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「拉致問題解決、内向きでいいのか」

「拉致問題解決、内向きでいいのか」

                                               名田隆司


 かねてより、安倍晋三首相は、わが国内閣で拉致問題を解決する、と広言している。

 その言うやよし。さりながら、その具体策と実行性に欠けている。相変わらず、共和国への政治・経済制裁だけを実行して、いまだに相手との対話姿勢がない。

 安倍首相の政治姿勢からは、拉致被害者家族を「人質」に取り込み、それを利用して反北朝鮮意識を日本国民に押し付けている。

 その一例が、内閣官房拉致問題対策本部事務局が、各自治体に拉致問題啓発ポスターを、町内会や自治会、公民館の掲示板に掲示することを依頼していることである。

 ポスターは、顔をしかめた俳優・津川雅彦氏の写真の左右に、「拉致。――親の愛は世界を動かす。拉致問題は、私達すべての問題です」の活字が目に入る。

 下段に白ヌキの大文字「必ず取り戻す!」があり、さらにその下段に「政府拉致問題対策本部」とある。シンプルなポスターである。

 津川雅彦氏の顔が、全国いたるところの街角でにらみ、「拉致」問題を思い出させようとしているようだ。

 保守的な松山市は、この啓発ポスターの掲示を、さらに広報委員(行政の末端協力役員)の手をかりて、多くを掲示することを呼び掛けている。

 市民たちを利用して啓発ポスターを大量に掲示するこのようなやり方は、日本社会に「嫌北朝鮮」感情だけを増大させるだけだ。

 日本人、日本社会に反北朝鮮、嫌北朝鮮意識を強化していくことが、どうして拉致問題の解決につながっていくのだろうか。

 安倍政権の外交は、ひとりよがりな国際感覚になっている。

 中国と韓国とは、領土問題と歴史認識問題で、対話もできず、ブルネイでのAPEC首脳会談(10月7日)での、握手をした、挨拶の言葉を交わしたことが、「重要」話題となっている程度である。

 隣国との交流も満足に進めることができない安倍政権の国際評価は、地に落ちている。

 共和国との関係でも、対話がないままだ。

 安倍首相は「対話のドアは常に開けてある」とは言っているが、ドアを開けてただ待っているだけではないのか。

 対話への接近も、そのための政策もないから、日本人にさえ、誠実さが感じられない態度になっている。

 拉致問題への解決についても、「啓発用」のポスターを大量に印刷して、市民たちを利用した掲示作戦の、内向き政策だけの時期は、もう過ぎ去っているのではないか。

 今は内向きの、勇ましい強い言葉だけを言っていればいい時期ではないだろう。

 しっかりと、共和国と向き合い、解決への誠実さを共和国に、拉致被害者家族会の人々に、日本国民に、具体的に伝えるべき時である。

                                      2013年10月10日 記
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「平壌のいま」

「平壌のいま」

                                               名田隆司


 金正恩政治の現在を討論するため、9月24日から平壌を訪れた。
 
 今年も2度目の訪問であるが、平壌市内の変化には驚いた。

 全体が秋の装いへと変化していたためか、若い女性たちのファッションがモダンになっていたことや、人々の歩行がどことなくゆったりしているように思われた。

 それに、私が知っているいくつかの児童公園の遊具類が新装になっていたことや、市内の有名公園などもスポーツ公園化していて、そこでは、人々、多くの家族連れ(日曜日に)などが、様々な時間を楽しんでいる光景を目にした。

 ここ数年、市内を走る乗用車が多くなっている。

 市中の主要な信号機のところでは必ず、10台前後、朝夕の多い時間帯では20台近くも停まっていることがある。

 それらの車種の大半は、平壌市郊外で操業している「平和自動車」製であった。

 信号機といえば、交通量の多い4つ角や主要道路には必ず取り付けられていた。

 まだ信号ルールに慣れない人々のためか、停電がある場合のためか、ほとんどの信号機のところでは、交通整理員(多くは女性)たちが交通指導をしていた。
 
 女性の交通整理員といえば、共和国では彼女たちの手信号・整理が「名物」であった。

 2年ほど前まではまだ、彼女たちの姿を見かけていたが、今回は完全に信号機に変わっていた。

 自動車が増えている現象の1つに、タクシーの台数が随分と増加し、街中では必ず走行を見掛ける。

 今年2月にも、タクシー会社(もちろん民営ではない)が1社、営業を開始している。

 その社の赤と黄のツートンカラー中型車が、ひっきりなしに走っていた。

 日本でのように、市内の途中で手を挙げて乗るという方式(流し)ではないが、携帯電話が普及しているため、電話で呼び出せるのかもしれない。

 日曜日は、ノーカーデーとなっているため、余計にタクシーの姿が目立った。

 利用者の多くは、大学生などの若い世代が多いと言っていたから、どの国も、新しい文化を享受していくのは、若者たちからのようである。

 また、自転車での通勤が昨年から認められ(市中への乗り入れ)たためか、今年は特に多く見かけた(女性たちも)。

 それと社会主義国の特色の一つとも言える、その時々の党の政策スローガンを街中に掲げているが、それを読めば情勢がわかる。

 今年7月の「7・27」(朝鮮戦争停戦協定)訪問時の平壌市中のスローガン内容は、「反米対決戦」「最後の勝利を」「核保有国」「勝利者の朝鮮人民軍」などであった。

 当然、その時の政治情勢を反映したものの表現が中心であったけれど、「強盛国家建設」など、非軍事色のものもあった。

 今回の場合、「経済強国建設を」「経済建設第一に」「人民生活の向上へ」「社会主義文明国」などと、経済建設を推進していく内容となっていた。

 後日、朝鮮社会科学者協会のチュチェ哲学研究所と経済研究所の教授たちとの討論から、街中に掲げられているスローガン変更の意味が、経済発展を促すためのものだと知った。

 経済発展のためには、平和的な環境が必要である。

 金正恩第1書記は、今年の新年の辞(2013年)で、人民第一主義を掲げて、経済強国建設への様々な施策に言及している。

 全般的な12年制義務無料教育(これまでは11年制)の実施、住宅、スポーツ公園、各種厚生施設などの建設、経済特区、貿易特区、観光特区の開発などが推し進められている。

 つまり、今年4月頃までの対米強硬路線から一転、現在は、経済建設を第1に推進しているということが、各種スローガンが伝えている意味であったという。

 確かに、今年に入ってからの共和国は、米国に対話を呼び掛け、幾つかの接近も試みている。

 そのオバマ米政権は、野党(共和党)との対立から新年度の予算が成立せず、一部の米の連邦政府機関の閉鎖に追いこまれるという危機を迎えている。

 外交問題でも、シリアへの失敗以外に、イラン、ケニアなど、中東各国各地域の安定策に翻弄されていて、とても朝鮮半島にまで直接的に目を注ぐことができない状況になっている。

 六者会談にさえ、中国の強い要請でやっと、オブザーバーを送りこむ程度であってみれば、現在のオバマ政権の力量では、朝鮮半島の「平和」と「危機」の解決はできないだろう。

 またしても、朝米会談を推進していく「政治的」なタイミングが、ずれ込んでしまっている。

 現在の共和国は、予定どおりに強盛国家―経済建設を進行させながら、米国の政治姿勢を待っている段階だといえるだろう。


                                       2013年10月3日 記
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