「日米軍事協力は何をもたらすのか」
「日米軍事協力は何をもたらすのか」
1.
中国が主導して設立するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加国は、4月はじめの段階で50カ国を越えた。
AIIB設立に際して、米国は同盟国らに参加を見送るよう圧力をかけていたが、イギリス、フランス、オーストラリアをはじめ、韓国や台湾までが早々と参加表明した。
米国はショックであったろう。
サマーズ元米財務長官は5日、自らのブログに『米国の指導者は経済新時代に気付くべき時』と題する投稿をした。
そのブログで、「過去数カ月は、米国が世界経済システムの保証人としての役割を失った節目と記憶されるかもしれない」
「中国の国際金融機関(AIIB)の設立努力と、米国による同盟国への説得失敗が重なった」とした。
サマーズ氏は、AIIB設立に多くの国家が参加表明した事実こそ、経済における米国の索引力の役割を失った潮目だと主張しているのだ。
つまり、世界経済の信用度の重力が、米ドルから中国人民元に動き始めたともいえる。
オバマ米政権も4月に入ると、将来のAIIBへの参加検討を否定しなかった。
日本はまだ「慎重検討」(7日、岸田文雄外相)段階で止まっていて、中国および米国との政治関係を引きずっているようだ。
さらに、世界銀行はAIIBとの連携に意欲をもっていて、近く中国側の担当者と具体策を協議する方針を示している。
こうした現象は、世界経済動向から日米の方が孤立している実態を、表現している。
一方、国際通貨基金(IMF)は7日、予測する2020年までの「潜在成長率」(労働力や生産活動に必要な設備をフル活用、技術革新などの生産性向上などを見込んで算出する潜在的な経済の実力)は、先進国・新興国(中国など)ともに、08年のリーマン・ショック後の金融危機以前の水準までには回復しないとの報告書を出した。
報告書で、先進国・新興国共通の課題として、民間投資の呼び水が必要だとしている。
特に新興国には、インフラ投資の拡大を求めている。
報告書の主旨からすれば、AIIBの設立は時宜に適っていることになる。
その意味から、中国人民元の実力(国際通貨化)が現実化していく可能性がある。まだ、米ドルを凌ぐほどではないが、日本円、ユーロ並となり、中国からの経済発信力は増していくだろう。
サマーズ氏が認めていたように、AIIBの設立をきっかけに、米国の経済実力は陰りはじめる。そのこともあってか最近のオバマ政権は、アジア・リバランスを強調している。
2.
カーター米国務長官は日本と韓国を歴訪する前日の6日、アリゾナ州の大学で、オバマ政権のアジア重視戦略について講演した。
講演でカーター氏は、米国がアジア太平洋地域を重視している姿勢を改めて説明するなかで、今後の日本のポジションが重要になってくると強調した。
今月下旬に改定協議を行う日米防衛協力指針(ガイドライン)について、「重要な同盟の基礎をなす」として、自衛隊と米軍の協力を新たな水準(協力範囲・地域の拡大)に引き上げることを示唆した。
そのうえで、日米協力の内容が「宇宙やサイバー空間などの新たな領域に入っていく」分野での、改定意義を語った。
米軍の戦略概念にはすでに、宇宙戦、サイバー戦が加えられているから、今回、それを日米安保体制のなかに移す作業だけだと考えているのだろうか。
さらに、北朝鮮の核・ミサイル開発を念頭に、イージス艦2隻を追加的に展開させていくとも述べていた。
韓国への「高高度ミサイル防衛」システム導入計画と併せて、オバマ政権のアジア・リバランス政策の本質は、高性能兵器で装備した日米韓の軍事一体化の強化にあったことが分かる。
そのためには中国の軍事膨張論、北朝鮮のミサイル性能向上論を吹聴しておく必要があった。
最近、北朝鮮が「小型化した核弾頭を搭載するICBMを実践配備している」「核兵器を小型化して、米本土を狙って発射する能力をもっている」「日本や韓国を射程圏に収める弾道ミサイルを保有している」などの情報を盛んに流している。
これは、アジア・リバランスを主張する必要性があったからであった。
カーター氏は一方で、「米国の軍事的な強さは、活気ある経済成長があってこそ成り立つ」と指摘して、環太平洋連携協定(TPP)は、アジア重視戦略の「最も重要な部分の一つだ」と強調した。
TPPが貿易・経済分野だと理解していた向きには、安全保障上の観点からもTPPは重要だとの、カーター言説には驚いたろう。
さらに、カーター氏は、TPPは「私にとって空母をもう一隻持つのと同じくらい重要だ」と述べて、米国の本音を表現していた。
軍事拡張は、経済成長あってのものだ。
米国にとって、TPPがアジア重視政策の「もう一隻の空母」だとするのは、中国が主導するAIIB設立に対応するものであろう。
IMFが予測している新興国経済発展へのインフラ整備。
アジア新興国のインフラ整備の資金需要は、日本も参加しているアジア開発銀行(ADB)だけではまかないきれないと、米国も理解している。
アジア・リバランス政策への経済不足、中国経済の勢いに押され気味となっている。
AIIB設立後のアジア地域では、経済および軍事ともに、米国の影響力は低下していく。
そのことは何としても、防ぐ必要があるのが、米国の今の政治だ。
そのためにもTPPの成立、日米ガイドラインの改定、日本の安保法制化整備など、経済も軍事も、日本との強い一体化をオバマ政権は進めようとしている。
安倍政権の政治に多少の不満はあっても、今のオバマ政権は「日本重視」政策を進めざるを得ないのだ。
2015年4月8日 記
1.
中国が主導して設立するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加国は、4月はじめの段階で50カ国を越えた。
AIIB設立に際して、米国は同盟国らに参加を見送るよう圧力をかけていたが、イギリス、フランス、オーストラリアをはじめ、韓国や台湾までが早々と参加表明した。
米国はショックであったろう。
サマーズ元米財務長官は5日、自らのブログに『米国の指導者は経済新時代に気付くべき時』と題する投稿をした。
そのブログで、「過去数カ月は、米国が世界経済システムの保証人としての役割を失った節目と記憶されるかもしれない」
「中国の国際金融機関(AIIB)の設立努力と、米国による同盟国への説得失敗が重なった」とした。
サマーズ氏は、AIIB設立に多くの国家が参加表明した事実こそ、経済における米国の索引力の役割を失った潮目だと主張しているのだ。
つまり、世界経済の信用度の重力が、米ドルから中国人民元に動き始めたともいえる。
オバマ米政権も4月に入ると、将来のAIIBへの参加検討を否定しなかった。
日本はまだ「慎重検討」(7日、岸田文雄外相)段階で止まっていて、中国および米国との政治関係を引きずっているようだ。
さらに、世界銀行はAIIBとの連携に意欲をもっていて、近く中国側の担当者と具体策を協議する方針を示している。
こうした現象は、世界経済動向から日米の方が孤立している実態を、表現している。
一方、国際通貨基金(IMF)は7日、予測する2020年までの「潜在成長率」(労働力や生産活動に必要な設備をフル活用、技術革新などの生産性向上などを見込んで算出する潜在的な経済の実力)は、先進国・新興国(中国など)ともに、08年のリーマン・ショック後の金融危機以前の水準までには回復しないとの報告書を出した。
報告書で、先進国・新興国共通の課題として、民間投資の呼び水が必要だとしている。
特に新興国には、インフラ投資の拡大を求めている。
報告書の主旨からすれば、AIIBの設立は時宜に適っていることになる。
その意味から、中国人民元の実力(国際通貨化)が現実化していく可能性がある。まだ、米ドルを凌ぐほどではないが、日本円、ユーロ並となり、中国からの経済発信力は増していくだろう。
サマーズ氏が認めていたように、AIIBの設立をきっかけに、米国の経済実力は陰りはじめる。そのこともあってか最近のオバマ政権は、アジア・リバランスを強調している。
2.
カーター米国務長官は日本と韓国を歴訪する前日の6日、アリゾナ州の大学で、オバマ政権のアジア重視戦略について講演した。
講演でカーター氏は、米国がアジア太平洋地域を重視している姿勢を改めて説明するなかで、今後の日本のポジションが重要になってくると強調した。
今月下旬に改定協議を行う日米防衛協力指針(ガイドライン)について、「重要な同盟の基礎をなす」として、自衛隊と米軍の協力を新たな水準(協力範囲・地域の拡大)に引き上げることを示唆した。
そのうえで、日米協力の内容が「宇宙やサイバー空間などの新たな領域に入っていく」分野での、改定意義を語った。
米軍の戦略概念にはすでに、宇宙戦、サイバー戦が加えられているから、今回、それを日米安保体制のなかに移す作業だけだと考えているのだろうか。
さらに、北朝鮮の核・ミサイル開発を念頭に、イージス艦2隻を追加的に展開させていくとも述べていた。
韓国への「高高度ミサイル防衛」システム導入計画と併せて、オバマ政権のアジア・リバランス政策の本質は、高性能兵器で装備した日米韓の軍事一体化の強化にあったことが分かる。
そのためには中国の軍事膨張論、北朝鮮のミサイル性能向上論を吹聴しておく必要があった。
最近、北朝鮮が「小型化した核弾頭を搭載するICBMを実践配備している」「核兵器を小型化して、米本土を狙って発射する能力をもっている」「日本や韓国を射程圏に収める弾道ミサイルを保有している」などの情報を盛んに流している。
これは、アジア・リバランスを主張する必要性があったからであった。
カーター氏は一方で、「米国の軍事的な強さは、活気ある経済成長があってこそ成り立つ」と指摘して、環太平洋連携協定(TPP)は、アジア重視戦略の「最も重要な部分の一つだ」と強調した。
TPPが貿易・経済分野だと理解していた向きには、安全保障上の観点からもTPPは重要だとの、カーター言説には驚いたろう。
さらに、カーター氏は、TPPは「私にとって空母をもう一隻持つのと同じくらい重要だ」と述べて、米国の本音を表現していた。
軍事拡張は、経済成長あってのものだ。
米国にとって、TPPがアジア重視政策の「もう一隻の空母」だとするのは、中国が主導するAIIB設立に対応するものであろう。
IMFが予測している新興国経済発展へのインフラ整備。
アジア新興国のインフラ整備の資金需要は、日本も参加しているアジア開発銀行(ADB)だけではまかないきれないと、米国も理解している。
アジア・リバランス政策への経済不足、中国経済の勢いに押され気味となっている。
AIIB設立後のアジア地域では、経済および軍事ともに、米国の影響力は低下していく。
そのことは何としても、防ぐ必要があるのが、米国の今の政治だ。
そのためにもTPPの成立、日米ガイドラインの改定、日本の安保法制化整備など、経済も軍事も、日本との強い一体化をオバマ政権は進めようとしている。
安倍政権の政治に多少の不満はあっても、今のオバマ政権は「日本重視」政策を進めざるを得ないのだ。
2015年4月8日 記
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