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「安倍成長戦略は疑問」

「安倍成長戦略は疑問」

 安倍政権は16日、産業競争力会議を開き、新たな成長戦略の全容を示した。

 成長戦略は「日本産業再興」「戦略市場創造」「国際展開戦略」の3つの行動計画を掲げ、農業、雇用、医療分野の規制を打ち出している。

 今後の人手不足を女性と外国人に求め、成果主義の報酬制度を導入(残業代カット)、ベンチャー企業と大企業の連携、混合診療の拡充、法人実効税率20%引き下げ、農業生産法人への出資規制緩和(農協つぶし)など、すべてに市場原理を導入し、株価を重視し、完全に投資家や産業界の要望のみにシフトした全くの企業寄り政策(新自由主義)である。

 株価やGNPなど表面的に操作した経済指標数字を示して、自らの政策を誇示しようとする魂胆が透けてみえる。

 こんなものは、改革でも新制度でもない。

 公金を無駄遣いし、米国型自由主義に道を開き、日本社会を破壊していくものだ。

 一方、同日の愛媛新聞は、「西予コールセンター」の閉鎖を伝えていた。

 コールセンターのDIOジャパン(東京と松山の2本社制)が、子会社の西予コールセンター(西予市)を6月末に閉鎖するというものである。

 DIOジャパンは、07年に設立し、西予市と13年4月中旬に立地協定に調印し、全国で19か所目として13年5月に西予コールセンターを開設した。

 開設した13年度は、国(厚生労働省)の県市町緊急雇用創出事業の基金から、委託料1億1852万円もの高額が支払われている。

 同社は当初、計画通り契約社員50人を雇用(6月1日現在では12人)、委託料をオペレーター育成や賃借料などに充てたとしている。

 厚労省の緊急雇用創出事業は13年度で終了しており、その後の状況報告も求めず、事業が継続できなくても支出の返還を求めることはないとしている。計画的閉鎖の可能性がある。

 常識論からすれば、1年で事業を閉鎖したDIOジャパンの態度はおかしいし、国からの事業基金を食い逃げしたのと同じである。

 しかも同社は、岩手県花巻市(12年に開設、1億5千万円の委託料)と、岐阜県加茂市の両コールセンターとも、同じく6月末で閉鎖することを発表している。

 人材流出を防ぎたい地方都市としては、国の基金付きの企業進出は、「おいしい」話には違いない。

 だから、進出企業の閉鎖、撤退、転出などに伴う「保険」などは、思いも及ばないだろう。

 しかし、最も困るのは、雇用されていた人たちで、彼らの転職などの責任を企業に負わせる必要がある。

 安倍首相が叫んでいる成長戦略、このDIOジャパンのように、高額の基金目当てだけの事業を創出し、基金を食い逃げしてしまうものが現出してくる可能性がある。

 そうした不良企業を現出させないためにも、DIOジャパンには、創出事業基金の返還を要求するべきだろう。

 われわれの税金を、ドブに捨てるようなことをするな。

                                                             2014年6月17日 記
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「失敗するオバマの計略」

「失敗するオバマの計略」


 4月下旬、オバマ大統領がアジア4カ国を訪問した際、日本と南朝鮮に渡した「手みやげ」は何だったのかを考える。

 それは米国にとっては年来もので、朝鮮半島を含むアジア地域を支配していくための、最重要事であったようだ。

 つまり、「日韓軍事情報保護協定」の締結を両国に強要していたのだ。

 日本と南朝鮮間で、軍事情報を交換し共有する軍事同盟を結べば、米国が念願とする米国中心のアジア三角軍事同盟が完結するからだ。

 すでに米国は日本と「日米安全保障条約」(日米安保)を結び、南朝鮮とは「米韓相互防衛条約」を結んでいる。

 米国が構想するアジア三角軍事同盟では唯一、日本と南朝鮮間の軍事同盟に穴があいている。

 米国が構築しようとしている日米韓三角軍事同盟の目的は、共和国への軍事的圧力と、それを更に進める北浸戦争準備を完結させることにある。

 しかも、それらの費用負担を、日本と南朝鮮に押し付けていこうとしている。

 実は、この日韓軍事情報保護協定締結の問題は、やはり米国主導で密かに進められ、李明博政権時の12年7月、調印式当日になってばれてしまい、野党や市民たちの強力な反発によって、目論見が果たせなかったものである。

 南朝鮮民衆たちの反対、反発の理由は、日本が過去の植民地支配を反省も謝罪もせず、軍事肥大化している今日、そのような日本との軍事同盟化は、再び日本軍を朝鮮半島に招き寄せることになり、危険だというものであった。

反李明博、反米というよりは、強烈な反日意識が作用した結果である。

 と同時に、日本との軍事同盟化は、南北統一事業が遠ざかることになるとの、民族意識(わが民族第一)も強く働いていたと思われる。

 こうした以前の失敗から学んだオバマ氏は、日本の安倍政権には、集団的自衛権行使決定を支持し、韓国の朴槿恵政権には戦時作戦統制権の移管再延期を約束して臨んだ。

 その上で、今夏にも新たな米韓合同軍事演習を計画している。合同軍事演習には自衛隊を正式に参加させようとしているのだ。オバマの胸中には、自衛隊参加を恒常的にプログラムしているだろう。

 米韓合同軍事演習への自衛隊の恒常的参加は、日韓軍事同盟の「実質化」作業に他ならない。だからこそ、自衛隊の集団的自衛権行使を急ぐ必要があった。(閣議決定を急いでいる理由)

 最近、盛んに共和国を「挑発者」「人権も自由もない国」などと、謀略宣伝戦を仕掛けているのも、安倍政権の仕事をやりやすくするためであった。

 しかも、そのような行為を専ら、朴槿恵政権にやらせて、日韓交流も狙っている。

 「北風論」「ドレスデン宣言」「統一テバク論」「無人機事件」「5段階軍事戦略論」(統一のため、軍事的勝利以外に、北の住民の支持をいかに獲得するか)など、そのどれもがオバマ米政権の反共和国戦略のための、先鋒役を果たしている。

 だが、政治的未熟さ故にか、どれも失敗しオバマ氏を失望させているのも現実だ。

 安倍氏にしても、自己表現だけが前のめりになり過ぎて、集団的自衛権行使の内容も決して、彼が当初に想定していたものには、仕上がっていかないだろう。(そう願っている)

 日米韓、それぞれが政権内部で幾つもの問題を抱えているため、共和国「敵視」「脅威」論のレベルを上げることに腐心しているが、特に米国はアジアの「こころ」を理解できていないがため、自らが作り上げた幻影の前で、踊っているだけに見える。

 それ故、オバマ氏の日韓への「手みやげ」は、またしても棚ざらしとなるしかないだろう。

                                                             2014年6月15日 記

「南京大虐殺事件と軍慰安婦資料の記憶遺産登録は」

「南京大虐殺事件と軍慰安婦資料の記憶遺産登録は」

 中国外務省の報道官は10日の記者会見で中国政府が国連教育科学文化機関(ユネスコ)に対し、日本が戦時中に行った南京大虐殺と従軍慰安婦に関する資料を、記憶遺産に登録する申請を行ったことを明らかにした。

 申請目的については、「歴史を心に刻んで平和を守り、人道や人権に関する犯罪行為の再発を防ぐためだ」としている。

 一方、安倍政権の菅義偉官房長官の翌11日の記者会見で、中国側に抗議し、申請を取り下げるよう申し入れたことを明らかにした。

 菅氏は、「日中両国の関係改善に努力が必要な時期に、ユネスコの場を政治的に利用し、日中間の過去の一時的の負の遺産をいたずらにプレーアップ(強調)しようとしていることは極めて遺憾だ」と、中国を批判した。

 同日、北京の日本大使館の公使が中国外務省に抗議したことも、同時に明らかにした。

 南京大虐殺事件とは、日中戦争中の日本軍が1937年12月から翌年2月、南京を占領していた期間中に、捕虜、市民、婦女子たち20万から30万人の中国人たちを虐殺した事件のことである。

 日本軍が南京城に入城する以前に、中国軍(国民党軍)はすでに撤退していたから、日本軍が暴行を働いたのは、ほとんどが一般市民たちであった。

 であるから、この事件に対する責任は、戦後の極東国際軍事裁判でも厳しく追及している。

 しかし、46年末からの中国内戦で、あいまいにされてしまった。

 同時に南京大虐殺事件をきっかけとした慰安婦制度導入の軍関与も不問にされて、その後の「軍慰安婦不存在論説」を導き出している。

 このように戦後の国際政治情勢(米国のアジア戦略)が日本の戦争犯罪責任を厳しく追及することなく免責してきたこともあって、日本は南京大虐殺事件や軍慰安婦問題を否定する姿勢となった。

 当然、日本の歴代政権は、中国政府や人民たちに謝罪や補償もしてこなかった。

 安倍政権になると、一転、旧日本軍の従軍慰安婦問題をめぐる93年の河野洋平官房長官談話を見直し検証するなどと、「河野談話」さえ、否定するようになった。

 そのような安倍晋三氏の意向を受けてか、政権周辺の右派論客たちがこのところ、賑やかになってきた。

 南京戦の中国人死者は数千人程度、女性への暴力は一般的なもの、果ては南京大虐殺や従軍慰安婦制度などはなかったとか、大東亜戦争肯定論まで語り、最近は歴史否定を越えて中国や朝鮮への暴言となっている。

 そうした彼らの主張は、日本人の私たちでさえ、疑問とするナショナリズム的、民族差別的、戦時センセーショナル的な言辞になっていて、まともな意見にはなっていない。

 安倍晋三政権が進めている特定秘密保護法、集団的自衛権行使環境を整えようとしている政治と、右派言論人たちの言辞とは、ぴったりと符合するようになっている。

 戦争ができる国家体制へと進行している現在。

 過去の侵略戦争への反省と清算が、あいまいなままできた日本の現代史のツケがいま、安倍晋三氏らによって声となっている。

 中国政府は、そのような日本と安倍政権を咎めるため、ユネスコに登録申請をしたのだろう。

 確かに南京大虐殺事件も軍慰安婦問題も日本の負の遺産である。

 それがユネスコに登録されるとなると、日本の政治的歴史的な恥を、国際機関に後世にまで記録することになる。

 それはまた、日本が70年近くも政治的に歴史的にサボタージュしてきた結果を、厳しく問われている問題だと考えるべきだろう。

 ところが、菅氏ら安倍政権は、そうした思考も反省もなく、中国政府の行為に対して怒っているが、そのような場合か。

 日本は「過去の一時期の負の遺産」だと言う。

 果たして「過去の負の遺産」だけの問題だろうか。

 日本自身の政治が、現実的な政治問題化していることを、安倍政権はしっかりと認識すべきだ。

                                                             2014年6月14日 記

「いいかげんにしろ!」

「いいかげんにしろ!」

 日本はいつからサッカー王国になったのだろうか。

 12日午後5時(日本時間13日午前5時)から、ブラジル・サンパウロではじまる「サッカーワールドカップ・ブラジル大会」関連ニュースを、マスメディアが盛んに報道しているからだ。

 サッカーワールドカップは、サッカーの世界一を決める4年に一度の祭典とはいえ、突然のサッカー関連のニュース洪水は、社会異変を起こしている。

 新聞各紙は、スポーツ面からはみ出て、1面や社会面での準トップ級扱いで、開幕直前には、数項を使って特集報道をしている。

 テレビ各局はニュース番組以外でも扱っている。

 NHKにいたっては、開催1ヵ月前から、ほぼ毎日、ニュース化している。

 ラジオ放送では、1日のどのニュースでも、スポーツ感覚ではない社会情報並みにして、報道している。

 その間、国会内外では、重要法案が連日、審議されている。

 集団的自衛権の行使容認法案、憲法改正、憲法解釈変更、個別的自衛権、必要最小限度、日本の周辺武力、米輸送艦、朝鮮半島事態、国を守るなど、国家安全保障戦略上の、極めて重要なテーマが議論されている。

 日本国家の近未来の方向と性角を決めている内容を議論している国会議員の声が、サッカーワールドカップの前で消えている。

 否、マスメディアはこぞって、関心をサッカーに振り向けて、重要な政治ニュースの進行を後方に下げてしまっている。(意図的に)

 これで果たして、マスメディアと言えるのだろうか。

 サッカーワールドカップ開幕期間中はもちろんのこと、日本チームの試合も含めて、マスメディアは応援サポーターのように熱狂してはいけない。

 この期間、日本は重要な政治の季節を迎えている。

 集団的自衛権行使以外にも、日朝交渉、TPP、日米安保ガイドライン、特定秘密保護法の運用、原発問題、過去の清算問題など、日本の骨格を決める重要課題が今後、右側政権によって審議し、決定されていく。

 そのため、われわれは強く危惧している。

 マスメディアはマスメディアらしく、しっかりとその機能を発揮した仕事をするよう注文しておく。


                                                             2014年6月12日 記

「彼女は生きたかった」

「彼女は生きたかった」


 愛媛県四国中央市の知的障害のある女性が3年前、父親に首を絞められて死亡した疑いがあるのに、父親が「自宅の廊下で首をつった。すぐに見つけて病院に運んだ」と話した通り、警察は女性を自殺と判断して処理していた。

 ところが今年1月、「自殺ではない」との内部情報があり、県警捜査1課が再捜査した結果、父親を傷害致死の疑いで逮捕したとのニュースが、地元紙(愛媛新聞)に掲載された。

 女性は、父親によって随分以前から暴力を振るわれていたらしい。

 県警生活安全企画課では、06年7月から、11年3月(殺害される直前)の間、女性の行方不明者届を受理したり、家出中に保護したりしたケースが10件あったという。

 その間、鼻が腫れるなどの外傷があり、父親に暴力を振るわれたと彼女が説明していたことが、2件はあったことを県警捜査1課は説明している。

 けがをした彼女が家を出て保護され、父親から暴力を振るわれたと説明していたのに、警察は口頭で父親に警告しただけで、彼女ともども家に帰している。

 その直後の4月13日、父親は彼女の首をロープのような物で絞めて意識不明にし、低酸素脳症で死亡させたとしている。

 無残な結果で、女性は26才という短い人生を終えた。

 男性(父親)の心象風景はわからないが、知的障害があったという女性は何度か、救援のシグナルを出していた。

 それは暴力をやめてほしいということであり、生きたいというメッセージであったろう。

 その彼女の精一杯のメッセージを、家族も、近在社会も、行政も、警察までもが、社会的弱者の声をキャッチできなかったことに、非常なショックを受けている。

 あまりにも、無慈悲な社会だ。

 それにしても、彼女はどんなにか生きたかったろうに。彼女の精一杯の声と意思を誰も受け止めることができなかった社会の仕組み、そこに働き、生きている現代人の、人間への無関心な精神を告発する。

                                                             2014年6月12日 記

「ストックホルム日朝協議の行方は」

「ストックホルム日朝協議の行方は」


1.ストックホルム協議の内容

 ストックホルムで行われた日朝外務省局長級協議(5月26~28日)から1日後の29日、安倍晋三首相が合意内容を記者団に発表した。

 「北朝鮮側は拉致被害者及び拉致の疑いが排除されない行方不明者を含めすべての日本人の包括的全面調査を行うことを約束した。特別調査委員会が設置され、日本人拉致被害者の調査がスタートする」など、主に、北朝鮮側が拉致問題の再調査に合意したことのみを強調していた。

 安倍内閣の時に拉致問題を解決する、拉致問題を最重要課題だと位置づけてきただけあって、若干、前のめり的な姿勢発表のようにも感じる。

 それを報道するマスメディアも、拉致問題が進展に向けて動き出したことで、問題が明日にでも解決するかのように報道しているが、日朝協議で合意した基本内容には言及していない。

 日朝協議の合意事項(双方が取るべき行動措置)は7点ある。

*日本側が実行する内容

 第1に、日朝平壌宣言にのっとって、不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、国交正常化を実現する。

 第2に、北朝鮮側が包括的調査(45年前後に北朝鮮域内で死亡した日本人の遺骨及び墓地、残留日本人、日本人配偶者、拉致被害者及び行方不明者を含む全ての日本人)のために特別調査委員会を立ち上げ、調査を開始する時点で、人的往来の規制措置、送金報告及び携帯輸出届け出の金額に関する規制、北朝鮮籍の船舶の日本入港禁止措置などを解除する。

 第3に、日本人の遺骨及び墓地の処理、墓参問題について、引き続き協議し、必要な措置を講じる。

 第4に、北朝鮮側が提起した過去の行方不明者(朝鮮人)の問題について、引き続き調査を実施し、協議しながら適切な措置をとる。

 第5に、在日朝鮮人の地位に関する問題については、日朝平壌宣言にのっとって誠実に協議する。

 第6に、包括的かつ全面的な調査の過程で提起される問題を確認するため、面談や関連資料の共有等について、適切な措置をとる。

 第7に、適切な時期に北朝鮮に対する人道的支援を実施することを検討する。

 *北朝鮮側が実施すべき内容

 第1に、45年前後に北朝鮮域内で死亡した日本人の遺骨及び墓地、残留日本人、日本人配偶者、拉致被害者及び、行方不明者を含む全ての日本人に関する調査を包括的、全面的に実施する。

 第2に、調査は一部のみを優先するのではなく、全ての分野について、同時並行的に行う。

 第3に、全ての対象に対する調査を具体的に進めるため、特別の権限が付与された特別調査委員会を立ち上げる。

 第4に、日本人に関する調査及び確認の状況を日本側に随時通報し、遺骨の処理と生存者の帰国を含む去就問題について、日本側と適切に協議する。

 第5に、拉致問題については、調査状況を日本側に随時通報し、生存者が発見される場合には、その状況を日本側に伝え、帰国させる方向で協議する。

 第6に、調査の進捗に合わせて、日本側がそれを確認できるよう、日本側関係者による北朝鮮滞在、関係者との面談、関係者との面談、関係場所の訪問を実現させ、関係資料を日本側と共有する。

 第7に、調査は迅速に進め、調査過程で提起される問題は様々な形式と方法によって、引き続き協議する。


2.日朝協議の基本
 
 日朝双方は、それぞれ7項目を実行約束した。

 その内容を検討してみよう。

 日本側が実行すべき内容は、日朝平壌宣言の実行(第1項、第5項)、戦前に強制連行した行方不明朝鮮人の調査(第4項)、日本独自の制裁の一部解除(第2項)、人道支援(第7項)などとなっており、安倍政権が強調する拉致問題の解決ではない。その中核は日朝平壌宣言の実行にある。

 安倍政権が29日の記者会見では全くふれなかったのは、第4項と第5項である。

 第4項の過去の朝鮮人行方不明者とは、戦前期、日本が連行した軍慰安婦、労務者、軍属たちのことで、遺骨さえ不明の彼らの実態を、日本は速やかに調査し、明らかにすべきである。

 第5項の在日朝鮮人の地位に関する問題には、朝鮮総連中央会館売却問題と高校授業料無償化問題が含まれている。(30日の記者会見で菅義偉官房長官は否定)

 朝鮮側が実行すべき7項は、日本人行方不明者の調査と、そのための権限が付与された特別調査委員会の設置となっている。

 ここでは、第1項と第2項が重要である。

 第1項で、45年前後に北朝鮮域内で死亡した日本人、残留日本人、日本人配偶者(北朝鮮帰国者)、拉致被害者、行方不明者(日本が言う特定失踪者)など、全ての日本人を包括的に調査するとした。

 第2項では、上記の分野について、同時並行的に進めるとしていて、決して「一部のみ」(拉致被害者)を優先的に調査しないとなっている。

 朝鮮中央通信の29日報道では、「従来の立場はあるが、包括的かつ全面的な調査を行い、最終的に日本人に関する全ての問題を解決する意思を表明した」としている。

 つまり、「従来の立場」の、拉致問題は解決したとする立場を固守したまま、45年前後に北朝鮮域内で死亡した日本人の遺骨、墓地、墓参問題を含む、その後のあらゆる立場の行方不明日本人(拉致被害者も)の調査(包括的)を実施することで、日本とのマイナーな問題を一気に解決したいとする考え方が伝わってくる。

 特に45年前後に死亡した人たちの調査を実施することは、その当時の不明な歴史が、少しは解明されるかもしれない。

 同時に日本が、第4項の、過去(戦前・戦後)の行方不明朝鮮人の調査を誠実に実施すれば、日本が隠し続けてきた歴史の一端が明らかになってくるだろう。

 以上の視点から見る限り、ストックホルムの日朝協議結果は、安倍政権が声高に発表した拉致被害者の解決ではなく、拉致被害者・特定失踪者を含む、日朝双方の行方不明者を調査することで、闇に沈んでいる日朝間の歴史を明らかにしていく、その第1歩となるのだと思う。


3.日朝平壌宣言を考える

 第1項で確認していたのは、日朝平壌宣言の履行で、同宣言に沿って問題解決をすることになっている。

 平壌宣言は2002年9月17日、小泉純一郎首相(当時)と金正日総書記との、日朝首脳会談で出された共同宣言である。

 金正日総書記が拉致犯罪を認め、謝罪したことを小泉首相が受け入れて、宣言が発表された。

 日朝平壌宣言は、①国交正常化の早期実現の努力(同10月中に正常化交渉を再開する)、②過去の植民地支配の反省と謝罪、北朝鮮への経済協力(請求権は相互放棄)、国交正常化を進める、③国際法の遵守、拉致及び工作船事件の再発防止、④北東アジアの平和と安定のための、相互協力、核問題解決のための国際的合意の遵守――などを内容としていた。

 平壌宣言が発表された背景は、北朝鮮側が、拉致と工作船犯罪を認めたことと、それは「両国間の非正常な関係」に原因があったことで、そのことを深く追及するより、正常化交渉を優先すべきであるとの両国の認識があったから成立した。

 その意味で、拉致問題を含む日朝交渉の第一義は、正常化交渉から始まることを日朝双方は確認していた。

 今回の協議でもそのことを確認したから、日本側が実行すべき第1項で取り上げられた。

 第1項は、「北朝鮮側と共に、日朝平壌宣言にのっとって、不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、国交正常化を実現する意思を改めて明らかにし、日朝間の信頼を醸成し関係改善を目指すため、誠実に臨むことにした」とある。

 つまり、これから以降の日朝間協議では、日朝双方は日朝平壌宣言の前に立ち、日本はそれに対して誠実に臨むことを約束していたのだ。

 だから、安倍政権が29日の会見で発表した内容は、自己の都合の良い部分だけを誇張して成果をアピールしていたにすぎない。

 30日以降のマスメディアも、そのような安倍政権からの発信のみを伝えていたから、報道し解説すればするほど、問題の本質をマスメディアも政権も隠してしまっている。これは危惧すべきことだ。


4.安倍政権に刺さったトゲ

 私は、ストックホルム日朝協議で気になっていることがもう一点ある。

 それは、朝鮮総連中央売却問題である。

 売却問題が解決していたにも関わらず、競売へと振りかえ、3回目の競売を拒否し、低額入札のマルナカホールディングスに決定していくシナリオは、全て安倍政権下で進んでいた。

 ストックホルム協議までの、裏面下の交渉では、この中央会館問題を「人質」に、拉致問題解決交渉をリードしていた可能性がある。

 北朝鮮側は当初、拉致問題解決だけの協議については、拒否していただろうと思われる。

 すでに金正日総書記が「解決している」と発言していて、北朝鮮側の政治決定となっていたからである。

 それを乗り越えるための知恵は、45年前後の行方不明者を含む全日本人の「包括的調査」プランであった。

 日本側は、「包括的」には、不満であろうが、拒否はできない。そこで、拉致問題調査・解決を優先させるために、中央会館問題を利用している。

 この原稿を執筆している段階(5月31日)では、マルナカはまだ入札金額を支払っていない。6月12日までに支払えば、売却が成立し、この問題は司法の手から離れる。

 つまり、司法問題から離れれば、この問題の政治決着がやり易くなるということである。

 タイムスケジュール的に、朝鮮総連中央会館は一時的にマルナカの所有となることはあっても、場合によっては、公然と、安倍政権の政治的判断で、元に戻すことがあるだろう。それは拉致問題の進捗状況による。

 さらに、中央会館売却問題は、日本側の「過去の植民地支配により朝鮮人民に与えた多大な損害と苦痛」問題と関連しており、それは日本の過去を清算することと深く関わっている。

 従って、マルナカに売却し、マルナカの所有のままでは、過去を清算する方向と逆になっており、日本が懸案とする拉致被害者の解決は進んでいかないだろう。

 安倍政権が「マルナカ問題」の対応を誤れば、それだけで拉致問題以下の「問題」は前進していかないだろう。だから、「マルナカ問題」は逆に、安倍政権に突き刺さったトゲとなっている。

                                                             2014年5月31日 記
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Author:takasi1936
愛媛現代朝鮮問題研究所のブログです。

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