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「モンゴルの永世中立態勢作り」

「モンゴルの永世中立態勢作り」


 モンゴルのエルベクドルジ大統領は9月末の米ニューヨークの国連総会の演説で、モンゴルの永世中立化が「世界の平和、安全、繁栄の強化に貢献する」と強調、政策の支持を訴えた。

 同国は9月初旬に国家安全保障評議会(大統領、首相、国民大会議長で構成)で永世中立の方針を策定。現在は、憲法の修正や特別法の制定に向けた作業を進めている。

 すでに中露両国と、永世中立に関する協定を結ぶ協議を進めている。

 国際法上の中立は「戦時中立」と「永世中立」に区別されている。

 前者は戦争に参加しないことを交戦国に対して公平に維持し、自国民が交戦権の行使により一定の不利益をうけるのを黙認する義務を負う地位のこと。

 後者は条約(国家間の文書による合意)によって、自ら戦争を始めず、他国間の戦争に参加しない義務を負い、他国にこの立場を尊重、保障される国家的地位のこと。

 永世中立は中立政策や等距離政策といった、単なる政治的中立を意味するのではなく、いかなる国との軍事同盟にも参加せず、いっさい外国の軍事基地も置かないといった軍事的中立を意味し、積極的平和主義を貫く立場のものである。

 現在、永世中立を宣言しているのはスイスとオーストリアの2カ国。

 人口約300万人のモンゴルは、ロシアと中国という大国に挟まれ、中ソ対立時代の1960~70年代、ソ連軍の大規模な駐留を許したことがある。

 2度と繰り返したくない歴史だと考えてきたモンゴルが選択したのが、永世中立国だったのである。

 モンゴル地政学研究所のチョインコル所長は「将来は永世中立の立場を生かして、モンゴルがアジアの紛争防止などを目指す『対話センター』となることが理想」だと、積極姿勢を表明している。

 日本は、日朝協議の難しい局面での会議を、モンゴルの首都ウランバートルで行っている。

 日朝両政府とも、モンゴルとは良好な関係にあり、モンゴル政府も日朝協議の進展にエールを送っている。

 モンゴルの永世中立化政策が、今後の日朝間の難しい政治局面の窓を開けることに、期待をしている。

                                                                 2015年10月18日 記
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「ユネスコ『南京虐殺』登録問題」

「ユネスコ『南京虐殺』登録問題」


 ユネスコ(国連教育科学文化機関)が、世界記憶遺産に中国が申請した「南京大虐殺の記録」を登録したことで、安倍政権が反発を強めている。

 中国側が提出した南京事件(南京大虐殺事件とも言う。1937年12月、日中戦争中の日本軍の南京占領にあたっての略奪暴行事件)での登録資料は、生存者の日記や写真フィルム、南京軍事法廷の判決などである。

 中国側は「虐殺、性的暴行、放火、略奪を含む犯罪行為を正確に記録している」と主張。

 日本側が「完全性や信憑性に問題がある」と、中国ユネスコに批判しているのは、被害者の具体的な人数には諸説があり、正しい数を認定することは困難だとの従来からの日本政府見解からである。

 これまで、犠牲者については、中国が30余万人、日本が20万人を上限に4万人、2万人などとの推計数字で平行線をたどり、対立してきた。

 日本軍は南京入城、占領直後から翌年2月まで、主として捕虜や婦女子などの中国人20~30万人を虐殺した。

 この事件に対する責任は、戦後の極東国際軍事裁判で厳しく追及された。その際、犠牲者30余万人の数字も出ている。

 犠牲者数が4万人、2万人だったとする説は、日本側の一部研究者の説である。

 菅義偉官房長官は13日、「中国はユネスコを政治的に利用している。過去の一時期における負の遺産をいたずらに強調し、遺憾だ」と批判した。

 さらに菅氏は「わが国の(ユネスコへの)分担金や拠出金について、支払いの停止等を含めてあらゆる見直しを検討していきたい」などと、ユネスコ分担金の停止または削減を検討することまで言及した。

 この菅氏の発言部分が、国内外に波紋を広げている。

 中国外務省の報道官は13日の定例会見で、「今回の一連の日本の言動は歴史問題で依然として誤った歴史観が凝り固まっていることを暴露したもので、憂慮している」とけん制した。

 ユネスコ予算の各国の分担率(国連総会で決まる国連予算の分担率とほぼ同じ)は、2014年度の日本は、米国の22%に次ぐ10.8%で、約37億1800万円。パレスチナ加盟に反発した米国が11年から分担金の支払いを止めているため、実質、日本がトップで、追加の拠出金にも応じてきた。

 安倍政権側の分担金「ストップ」発言の背景には、歴史修正主義と経済主義の意識とが重なったグロテスクな現代帝国主義国家の立場がある。

 米国がしばしば用いる手口(11年からユネスコへの分担金の支払いを止めている)で、日本はこの分野でも米国のスタイルを踏襲しようとしているのか。

 今回の世界記憶遺産で日本は、京都市の国宝「東寺百合文書」と、第2次大戦後のシベリア抑留者の引き揚げ記録「舞鶴への生還」の2件を申請し、登録された。

 その「舞鶴の生還」登録に対して、ロシア・ユネスコ委員会のオルジョニキゼ書記が14日、「ユネスコで政治的な問題を扱うべきではない」として、撤回を求める方針を明らかにした。

 オルジョニキゼ氏は、「戦争に関連した遺産を登録することは控えるべきだ」とし、中国が申請した「南京大虐殺の記録」について、中国の心情を理解しつつも、「こうした登録は『パンドラの箱』を開けることになる」と指摘。

 2国間で問題を解決するよう求め、日本も「パンドラの箱」を開けたと批判した。

 日本はこの夏の世界遺産登録「明治日本の産業革命遺産」の歴史的な位置づけ、強制労働者問題で韓国及び中国との間で意見対立した。

 すべからくは、日本が過去の歴史を清算せず、自己都合的に解釈して、周辺国と対立してきた問題ばかりである。

 ユネスコへの分担金・拠出金の停止を求める意見が政府・与党内にあることについて、日本国内でも批判(河野洋平・元自民党総裁など)がある。

 にも関わらず自民党の外交部会は15日、安倍晋三首相に対し、ユネスコに「南京大虐殺の記録」登録撤回の提案、分担金・拠出金の停止などを求める決議文を渡した。

 2017年の次回審査で、韓国及び中国が慰安婦問題を登録する準備を進めていることに、安倍政権なりの牽制球を、ユネスコと中韓両政府に投げたつもりなのだろう。

 一連の問題の根底には、日本側が自らの過去を清算せず、日米同盟関係を強化して、戦争準備体制を整えていることにある。

 現安倍政権の国際感覚、政治スタイルが問われて批判されているのである。


                                                                 2015年10月18日 記

 「日本、11回目の非常任理事国に」

 「日本、11回目の非常任理事国に」


 国連総会(加盟193国)で15日午前(日本時間同日深夜)、国連安全保障理事会(安保理)の非常任理事国5カ国の改選投票が行われ、日本はアジア枠で当選(任期は来年1月から2年間)した。史上最多の11回目だという。

 非常任理事国は10カ国で、毎年半数が改選される。

 安倍晋三首相は9月の国連総会で行った一般討論演説で、非常任理事国入りに意欲を示し、「安保理改革を行い、安保理常任理事国として、世界の平和と繁栄に一層の貢献をする覚悟である」と、安保理改革と日本の常任理事国入りに理解を求めていた。

 日本はこれまで、ドイツ、ブラジル、インドとのグループ(G4)で、常任理事国と非常任理事国の枠を拡大する安保理改革案を掲げているから、今後、政府間交渉などに本格的に取り組むだろう。

 日本は安保理に安保理に入って何を目指すのか。

 安保理は国連加盟国に対して、法的拘束力を持つ決定を行い、経済制裁や武力行使などの強制措置をとることもできる唯一の機関である。

 日本は今後、北朝鮮の核やミサイル問題で、安保理の意思決定に直接関与する機会が多くなってくるだろう。

 その際、日本はどのような立場に立つのか。

 自らの過去の歴史を清算できない日本が国連の意思決定機関で、国際社会の未来を決定していくことに、恐怖感を覚える。

 取り扱う課題によっては、北朝鮮との関係、距離がますます遠くなっていくかもしれないことを懸念している。

                                                                 2015年10月17日 記

「米帝のグロテスクな姿を見よ」

「米帝のグロテスクな姿を見よ」

 朝鮮にとって2015年は、解放70周年と朝鮮労働党創建70周年を迎える年である。

 一方で、朝鮮戦争がまだ戦闘中止状態の「停戦協定」が存在し、62年目を迎えた。

 朝鮮半島が今も冷戦構造状態、ホットラインとなっているのは、停戦協定の解消がすすまず、南朝鮮に米軍が駐屯しているからである。

 朝鮮民主主義人民共和国(以下、共和国)は停戦協定調印直後から、米国に対して講和条約、若しくは平和協定を結び、朝鮮半島を平和安定と繁栄の地域にすることを提案してきた。

 共和国のこの提案を受け入れてこなかった米国は、その代償として大規模な軍事演習、軍事的緊張となるトラブルを仕掛けて世界の耳目を集め、共和国の軍事的冒険主義を批判するキャンペーン を演出してきた。

 これらは駐韓米軍の必要証明のためでもあったo

 最近の事例で言えば、「天安」艦沈没事件(10年3月)、軍事分界線内の地雷爆発事件(15年8月)などを挙げることができる。

 いずれの事件も、米国と南朝鮮は当初から共和国犯人説を流布してきたが、結局は犯人不明のままで、反共和国キャンペーンの一環として制裁強化に利用してきた。

 朝鮮半島の軍事的危機、不安定さは、米国の帝国主義政策にその原因がある。

 共和国の外務省は7日、公式ルートを通じて米国側に平和協定締結に応じるよう促すメッセージを送ったと、報道官談話で発表した。

 「現在の停戦協定では、朝鮮半島の平和を維持できない」としたうえで、停戦協定が締結されてから60年以上が経過しても、米国が停戦協定も管理しているため「平和が築かれていない」、米国 に「大胆な政策転換」を求めるとしている。

 朝鮮労働党創建70周年前の提案で、内容的には従来から主張していることと変わりはない。

 朝米平和協定の締結提案は、国連総会演説で李洙庸(リ・スヨン)外相が1日、米国が停戦協定を平和協定に転換することに同意するなら、「朝鮮半島で戦争と衝突を防止するための建設的な対話 を行う用意がある」と、米国に呼び掛けていた。

 米国は、この提案を受け入れるべきである。


2.
 オバマ米政権の2期目以降、朝米協議は全く開かれていない。それは、オバマ政権側の姿勢に問題がある。

 2010年3月の「天安」沈没事件、延坪島砲撃事件、共和国の第3回核実験、人工衛星打ち上げ実験などでの交渉経験で米国は、共和国への新しいアプローチ(必要な目的を同時に追求する方式)へ のテストを確認し、それ以降はいかなる挑発行為も、脅しを報酬へと転じる従来の交渉方式から転換した。

 さらに、合同軍事演習や新型兵器の配備などで、南朝鮮を軍事上全面的に支援していることを共和国に示し、日本と中国を引き入れての制裁を強化することで、共和国を自制させようとしてきた 。

 帝国主義国家の古臭い方式が、共和国には通じることはなかった。

 2011年後半になるとオバマ政権は、共和国との2国間対話再開に向けての準備、対策を整理している。

 その結果、朝米協議に先立つ条件として、共和国がいま以上に軍事的な挑発行為を行わないとの保証と、朝米協議を南朝鮮側が納得・了承する前提での南北朝鮮の対話を求めていた。(共和国側 の出方をさぐるため)

 南朝鮮政権を偵察隊として先行させるやり方で、米国は問題の解決と責任を南朝鮮に押しつけて、後方から指図をする方式で、それそのものが帝国主義者のやり方である。

 朝鮮半島での軍事的緊張の責任の全てを南北朝鮮に押しつけて、自らはそのシナリオを描き操縦しながらも、結果の責任を取らない監督者の立場に立っている。


3.
 共和国は、朝鮮半島の軍事的緊張関係を解決する問題で、米国とは停戦協定を平和協定に代える問題、関係正常化と地域の安全、平和のための軍縮関連問題の協議を、南朝鮮とは民族統一問題、 交流と繁栄、発展などの問題の対話を続けていくことを、それぞれの問題と立場を混同させることなく、明確にしている。

 民族の自主権問題は、外勢の米国と協議する問題ではなく、同じ朝鮮民族として南北朝鮮間での対話を通じてすすめていく問題である。

 一方、朝鮮半島の平和問題は、米国と関係正常化を結ぶことが基本になっているのだから、米国との間で平和協定への協議をすすめることで解決につながると、合理的、事実的立場に立っている 。

 ところが米国は、共和国のこの立場を否定し、無視したうえで、共和国との協議や内容などを、事前に南朝鮮政権にこれまで一度も通知せずに、朝米協議を行ってきた。

 そのために、南朝鮮側にいらぬ誤解や猜疑心を与え、それがまた南北会談を妨害していることになっている。

 米国の南朝鮮に対する態度は、国防主権(韓国軍)の戦時作戦指揮権を米軍が握り締めたままであり、米国内では南朝鮮を「同盟国」ではなく「同伴者」(Partner)と呼んでいる。

 南朝鮮の歴代政権が、米国とは「同盟国」だと理解しているのは、主観的な思い込みでしかない。韓米関係を戦略的な同盟関係だと信じてきた南朝鮮の歴代政権は、米国が要求するままに、駐韓 米軍駐屯費の負担増額に応じ、ミサイル防衛システム(MD)構築の巨額な予算を負担し、米軍の中古兵器を購入している。

 米国の国益追求下で70年を過ごしてきた南朝鮮の政治も、そろそろ米帝国主義のグロテスクな姿と客観的な現実を見つめ、自主独立精神をとり戻し、南北平和統一の対話を続ける時がきているこ とを、南の政治体制は自覚するべきだ。


                                                                  2015年10月8日 記

「米国主導のTPPの意図」

「米国主導のTPPの意図」


 環太平洋経済協定(TPP)交渉が5日午前8時(日本時間同日午後9時)、米アトランタでの閣僚会合で大筋合意した。

 参加12カ国(米国、日本、カナダ、メキシコ、ペルー、チリ、ベトナム、ブルネイ、シンガポール、マレーシア、オーストリア、ニュージランド)の人口約7億7千万人(世界の約11%)、世界の国 内総生産(GDP)合計の4割近くを占める巨大経済圏が誕生することになる。

 5年半に及ぶ交渉では常に米国が主導(日本も13年7月から参加し、米国をサポートした)してきたものの、全ての分野で米国有利を実現したわけではない。

 アジア重視戦略(リバランス)を掲げてきたオバマ米大統領は、その戦略の経済的支柱にTPPを据えてきた。

 TPPの成立で、アジア太平洋地域に巨大経済圏の枠組みを作り、そこでの貿易や投資に関するルールを、21世紀グローバル経済の「世界基準」にすることで、米国主導の新たな世界経済秩序の構築 を完成させることを目的としていた。

 台頭してきた中国の経済および軍事を牽制し、優位を維持したままで拡大していくとの意図が含まれている。

 このような米国主導のTPPは、対中国包囲網の性格を持っている。

 中国および新興国の台頭で、かつての「一極時代」に陰りがみえている米国。オバマ政権は、アジア太平洋のリバランスを掲げつつも、単独でこの地域の安定を維持することは難しいと考え、地 域内の同盟国との連携での「バランス・オブ・パワー(力の均衡)」を選択した。

 その選択に、世界経済第3位の日本を選んだ。

 日本を引き込み、合体した日米の力量によって、アジア太平洋の「力の均衡」を担い、今後とも米国が世界経済を主導していくためのルールと土俵を、TPPによって作り上げることを考えた。

 米国の意図を素直に受け入れた安倍政権は、日米同盟の強化作業から始まり、安保関連法案の成立とTPPの成立で、オバマ政権のために汗をかいた。

 オバマ政権が主張するアジア「リバランス」は、安全保障と経済の両面で中国を抑止し、究極的には中国に関与(米国ルールに従わせる)させることを目的としている。

 つまりは、米一極時代へのリバイバルを狙っていることになる。そのため中国の習近平国家主席が唱える「新型大国関係」(アジア太平洋地域を米中2国が支配し、管理する)を受け入れず、「中 国によるルールづくりを阻止する」(2015年1月の一般教書演説)ためにも、TPPの成立を急いでいた。

 中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立を準備し、米国中心の国際経済秩序にくさびを打とうとしてきた。

 しかし中国は、経済の急減速に歯止めがかからず、揺れている。輸出額は今年、前年割れで推移。株式市場も動揺。過剰投資で生産機能が落ち、人民元高に加え国内コストの上昇などで、中国経 済は苦しんでいる。

 TPPが発効すれば、関税がかかる中国からの輸出は不利となり、投資もベトナムなど周辺国へと流れ込む可能性がある。

 中国の習近平国家主席は9月22日、米シアトルでの歓迎式典で「アジア太平洋自由貿易圏をつくる試みを積極的に進める」と発言していた。 

 それに対してオバマ大統領は5日、TPP大筋合意直後の声明で、「中国のような国に世界経済のルールを書かせることはできない。我々がルールを書くべきだ」と、中国を強く牽制した。

 それはまた、中国が唱える「新型大国関係」への勝利宣言でもあった。

 中国の商務省は6日、「中国はアジア太平洋地域の一体化を進める制度建設に開放的な姿勢だ」「TPPが他の自由貿易に向けた取組とともに貿易投資を発展させることを望む」と、表向きの歓迎と 本音の警戒感を公表した。

 TPPの舞台であるアジア太平洋地域は、米国と中国という2大国が覇権を競う場所となってしまった。

 米国は「中国に主導権を握らせない」と強調、中国もTPPへの警戒感を隠そうとはしてこなかった。

 海洋進出やAIIB設立など、中国が軍事、経済的に台頭するなか、オバマ氏は「中国ではなく、我々が21世紀のルールを作る」と再三訴えてきた。

 来日中のアン卜ニー・ブリンケン米国務副長官は5日、東京都内で一部メディアと会見。

 TPPが合意した場合、「安全保障状況の浮き沈みにかかわらず、米国はこの(アジア太平洋)地域への結び付きをさらに強めることになる。経済関係をより深めることは、遠い将来にわたり、米国 がこの地域に深く関与することを保証するものだ」(10月6日付け、朝日新聞)と、TPPが経済的な側面以外にも、戦略的な意義を持っていることを強調した。

 オバマ政権が掲げる「リバランス」は、安全保障と経済の両面で中国を抑止し、やがては関与させていくことを目的としている。

 経済分野での同盟国・パートナーとの連携強化を、安保問題への「抑え」だととらえている点で、TPPは逆にもろい側面を内包しているといえよう。

 TPPはいずれ中国主導のAIIBと衝突し、巨大な中国市場の前で通商体制の練り直しが迫られるときがやってくるだろう。

 やがて中国が経済・軍事両面で力をつけてくるにつれて、米国のアジア政策は変更を余儀なくされるだろう。

 そのとき安保関連を含んだ米中の対立が発生することを考えれば、安倍政権が進めている「日米同盟」強化政策が、逆に日本をアジアの孤児にしてしまうだろう。


                                                                  2015年10月7日 記

「米軍の『朝鮮半島有事』作戦変更」

「米軍の『朝鮮半島有事』作戦変更」

1.
 米韓両軍は最近、朝鮮半島有事に備えた軍事計画を変更した。

 理由は、米国の軍事予算の減額、米軍再編による在韓米軍の縮小(2003年の3万8千人から2万9千人lこ)、朝鮮人民軍が通常兵器の低下でその作戦を暗殺や破壊活動などに力を入れているとの思い 込みからの現実に合わせたもの。

 従来の米韓両軍の合同軍事演習は、全面戦争(大規模な地上戦)を想定した作戦計画「5027」を中心に実施してきたが、オバマ米政権スタート時からは、ゲリラ戦を想定した作戦計画「5015」に なっている。

 一方で、全面戦争に至る前の段階で、北朝鮮を局地的に空爆する作戦計画「5026」も持っている。

 オバマ政権は、イラク戦争やアフガニスタン戦争、イエメンやシリアなどで、米兵の犠牲者を抑える無人攻撃機や特殊部隊を多用してきた経験から、大規模兵力の投入を避け、精密爆撃や特殊部隊によって敵に致命傷を与えて、短期間で勝利を導く方式として作戦計画「5026」を多用している。

 全面戦争にゲリラ戦を加味したものである。

 オバマ政権は、社会主義朝鮮または金正恩体制の崩壊を考えており、そのための作戦も準備している。

 北朝鮮の体制崩壊に備えた作戦計画「5029」は、00年代初めに策定していたが、修正し改良して、現在では米韓両軍の合同軍事演習のメインになっている。

 北朝鮮の体制が戦争、または政治・経済的混乱で崩壊した後、米国は1.大量破壊兵器の管理不能、2.大量難民の発生、3.飢謹など人道問題の発生、4.人質事件、5.内戦の発生などを想定している 。

 このうち、大量破壊兵器の確保と安全に除去する問題を、最も重視している。

 米国は、朝鮮労働党中央委員会の拠点破壊工作、北朝鮮内部でのゲリラ要員の育成、各種反社会主義宣伝などの活動を常態化し、作戦計画「5015」や「5029」と連動させることを狙っている。

 さらに、日本での安全保障法案の成立を受けて、自衛隊の北朝鮮領海や領土への侵入を、日米両政権は考えている。


2.
 安倍政権は9月19日、日本国内の反対世論と周辺国からの懸念表明を無視して、安保関連法案を参議院本会議で強行裁決し成立させた。

 安保関連法は、自衛隊法をはじめとする10本の法律を一括改正する「平和安全法制整備法」と、自衛隊の海外派兵を明示した「国際平和支援法」で構成されている。

 この法案成立で、日本は他国を侵略できる法的根拠を手にし、自衛隊はいつでもどこでも集団的自衛権の名の下に武力行使が可能になった。

 安倍政権は法案の必要性として、「中国脅威論」と「北朝鮮脅威による朝鮮半島の有事論」を盛んに主張していた。

 朝鮮半島有事論は日本と米国で常に問題視されるが、その犯人を見逃して議論している。朝鮮半島で有事を作り出している現実は、米国の対北朝鮮敵視政策および軍事行動である。

 停戦協定から平和協定への転換交渉には応じず、米韓合同軍事演習を毎年、通常の防御的訓練だとうそぶきながら恒常的に実施している。

 毎年毎時、このように北朝鮮を威嚇し、挑発している軍事行為は、一触即発の危機を常時作り出しているのである。それは米国自身である。

 こうした現実からして、安倍政権は虚偽の「威嚇論」を喧伝して、安保法案を成立させたことになる。

 平気で虚偽報告を国会で語ったことによって、自衛隊の朝鮮半島上陸が現実味を帯びてきたといってもよい。

 韓国の韓民求国防長官は9月21日の国政監査で、自衛隊の朝鮮半島再侵略についての野党からの質問に、米軍の要請があっても拒絶できるとして、集団的自衛権の行使は韓国政府の要請と同意が必 要だと答弁していた。

 韓国政府は他日にも、自らの承認なく朝鮮半島での自衛隊の集団的自衛権は、発動されないことを繰り返し強弁している。

 だが韓国軍の現実は、戦時作戦権を米軍に貸与したままであるから、戦時には必然的に米軍の指揮下に入ることになっている。

 自衛隊は米軍の要請、または独自に「存立危機事態」と断定して、集団的自衛権の行使で米軍の指揮下に入ることになる。

 従って、韓国政府の承認を必要とはせずに、朝鮮半島とその周辺地域の戦闘にはいつでも、米軍主導での日米韓3軍行動が可能になっているのだ。

 以上のように、安倍政権が強行裁決した安保法案の存在は、朝鮮半島を中心とする東アジア情勢を極度に緊張させ、戦争への危機を作り出している。


3.
 米国は自らの世界覇権戦略において、西側をイギリスを前哨基地とし、そのイギリスの前方基地にオランダを置くヨーロッパから大西洋へと出るコース。(核を配備している)東側を日本(沖縄 )を前哨基地とし、その日本の前方基地に韓国を置いて太平洋へと出るコースの、双方を設定している。

 東アジアコースの要として、日米韓の三角軍事体制づくりに力を入れてきた。

 2007年頃からは、オーストラリア軍、フィリピン軍などとの多国的軍事協力体の構築作業に入り、アジア太平洋地域リバランス政策を打ち出し、中国および北朝鮮に圧力を掛ける戦略を構築して きた。

                                                                   2015年10月5日 記 

「国連事務総長の任務とは」

「国連事務総長の任務とは」

 
 藩基文氏は現在、国連事務総長である。
 
 彼は韓国の外交通商相(外相)などを経験し、長らく韓国政界の中枢にいた、韓国の政治家である。

 間もなく国連事務総長の任期を終えることもあって、朴槿恵氏の後の大統領候補のひとりとしてその名が挙がっている。

 そういった政治的な背景があってか、このところ南北朝鮮問題や統一に関して多言し、「韓国人」になっている。

 彼も朝鮮人である。

 祖国の政治的不安定さや実態が気になるのは当然のことで、むしろ「朝鮮問題」に関連しては、その発言が遅すぎた。

 遅すぎた発言にも関わらず、その発言内容には疑問を感じざるを得ない。

 また、国連事務総長としての立場なのか、はたまた朝鮮人(韓国)の立場からなのかさえ、分かりずらい発言内容である。

 1 対話の機運を高めて南北の関係改善を促そうと、開城工業団地を5月21日に訪問する前の19日、ソウルで講演した。

 「(北朝鮮に)体制の意味ある改革を促し」、さらに、「(核開発やミサイル発射を)国連安保理決議違反」である旨指摘した。

 彼の発言内容は、オバマ米政権の朝鮮敵視政策と同一思考法に立っていると言わざるを得ない。

 これでは、北朝鮮側が怒るのも無理はない。

 北朝鮮は20日未明、彼の開城工業団地への訪問拒否を、伝えた。

 彼の講演内容から、南北の進展には役立たず、逆に妨害する人物だと理解したのだろう。

 2 9月28日の国連総会での、藩氏の一般討論演説の内容。

 シリア内戦から発生している欧州への難民問題で、「21世紀にもなってフェンスや壁を建設すべきではない」として、難民らの入国を阻もうとする動きに懸念を示した。

 その後、朝鮮半島情勢にもふれ、「不信を増長させる恐れのある、いかなる行動も慎むよう当事者に求める」と忠告した。

 彼が言う「当事者」とは、米国のことではあるまいかと思ったのだが、そうではあるまい。

 現在、ミサイル発射や核実験実施の可能性を示唆している北朝鮮を、念頭に置いていたのだろう。

 北朝鮮を念頭に置いていたとすれば、その前提が間違っている。

 朝鮮半島にある「壁」の現実は、南朝鮮にある。

 70年代に、38度線南側に建設したコンクリート製の分断障壁が、現在も存在している。

 藩氏はせっかく西欧各国に難民流入の壁を建設すべきではないと強調したのだから、朝鮮半島に存在している同族分断の象徴となっている南朝鮮のコンクリート障壁撤去を、なぜ、要求してなか ったのだろうか。


2.
 国連憲章は、人民の人権と自決、加盟国の主権平等、紛争の平和的解決、武力行使と軍事力による威嚇の禁止などを規定している。

 国連事務総長には、総会決議を通じて、憲章の進歩的、民主的な原則を充実させ、発展させていく任務が期待されている。

 藩基文氏は事務総長の立場から、朝鮮半島の政治的現実を理解し、改善していこうと考え、努力したことが、一度でもあっただろうか。

 朝鮮民族は現在、南北に分断されて、最も貴重な民族自主権が犯されている。

 その真犯人こそ、米国ではなかったのか。

 米国は、未だに「国連軍司令部」を名乗って、米軍部隊を南朝鮮に駐屯させ、北側に軍事的圧力をかけている。

 朝鮮戦争勃発時の1950年6月、国連安保理を利用した米国の犯罪を、しっかり調査すれば、当時も現在も米国は国連憲章に違反していたことがはっきりとしてくる。

 朝鮮人の藩氏は、国連事務総長の立場で、朝鮮半島の事実と真実を、明確にすることができるはずであったのに、何もしなかった。

 むしろ、米国の意向に沿ったジャッジでしか動かなかった。

 今年の朝鮮停戦協定の日、藩氏は「米軍が参戦してくれたことに感謝をしている」と、とんでもないことを言っていたことに驚き、その人間性を疑った。

 いくら幼少期から米国の価値観で育ったとはいえ、そのような思考は、国連事務総長でもなく、朝鮮人でもない。

                                                                   2015年10月1日 記

「『ストックホルム合意』の実行を」

「『ストックホルム合意』の実行を」


1.拉致「ゼロ回答」

 朝日新聞は9月23日、1面トップで「北朝鮮、拉致調査覆らず」との記事を掲載した。

 日本政府が拉致と認定し、帰国が実現していない12人の拉致被害者について、「8人死亡、4人は入国していない」との当初の調査結果を、現段階で覆していないことがわかった、という内容であ った。

 情報源では、複数の日本政府関係者が明らかにしたとしている。

 昨秋以降、中国の大連や上海、モンゴルのウランバートルなどで数回、日本政府関係者と北朝鮮当局者との水面下協議を重ねていたのは事実である。

 「改めて(北朝鮮)入境からの経緯を確認した12人について、過去の調査結果は覆っていない」との報告を、出席した日本政府関係者たちは何度も、北朝鮮担当者から聞いていたはずだ。

 「拉致問題を優先し、認定被害者がゼロ回答では話にならない」(政府高官)との立場の安倍政権側は、「調査結果を正式に受け取らず」、報告内容を一度も日本国民に伝えてはこなかった。

 そのうえで、一年経過しても回答がないなどと、政府側の作文を発表して、すべての問題を北朝鮮側の対応の結果だとしている。

 拉致被害者家族会側も、被害者たちの救援と帰国を政府に頼らざるを得ない事情もあってか、政府発表や安倍晋三首相報告だけに耳を傾け、水面下で進行していた日朝交渉の結果内容には、注目 してこなかったように思う。


2.宋大使と会見
  
 朝日新聞報道の約1カ月前の8月20日、毎日新聞が「拉致の再調査、北朝鮮終了」とする短い記事を掲載していた。

 そのニュースソースは、私たち「朝鮮解放70周年祝賀団」が平壌からの帰途(19日)、同時期に平壌墓参団の同行取材と北京空港で出会い、彼らが取材したものである。

 私たち祝賀団は滞在中に、宋日昊(ソン・イルホ)日朝国交正常化交渉担当大使と会見した。その内容を、記者たちに伝えたのだ。

 宋大使は主に、ストックホルム合意後の日朝水面下交渉のことについて話した。

 「調査結果は、(金正日総書記が示した内容から)覆らない」

 「日本側が報告書を受け取ろうとしない」

 「報告書が公表されると、日本国内の情緒的な反応が起きることを心配しているのではないか」などと、日本側の対応を批判し、日本政府の「調査結果を北朝鮮側が出さない」との情報は、全く の嘘だと反論した。

 そのうえで、調査結果はストックホルム合意に基づき、拉致被害者、行方不明者、残留日本人・日本人配偶者、遺骨問題の4項目に関する調査は、全て終えていると話した。

 こうした調査内容を水面下の協議で日本側に伝えたのだが、日本側がいっさい受け取らず、他の3項目を含む調査結果の共有化も日本側の拒否で進まず、その後の交渉は難航していると打ち明けて くれた。

 宋大使は、拉致問題以外にも日本、米国、南朝鮮関連などの問題についても言及した。

 1938年から45年間、日本は朝鮮人を約600万人以上強制連行(拉致)したが、未だに公式的な謝罪も補償もしていない。

 米国は朝鮮戦争で虐殺し、傷つけてきた朝鮮人に対して、一日も早く謝罪し補償し、停戦協定から平和協定へと移行すべきである。

 南朝鮮の「北韓人権連合体」などが、北の子供たちを拉致(2011年8月には9人)している。

 日朝関係の基本精神は、日朝平壌宣言(2002年)にある。

 日本は06年から独自制裁を行っているため、日朝宣言の進展をみなかった。同じ事で、ストックホルム協議の結論を日本が守らない場合、拉致問題はやがて日朝間の政治問題となっていくだろう 。

 以上、昼食を交え久し振りでもあったので、話題も豊富になった。


3.ストックホルム合意の意義

 昨年5月に日朝両政府間で結ぼれたストックホルム合意の基本精神は、戦後直後の混乱期以降の、北朝鮮で亡くなり、行方不明になり、または生存している全ての日本人の調査と希望者の帰国、遺 骨の調査と返還。

 日本に強制連行された朝鮮人労働者と軍慰安婦たちの調査と謝罪、在日朝鮮人の処遇改善問題など、全ての日本人と朝鮮人の被害回復、自主権確立問題などとなっている。

 このストックホルム合意は、日朝平壌宣言を実践していくものであって、決して拉致問題だけの解決を約束したのではない。

 それを知りつつ安倍首相は、拉致問題解決の合意契約だと言い換えて、日本国民を信じ込ませてきた。非常に罪深い行為である。(日朝の歴史に対しても、拉致被害者家族に対しても、強制連行 された朝鮮人に対しても、遺骨返還を待っている日本人遺族たちにも)

 北朝鮮側は、日本人全体の調査を4項目に分けて進めることを約束した。そのうちの北部朝鮮で家族を亡くし、遺骨が現地に残されたままの遺族たちにとっては、拉致被害者家族以上に悲痛な時聞 を過ごしてきただろう。

 拉致被害者家族たちのように、政府からの支援も情報も得られずに、悲痛な声さえも挙げる機会もなく、忘れられたような存在のなかで多くの方々が高齢化し、亡くなっていった。残る遺族たち も少なくなっている。
 
 北朝鮮の地に残された遺骨たちは主に、戦後の引上げ途中に、病没するなどした一般人たちであった。

 中国東北部(旧満州や朝鮮北部で暮らしていた人たちが、朝鮮半島を南下するルートで日本への帰国を目指していた。

 米ソ両軍は、早い時期に38度線を遮断したために、日本人たちは南下を阻まれたうえに、食糧不足や防寒対策も満足にない劣悪な環境下で、45年末から46年にかけて、飢えと病気などで3万4000千 人以上の死者(厚労省)が出たという。

 北朝鮮との国交がないため、日本政府は残る2万柱余の遺骨の調査、収容、返還事業には全く取り組んでこなかった。

 遺族たちは墓参すらままならないなかで、過ごしてきたことになる。現在、北朝鮮全域で2万1000人以上の遺骨が残されているという。

 北朝鮮側は土地開発と建設工事などで、これまで50年代と70年代の2度、遺骨を発掘し移設したが、まだ平壌市郊外などの土まんじゅうの下に、多くの日本人遺骨が埋まっているという。

 それらの遺骨の一部が2010年頃からの道路建設、都市開発などに伴って発掘された。

 そこで北朝鮮は2012年、人道的な立場で墓参団の受入れを認め、日本の外務省も渡航自粛(北朝鮮への制裁で、日本人全体に課していた)の例外的措置として、墓参団の訪朝を認めた。

 1回5, 6人から10人程度までの高齢遺族たちが、これまでに計12回ほど墓参訪朝している。

 高齢化による参加者の減少で、遺族団体の一つ「北遺族連絡会」が、今年7月に解散している。

 遺族たちは「遺骨が日本に戻すのが最終目標」だとして、墓参への道を増やそうとしているが、日本政府は遺骨返還事業には冷淡である。


4.遺骨返還事業とは

 9月23日の朝日新聞は、日本人の遺骨問題について「北朝鮮は協議の過程で約8千柱を返還するとして、1柱約120万円、総額約100億円の経費を求めてきた」ことを伝えている。

 池上彰氏は朝日の『新聞ななめ読み』(9月25日付け)で、「北朝鮮は遺骨返還で金もうけしようというのか、という怒りが沸いてくる」と書いている。

 余りにも短絡的な感想で、同氏お得意の「ななめ読み」思考にもなっていない。

 北朝鮮は現在、朝鮮戦争当時に戦死した米兵の遺骨返還事業を、米国との間で結んでいる。それによると遺骨の調査、発掘作業、洗骨作業などの一連の経費として、1柱当たり数千ドルから1万ド ル(そのつど協議)を要求している。

 日本の場合、米兵遺骨返還方式を参考にしていると思われるが、1柱約120万円は米兵の場合よりは安い金額である。

 今回の朝鮮での日本人遺骨問題は、戦時によって発生し数も多く、政府間交渉とその合意が先行しなければならない。

 時間の経過に伴って、遺骨発掘作業は困難さを伴い、現地の人々の協力作業が増大してくる。

 北朝鮮が1柱当たり120万円の経費を要求していたことを、さも商業的意図からのもののように談じることは、その言葉じたいが卑しく、遺骨調査、返還事業は荘厳な総和であり、その荘厳な行為 を傷つけている。
  
 ところで、拉致問題の解決を最優先にしている安倍政権は、「拉致被害者がゼロ回答」であったため、日本人遺骨問題を含め、北朝鮮が回答した4項目の全てを無回答だとして、再調査を求めてい る。

 表向き日本側は再調査、北朝鮮との協議を要求しているかのように装っているけれど、これまでの非公式協議での北朝鮮側の「ゼロ回答」が覆らないことが判明したため、安倍政権側が公的な日 朝協議の開催を忌避している。

 今後、安倍政権はどのような「作文」を書くつもりなのか。

 「死者」を生きかえらすことは出来ない。
 
 8月20日付けの毎日新聞報道の後、菅義偉官房長官は報道内容(私たちが宋大使から聞いた内容)を全否定し、「そのような情報は聞いていない」と啖呵を切った。

 にもかかわらず9月23日の朝日新聞の情報源は、「複数の日本政府関係者」だとしていることに対しては、クレームを付けてはいない。

 朝日の情報源についても怪しい面もあるが、とりあえず毎日情報と一致している。

5.「パンドラの箱」を開けるのか
  
 ストックホルム合意での4項目調査のうち、安倍政権は「拉致問題」だけを破格扱いしている。

 拉致被害者がスター級だとすれば、後の3項目関連者は無名の新人というところ。日本人遺骨、残留日本人、日本人配偶者のことなど、近現代の朝鮮史を研究しているか関心がない限り、ほとんど の人は知らないだろう。

 例えその名称を知っていたとしても、その歴史的背景や実態までを理解している人はもっと少ないだろう。

 ストックホルム合意後でさえ、関連する人たちの声が挙がっていない。勢い、政府からの支援がある拉致被害者家族会からのメッセージだけが、マスメディアを通じて私たちの耳目に達してくる 。
 
 北朝鮮からの「調査が進んでいない」「返答がない」「公式協議の開催を受けない」などとする日本政府側の、一方的なコメントだけが流通して、北朝鮮への悪感情だけがさらに流布している。
 
 ここまでは安倍政権側が思い描いていたシナリオで、思い通りのことが進んでいるようにもみえる。

 だが、実際の安倍政権の拉致問題対策は、行き詰まっている。それを打開するために今後、安倍政権が実行するだろうと思える態度を、2つ考えてみたい。

 1つは、「北朝鮮に対して強く交渉しろ」「制裁を強化しろ」などの声に押されて、ストックホルム合意の破棄を北朝鮮に通告し、制裁を強化していく方式。

 その場合でも、北朝鮮の核実験またはミサイル発射に伴い、国連安保理または米国の制裁と連動して動くだろう。

 当分間、日朝交渉を開かないというキップを手にした安倍氏は、「政権内の拉致問題解決」とのセリフを空しく繰り返していくだろう。

 もう1つは、「ゼロ回答」というパンドラの箱を開けてしまうことである。

 その政治的なタイミングを計っているようでもある。(朝日報道を観測気球的に上げさせてみたのも、その一つであっただろう)

 彼がパンドラの箱を開けた後の日本の世情は、2002年当時以上に北朝鮮バッシングが常体化し長期化していくだろう。

 そのような事態だけはどうしても避けたいと考えていたので、宋大使のメッセージを積極的に伝えることはしなかった。

 しかし朝日報道がそれをフォローしたので、しばらくはその後の様子を見ることにする。


6.歴史清算が必要である

 拉致問題「ゼロ回答」後の、安倍政権のシナリオを2つ想定した。

 だが、一番心配しているのは、安倍政権がストックホルム合意を誠実に実行していないことである。

 合意事項には、日本側も同時に調査すべき項目がある。戦前、朝鮮から日本に強制連行された朝鮮人労働者と軍慰安婦の調査、謝罪、補償、在日朝鮮人の処遇改善、北朝鮮敵視政策の廃止など、 日本の植民地史観、侵略と戦争史観の清算関係と関連している。

 「安倍70年談話」では不十分だった歴史清算が、ストックホルム合意を実行することによって補うことになる。

 ストックホルム合意の内容を実施することは同時に、戦後の外地での混乱で犠牲となった一般日本人たちの状況を、少しは解明することにもつながる。

 合意内容で調査解決を要求している項目の全ては、人道や人権問題以上に、政治的責任問題として、日本が必ず解明し解決しなければならなかった問題である。

 そうであるからなお安倍政権が今後、ストックホルム合意を誠実に実施していくことを、厳しく要求し監視していく必要性がある。

                                                                   2015年9月30日 記

「米中の『21世紀冷戦』体制」

「米中の『21世紀冷戦』体制」


1.米中首脳会議

 訪米中の中国の習近平(シーチンピン)国家主席は25日、オバマ米大統領とホワイトハウスで会談した。

 会談後の共同記者会見では、合意事項よりも擦れ違いが多く目立っていたように思う。

 *米中の成果文書の骨子
 
 1 サイバー問題(意見は接近している)
 
 米国/両国政府は、知的財産や企業秘密の窃盗によるサイバー攻撃を実行、支援しない。

 中国/サイバー犯罪と戦うため、高位の対話メカニズムやホットラインを構築。

 2 軍事分野

 米国/東・南シナ海について率直に議論した。

 係争区域での埋め立てや建設活動、軍事化に関する重大な懸念を伝えた。また、米中は朝鮮半島の非核化への取組みを再確認した。

 中国/南シナ海の島々は太古より中国の領土だ。われわれには領土主権を守る権利があり、争いには対話を通じ平和的に対処する。中国が着手している建設活動は、いかなる国も標的にしておら ず、軍事化は意図していない。また、中米両国軍のあらゆるレベルで政治対話を強化し、合同演習・訓練を一層実現することで合意した。


 3 経済分野(基本的には同一方向で)米中/投資協定締結に向けた作業の加速化で合意。

 4 気候変動(米国は中国の提案を歓迎し、合意)

 中国/2017年に、温室効果ガス排出量取引制度を全国に拡大する。また、途上国への資金支援など、地球温暖化対策を表明。

 5 人権問題

 米国/人権について率直に議論した。

 ジャーナリストや弁護士、NGOの活動の自由を妨げたり、少数民族の平等な処遇を否定したり、キリスト教会を閉鎖するのは問題だと伝えた。こうした問題で、現実に立場の違いがあることは認識 している。

 中国/国によって歴史や現実が違う。全ての国で発展の道を独自に選ぶ権利は尊重しなければいけない。

 以上、米中はサイバー問題や経済問題などでは、一定の歩み寄りをみせたものの、軍事分野関連での緊張緩和への道筋には、まだまだ道程は遠いものがあった。


2.「新型大国関係」とは
 
 中国の習主席は、米中との「新型大国関係」を提唱し、オバマ大統領に呼び掛けた。就任間もない13年6月の訪米時にも、オバマ氏に「新型大国関係」の構築を説明して、軍事的な衝突と対抗がな いよう呼び掛けている。

 当時のオバマ氏は、このプランを前向きに受け止めようとしていた。だが、中国が東シナ海に防空識別圏を設定(13年11月)したことがきっかけで、米国の警戒心は強まった。

 このため昨年11月の首脳会談で、軍の偶発的衝突を防止し、軍事的な相互信頼の関係を構築していくことで合意した。

 そのときに習氏は、相互信頼と衝突防止を主眼とした新型大国関係での、軍事版「新型軍事関係」を進めていくことを表明している。

 その後も中国は、南シナ海の埋め立てを加速し、埋め立て完了後にもしゅんせつ作業を続けている。

 この頃から米軍事専門家らは、ミサイル基地建設への布石ではないのかと、明確な警戒感を表明するようになった。

 オバマ氏は今回の首脳会談で、中国の南シナ海埋め立て作業を「軍事化に重大な懸念」「米国は国際法で認められる全領域で航行や飛行を行う」と、対抗的な主張をしている。では、中国が主張 する「新型大国関係」とは、どのような内容のことなのか。

 単純に言えば、アジア太平洋地域の勢力圏を、米国と二分した均衡の下で、平和的安定と繁栄の関係を、米国と共に築いていくのだとする構図のことである。

 そうした構想下で現在、中国自身のアジア勢力圏を広げていく作業を、南シナ海(南沙諸島)での埋め立て作業を活発化させているのだ。

 一方で米国は、アジア太平洋地域の「リバランス」を強調して以降、中国の「新型大国関係」構想は受け入れることが出来ないとの態度になっている。

 米中首脳会談でオバマ氏が「軍事拠点化への懸念」を伝えたことも、習氏が「中国領土の一部だ」と反論したことも、両氏の立場は同じで、アジア太平洋地域への争奪戦論争での帰納的表現でし かない。


3.アジア太平洋地域の争奪戦

 世界1、2位の経済規模を持つ米中は、今後、衝突関係に向かうのか、それとも協調路線をさぐるのかと、25日の米中首脳会談に世界は注目していた。

 結果は、軍事分野での厳しい対立が目立ち、経済分野での協調路線に立った。これを、「21世紀の冷戦」だという。

 20世紀後半期の米ソによる東西冷戦は、イデオロギーとブロック経済の面で、深刻な対立戦を展開してきた。

 現代の米中の対立は、市場主義とグローバル経済を共通項としている点で、米ソ時代の厳しい対立とは内容を異にしている。

 米中とも、自国の経済政策を誤れば、相手国を含む新興国全体に打撃を与え、米中が衝突すれば世界市場全体が動揺し、その余波は自国にも影響を与え、世界経済全体に致命傷をあたえてしまう ことを自覚している。

 かつての東西陣営の対立の勝敗は、一方の消滅・崩壊であったが、21世紀の冷戦は世界経済の破綻へと結び付き、双方の破滅へと進んでいく。

 米中ともそのことを回避する方向では一致しているものの、アジア太平洋地域の利益線の拡大(競争)では、まだまだ厳しく対立している。


4.対立と協調

 米国は、安倍晋三首相の4月訪米時に、日米同盟路線の強化を図った。

 安倍氏はオバマ氏の期待を裏切る事なく、安保関連法案を強引に成立させ、日米同盟の強化路線を確立させた。

 その際に問題となるのは、ことさらに中国脅威と北朝鮮脅威を喧伝していたことである。

 21世紀冷戦(米中)の現在、まだ安定期には入っていないため、米中ともにアジア地域での軍事的領域権の主張で対立している。(そのようにみえる)

 南シナ海での岩礁埋め立てなどで対立はしているが、中国は「永久に覇権を唱えず、拡張主義を取らない」として、衝突と対立を避ける「米中協力関係」についても模索している。

 首脳会談で両政府が南シナ海上空などを念頭に、両国軍用機の偶発的な衝突を回避する措置で合意していたことは、そのことを裏付けているだろう。

 米中関係は安保や人権面で対立はしているが、経済や人的交流面では深まっている。オバマ氏は、今後5年聞に100万人の学生に中国語を学ばせると発表し、米中共存の未来を語った。

 安倍政権は、安保問題で米国以上に中国脅威論を協調した。

 米中の未来は、日本の未来とも深く関わっているがために、その方向性を読み違えれば、日本は孤立することになる。

 直視すべきは、米中の対立の側面よりは、深い相互依存の関係性にあることを見抜く必要があるだろう。

 そうであれば、安倍政権が強調してきた中国脅威論は、早急に是正する必要があることになる。


5.朝鮮停戦協定の解消を
 
 オバマ氏は米中首脳会談後の記者会見で、朝鮮半島の非核化への取組についても、米中は再確認したことを発表した。

 6者協議の再開について、中国側も異論はないだろう。

 しかし、朝米間には6者協議を再開する以前に、朝鮮戦争の停戦協定解消問題が横たわっていることを、忘れてはいけない。

 米国は、停戦協定調印後62年になる現在も停戦協定を解消せず、朝鮮半島の平和環境を妨害している。

 従って、6者協議を再開するには、停戦協定を解消するための朝米会談が必須条件となる。

 米国が主張するアジア太平洋地域リバランス政策は、朝鮮戦争の停戦協定の存立を前提としている。

 停戦協定が存立していることによって、南朝鮮政権との間で「韓米相互防衛条約」を結び、在韓米軍の常駐化を理由付けている。

 毎年、大規模な米韓合同軍事演習を繰り広げているのも、停戦協定を存在理由にしている。

 共和国を直接の対敵とする合同軍事演習の近年は、日本、オーストラリア、フィリピンなど複数国の軍隊を参加させて、アジア太平洋地域の覇権を主張している。

 当然、中国の領土主権と海洋権益維持への動きを、合同軍事演習を実施することで牽制してきた。

 米国が考えるアジア地域の軍事ラインは、朝鮮半島上の38度線である。

 38度線はまた、米中の軍事上の危機ラインともなっている。

 米国のアジア太平洋地域の「リバランス」政策と、中国の「新型大国関係J政策は、アジア太平洋地域における帝国主義的覇権主義の同床異夢でしかない。

 朝鮮半島を危険地帯にしている責任は、どこまでいっても米国にある。米国が1位で、2位以下はない。

 だが、中国がアジア太平洋地域への覇権(米帝と均衡にするという)を名乗り出た以上、中国にも朝鮮半島を平和地帯にしていくという責任が、米国とともに発生したことになる。

 それでも米中で違う点は、米国が在韓米軍の存在を必要としているのに対して、中国は撤退を原則としていることである。

 つまり、朝鮮停戦協定の存続を米国は必要としているのに対して、中国は必要としていないのである。

 とはいえ、米中ともに自らの「アジア太平洋地域」政策の観点から、朝鮮半島に軍事分断線・38度線が存在し、停戦協定のままでは、不安定な朝鮮半島を抱え込んでいることには違いがない。

 こうした現状のままでは、朝鮮半島を中心にアジア太平洋地域は「危険な地帯」「危険な海」になっている。

 それを「平和な地帯」「平和な海」へと転換していく努力と責任が、米中両大国にはある。

 米中はともに、軍事的緊張を抑制していく方向での共存制への道を歩かないことには、結局は米中両大国の滅亡が始まることになるだろう。


                                                                   2015年9月28日 記
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Author:takasi1936
愛媛現代朝鮮問題研究所のブログです。

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