ対立は別の米中対立の様式となっている。
日本のインドへの原発輸出が、印パ間に新たな緊張感をもたらす可能性は十分にある。
その下地を、日本と米国が作り出していて、世界の核兵器削減とは逆行している。
一方、北朝鮮に関しては、ストックホルム国際平和研究所の世界の核兵器数報告によって、6~8発保有とされ、他の8カ国と比べても圧倒的に少ないが、9カ国目の核保有国と認定されている。
米スタンフォード大のヘッカー教授は、北は20年までに計50個の核爆弾を保有する可能性もある(16年1月)と予想しているが、その根拠は不明である。
インド、パキスタン、イスラエルの核開発と保有についてを不問にしてきた米国は、なぜ北朝鮮の核政策だけを神経質に問題にするのであろうか。
そこには、米国の核政策での二重、三重の基準と、北朝鮮の核が米本土に向けられているとする恐怖心があったのだろうと思われる。
それ故に、北朝鮮が核実験をするたびに、国際社会への「挑発」「脅威」だとのレッテルを張って、制裁論を主張することになるのだ。
2.朝鮮半島の現在
北朝鮮と米国、南北朝鮮の対立について理解するには、朝鮮半島の現在を正しく知る必要がある。
その朝鮮半島の現在は、朝鮮戦争がまだ終結せず、準戦時状態のまま38度線をはさんで、(北の)朝鮮人民軍と(南の)米韓両軍が対峙している状態である。朝鮮半島唯一の外国軍隊である在韓米軍がずっと南朝鮮に駐屯しているのだ。これはなぜか。
53年7月27日に朝鮮半島停戦協定が締結されて以降も、米国は北朝鮮との戦争を終わらせることを拒否してきた。
本来なら、停戦協定後に当時国間で、または第3国を介在させての和解講和、平和協定を締結するための協議を行うのが、国際社会の慣例である。
朝鮮戦争は当初の内戦から、米軍介入、米韓国連軍の38度線突破、中国義勇軍の参戦によって、新たな国際戦争へと発展してしまった。
51年6月23日、マリク・ソ連国連代表の停戦会談の提案により、7月10日から開城で停戦交渉に入った。
停戦会談中も、米韓「国連軍」は51年秋、52年秋、53年春と、大攻撃を仕掛け、38度線を挟んだ戦線では、砲撃の音が鳴り響いていた。
全戦線で銃声が止んだのが53年7月26日。
翌27日、朝鮮人民軍と中国義勇軍および国連軍(米軍)のそれぞれ代表が停戦協定に調印して、停戦は成立した。
韓国軍代表は調印式に出席していたものの、李承晩大統領の「武力北侵統一」の意向が強く、調印しなかった。
停戦協定から和解、講和、平和協定に向けての協議が一度だけ行われている。
54年4月26日から開催されたジュネーブ会議である。
会議には、「国連軍」として朝鮮戦争に参戦した15カ国代表が出席したが、双方の非難合戦の場となり、何らの妥協もなく決裂してしまった。
米国は当初から停戦協定を解消する意思がなく、インドシナ問題(ベトナムなどの共産主義化を防ぐための)を協議する場を利用しての会談であった。
その後、北朝鮮は米国に対して、停戦協定を解消し、その後、朝鮮半島の平和安定への様々なプランを提示するが、いずれも米国は無視をしてきた。
北朝鮮からの提案を無視し、協議のテーブルに座ることさえ、拒否をした米国は、代わりに核兵器での恫喝、米韓合同軍事演習のレベルを上げて、常に朝鮮半島の危機状態を作り出してきた。
米国は現在も、朝鮮半島の「制度的統一」(米国式の自由、民主主義体制)を追求していて、そのための様々な圧力を北朝鮮に仕掛け、北朝鮮を敵視している。
北朝鮮と米国は、敵対した関係が続いている。
それを解消したいと願う北朝鮮は、朝米平和協定の締結を呼び掛けているのに対して、米国は北の体制崩壊作戦で応じている。
朝鮮半島での「緊張」「危機」「脅威」の類は、米国の自作自演、米国の対北朝鮮政策の結果である。
3.長距離弾道ミサイル説
北朝鮮は2月7日、地球観測衛星「光明星4号」の打ち上げに成功したと報道した。
ところが、日本のマスメディアのすべては、宇宙周回衛星とはせずに、「事実上の弾道ミサイル」とか、「(北朝鮮が)人工衛星と称するミサイル」などと報道した。
つまり、北朝鮮が打ち上げたものは、長距離弾道ミサイルだと断定しての報道であった。
そうした情報源は米国である。
では、人工衛星とミサイルはどのように違うのだろうか。
衛星もミサイルも、飛行技術(弾道ミサイル技術)は、共通のロケットを使用する。
その後、衛星の場合、高度約500キロまでロケットが飛び、その先端に搭載した「衛星」を、地球周回軌道に入れる。
一方のミサイルの場合は、高度1,000キロ以上の大気圏外まで打ち上げて、ロケット部分を切り離し、大気圏に再突入させて、先端部分の搭載物を地上に向けて落下させる。
両者の違いは、打ち上げた後、大気圏に再突入させるか否かの違いと、先端の弾頭部に搭載するものが衛星か大量破壊兵器(小型化した核)かの違いであり、それによって、人工衛星かミサイルかとなる。
北朝鮮が打ち上げた搭載物2個が、地球周回軌道に乗り、周回していることを米国も確認したと発表した。人工衛星打ち上げと認定したのだ。
ところが、米国務省は「ミサイル発射」、米大統領府は「ミサイル技術を用いた発射」だとして、北朝鮮に向き合う立場の違いから、その見解も違っていたことが明らかとなった。
日本は、安倍晋三政権側もマスメディア側も、「人工衛星と称するミサイル」の発射との立場と表現を変えず、国民に不安と緊張、反北朝鮮感情を与えていた。
ところで日本は2月17日、X線天文衛星「アストロH」を搭載したH2Aロケット30号を、鹿児島県種子島宇宙センターから打ち上げた。
14分後に予定の軌道に衛星を投入し、打ち上げは成功したことを報道した。
この衛星はブラックホールの成長過程など宇宙の全体像を解明するため、3年以上の観測を目指すとしている。
この打ち上げ物について、すべてのマスメディアは、「人工衛星と称するミサイル」だとは表現せずに、「人工衛星の打ち上げ」と報道していた。
結局は、マスメディアまでが(米国の)政治判断に従った北朝鮮情報を流し、一般市民に情報操作していることが、はっきりした。
4.テレビ出演のコメンテーターたちの質
北朝鮮関連で、問題や緊張が発生するたび、特に民放テレビ局は、朝鮮問題専門家と称するコメンテーターたちを出演させて、彼らの口を借りた北朝鮮批判を行っている。
民放テレビ局が多用する、いわゆる朝鮮問題「専門家」と称す人たちの北朝鮮情報の分析内容のほとんどは、米情報当局からのネタであって、それを自己流に色づけしているにしか過ぎない。
特にマスメディアで多用されている(有名)専門家たちの大半は、北朝鮮を訪問したことがないから、北朝鮮の都市および農村建設の状況、人民たちの生活環境の発展と変化、人民と指導層との一体感の様子などを紹介したり、語ることができず、ワシントン情報の北朝鮮批判とプロパガンダ情報を上書きしているだけである。
何も知らない多くの者たちには、彼らの言語の方が浸透しやすく、コメンテーターたちによって、北朝鮮への偏見が刻印されていく。
彼らは、北朝鮮の水爆実験(1月6日)、人工衛星を打ち上げ(2月7日)についても、米国流否定的立場に立っている。
「(以前に比べて)技術進歩しているとは言え、まだ問題がある」などとのコメントなどはまだいい方で、すべてが疑問、懐疑的言語に終始している。
彼らのことばは偏見、軽視、解曲、予断に満ちており、決して北朝鮮の現実や実態を語ってはいない。
そのため、彼らの北朝鮮否定的論調が、日本社会を覆う状況となっている。
その意味で現テレビコメンテーターたちの言語は、有害であると言える。
彼らを多用している民放の北朝鮮報道も、日朝国交正常化交渉の進展を促しているのではなく、妨害している可能性がある。
過去、私に対しても地元テレビ各局はもちろん東京のNHKおよび各民放キー局から、出演依頼、事前取材が何度もあった。
そのつど、訪朝したおりの見聞や、関連資料から導き出した見解などを、取材記者たちに語った。
若い取材記者たちの中には、私の(新鮮な)北朝鮮情報と見解に感動したり、長い期間の活動経験に敬意を表明する人たちもいたが、いずれも取材段階までで、朝鮮間連問題での直接のテレビ出演は一度もなかった。(演説や活動をしている場面でのニュース報道はあったものの)
以上が日本での北朝鮮情報、報道の現実である。
各報道機関が米プロパガンダ情報に基づいた反北朝鮮情勢を形作っている現実を、理解しておく必要があるだろう。
5.米韓合同軍事演習
米軍は今年も、米韓合同軍事演習「キー・リゾルブ」及び「フォール・イーグル」を3月7日から4月末まで、予定通り実施すると発表した。
過去最大規模(韓国国防省関係者)で実施するという。
8月には「ウルチ・フリーダム・ガーディアン」も予定している。
米軍は北朝鮮の核実験を口実に、対中国牽制の思惑まで込めて、米韓、日米、日韓の軍事連携を次々と強め、合同軍事演習を経てそれらを実現(実戦)、完了させようとしている。
すでに3月の米韓合同軍事演習前には、米海軍のバージニア級原潜と韓国海軍潜水艦が日本海で合同演習(2月13日~15日)している。
レーダーが捉えにくい米空軍のF22ステルス戦闘機4機を韓国の鳥山(オサン)空軍基地に着陸させ、うち2機は当分の間、鳥山に残留させて、軍事力を誇示すると共に、核攻撃の可能性を維持している。
また、合同軍事演習中には、米原子力空母のジョン・C・ステニスと同時に、米海軍佐世保基地配備の強襲揚陸艦「ボノム・リシャール(乗組員1200人」を派遣するという。米間両海兵隊による上陸作戦演習に参加し、北朝鮮に強い圧力をかけようとしている。
新型輸送機オスプレイの搭載も可能で、沖縄の米海兵隊との一体運用となる。日本(自衛隊)もすでに、合同軍事演習に参加していることになる。
北朝鮮が人工衛星(米軍はあくまでも弾道ミサイル発射実験と解釈)の打ち上げを受けて、北朝鮮によるミサイル攻撃に対抗して計画した「4D作戦」の訓練まで実施する方向で検討している。
4D作戦は、探知・かく乱・破壊・防御の4段階からなる作戦で、米国の偵察衛星レーダー、無人偵察機などを動員して、北朝鮮側の動きを探知し、短時間内に相手のミサイルを攻撃して破壊するというものである。
そして、米軍念願の高高度迎撃ミサイルシステム(サード)配備に向けた公式協議を韓国側と開始し、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)締結に向けた動きを後押ししている。
以上のような軍事演習は、演習だけで終わるのではなく、朝鮮人民軍の動きを誘発し、直ぐさま実戦へと転化できる先制攻撃を準備していて、非常な危険性を有している。
米国は北朝鮮との戦争を終わらせることを一貫して拒否しており、北朝鮮の体制を破壊する様々な作戦計画を策定し、それを軍事演習で実施しているのだ。
(続く)
スポンサーサイト